もう何も信じられない

ミカン♬

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29 病院に行く!

 あの男に襲われてから1週間が過ぎました。ナッシュの見舞いに行きたいと言っても危険だからと行かせてもらえません。名を呼ぶのも汚らわしいあの男も同じ病院に入院中だからと。

「マックさんが一緒だと大丈夫よ。いいでしょう?」

 今日も夕食が済んだダイニングルームで頼んでみましたが両親は絶対に許可しないのです。

「彼は元気だから心配いらないわ。退院したらいつでも会えるじゃないの」
「戻っても商業区域のゴードンさんのところに行くんでしょう? 会えなくなるわ」

「ディーどうしたの? 貴方はそんな我儘な子じゃなかったわよね?」

「ナッシュに会いたい。どうしてそんな些細な事が許されないの? 私、ナッシュが好きなの。彼にお礼を言って、元気な姿を確認したらもう我儘は言わないから!」

「はぁー ・・・好きってどういう事? 彼は使用人よ?」

 眉根を寄せた母の言葉はショックでした。使用人だからって何? ナッシュは私の恩人で大切な人なのに。

「怪我だって気にしなくていいのよ。あれが彼の仕事だったんだから。ちゃんと入院させて面倒見ているわ」

「お母さん! ひどいわ!」
 非難すると母はプイッと顔を背けました。

「お父さん! 前にナッシュを婿にどうかって聞いたわよね? 彼がお婿さんになって欲しいわ」

「あ・・・・あれは冗談だったんだ。私は出来ればディーはエドアルト君と・・・」
「彼だけは絶対に無いから!」
 謝罪は受けたけど寄りを戻す気は一切ありません。

「フランツ、はっきり言ってやって。ナッシュは貴方に相応しいと思えないの。別に男性は彼だけじゃないでしょう?」

「お母さんだって伯爵令嬢だったのに貧しい子爵家の長男を好きになって駆け落ちまでしたじゃないですか」

「フランツは甲斐性があったから幸せになれると思ったわ。私達は愛し合っていたもの。ナッシュはどうなの? 貴方を愛してくれているの?」

「それは・・・まだ分かりません」
「ディーの片思いじゃないの」

「ふむ、彼もディーにはエドアルト君が相応しいと言ったそうだよ」
「なにそれ・・・」

「マックが義父になってくれたら嬉しいそうよ。ミエサと結婚の話が出ているの」

「ミエサって・・・ナッシュより10歳も年上ですよね? 子供だっているのに」
「ナッシュは甲斐性が無いから働き者のミエサはお似合いだと思うわよ?」

「もう! 甲斐性甲斐性って、ナッシュを馬鹿にしないで!」

「彼が自分で言ってるの。おまけに他の男が貴方に相応しいなんて。愛のない男に可愛い娘はやれないわ」

 ナッシュがそんなことを言ったなんて「いいえ、自分で確かめないと信じないわ!」

「大体ディーはナッシュのどこがそんなに好きなんだ? 同情や罪悪感じゃないのかい?」
「最初はそうだったかも。でも今は違います」

「とにかく退院したら必ず会わせてあげます。その時に彼の気持ちを確かめなさい。まぁ期待はしない事ね」

 母にこんな冷徹な面があったなんて、父は気まずそうな顔をして何も言わなくなりました。私は二人ともナッシュを気に入っているとばかり思っていたのに。

 彼は真面目で優秀な人です。破産寸前の子爵家をずっと支えてきたのですから。その子爵家で虐げられた為きっと自尊心が薄いのです。叔父夫婦に居候扱いされてひどい目に合って・・・

「彼を幸せにしてあげたいと思って何が悪いの。甲斐性が無くても私は全然平気です!」

「貴方は苦労なんてした事無いものね、全く話にならないわ。もう部屋に戻りなさい。明日から学園に行くのでしょう?」
「完全に体調が戻るまで無理に行かなくてもいいから、体だけは大事にな」


 無言で部屋に戻って両親の言葉を思い返すとすごく気持ちが悪くなりました。
『ディーにはエドアルト君が相応しいと言ったそうだよ』

「いつナッシュがそんなこと言ったのよ! ミエサと結婚だなんて、また私だけが何も知らないのね」

 もう両親の許可なんていらない。ネッドに合わなければいいのよね。絶対明日病院に行く!




 翌朝、マックさんと学園に向かってお別れすると私は校舎に向かい、途中で引き返しました。
 マックさんがいないのを確かめて病院に向かって走り出した途端「どこに行くんだ!」と腕を掴まれました。

「見逃して下さい、お願いエドアルト様」

「ウェンディは変わったな。前は理知的でクールなお嬢様だったのに」

「これが本当の私、我儘で嫉妬深いの。貴方の前で被ってた猫も捨てました」

「病院に行くんだろう。付き合ってやるよ」

 エドアルト様だって変わりました。不愛想で面倒ごとは嫌いな人だったのに。最初から互いに本音で付き合っていたら私達はまだ恋人でいられたのかもしれません。




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