天職が『盗賊』という理由で追放されました。盗みを極めし男はやがて魔王と呼ばれる

こたろう文庫

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シトリーの欲しいもの

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ルマンダさん達と別れて、シトリーとハラルドの街に残ることにした。

「……マオ様がこの街に滞在する理由を聞いてもいいですか?」
シトリーに聞かれる。

「僕も覚悟を決めないといけないと思ってね。先にシトリーの欲しいものを聞いてもいいかな?予想はついているんだけど、一応ね」

「以前マオ様から頂いた、能力の上がる球が欲しいです」

「やっぱり……。それは僕の為だよね?」

「……違います。私がマオ様の力になりたいからです。以前マオ様が言っていた通り、マオ様の同郷の方達は特殊な力をお持ちのようです。マオ様が救出に行かれる時、私も勝手ながらお供するつもり。その時に後悔したくないんです。お力に添えられないにしても、やれることは全てやっておきたいんです」
帝都で噂を耳にした。
王国で勇者を召喚したという噂だ。
勇者だけでなく、召喚された者は皆特殊な力を有しており、一人で軍をも相手に出来るという。

シトリーはその噂を聞いて、力を欲している。

何も動けずにいる僕とは違う。

「ありがとう。能力の上がる球を用意するよ。……でも、それとは別で欲しいものを用意するよ。元々、能力の上がる球は用意するって言ってたからね。僕の覚悟が足りなくて準備出来てなかっただけで、シトリーに渡す約束はしていたから、今回のお礼は別の物をちゃんと用意するよ。何か他に欲しいものはない?」

「マオ様から頂けるものならなんでも嬉しいです」

「……それじゃあ何か用意しておくね。それで僕がこの街に滞在する理由だけど、深淵の樹海に行く為だよ。シトリーが球を欲しがっているということに気づいたというのもあるけど、僕としても覚悟を決めてもう一度あそこに入る必要があるんだ。シトリーには悪いけど、護衛をお願いね」

「任せてください」

「頼りにしてるよ。でも奥まで入るつもりはないから、そこまで危ないことをするつもりはないからね。準備なしで入るわけにもいかないから、今日と明日は準備をするよ。とりあえず、ギルマスのところに行こうか。皇帝とのことも説明したいし、噂のことも何か知ってれば教えて欲しいからね」

「わかりました」

僕達は冒険者ギルドに行き、ギルマスに取り次いでもらう。

「皇帝と話がつきましたので、報告に来ました」
僕はギルマスに帝城であったことを話す。

「……俺の立場として肯定することは出来ないが、戦争を回避出来たことは本当に良かったと思う。坊主がどんな人物か知らなければ、この話を聞けば帝国で暮らすことが不安になるが、俺は坊主のことを多少なりともわかっているつもりだ。よくやったと言っておく」
思ったより驚いていないようだ。

「帝都でクラスメイトの噂を聞いたんです。召喚された者は特殊な力を使えるって噂です。ギルマスは何か知りませんか?」

「同じ噂は俺の耳にも入ってきている。今までは勇者召喚したことを公にはしたくなさそうだったが、急に噂が広まった。勇者召喚は禁術だから、公になれば他国からのバッシングも大きいだろう。それなのに今は隠す気が無さそうに思えることを考えると、他国を相手にしても問題ないということかもしれないな」

「ギルマスとしては、それ程の力があるという見解ですか?」

「真意はわからないが、聞いている噂が真実だとすれば、そういうことだろうな」
やっぱり生半可な覚悟では救出なんて出来ないということだ。

「そうですか……」

「坊主の気持ちも分かるが、焦って動くなよ。準備をちゃんと整えて、その時に備えておけ。必ずチャンスは来るはずだ。その機を逃さないように今やれることが何か考えろ」

「ありがとうございます。一月くらいこの街の近くに滞在することにしたので、何かあれば教えて下さい」

「何か用があるのか?」

「やれることをやる為に樹海に行ってきます。ルマンダさんに知られれば止められるので、僕とシトリーだけ残ることにしました」

「……本気か?俺には自殺しに行くとしか聞こえないが?」

「自殺するつもりはありません。危険がないとは言いませんが、樹海にいる魔物のほとんどはシトリーの相手になりません。それに樹海に入りはしますが、奥まで行くつもりはないです」
シンク達から深淵の樹海に住む魔物などの生き物の事は聞いている。

