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第二章 王女に恋した魔女の息子
第三十三話 宮中馬上槍試合 ①
しおりを挟むそしてついに、宮中馬上槍試合の当日がやってきた。
ダニーは、今は人の姿に変えたリーウィッドを従者に従え、甲冑に身を包んで馬に跨がり、宮殿へと向かっていた。
──母さんは観るのが怖いと言って、とうとう一緒に来てくれなかったなぁ……
『──母さんは小屋で留守番をしているわ……水盤からあなたの様子はチラチラと覗くつもりではいるから。本当に何か危ないことが起きて、水盤の水が赤色に変わったら飛んでいくから……後はリーウィッドに任せたわ……ダニーを頼んだわよ、リーウィッド? 』
ダニーは馬の背に揺られながら、母の心配そうな顔を思い出した。
宮殿の広大な前庭の一角に設えられた試合会場には、近い将来にシェリー姫の婿とならん、選ばれし貴公子の闘いぶりをこの目で確かめんとする多くの観衆が訪れ、会場は既にごった返していた。
そして、国の内外から我こそはと腕に覚えのある猛者たちが百人以上も会場に集っていた。
『──それでは宮中馬上槍試合を始める! 』
客席の最前列の雛壇に据えられた玉座に座るディーン王が声高に馬上槍試合の開始を宣言した。
『一回戦始め! 』
馬上槍試合は一対一の個人戦による勝ち上がり方式で優勝者が決まるルールだった。試合は互いに突進する馬から相手を先に槍で突き落とした方が勝者となる。
会場では次々と一回戦の戦いが繰り広げられていった。
『勝者、エンドリュー公爵子息ヴィクター卿っ! 』
「「うぉぉぉぉぉっっ!! 」」
その中でもエンドリュー公爵家のヴィクターは下馬評に違わぬ怪力で他を圧倒する勝ち方を見せ付けていた。相手の馬とすれ違いざまに、激しい槍の一撃を繰り出すと、その槍先をモロに喰らった相手はもんどりうって馬から転げ落ちた。そして、レフェリーの右手が高々と上がり、その度にその名が会場に轟いた。
『──やっぱり、ヴィクター卿の怪力は予想以上だな』
『あぁ、こりゃぁ、敵無しだろうさ──』
『しかしまぁ、可哀想なのはシェリー姫だよ。あんな力だけの不細工な男を婿にするなんてさ──』
『──しぃっ! 誰かに聞かれるぞ……』
ヴィクターの名が会場に響き渡るとヴィクターは兜の面を上げて、レイラ王妃と一緒に二階のバルコニーに設けたられた観覧席から試合を観ているシェリー姫へ投げキッスをした。
シェリー姫はあからさまに顔を背けるが、その様子をみてまるでそれを楽しむかのようにヴィクターはニヤッと嗤ってペロリと舌舐めずりをした。
『勝者、深森の国、騎士ダニーっ!』
パチパチパチパチ……
ダニーも奮闘し二回戦を突破していた。持ち前の軽やかな身のこなしで相手の槍を軽く受け流すと、リーウィッド直伝の鋭い突きが相手の楯を粉砕し、相手は堪らず馬から転げ落ちた。
──やった、また勝った!
ダニーは自分の勝利が告げられると、兜を脱いで眼上のジェリー姫の姿を目で追った。
優勝者が誰になるのかを不安げに見守るシェリー姫は、今下から熱い視線を送ってくる勝利を上げた騎士が一ヶ月前に王都の広場で出会ったダニーその人であることに気が付いた。
「──えっ! あの方……あの騎士……ダニーなの!? ……」
金色の髪を靡かせ、父親とそっくりの目鼻立ちの美青年がダニーに相違ないと確信するや、シェリーはもう嬉しさで矢も盾も堪らず席から立ち上がって、手を振ってダニーに声援を送った。
「ダニーっ! あなた、ダニーなのねっ?! ダニーっっ!! 頑張ってぇぇ! 」
聞いたこともない国の名とその騎士の躍進に、会場はダニーが勝ち上がる度に次第にどよめきが増していった。
シェリーの声援を受け勢いに乗ったダニーは、準決勝では王国きっての槍の手練れハーミット卿を三ターン目で馬から転げ落とすと、会場はダニーコール一色に包まれた。
『いいぞーっ! ダニー! 』
『優勝までまであと一つだ! 』
『頑張れぇ! ダニーっ! 』
『ダニー! 素敵ぃぃっ! 』
『きやぁぁ、ダニーっ! こっちを向いてぇっ!! 』
会場の淑女たちもダニーの颯爽とした立ち回りに見とれ、黄色い声援を送り始めた。
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