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14 ルナシア

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 翌日は入学式で、校長や生徒会長──ハサウェイ公爵家の長男グレン、他の賓客からもお祝いの言葉が続いた。

 アーヴィング殿下からも簡単な挨拶もあり最後に「王族であっても学校内では学友であり、丁寧な挨拶は不要だ」と仰った。殿下は生徒会の相談役でもある。

 ミリアンさんの情報だと殿下は獣人の血をひいている。
 200年前に獣人国と和平を結び、お互いの国の王女を王族に差し出した。その子孫の一人がアーヴィング第二王子殿下だ。
 王家は生粋の人間の王族と、獣人の血筋の王族を区別しており、アーヴィング殿下には王位継承権は無く、いずれは臣下となる予定。

 壇上の殿下と目が合って、去り際に微笑まれると令嬢たちの熱い溜息が聞こえた。
 見た目は獣人には全然見えない、モフモフシッポがあったらモエたのに。


 入学式が終わり辺りを見回すと────いた!ルナシアだ!

 バレンシアと同じ顔だが自信に満ち溢れた姿は気品があって美しい。
 ルナシアは優秀な高位貴族が席を占める1-Sクラス。

 1-Aの教室に向かうと水色リボンに注目される。
 今年は特待生は4人。

 このAクラスには私と男爵令息ロアンが入った。

 教師が来て簡単に自己紹介をすると今後のスケルージュを説明して終わり。
 終わるなりロアンが話しかけてきた。

「君のゴーレム素晴らしかったね。筆記もトップだって聞いたよ。次の試験は負けないよ」

 赤毛のロアンは小柄で気の強そうな顔をしている。
 勝手にライバル宣言してきた。こういう子は嫌いじゃない。

「頑張ってね、私は入学できれば満足だから、特に順位は拘らないの」
「そう言って油断させる気だな。絶対に負けないからな!」

 特待生として『試験は30位以内には名を連ねなさい』と校長より釘を刺されている。
 平均点以下だと退学、問題を起こしても然り。

 煩いロアンから離れて、校舎内を歩いて明後日の校内オリエンテーリングの下見をしていると、結構いろんな場所に鏡が設置されているのに気づく。

 ゆっくり巡って校舎の2階の図書室に到着した。ここにも壁鏡がある。
「夜に本を借りるくらいはいいかな?」

 でも、迂闊に行動して鏡の秘密が知られるのは良くない。
「だめだ、普通に生活しよう」

 先生とミリアンさんにはである事を、いつか話そうと思っている。
 今はまだ言えない。バレンシアを見つけてからだ。

 窓を見ると中庭が見えて、アーヴィング殿下がルナシアと談笑しているのが見えた。他には側近の男子生徒3名、中の一人は兄のグレン。

 アーヴィング殿下に気付かれ、軽く私に手を上げる。気の鋭い方だ。
 他の4人もこっちを見上げたので、私は頭を下げて窓から離れた。
 バレンシアが忌み子なんて言われ無ければ、あの輪に入っていたかも知れない、可哀そうに。

(ん・・まただ・・・)
 学校に入ってから以前より視線を感じる。
 頭上の高い位置から監視されている、そんな感じで気持ちが悪い。


     *

 翌日、生徒たちは適性や簡単な魔力調査を受けていた。

 特待生は特待生試験中に調査済みなので教室待機、教科書をパラパラとめくっていた。
 ロアンも退屈そうに教科書を開いている。

「シアはオーハン老師の娘なんだってな、だから凄いんだな」
 急にロアンが話しかけてきた。

「父親代わりの方よ、1年間指導を受けてきたわ」
「そっか、羨ましい。そうだ魔法の実技は俺と組まないか。シアと組んだら上達が早い気がする」
「いいわよ、組みましょう」
「よし!約束だからな」
 この後はオーハン先生や魔法の話で盛り上がり、暇つぶしになった。

 因みにロアンは特待生代表で生徒会の実行委員だ。『シアがなるべきだ!』とロアンは抗議したが私はグレンがいるので丁重にお断りした。


     *


 校内オリエンテーリングは移動教室の場所確認だ。
 ポイントを通過すればマジックシートにポイントが入り、満点になれば終了。

 なぜかロアンが付いてくる。

「いいじゃん、特待生同士仲良くしようぜ」
「まぁいいけど」

 1-Sの生徒一団が近くを通り、中心にルナシアがいた。可愛い声が特徴的で、どこにいても目立つ。

「不思議な声だな。立ち止まってつい聞き入ってしまう」
 ロアンはルナシアに見惚れている。

「そうね、惹きつけられるよね。美人だし」

「公爵令嬢様だ、俺達には関係ない」

 ニィと笑ってロアンは先に歩き出し、校内を一周してオリエンテーリングは終了した。



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