【完結】ツンデレ黒豹獣人の溺愛。「あんた、私のこと好きだったんだ?!」

ミカン♬

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10 ルッツ視点

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 ──これは夢だって、すぐ分かった。

 時々あるんだ、ガキの頃の夢を見ること。

 目の前の女の子がパンを差し出してきた。俺は戸惑った。
 なんでか知らんけど、同情されるのが嫌でさ。
 反射的に叩き落としたら、その子の顔が泣きそうになった。

 どうしていいか分からず、パンを踏みつけた。……ほんと、俺って酷い。

 それ以来、アリーには嫌われた。
 でもその方が気が楽だった。優しくされると、どうすりゃいいか分からなくなる。
 ……アリーからはいつもいい匂いがしてた。

 ──ああ、まるで走馬灯のような夢だ。

 俺は薄汚いガキだった。
 スラムでボスに拾われて、夜の庭の警護を命じられた。
 歓迎の印に、古株の黒豹たちにボコられた。

 怪我した俺を手当てしてくれたのは──アリー。
「ファル」なんて名前までつけて、抱きしめてくれた。

 でもボスは言ったんだ。
『アリーに **ファルがお前だって事**バラすなよ。お前は人間だ、分かったな』

 ……ボスは獣人が嫌いだからな。


 アリーが家出した時、胸をえぐられるみたいに苦しかった。
 結婚したって聞いた時は、本気で死にたくなった。

 それでも、気持ちは抑え込んだ。必死で。

 その時だ。アランに言われたんだ。
「ルッツ。……去勢すれば楽になりますよ」

「はぁ? 正気かよ」
 思わず笑った。けど、彼は真顔だった。

 アランは気付いてたんだ。俺とアリーが《番》だって。
 だからこその忠告だったんだろう。

 ──悩んだよ。そりゃもう、だって去勢だぜ?
 黒豹に変身できなきゃ、ギルドを去ることにもなる。

 でも結局、決心した。楽になりたかったんだ。

「じゃあなんで黒豹に変身できるんだ?」って?
 
 アランが言ったんだ。
『タマを一個失うだけで、番への狂おしい執着はだいぶ和らぐそうですよ』

 ……だから、一個だけ残したのさ。



「……ルッツ、起きてよ。ねぇ、ルッツ」

 ああ、この声……大好きなアリーの声。

「アリー……」
 目を開けると、俺の顔を覗き込んでる。

「ここ……俺の部屋?」
「そう。起きた! よかった……!」

「……うるせーよ。声デカいんだよ」
 憎まれ口しか出てこねぇ。俺は一生アリーに嫌われたままなんだろうな。

「守ってくれてありがとう、ルッツ」
「仕方ねーよ、ボスのお嬢さんだからな」

「なにそれ。ほんと素直じゃないんだから」
「俺は寝たいんだよ。……あっち行け」

「もう!」ってアリーは怒って部屋を出ていった。

 どうすりゃいいんだよ、俺。……もうまともに顔合わせられねぇ。

 *

 燃えたのはギルド本部と屋敷の一部。
 仲間の黒豹たちはみんな殺された。
 仇は討ったが、黒幕はまだ残ってる。

 襲撃者たちはアリーを殺そうとした。

 ──理由には心当たりがある。
 ダリオンと再会したあの日、アリーが「訴える!」って言った。
 訴えたってどうにもならねーのに。でもそれを危惧した奴がいたんだ。

 それだけが理由じゃない。ギルドは前から狙われていた。

 ボスの命と、本部の情報。どっちも簡単に奪えないから、燃やして消そうとしたんだ。

 でも肝心な書類は地下の耐火金庫にある。
 キスリー侯爵家の秘密が眠ってる。


「慎重になりすぎたな。被害が大きくなってしまった」
 軽い調子だが、ボスは怒ってる。

「あっちの被害も甚大です」
 アランが淡々と返す。

「……向こうが体制を立て直す前にやるぞ」

「了解!」
 部下全員が声をそろえた。

 ──報復が始まる。


「ルッツ。お前はこれまで通りアリーを警護しろ。あいつは俺の娘だ、分かってるな?」

「了解」
 つまり、アリーにケガもさせるな、手出しもするな、って……ことだよな?

 ボスはアリーの結婚相手は人族じゃなきゃ駄目って決めてた。

 ……まぁダリオンは、絶対ダメだよな。

 あいつ、侯爵家の跡取りに成りすましたせいで命狙われて、オマケにタマ潰されて。
 ……笑えるくらい踏んだり蹴ったり。ざまぁみろだ。

 *

 ──キスリー侯爵家の刻印が入った指輪。あれは俺のもんだ。父さんの形見だった。

 スラムで俺を育ててくれた爺さんのために、ビルド商店に持ち込んだ。
「拾った」って嘘ついてな。

 でも、渡された金はわずか。爺さんの薬代にも全然足りなかった。
 あいつら、ほんとあくどい連中だ。

 指輪の秘密に気付いたビルド商店は、隠したまま時期を待ってたんだろう。
 そこへ黒犬のダリオンが現れて、替え玉の計画は実行された。

 *

 俺の母さんは黒犬じゃなく、黒豹だった。
 赤ん坊の俺を知り合いの爺さんに預けて、逃げた先で父さんと一緒に殺された。

 ボスは……どこまで知ってたんだろうな。
 金を出して助けてくれたおかげで、爺さんは穏やかに逝けた。

 ……だから俺、ボスには頭が上がらねぇ。

 *

 俺は絶対にキスリー侯爵家を許さない。
 だから黙って復讐に加わるんだ。

 「老侯爵はお前の本当の爺さんだろう?」ってか?

 ……関係ねぇよ、そんなの。

 
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