深森の魔女セルリアの物語

端月小みち

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第二章 王女に恋した魔女の息子

第三十七話 山小屋の二人 ①

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「──あぁ、もぉっ! ダニーったら、言わんことじゃない……シェリー姫を連れてるから、きっとわたしに迷惑を掛けないように、ってことなんだろうなぁ……」

 セルリアは水盤に映る二人が箒に跨がって飛んでいる様子を眺めながら呟いた。

「この森小屋に戻らずに、ずっと反対の方角に飛んでるけど……一体どこまで行こうというのかしら? ……」
「──あの子はまだ魔法の腕は半人前だし、お姫様を一人で養っていける当てもないのに……二人を連れ戻して、お姫様はディーンの元へ返すしかないわね……成就することのない初恋のほろ苦い経験だったけど、ダニーにとってはとても良い勉強になったでしょう……さて、そろそろ行こうかしら? ……」

 水晶球で二人の位置を確かめながら、セルリアはダニーとシェリーを追うため、箒に跨がり森小屋を飛び立った。



 その頃、ダニーとシェリーは知らない土地の上空を飛んでいた。
 シェリーは箒の後ろに跨りピッタリとダニーの腰に腕を回して、空からの眺めに見入っていた。

「──わぁ、すごい! お空の上って素敵ね。風が気持ちいい! 遠くの山の景色もあんなに綺麗! あっ! ほらっ、見て? 羊の群れがあんなに小さく見えるわ! 」

 ブロンドの髪を後ろに靡かせながら、シェリーは移り行く地上の景色を指を差してはダニーに叫んだ。

「ダニー、ありがとう。わたし、こんなに嬉しかったことは生まれて初めてよ? ……」
 
「シェリー、僕も嬉しいよ……あぁ……僕はこうしてシェリーと一緒にいられるなんて夢みたいだ──」
「──でもどうして王様は急に僕を失格にしたんだろう? 確かに魔法は使ったけど……それが本当の原因じゃないように感じたんだ……」

「きっとお父様ったら、エンドリュー公爵にいいように騙されてたんじゃないのかしら? ……わたし、あの気持ちの悪いヴィクターのにやけた顔を見る度に背筋がゾクッと寒くなってしまう。あのまま宮殿にいたらと思うとゾッとするわ……」

「──今こうしているのが僕で後悔してない? 」

「勿論よっ! わたし……広場で最初にあなたと会った時から、毎日ずっとあなたのことを思い出していたわ……」

 シェリーは顔を赤らめながらも、自分のために危険を冒してくれたダニーに何か隠し事をすることが、もうとてもちっぽけでつまらないことのように思えて、気が付くと自らの思いの丈を目の前の魔法使いの背に向け吐露していた。

「本当かい? 僕も一緒だよ……僕はシェリーの婚約者になるために、剣術の訓練を相当頑張ったんだ! 」

 ダニーは自分の腰に巻きつけられたシェリーの腕をそっと掴んで応えた。

「嬉しい……わたしのために……ダニー……あなたとても素敵だったわ……」

 シェリーはダニーの背にそっと頬を寄せる。

 しかし反面、ダニーの満たされた心の内にこれからのシェリーの行く末を案じる気持ちも俄に心に湧き上がってくる。

「──でもシェリーは宮殿にはもう戻れないけど、平気なのかな? 」

「平気よ……嫌な相手と結婚してまで……その上、今までのように拘束されてばかりの息苦しい時間をこれからもずっと送るのだったら……宮殿の華やかな暮らしにそれほど魅力は感じないわ……」
「でも、お父様とお母様にはいつかまた会えるようになりたい……今はそれくらいかな……」

「僕、それは何とかするように頑張ってみるよ……」

「えぇ、それは二人で考えましょう……」

「──じゃあ、そろそろどこかに降りて休もうか? 」

「そうね。もう夕暮れになってきたわ。でも……休める場所って言っても……」

「──あ! あそこの山の上に小屋があるよ? ちょっと降りて様子を見てみようよ! 」 



※※※※※※※※※※

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