10 / 20
10 ルッツ視点
しおりを挟む
──これは夢だって、すぐ分かった。
時々あるんだ、ガキの頃の夢を見ること。
目の前の女の子がパンを差し出してきた。俺は戸惑った。
なんでか知らんけど、同情されるのが嫌でさ。
反射的に叩き落としたら、その子の顔が泣きそうになった。
どうしていいか分からず、パンを踏みつけた。……ほんと、俺って酷い。
それ以来、アリーには嫌われた。
でもその方が気が楽だった。優しくされると、どうすりゃいいか分からなくなる。
……アリーからはいつもいい匂いがしてた。
──ああ、まるで走馬灯のような夢だ。
俺は薄汚いガキだった。
スラムでボスに拾われて、夜の庭の警護を命じられた。
歓迎の印に、古株の黒豹たちにボコられた。
怪我した俺を手当てしてくれたのは──アリー。
「ファル」なんて名前までつけて、抱きしめてくれた。
でもボスは言ったんだ。
『アリーに **ファルがお前だって事**バラすなよ。お前は人間だ、分かったな』
……ボスは獣人が嫌いだからな。
アリーが家出した時、胸をえぐられるみたいに苦しかった。
結婚したって聞いた時は、本気で死にたくなった。
それでも、気持ちは抑え込んだ。必死で。
その時だ。アランに言われたんだ。
「ルッツ。……去勢すれば楽になりますよ」
「はぁ? 正気かよ」
思わず笑った。けど、彼は真顔だった。
アランは気付いてたんだ。俺とアリーが《番》だって。
だからこその忠告だったんだろう。
──悩んだよ。そりゃもう、だって去勢だぜ?
黒豹に変身できなきゃ、ギルドを去ることにもなる。
でも結局、決心した。楽になりたかったんだ。
「じゃあなんで黒豹に変身できるんだ?」って?
アランが言ったんだ。
『タマを一個失うだけで、番への狂おしい執着はだいぶ和らぐそうですよ』
……だから、一個だけ残したのさ。
「……ルッツ、起きてよ。ねぇ、ルッツ」
ああ、この声……大好きなアリーの声。
「アリー……」
目を開けると、俺の顔を覗き込んでる。
「ここ……俺の部屋?」
「そう。起きた! よかった……!」
「……うるせーよ。声デカいんだよ」
憎まれ口しか出てこねぇ。俺は一生アリーに嫌われたままなんだろうな。
「守ってくれてありがとう、ルッツ」
「仕方ねーよ、ボスのお嬢さんだからな」
「なにそれ。ほんと素直じゃないんだから」
「俺は寝たいんだよ。……あっち行け」
「もう!」ってアリーは怒って部屋を出ていった。
どうすりゃいいんだよ、俺。……もうまともに顔合わせられねぇ。
*
燃えたのはギルド本部と屋敷の一部。
仲間の黒豹たちはみんな殺された。
仇は討ったが、黒幕はまだ残ってる。
襲撃者たちはアリーを殺そうとした。
──理由には心当たりがある。
ダリオンと再会したあの日、アリーが「訴える!」って言った。
訴えたってどうにもならねーのに。でもそれを危惧した奴がいたんだ。
それだけが理由じゃない。ギルドは前から狙われていた。
ボスの命と、本部の情報。どっちも簡単に奪えないから、燃やして消そうとしたんだ。
でも肝心な書類は地下の耐火金庫にある。
キスリー侯爵家の秘密が眠ってる。
「慎重になりすぎたな。被害が大きくなってしまった」
軽い調子だが、ボスは怒ってる。
「あっちの被害も甚大です」
アランが淡々と返す。
「……向こうが体制を立て直す前にやるぞ」
「了解!」
部下全員が声をそろえた。
──報復が始まる。
「ルッツ。お前はこれまで通りアリーを警護しろ。あいつは俺の娘だ、分かってるな?」
「了解」
つまり、アリーにケガもさせるな、手出しもするな、って……ことだよな?
