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しおりを挟む5年もの間、頭を使わないのは無理だ。それに私はリシャールを愛している。
気持ちが通じ合ってからのリシャールは、前にも増して積極的に迫ってきて困る。式も挙げていないのに周囲には夫婦だと認知されている。
彼の両親に紹介され、フリック殿下にもせがまれ、結婚を余儀なくされた私は覚悟を決めてリシャールのプロポーズを受けた。
トレード可能なうちに両親に花嫁姿を見せたいし、できれば孫の顔も見せたい。
今日はウェディングドレスを高級ブティックに申し込む為に、リシャールと街に出た。
季節はすっかり春だ。
風が光る街を素敵な婚約者と腕を組んで歩くのは気持ちがいい。
最近は街で自転車を見かける。高価なのでまだ少数だが、いつか広く普及させると殿下は言った。
車の無いこの世界でなら私も自転車に乗れそう。
カップラーメンも安価で発売されている。
スライムからプラスチックに似た容器を作って、料理長の協力の元にカップラーメンは見事に再現できた。スライムは熱や冷却に弱いイメージだが、スライム容器は上限は150℃迄、下限は-10℃迄耐えられる。
カレー味や塩味と種類も増えて、もうトレードする必要はなくなった。
秋になって結婚式を終えリシャールと正式な夫婦になった。
やがて1年が過ぎると私は日本語の記憶がおぼつかなくなり、習い始めた小学生の英語レベルになっていた。
それから2年を待たずに、実家の様子を思い浮かべるのが困難でトレードは出来なくなった。
まぁでも魔法のあるこの世界で、私が無力になったところで特に困ることもない。
フリック殿下だけが泣くほど残念に思ってくれた。
3年経つと家族の顔をスマホや写真で認識できても、生まれてから共に過ごした記憶は消えていた。
悲しいことに、それらが悲しいとも思えなくなっていった。
私とリシャールは3年目に子どもを授かった。
これを機にフリック殿下付きの任務が外され、リシャールの両親と同居となった。
夫の両親は私と生まれた息子のリオルを大変可愛がってくれて、フリック殿下の護衛も交代制になり、リシャールは毎日私の元に帰ってくる。
4年5年とイーリスさんの言った通り、元の世界を忘れていった。
子どもを産むと女は強い。私は自分の家庭が最も大切なものになった。
早々にトレードの力が消え、私はここで役に立たなくなった。なのにどうしてこの世界に呼ばれたのかは未だに謎だ。
「ミオは私と結ばれる為に呼ばれたのですよ」
「そうだね、そうに違いないね」
5年目の今日、再び紫月の日を迎えて、私はリオルを抱いたリシャールと空を見ながら、スマホで巨大な紫月の写真を撮っていた。
「今願えば、奇跡が起きて私は元の世界戻れるかもしれないのよね」
「リオル、ママは酷いね。パパとリオルを捨てるつもりだよ」
「そんなわけ無いじゃない、冗談よ。二人とも愛してるよ」
もうリシャールとリオルが私の最愛なのだ。今の生活を捨てるなんて、とんでもない。
今年は紫月の乙女は現れるだろうか?
どんな奇跡が起こるのだろう。
そんな話をリシャールとしていると────
紫月が一瞬輝いて・・・頭の中に鮮明に実家の様子が浮かび、私の目には成長した妹の姿が映った。
「お姉ちゃん!」
声までも聞こえた気がして──
「ユキ!」
私も名前を呼んでいた。
少しの間だったが、実家を思い出して妹に会えた。
「ミオ、スマホが」
リシャールに言われて掌を見ると知らないスマホを握っており、無意識にトレードしたようだ。
それはユキのスマホで、家族のメモリーがいっぱい詰め込まれており、まるで今日の為にユキが用意していたように思える。
「ユキはスマホを交換して大丈夫かしら?でも、私のスマホでリオルの姿をユキ達に見てもらえるわね」
ちょっとした奇跡だったが、私は嬉しくて胸がいっぱいになった。
奇跡が起こる5年後にまた妹に会えるだろうか。
会いたい!
5年後に、きっとまた会おうねユキ。
トレードの力は復活しなかった。
ユキのスマホを操作していたら───
「ねぇリシャール、これを見て・・・これって」
「まさかこれは・・・・」
そこには信じられない事実が写っていたのだった。
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