全てを知っているわけではないけど、今のシトリーが対処出来ない相手は少ない。

その限られた相手は、樹海の奥から出てくることはほとんどないらしいので、奥まで行かなければよぼど運の悪くない限りは出会わないはずだ。

「一度樹海に入ったことのある坊主が、危険を承知で入るなら止めはしないが、そうまでして入らないといけないのか?」

「深淵の樹海に妖精がいるそうなんです。前の時は見かけなかったですが、探すつもりです」

「妖精か……。そんなものを探してどうするつもりだ?」

「ユメに教えてもらったんですけど、妖精はカース・ダークスライムが近くにいても逃げないそうなんです。もしかしたら呪いを掛けられても、解く術を持ってるんじゃないかなって。解呪のスキルや魔法自体はそこまで珍しくないみたいですけど、隷属の呪法の呪いを解くことは出来ないみたいなんです。でも、カース・ダークスライムの呪いを解けるのであれば、隷属の呪法の呪いも解けるのではと思うんです。まあ、呪いを解けるのではなく、呪いを掛けられないから逃げないのかもしれないですし、カース・ダークスライムが妖精に呪いを掛けない理由が何かあるのかもしれないので、前提から間違っている可能性の方が高いですが……」

「初耳だな。そもそも妖精なんぞ伝説の生き物だ。カタストロフィ・ドラゴンと同じで、文献には載っているが、実在しているのかさえ不明だ」

「見つかるかはわかりませんけど、妖精を見つけることが出来て、実際に隷属の呪法の呪いを解くことが出来れば、クラスメイトの救出が容易になるかもしれません。探す価値はあると思ってます」
妖精の話は結構前にユメから聞いていた。

聞いていたけど、あの樹海にもう一度入る勇気がなかったから行動に移せていなかった。
みんなを助ける為ならなんでもやるという覚悟が僕には足らなかった。

シトリーのおかげでやっと決心がついた。
もう迷わない。

「そうか。……少し待ってろ」
ギルマスはそう言って部屋を出ていき、少しして戻ってくる。

「これは?」
戻ってきたギルマスに1冊の本を渡された。

「このギルドで保管しているものだ。妖精についても書かれている。本来限られた者しか閲覧することの出来ないものだが、特別だ。深淵の樹海について書かれているから目を通すといい。原本ではないから、抜けているページもあるが、坊主の知りたいことが書いてあるかもしれない」

「ありがとうございます」

「ギルドマスターとして、強大な力を有した王国に対抗出来る手段を見つけようとしている坊主の力になるというのもあるが、俺個人として坊主の事は気に入っている。可能な範囲で力になってやる」

「ありがとうございます。本当にいつも助けられてます」

ギルマスに部屋を一部屋借りて、本を読ませてもらう。

深淵の樹海について書かれており、妖精について書かれているページもある。

一つ不思議な事がある。
この本は誰が書いたのだろうか?
カタストロフィ・ドラゴンやカース・ダークスライムのことも書いてある。

少なくても、入ったら出られないと言われている深淵の樹海の中をくまなく探索して、危険な魔物の存在を発見し、特徴を捉えるまで観察してから、生きて樹海から出てきている。

僕の場合は特殊な例だと自覚している。
クロをテイムしたから生きているだけであって、カース・ダークスライムに敵又は餌認定された時点で死ぬはずだ。

「ありがとうございました。いくつか聞いてもいいですか?」
僕は読み終わったのでギルマスに本を返す。

「なんだ?」

「この本って誰が書いたんですか?」

「俺は知らない」

「原本って誰が持ってるんですか?読む方法はないですか?」

「それも知らないな」

「そうですか。意図的に重要な部分が抜き取られているようだったので、抜かれたページを見たかったんですけど、難しそうですね」

「深淵の樹海に近い街だから保管してあるだけだからな」
深淵の樹海の魔物が万が一樹海から出てきた時のために置いてあるだけなんだね。

「それでも妖精についてはかなり勉強になりました。ありがとうございます」

「気を付けて行ってこい。……死ぬなよ」

「気を付けて行ってきます」
冒険者ギルドを後にした僕達は翌日も掛けて入念に準備をしてから深淵の樹海へと出発した。
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