ボスはアリーの結婚相手は人族じゃなきゃ駄目って決めてた。
……まぁダリオンは、絶対ダメだよな。
あいつ、侯爵家の跡取りに成りすましたせいで命狙われて、オマケにタマ潰されて。
……笑えるくらい踏んだり蹴ったり。ざまぁみろだ。
*
──キスリー侯爵家の刻印が入った指輪。あれは俺のもんだ。父さんの形見だった。
スラムで俺を育ててくれた爺さんのために、ビルド商店に持ち込んだ。
「拾った」って嘘ついてな。
でも、渡された金はわずか。爺さんの薬代にも全然足りなかった。
あいつら、ほんとあくどい連中だ。
指輪の秘密に気付いたビルド商店は、隠したまま時期を待ってたんだろう。
そこへ黒犬のダリオンが現れて、替え玉の計画は実行された。
*
俺の母さんは黒犬じゃなく、黒豹だった。
赤ん坊の俺を知り合いの爺さんに預けて、逃げた先で父さんと一緒に殺された。
ボスは……どこまで知ってたんだろうな。
金を出して助けてくれたおかげで、爺さんは穏やかに逝けた。
……だから俺、ボスには頭が上がらねぇ。
*
俺は絶対にキスリー侯爵家を許さない。
だから黙って復讐に加わるんだ。
「老侯爵はお前の本当の爺さんだろう?」ってか?
……関係ねぇよ、そんなの。
時々あるんだ、ガキの頃の夢を見ること。
目の前の女の子がパンを差し出してきた。俺は戸惑った。
なんでか知らんけど、同情されるのが嫌でさ。
反射的に叩き落としたら、その子の顔が泣きそうになった。
どうしていいか分からず、パンを踏みつけた。……ほんと、俺って酷い。
それ以来、アリーには嫌われた。
でもその方が気が楽だった。優しくされると、どうすりゃいいか分からなくなる。
……アリーからはいつもいい匂いがしてた。
──ああ、まるで走馬灯のような夢だ。
俺は薄汚いガキだった。
スラムでボスに拾われて、夜の庭の警護を命じられた。
歓迎の印に、古株の黒豹たちにボコられた。
怪我した俺を手当てしてくれたのは──アリー。
「ファル」なんて名前までつけて、抱きしめてくれた。
でもボスは言ったんだ。
『アリーに **ファルがお前だって事**バラすなよ。お前は人間だ、分かったな』
……ボスは獣人が嫌いだからな。
アリーが家出した時、胸をえぐられるみたいに苦しかった。
結婚したって聞いた時は、本気で死にたくなった。
それでも、気持ちは抑え込んだ。必死で。
その時だ。アランに言われたんだ。
「ルッツ。……去勢すれば楽になりますよ」
「はぁ? 正気かよ」
思わず笑った。けど、彼は真顔だった。
アランは気付いてたんだ。俺とアリーが《番》だって。
だからこその忠告だったんだろう。
──悩んだよ。そりゃもう、だって去勢だぜ?
黒豹に変身できなきゃ、ギルドを去ることにもなる。
でも結局、決心した。楽になりたかったんだ。
「じゃあなんで黒豹に変身できるんだ?」って?
アランが言ったんだ。
『タマを一個失うだけで、番への狂おしい執着はだいぶ和らぐそうですよ』
……だから、一個だけ残したのさ。
「……ルッツ、起きてよ。ねぇ、ルッツ」
ああ、この声……大好きなアリーの声。
「アリー……」
目を開けると、俺の顔を覗き込んでる。
「ここ……俺の部屋?」
「そう。起きた! よかった……!」
「……うるせーよ。声デカいんだよ」
憎まれ口しか出てこねぇ。俺は一生アリーに嫌われたままなんだろうな。
「守ってくれてありがとう、ルッツ」
「仕方ねーよ、ボスのお嬢さんだからな」
「なにそれ。ほんと素直じゃないんだから」
「俺は寝たいんだよ。……あっち行け」
「もう!」ってアリーは怒って部屋を出ていった。
どうすりゃいいんだよ、俺。……もうまともに顔合わせられねぇ。
*
燃えたのはギルド本部と屋敷の一部。
仲間の黒豹たちはみんな殺された。
仇は討ったが、黒幕はまだ残ってる。
襲撃者たちはアリーを殺そうとした。
──理由には心当たりがある。
ダリオンと再会したあの日、アリーが「訴える!」って言った。
訴えたってどうにもならねーのに。でもそれを危惧した奴がいたんだ。
それだけが理由じゃない。ギルドは前から狙われていた。
ボスの命と、本部の情報。どっちも簡単に奪えないから、燃やして消そうとしたんだ。
でも肝心な書類は地下の耐火金庫にある。
キスリー侯爵家の秘密が眠ってる。
「慎重になりすぎたな。被害が大きくなってしまった」
軽い調子だが、ボスは怒ってる。
「あっちの被害も甚大です」
アランが淡々と返す。
「……向こうが体制を立て直す前にやるぞ」
「了解!」
部下全員が声をそろえた。
──報復が始まる。
「ルッツ。お前はこれまで通りアリーを警護しろ。あいつは俺の娘だ、分かってるな?」
「了解」
つまり、アリーにケガもさせるな、手出しもするな、って……ことだよな?
