深森の魔女セルリアの物語

端月小みち

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第一章 唇を奪われたお姫様と片想いの魔女 

第十八話 王子の決意 ②

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 セルリアは自室のベットに腰掛けて茫然としながら物思いに耽っていた。

──私が浅はかで愚かだったわ……

 ディーン様がご自分の死まで覚悟するなんて……

 そう思うと、セルリアの心に良心の呵責がずうぅんと重くのし掛かってきて、これまで抱いてきたささやかな願望が自分勝手でちっぽけなものであったことを思い知り、もうディーンへの想いの全てを捨て去ろうと決意した。

──もう王子様の一途な想いを邪魔立てすることは止めにします。一夜限りの甘い経験も望んだりはしません。あぁ……だから、死ぬなんて言わないで下さい!

 セルリアは心の底からそう思った。

──そうだわ。そう決めたんだったらレイラ姫にすぐに奪った唇を返しにいかなくちゃ!

 セルリアは部屋の隅に立て掛けてある箒を手に取り、それから水盤に浮かべていた姫の唇を……

「──っ!! 」

 水盤に浮かんだ唇を取り上げようとしてそこに目を遣ると、一瞬時が凝固した。

「えっ!! えぇっ!? 一つ足りない! 唇が……一つ失くなってるっ!! 」

 水盤の中には確かに二個浮かべせていたはずの唇の内、下唇の方が何処かへと消えて無くなっていた。 
 セルリアは水盤をぐるぐるとかき回し、机の下に潜り込み、懸命に失くなった姫の唇を探して回った。

「あぁ、ない……ないわっ! ……どうしましょう……」

 部屋中の隅々まで探し回っても全然それは見当たらず、セルリアは目にうっすらと涙を溜め嘆いた。

「あぁ……ない……」
「──そんなことって? ……窓の隙間風で飛ばされちゃったのかしら……あぁ、もしかしたら、ネズミに食べられちゃったのかも……レイラ姫のこんな大事なものを。わたしってホントになんてバカなんだろう……」

『水盤よ! レイラ姫の行方不明の下唇の在り処を映して出しておくれ? 』

 セルリアはもう反射的に杖を取り上げ、水盤に向かって杖先を振りかざした。
 しかし、水盤にはレイラ姫の下唇は一向に映し出されない。

──おかしいわ……何故、場所が映されない?!
本当にネズミに食べられてしまった? いえ、結界の中に隠されている……? もうそうだとしたら……

「──リーウィッドよ! きっとリーウィッドの仕業に違いないわ! 」

 セルリアは立ち上がって部屋の中で叫んだ。

「リーウィッド! 出てきなさいっ! リーウィッド! 」

「……みゃぁぁ? 」

 すると、黒猫は天井窓の隙間から部屋の中に入ってきた。
 セルリアはリーウィッドを抱き上げ、ベッドの上に座らせ問いただした。

「あなた! 水盤に浮かべておいたレイラ姫の唇を知っているでしょう? 」

「みゃぁぁ……? 」

「リーウィッドっ! 誤魔化さないで! 今は人の言葉で話して頂戴! 」

 するとリーウィッドは魔女の使い魔として人の言葉を発し始めた。

『──え?! ……いやぁ……ボク、知らないよぉ……』

「本当に? 」

『う、うん……』

 セルリアは黒猫を抱え上げ、その黄色の瞳をじっと覗き込んだ。

「みゃうっっ……」

 するとリーウィッドの真ん丸な瞳がクリっと端へと泳いでいった。

「──あぁっ! やっぱりなんか隠してるっ! 正直に白状しなさい! 」

『ボ、ボク、し、知らないったら!! 』

 リーウィッドは身体を左右に捩って、セルリアの拘束から逃れると、天井窓の隙間から屋根へと跳び移りさっと逃げ去ってしまった。

「──あっ! こっ! こらっ! リーウィッド! 待ちなさいっ!! 」

 リーウィッドが部屋から逃走し、独りきりになったセルリアは部屋にポツンと取り残され、呆然と立ち尽くした。

「はぁ……仕方ない……とにかく一つだけでも返しに行こう……そして、ちやんと誤ろう……きっと、いえ、絶対許しては貰えないだろうけど……でも兎に角、婚約辞退は取り止めて貰わないと……ディーン様が何をされるか……」

 セルリアは憂鬱な気持ちで箒に跨った。




※※※※※※※※※※

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