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第二章 王女に恋した魔女の息子
第四十一話 魔女の直談判 ①
しおりを挟むシェリー姫がダニーに誘拐されてから、王国中は大騒ぎとなっていた。
セルリアがダニーとシェリーを伴って小屋に戻ってきた頃には、セルリアの森小屋の近くにまで兵士たちの捜索の手が伸びていた。
しかし、木々が生い茂り見通しの悪い深い森奥の細道を、刻々とルートが変わる迷路にしてしまうことなどはセルリアにとって朝飯前のことだった。
だから捜査の手がセルリアの小屋に及ぶことは決してなかった。
そうして二週間が過ぎ、ややほとぼりが覚めた夜、セルリアは箒に股がり独り宮殿の上空までやって来た。
懐ろから取り出した水晶珠を覗き込み、セルリアは目的の場所を確かめると、宮殿の門番の存在などは一顧だにせず、これまでのセルリア流『高貴な方々への突然の訪問の仕方』の例に漏れず、素早く王と王妃の寝室のバルコニーへと降り立った。
バルコニーのガラス窓越しに、セルリアはディーン王が独り文机に向かっている姿を確かめた。
──コン! コン! コン!
魔女の来訪に気が付いたディーンは直ぐに窓辺に近寄って来てガラス扉を開け、セルリアを招き入れた。
「やぁ、セルリア! その内にきっと来てくれると思っていたよ……」
「……突然押し掛けてごめんなさい……お久しぶりね……ディーン……」
「──あぁ! 本当に久しぶりだ! ……君は相変わらず若々しいままだ……魔女というのはとても不思議な存在だな……でも、本当によく来てくれた、セルリア……」
思わずセルリアの肩を抱いて歓待するディーンに、セルリアも嬉し恥ずかしさから思わずポッと顔を赤らめ俯いた。
「もう、あなたとは会わないと約束したのに……」
「確かに昔、君とそういう約束を交わしたね。でも正直僕は君にまた会えて嬉しくて仕方がない……」
ディーンはそう言って、昔を思い出すようにセルリアの顔をじっと眺めた。
「──それに君の息子、いや。君と僕の息子だろうね、きっと……ダニーと言ったね……いい青年じゃないか! 」
年相応に目尻や頬に皺を刻んでいるディーンの顔からは思わず笑顔が綻んだ。
「うふっ! 勿論よ! 何せわたしが天塩にかけて育てた自慢の一人息子ですからね! 」
セルリアはニッコリ笑って、ディーンに胸を張って見せた。
「……本当に。馬上槍試合の表彰式で彼が僕の息子だと確信した時、僕は、我が息子をこの手でしっかりと抱き締めたくなる衝動を押さえるのに必死だった。だが無論、彼を息子として公に認めることなど叶わないこと……」
「──本当に彼には悪いことをした……彼は堂々と自分の力を存分に発揮して立派に試合に勝利したんだ。でも、シェリーとの婚約を認めることになれば、それは異母兄妹の結婚になる。それに魔法使いを娘の婿にしたところで、結婚生活はきっとすぐに破綻するだろう? どうしたって許される結婚にならないことは目に見えていたんだ。だから──」
「えぇ、あなたの考え方は至極当然のことよ……わたしだっておんなじことを考えたし、あなたが実の父であることは今でもダニーには隠し通しているわ……」
「──でもね……」
セルリアは顔を上げてディーンの目を見た。
「──ん? ……でも? 」
「えぇ……少し状況が変わったの。魔法使いの世界では兄妹や姉弟同士の結婚は普通にあることだし……むしろ、普通の人と結婚する例よりは遥かに多いことなのよ。まぁ、結婚する魔法使い自体、かなり少数派ではあるんですけどね……」
「いや、しかし……シェリーは魔女ではないんだから……」
セルリアは静かに頭を振った。
「──いいえ。それが違ったのよ。だから、今日はこうしてあなたとの約束を違えてでもお願いに来たの……」
「ハハハ……そんなまさか、まるでシェリーが魔女だとでも言わんばかりの口振りだな? それはいくら何でも──」
セルリアは少し首を傾げながら、真剣で、そして、今でも変わらない愛おしさに溢れるエメラルド色の眼差しをディーンの青い瞳へと注ぎ込んだ。
「……うぅん、そのまさかなの……」
「え……本当なのか? ……」
ディーンは目を見開いた。
「ええ……それも彼女はものすごい才能の持ち主だわ。この二週間だけでも、魔法の腕は目覚ましく伸びているし……彼女の身体には揺るぎのない魔力のエネルギーがどんどんと蓄えられているのを感じるの……」
「そ、そんなことが本当にあるのか……?! 」
ディーンは真剣にセルリアの話に耳を傾けた。
「──だからお願いよ! シェリー姫をわたしの弟子にして下さらないかしら? わたし、ダニーと一緒にシェリーも立派な魔法使いに育てて見せるわ! 」
すると突然、部屋の扉がガチャッと開いた。
「──深森の魔女セルリアっ!! 」
レイラ王妃はそう叫んで、物凄い形相で部屋の中に飛び込んできた。
「シェリーを魔女にするだなんて! とんでもないわっ!! 」
※※※※※※※※※※
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