ボスはアリーの結婚相手は人族じゃなきゃ駄目って決めてた。
……まぁダリオンは、絶対ダメだよな。
あいつ、侯爵家の跡取りに成りすましたせいで命狙われて、オマケにタマ潰されて。
……笑えるくらい踏んだり蹴ったり。ざまぁみろだ。
*
──キスリー侯爵家の刻印が入った指輪。あれは俺のもんだ。父さんの形見だった。
スラムで俺を育ててくれた爺さんのために、ビルド商店に持ち込んだ。
「拾った」って嘘ついてな。
でも、渡された金はわずか。爺さんの薬代にも全然足りなかった。
あいつら、ほんとあくどい連中だ。
指輪の秘密に気付いたビルド商店は、隠したまま時期を待ってたんだろう。
そこへ黒犬のダリオンが現れて、替え玉の計画は実行された。
*
俺の母さんは黒犬じゃなく、黒豹だった。
赤ん坊の俺を知り合いの爺さんに預けて、逃げた先で父さんと一緒に殺された。
ボスは……どこまで知ってたんだろうな。
金を出して助けてくれたおかげで、爺さんは穏やかに逝けた。
……だから俺、ボスには頭が上がらねぇ。
*
俺は絶対にキスリー侯爵家を許さない。
だから黙って復讐に加わるんだ。
「老侯爵はお前の本当の爺さんだろう?」ってか?
……関係ねぇよ、そんなの。
70
あなたにおすすめの小説
ただの新米騎士なのに、竜王陛下から妃として所望されています
柳葉うら
恋愛
北の砦で新米騎士をしているウェンディの相棒は美しい雄の黒竜のオブシディアン。
領主のアデルバートから譲り受けたその竜はウェンディを主人として認めておらず、背中に乗せてくれない。
しかしある日、砦に現れた刺客からオブシディアンを守ったウェンディは、武器に使われていた毒で生死を彷徨う。
幸にも目覚めたウェンディの前に現れたのは――竜王を名乗る美丈夫だった。
「命をかけ、勇気を振り絞って助けてくれたあなたを妃として迎える」
「お、畏れ多いので結構です!」
「それではあなたの忠実なしもべとして仕えよう」
「もっと重い提案がきた?!」
果たしてウェンディは竜王の求婚を断れるだろうか(※断れません。溺愛されて押されます)。
さくっとお読みいただけますと嬉しいです。
王弟殿下の番様は溺れるほどの愛をそそがれ幸せに…
ましろ
恋愛
見つけた!愛しい私の番。ようやく手に入れることができた私の宝玉。これからは私のすべてで愛し、護り、共に生きよう。
王弟であるコンラート公爵が番を見つけた。
それは片田舎の貴族とは名ばかりの貧乏男爵の娘だった。物語のような幸運を得た少女に人々は賞賛に沸き立っていた。
貧しかった少女は番に愛されそして……え?
番認定された王女は愛さない
青葉めいこ
恋愛
世界最強の帝国の統治者、竜帝は、よりによって爬虫類が生理的に駄目な弱小国の王女リーヴァを番認定し求婚してきた。
人間であるリーヴァには番という概念がなく相愛の婚約者シグルズもいる。何より、本性が爬虫類もどきの竜帝を絶対に愛せない。
けれど、リーヴァの本心を無視して竜帝との結婚を決められてしまう。
竜帝と結婚するくらいなら死を選ぼうとするリーヴァにシグルスはある提案をしてきた。
番を否定する意図はありません。
小説家になろうにも投稿しています。
彼女は白を選ばない
黒猫子猫
恋愛
ヴェルークは、深い悲しみと苦しみの中で、運命の相手とも言える『番』ティナを見つけた。気高く美しかったティナを護り、熱烈に求愛したつもりだったが、彼女はどうにもよそよそしい。
プロポーズしようとすれば、『やめて』と嫌がる。彼女の両親を押し切ると、渋々ながら結婚を受け入れたはずだったが、花嫁衣装もなかなか決めようとしない。
そんなティナに、ヴェルークは苦笑するしかなかった。前世でも、彼女は自分との結婚を拒んでいたからだ。
※短編『彼が愛した王女はもういない』の関連作となりますが、これのみでも読めます。
私、異世界で獣人になりました!
