もう何も信じられない

ミカン♬

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6 アニーの執着

 大好きなヤンが本宅に行かされて学園の送り迎えがナッシュさんになりました。

 ほんの数分だけどね。それが私に仕えているように見えるのでしょう、ナッシュさんを奪われたと思い込んでアニーは私を敵視。

 恐ろしく睨んできます・・・・


 お迎えは今日で三日目。服も新調して素敵になったナッシュさんを東通りのティールームに誘いました。

「早く戻らないと・・・」
 心配そうなナッシュさん。

「大丈夫、ヤンとも時々来ていたのよ。仕事に差し支えない程度よ」

 エドアルト様とも来ていたのが、なんだかずっと昔の事のようです。


「ずっと聞きたかったの。あの日私と会ったのは偶然じゃないですよね?」

「・・・そうです。貴方のお父様を見たかったんです」

「お父さんを?」

「いつも貴方のお祖母様が母に話していました。『フランツと結婚していたらもう少しローザナッシュの母も幸せだったかもしれないのに』と。だからどんな人か見たかったんです」

「そうだったの」

「3回家を抜け出しましたが、結局一度もフランツ様には会えず、最後にお嬢様と出会いました」

「ナッシュさん、ディーって呼んで欲しいわ」

「いえ、私の事はナッシュと呼んで下さい。使用人なのですから」


「じゃぁナッシュ、アニーの怪我は貴方のせいなの?」

「お嬢様と会った日、家に戻るとアニーが馬車にひかれたと聞きました。私の後をこっそり付いて来て迷子になったんです。でも怒られると思ったんでしょうね、私が連れ出したと言ったのです。今ではそうだと思い込んでいます」

 アニーの嘘できっと彼は叔父に酷い目にあったはずだ。殴る蹴る・・・想像しただけで胸が痛くなる。


「貴方、苦労したのね。子爵家を恨んだでしょう?」

「もう済んだ事です。お祖母様にはよくして頂きました。勉強も教えて下さって」

「そう、お祖母さんはいつ亡くなったの?」

「え? 生きてますよ。 母が亡くなって子爵がアニーの母親と再婚すると、夫妻に追い出されてしまったんです」

 なんと祖母は生きていました。実家に戻って静かに暮らしているそうです。

「アニーは可哀そうな子なんです。温かな目で見てやって下さい」

 そうやって皆であの子を甘やかしてきたのね。

「ナッシュの愛情は間違ってると思うわ」

「どう言われてもアニーの怪我は私のせいです。お嬢様、そろそろ帰りませんか?」


 お茶を飲み終えて店を出ると、デート中のエドアルト様とソーニア様に出くわしました。

「ウェンディ先輩?」

 動揺した私は思わずナッシュの腕に縋ってしまいました。

「先輩もデートですかぁ? もう新しい恋人ができたんですね」

「私は使用人です。誤解されるような発言は控えて下さい」

「ふーん、前の太っちょさんより素敵な方ですね~」

 ソーニア様はなんで声を掛けて来るんだろう。本当にムカつきます。

「ヤンは?」
 私を無視していたエドアルト様がやっと喋ったと思ったら「ヤン」って・・・。

「クライン伯爵令息様には関係ございません。失礼いたします」

 ナッシュを引っ張ってさっさと帰宅するとアニーが待ち構えていました。

「どうしてこんなに遅いのよ!」
「お茶していたのよ。いろいろ聞きたいことがあったの!」


「ふん、ナッシュ私もお茶が欲しいわ用意して!」
「戻ったら旦那様のところに行かなくてはいけないんだ。用事はメイドさんに頼んでくれ」

 ナッシュが父の執務室に向かうとアニーは私に近づいて、凄い力で手首を掴みました。

「あんたは何でも持ってるじゃない。両親に愛されて、お金持ちのお嬢さんで、学校に行って自由に歩けて、ずっとずっと幸せなんでしょう? 私にはもぅナッシュだけなんだから! 取らないでよ!」

「取らないわよ。手を放して下さる? 自分だけが不幸みたいに言わないで。ナッシュだって不幸じゃないの、もう彼を自由にしてあげなさい」

 手を振りほどくとアニーはきつく唇を嚙み締めていました。

 父は早く二人を切り離す必要があると言います。でなければナッシュに執着するアニーは今後も成長はできないと。

 そのためには私たち家族がアニーに正しい愛情を示す必要があるのですが・・・

「何が自由よ、偉そうに!」

 ・・・私はアニーを愛せる自信がありません。

 手首は振りほどく際に爪で引っ搔かれ、憎悪の証のように赤い傷となり彼女の拒否を感じます。

 ナッシュだけが彼女の世界の住人なんでしょう。


 車椅子を自分で操作しながら去って行くアニーを見つめながらふと考えました。

 (あの足って、本当に治らないのかしら?)

 



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