ボロボロに傷ついた令嬢は初恋の彼の心に刻まれた

ミカン♬

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アリシアの死

 アレンとアリシアの婚約の噂はあっという間に広まった。
 王弟との婚約。本来なら羨望されるのだがアリシアには同情が集まった。

 アレンは変わらず放蕩生活で女性たちと浮名を流し、アリシアを軽視していた。

 その年のデビュタントに参加したアリシアは父親がエスコートしてアレンの姿はなかった。

 貴族が開催する夜会にもアレンはどこかの未亡人を伴って現れたり、他の女性に有名店で高価な宝石をプレゼントしていたのが目撃されたりして、噂好きな貴族たちの格好のエサになった。



 セルリアンは18歳になりナターシャと正式に婚約が決まった。
 婚約者のお披露目のパーティが王宮で行われると、アレンはアリシアを伴って参加した。

 祝いの言葉と祝い品を次々と受け取っていると、アレンとアリシアが挨拶に来た。

 アリシアはハイネックの胸元のレースが美しい赤いドレスを身に纏っていた。
 その姿は月の女神の如く、息を呑むほど神々しく美しかった。
 美丈夫なアレンとはお似合いで、周囲からも称賛のため息が漏れた。

 ナターシャは愛くるしい令嬢であるが美しさの比ではアリシアの足元にも及ばない。

 それでもセルリアンはナターシャを選んだのだ、ただ優しくてたおやかなナターシャを。
 王妃は体調を崩して参加していない。
 まだ反対しているのだと思われた。

「殿下、ナターシャ様、この度はご婚約おめでとうございます」


「ありがとう。二人も婚約おめでとう。とてもお似合いだ」
 一瞬アリシアの表情が曇ったが、にこやかなアレンに促されてその場を離れていった。

「アリシア様は幸福なのでしょうか」
 ナターシャはポツリと呟いて、二人を目で追った。

 アレンはもう令嬢達に囲まれて酒を飲んでいる。
 アリシアは離れた場所で所在なく壁の花となっていた。

「相手がアレン叔父ではこの先も苦労するだろう。だが私達には関係の無いことだ」

「冷酷王子・・・」

「君は優しいね。さあ笑って、今日はおめでたい日だ」

 優しいナターシャの顔が僅かに歪んで、二人の胸に僅かな黒いシミが広がった。



 学園の卒業パーティにアリシアは一人で参加していた。

『冷酷王子には選ばれず、放蕩王弟にも愛されない傷物令嬢』
『アリシア様は公爵にも見放された気の毒な公爵令嬢』

 ────そんな印象を卒業生達の心に残して、アリシアは再び社交界から消えた。


 それから二か月後、アリシアが病死したと連絡が入った。

 療養中の領地で突然亡くなったと聞いて、セルリアンはアリシアが自害したのだと思った。
 ナターシャも同じ考えだった。

「私は側妃を受け入れるべきだったのかしら」

「拒んだのは私だ。何も考えるなナターシャ。忘れるんだ」

「罪悪感は無いの?リアンはアリシア様に命を救われたのよ?」

「無いと言えば嘘になる。私はあの時刺されて死ねば良かったのか?」

「いいえ。でも私達は余りにもアリシア様に不誠実だった」

「偽善だ。今更、そんな話が何になるんだ。彼女はもういないんだ」



 優しいナターシャはアリシアを哀れに思い泣いている。
 やはりアリシアは酷い令嬢だ。死んで一生私達を苦しめるのだ。

 胸が張り裂けそうに苦しい。すまなかった。

 ────アリシア許して欲しい。

 私はもっと貴方に何かできたはずだ。けど何もしなかった。

 アリシアは密葬された。それが自害の事実を物語っている。
 王家の参列も拒否された。

 アレン叔父は醜聞から逃げるように他国に渡ってしまった。

 外務大臣になるのではなかったのか?
 あんな放蕩人間に務まる筈もない。

 アリシアはもういない。

 婚姻の準備を始めて私達は今、幸福の絶頂にいるはずだ。

 ────笑え。私達は幸福なのだと。

 将来立派な王と王妃になることだけを考えるんだ。



 セルリアンは自責の念に無理やり蓋をし、心の奥底にアリシアへの想いを閉じ込めたのだった。

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