星宮歌
恋愛
昔から、人とは違うことを自覚していた。
人としておかしいと思えるほどの身体能力。
視力も聴力も嗅覚も、人間とは思えないほどのもの。
早く、早くといつだって体を動かしたくて仕方のない日々。
ただ、だからこそ、私は異端として、家族からも、他の人達からも嫌われていた。
『化け物』という言葉だけが、私を指す呼び名。本当の名前なんて、一度だって呼ばれた記憶はない。
妹が居て、弟が居て……しかし、彼らと私が、まともに話したことは一度もない。
父親や母親という存在は、衣食住さえ与えておけば、後は何もしないで無視すれば良いとでも思ったのか、昔、罵られた記憶以外で話した記憶はない。
どこに行っても、異端を見る目、目、目。孤独で、安らぎなどどこにもないその世界で、私は、ある日、原因不明の病に陥った。
『動きたい、走りたい』
それなのに、皆、安静にするようにとしか言わない。それが、私を拘束する口実でもあったから。
『外に、出たい……』
病院という名の牢獄。どんなにもがいても、そこから抜け出すことは許されない。
私が苦しんでいても、誰も手を差し伸べてはくれない。
『助、けて……』
救いを求めながら、病に侵された体は衰弱して、そのまま……………。
「ほぎゃあ、おぎゃあっ」
目が覚めると、私は、赤子になっていた。しかも……。
「まぁ、可愛らしい豹の獣人ですわねぇ」
聞いたことのないはずの言葉で告げられた内容。
どうやら私は、異世界に転生したらしかった。
以前、片翼シリーズとして書いていたその設定を、ある程度取り入れながら、ちょっと違う世界を書いております。
言うなれば、『新片翼シリーズ』です。
それでは、どうぞ!
異母姉の身代わりにされて大国の公妾へと堕とされた姫は王太子を愛してしまったので逃げます。えっ?番?番ってなんですか?執着番は逃さない
降魔 鬼灯
恋愛
やかな異母姉ジュリアンナが大国エスメラルダ留学から帰って来た。どうも留学中にやらかしたらしく、罪人として修道女になるか、隠居したエスメラルダの先代王の公妾として生きるかを迫られていた。
しかし、ジュリアンナに弱い父王と側妃は、亡くなった正妃の娘アリアを替え玉として差し出すことにした。
粗末な馬車に乗って罪人としてエスメラルダに向かうアリアは道中ジュリアンナに恨みを持つものに襲われそうになる。
危機一髪、助けに来た王太子に番として攫われ溺愛されるのだか、番の単語の意味をわからないアリアは公妾として抱かれていると誤解していて……。
すれ違う2人の想いは?
呪われた黒猫と蔑まれた私ですが、竜王様の番だったようです
シロツメクサ
恋愛
ここは竜人の王を頂点として、沢山の獣人が暮らす国。
厄災を運ぶ、不吉な黒猫──そう言われ村で差別を受け続けていた黒猫の獣人である少女ノエルは、愛する両親を心の支えに日々を耐え抜いていた。けれど、ある日その両親も土砂崩れにより亡くなってしまう。
不吉な黒猫を産んだせいで両親が亡くなったのだと村の獣人に言われて絶望したノエルは、呼び寄せられた魔女によって力を封印され、本物の黒猫の姿にされてしまった。
けれど魔女とはぐれた先で出会ったのは、なんとこの国の頂点である竜王その人で──……
「やっと、やっと、見つけた──……俺の、……番……ッ!!」
えっ、今、ただの黒猫の姿ですよ!? というか、私不吉で危ないらしいからそんなに近寄らないでー!!
「……ノエルは、俺が竜だから、嫌なのかな。猫には恐ろしく感じるのかも。ノエルが望むなら、体中の鱗を剥いでもいいのに。それで一生人の姿でいたら、ノエルは俺にも自分から近付いてくれるかな。懐いて、あの可愛い声でご飯をねだってくれる?」
「……この周辺に、動物一匹でも、近づけるな。特に、絶対に、雄猫は駄目だ。もしもノエルが……番として他の雄を求めるようなことがあれば、俺は……俺は、今度こそ……ッ」
王様の傍に厄災を運ぶ不吉な黒猫がいたせいで、万が一にも何かあってはいけない! となんとか離れようとするヒロインと、そんなヒロインを死ぬほど探していた、何があっても逃さない金髪碧眼ヤンデレ竜王の、実は持っていた不思議な能力に気がついちゃったりするテンプレ恋愛ものです。
世界観はゆるふわのガバガバでつっこみどころいっぱいなので何も考えずに読んでください。
※ヒロインは大半は黒猫の姿で、その正体を知らないままヒーローはガチ恋しています(別に猫だから好きというわけではありません)。ヒーローは金髪碧眼で、竜人ですが本編のほとんどでは人の姿を取っています。ご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる