深森の魔女セルリアの物語

端月小みち

文字の大きさ
45 / 45
第二章 王女に恋した魔女の息子

最終話 永遠の再会

しおりを挟む

 それから三年の月日が流れ、ダニーとシェリーの二人は魔法使い見習いを卒業するとすぐに結婚式を上げた。
 二人はセルリアの森小屋からは遠くはなれた異国の地に居を構え、おしどり夫婦の魔法使いとしていつまでも幸せな毎日を送った。



 そして更に四十七年の月日が流れた。

 セルリアは今はもう静かになった森小屋の中で、昔と変わらず森で採集した材料から独り魔法薬を調合する毎日を送っていた。

 そんなある日、レイラ王妃が高齢により逝去されたという知らせがセルリアの耳にも伝わってきた。 
 そしてまた、ディーン前国王は長年連れ添った伴侶に先立たれ、悲しみに明け暮れる毎日を送ってるという噂も。

 立派な魔女となったシェリーは普段もことあるごとに箒に跨り、遠路レイラとセルリアの元を訪ねて来たが、レイラが逝く少し前には床に臥せったレイラの元を頻繁に訪れ、母娘の間の積もる話に花を咲かせたという。

 そんなニュースを聞いて暫く経ったある日の午後、

「みゃぅぅぅ……」

 窓からぴょんと軽快な身のこなしで小屋に入ってきたリーウィッドが、セルリアの足下で一啼きした。
 すると程なくして、誰かが小屋の扉をノックした。

「──はぁい。どなたかしら? 」

──久しぶりにお客様かなぁ?

 そう思いながら、セルリアは扉のドアノブを引いた。

「まぁ! ディーン……」

 そこには、もう大分前に王位を息子に譲った、年老いた前国王ディーンが独り立っていた。

 前王は少しおぼつかない物腰で一礼し、腰を落としながら深森の魔女セルリアの顔を見上げて、にこやかに微笑んだ。

「僕も……あなたとの約束を破って再びあなたに会いに来たことをどうかお許し下さい……」

 ディーンがそう言うと、セルリアは優しく微笑んだ。

「それももう昔のことですわ。それよりレイラ様のこと……お気の毒ですこと……心からお悔やみ申しますわ……」

「ありがとう。セルリア……でも、実際のところそうなんですよ……僕は心にポッカリと穴が空いたようで……それで気が付いたらどういう訳か、再び君の小屋に足が向いていたのです……」

「そうですか……久しぶりにあなたの顔を見られてとても嬉しいわ。さぁ、どうぞ中に入って下さいな? 今お茶でも淹れますわ? 」



 二人は小屋の中の居間に据えられた慎ましやかなソファーに並んで座って、窓から見える深森の緑豊かな眺めや聞こえてくる小鳥の声に耳を傾けながらお茶を愉しんだ。

「流石、魔女は寿命が長い。セルリアはほんとに昔っから若いままだなぁ。羨ましい限りだ……」

「──うふふふ、そうですか? 確かに普通の人よりは長いかもしれないけど、わたしだって少しずつ歳は取っていますから……結局は逝く時は逝くのですわ。それが少し早いか遅いかの違いだけですよ。ダニーとシェリーの子供たちももう随分と大きくなって、わたしももういつ逝ってもいいくらいなんだけど……うふふふ、少し前は寿命が長いのはとっても良いことだとばかり思っていたのだけど、最近は少し考え方が変わってきたのかしらね……」

「そうか……セルリアがそう言うのだから、もうすぐ尽きようとしている僕の命もあながち悲嘆ばかりするものではないような気がしてきましたよ……」

「わたしはまだもう暫くの間は生きますけど、あなたはしっかりと生きて確かに命を刻んできたのですから、もうどうか無理はせずゆっくりと休んで下さいね? 」

「えぇ……そうしようと思います……レイラにはまた『上』で会う時にきつく叱られるのだろうけれど……今日はまたいつかのように、君の胸の中で少し休みたくなりました……どうか僕の我儘をお赦し下さい……」

「まぁ! ディーンったら……うふふふ……どうぞゆっくりなさって下さいな……」

 セルリアはディーンの皺くれた手にそっと自分の手を重ねた。

「……あなたは今でもずっと変わらない、わたしが密かに想いを寄せた大事な人なのですから……」

 セルリアはそう言って立ち上がると、着ていた衣服を静かに脱ぎ捨てた。
 その透き通る白絹のような肢体を露わにしながら、ディーンの傍らにすっと腰を下ろした。

 セルリアは皺の刻まれたディーンの頬を優しく撫でてから、自分の胸へとそっと掻い寄せた。
 セルリアの柔らかな胸の中に顔を埋め、セルリアを見上げたディーンはニッコリと笑った。

「レイラの唇にもまた会えた。嬉しいな……」

 春の陽射しが穏やかに射し込む深森の小屋の中で、ディーンはそっと手を伸ばし、レイラの昔のままの艷やかなピンク色の下唇を、その節くれだった震える指先でくるくると弄んだ。

「わたしのディーン……昔のように沢山良い夢を見て下さいね……」

 セルリアは王子の耳元にそっと囁いた。

「あぁ……セルリア……そして、僕の……」
 
 若き王子ディーンはゆっくりと身体を起こし、魔女の唇に自分の口を重ね、その艷やかで甘いさくらんぼのような膨らみを赤ん坊のようにいつまでも吸い続けていた。


『深森の魔女セルリアの物語』
~終わり



※※※※※※※※※※

 いつもご愛読ありがとうございます。
 長い間、拙作をご愛読を頂きましてありがとうございました!!(◠‿・)—☆

 本編は何とか読者様の厚いご支援のお陰で目出度く完結を迎えることができました。
 まだまだ語り切れずに埋もれている深森の魔女セルリアの物語は沢山あるとは思いますが……一旦はこれで完結とさせて頂きます。
 また、魔女セルリアに再会できますことを作者としても願って止みません。

 下欄のいいねへのご評価や、お気に入りへの追加、感想欄への投稿等頂けましたら、作者大喜びしますのでよろしくお願いします(⁠≧⁠▽⁠≦⁠)

    
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

ぷりん
2025.07.09 ぷりん
ネタバレ含む
2025.07.09 端月小みち

ぷりんさん、御愛読頂きましてありがとうございます!またご感想を頂きありがとうございました。
はい。御指摘の通り二人は一線を超えたという設定です。
この世界でのお話ということにはなりますが、セルリアとディーン夫妻がその件で話し合う場面も出てきますので引き続きお愉しみ頂けましたら嬉しいです。

解除

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。