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後日談 復讐が終わる時
寝息をたてて眠る愛する息子シアンの顔を夫妻は見つめていた。
母になったアリシアからは落ち着いた色気が感じられてアレンは愛おしく思う。
そんな妻は憂いを帯びた瞳を夫に向けた。
「この国で暮らして・・もう復讐なんて望んでいなかったのに、怖いわ・・・凄く怖い・・」
〈アリシア〉の名を捨てる前は、幸福なセルリアンとナターシャに、自分が受けた痛みを与えたいとアリシアは思っていた。
「今の二人は幸福には見えないわ」
「君らしくないな、そんな弱音は」
アレンは震えるアリシアの肩をそっと抱いて髪に口付ける。
「これでナバール王国は大帝国の属国になるわ、殿下は気づいているかしら」
「無能な王家には相応しいさ。後悔しているのか?」
「いいえ、貴方に纏わりつくアドニス皇女も排除出来て嬉しいわ」
「皇女は俺を慕うフリをしていただけだ、君も知っていただろう?」
アドニス皇女には愛し合う恋人がいる。アレンに付き纏うフリをしてハイビスカス国の別荘に恋人と来ていた。帝国では決して認められない平民の男。極秘の愛人を持つ側妃をセルリアンは迎える事にしたのだ。
「アドニス皇女には托卵だけは断っておいたが・・・さて、どうなるかな」
「ナターシャ様はシアンを養子に欲しがっているわ」
「認めるものか!・・・ナターシャは毒を盛られていた兆候がある。気の毒だが長年摂取していれば懐妊は望めないかもしれないな」
「無力な妃の末路ね。さすがに彼女にだけは同情するわ」
「もう捨てた国の事など忘れよう」
アレンは王妃に常に命を狙われ、兄である国王は見て見ぬふりをしていた。セルリアンはアリシアに謝罪の言葉をいっさい口にしなかった。何も知らず『放蕩王子』と自分を見下す甥を憎いとさえ思っていた。
その甥にアレンは意図的にアドニス皇女を紹介した。
きっとこの先セルリアンはじわじわと何もかも帝国に奪われてしまうだろう。
「復讐を望んだのは君ではなく俺だった。俺には後悔など微塵も無いね」
アレンはアリシアの肩の傷をそっと撫でた。
「優しいのね。だから好きよアレン、私は幸せだわ」
アレンの胸に顔を埋めて、後は時間が復讐を果たしてくれるとアリシアは思う。
「ところで、そろそろシアンに兄弟が出来ても良いと思うんだけど?」
「ふふ、私にそっくりな妹なんてどう?」
「あ~絶対に嫁に出せないね・・・」
──常夏の夜は更け、キスを交わし愛し合う者達は熱い夜を過ごし幸せな朝を迎える。
太陽神に愛されたハイビスカス国には日常を忘れようと癒しと快楽を求めて大勢の人々がやって来る。国の中心にはアレンとアリシアが存在し、やがては一大リゾート国となっていく。
*****
アドニス皇女を連れて帰国したセルリアンは直ちに国王となりアドニス皇女を側妃にすると宣言した。
大帝国皇帝は溺愛するアドニス皇女のためにナバール王国の行政改革を示唆した。よって帝国からは優秀な人材が送り込まれ、宰相の息のかかった無能な貴族は中枢から遠ざけられた。
宰相の補佐にも帝国の第四皇子が就き、辣腕の第四皇子は資産家コートバル侯爵家の末娘を妻に迎えた。
「陛下!これでは我が国は帝国に乗っ取られたようなものですぞ!」
「側妃を迎えろと言ったのは宰相である貴殿だぞ。文句なら皇帝に申し上げろ!」
「ぅ・・くっ!」
「王家が力を取り戻すのだ。国王は自分であり、乗っ取られるなどと・・・寝言は寝て言え!」
「必ずや後悔するでしょう!」
宰相の権威は失われた。いずれは退任に追い込んでやるとセルリアンはほくそ笑んだ。
アレン叔父を頼って正解だった。アリシアも今はハイビスカス国の幸福な王女だ。長年の憂いは消えてセルリアンは大いに満足していた。
「セルリアン様~~」
アドニス皇女がセルリアンに抱き着いて互いに見つめ合う。そんな様子に二人の仲は誰からも良好に見えた。
「早く式を挙げて妻になりたいですわ~」
「そうだね皇帝陛下も楽しみにしておられる」
仲睦まじく過ごす二人をナターシャは黙って見守っておりナターシャの王妃としての評判は上がった。だがナターシャの辛い生活を支えてきたのはセルリアンの愛だけだったのだ。
アドニス皇女とセルリアンの挙式が近づき、穏やかな笑みを浮かべるナターシャが壊れてゆくのをまだ誰も知らなかった。
──婚姻式の前日。
行政の改革と挙式の準備に多忙な日々を過ごしていたセルリアンは久しぶりにナターシャの元に訪れた。ナターシャは相変わらず穏やかな様子で優雅に紅茶を飲んでいる。負い目があるセルリアンはその様子に胸をなでおろした。
「ナターシャ淋しい思いをさせてごめんね」
声を掛けるとナターシャは紅茶のカップをテーブルに置いて急いで駆け寄ってきた。
「ねぇリアン、ハイビスカス国にシアンを迎えに行かないと・・・きっと待っているわ」
「その様な約束をしたのか?挙式には叔父を招待しているが・・・」
「だってシアンは私達の大切な息子よ、返して貰わないと!」
「・・・ナターシャ、シアンはアレン叔父の息子だ」
「いいえ私の子よ、あの子だけが正当な次の王位継承者だわ」
ナターシャは夢見るように空を見つめている。
「何を・・・」
「シアンは私達の愛の結晶なのよ、ふふふ・・私のシアン・・・待っててね」
セルリアンが妻の異常に気づいた時にはもう手遅れだった。
「そんな・・・ナターシャ・・・しっかりするんだ!ナターシャ!・・誰か!・・・早く医者を・・ああ・・うぁあああああ!!!」
ナターシャを抱き締めたセルリアンの慟哭がいつまでも響き渡り、傷物令嬢と呼ばれたアリシアの復讐は図らずも遂げられた。
翌日は予定通りに豪華絢爛な挙式が行われ、顔色を失い憔悴した国王の隣で花嫁のアドニス皇女は満面の美しい笑みを浮かべている。そんな二人の様子を拍手喝采の中でアレンだけが無表情に見つめていた。
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