19 / 20
19 捕らわれて
しおりを挟む
気がついたら、知らない部屋の床に転がっていた。
背中が冷たい。廃屋だろうか。カビ臭くて、息をするのも嫌になる。
「アリー! 気がついたか!」
声で少し安心した。ルッツだ。
でも、そのルッツも縛られていた。何が起こってるの?
「大人しくしててくださいよ。怪我しますぜ」
ナイフを持った御者が、無表情に言った。
「俺の警戒が甘かった。すまない」
ルッツが低くつぶやく。
「ううん。きっと父が助けてくれるわ」
期待は出来ない。でも、そうでも言わないと、心が折れそうだ。
「それはどうでしょうね」
その声に、体が固まる。
アランが入ってきた。いつも通りの笑顔。どうして? 信じられなかった。
「アラン! これはなんだよ!?」
「だからお前は二流なんですよ、ルッツ。ボスに認められない甘ちゃんだ」
「俺が何をした!」
「私はね、ボスのためなら何でもします。命だって惜しくない」
「こんなことして! 父が知ったら、あなた……!」
「殺されますね……ふふふ」
アランは椅子に腰をかけて、優雅に脚を組む。
「いいですか、お嬢様。あなたには縁談がある。ボスが勧めようとしているんです。でもね、ルッツが邪魔なんですよ」
「はぁ? なんでよ! ルッツはただの友達よ」
そう言いながら、アランが私の気持ちに気づいているのがわかった。
「そ、そうだ。俺は関係ねえだろ!」
アランが口の端を上げた。
「かわいそうなルッツ。ペットにまで成り下がったのに、結局は“お嬢様の友達”止まりとは」
「ペットって何よそれ? ルッツは大事な親友よ!」
「レッドリバー伯爵家から『黒豹の捜索依頼』がありましてね。ボスは『娘のペットなので手出し無用』と返事を出しました」
「ルッツ……?」
「はぁ……お前の護衛を願い出たら、ペットになれってボスが言ったんだ。それだけだ」
「それでずっと黒豹のままで……バカなの?」
「うるせー! バカじゃねぇわ!」
アランはクスクス笑う。
「バカですよ。だってお嬢様のためにタマを一つ取ったんですから」
私の時間が一瞬止まった。
──え? タマ? え?
「アラン! てめえ殺すぞ!」
「タマ? どういうこと? 説明して!」
アランが肩をすくめる。
「だから、お嬢様はルッツの《番》なんですよ。つまり──運命のつがい。なのにお嬢様はダリオンと結婚してしまった。ルッツは辛くて耐え切れなかったんですよ」
《番》。
その言葉が、胸の奥で破裂した。
私がルッツの番? そうなの?
「ルッツ……あんた、私のこと……好きだったんだ?!」
声が震えた。
「そうだよ。悪いか! アラン、俺を殺せ。アリーを解放しろ。こいつは俺を嫌ってる」
目が熱くなる。こんな時なのに、涙がこぼれそう。
「ううん。嫌ってない。好き。……大好き」
「このアホ! 黙ってろ!」
顔を真っ赤にして怒鳴るルッツを見たら、余計に泣けた。
アランが腹を抱えて笑い出した。
「ははっ、いいですねぇ。恋と絶望が隣り合わせだ。あははは……」
その笑い声が壁に反射して、私の鼓動をかき乱す。
「お嬢様、縁談を承諾して下さればルッツは開放しますよ?」
「嘘言わないで。どうせルッツを始末するつもりでしょ。殺すなら、私も一緒に殺してよ」
「ふざけんなよ。アリーは生き残れ!」
「いやよ。一緒に死ぬわ!」
「ダメだ! 絶対ダメだ! 最後くらい俺に守らせろ!」
……そんな言葉、ずるい。縛られてなきゃ、抱きしめてた。
叔母さんの言葉が頭をよぎる。私はルッツが欲しい。心の底から。
「……という事です。もういいでしょう」
急にアランの声が優しくなった。
すると、御者が私達の縄を切った。
「この野郎!」
ルッツがアランに飛び掛かる。でも、あっさり蹴り飛ばされた。
「まぁまぁ。落ち着いて。これは二人のためですから」
アランの飄々とした声が、今はただ腹立たしい。
――その時。
「お前たちには死んでもらった」
父が入ってきた。静かな声で、物騒なことを言いながら。
「なんで過去形なの? まだ生きてますけど?」
「俺への報復にアリーも狙われている。だからお前は死ななければならん」
レッドリバーでも、狙われていたのは知ってる。
……でも、これはいったいなんなのよ?
「チッ、初めからそう言えっての。こんな芝居、必要ねぇだろう」
「お前がヘタレだから、こうしたんです。お嬢様にも危険を実感してもらえたでしょう?」
「十分よ。心臓止まるかと思った」
アランが満足そうにうなずく。
「馬車が襲撃され、お嬢様とルッツは死亡したと発表します。身代わりの遺体も手配済みです。これからは別人として生きてください」
「身代わりの……遺体?」
「死刑囚です。ご安心を」
安心なんて、できないわよ。やっぱりこの世界は恐ろしい。
報復に次ぐ報復。いつ終わるとも知れない。
それでも――ルッツが一緒なら別人でもなんでも、生き延びてやる。
背中が冷たい。廃屋だろうか。カビ臭くて、息をするのも嫌になる。
「アリー! 気がついたか!」
声で少し安心した。ルッツだ。
でも、そのルッツも縛られていた。何が起こってるの?
「大人しくしててくださいよ。怪我しますぜ」
ナイフを持った御者が、無表情に言った。
「俺の警戒が甘かった。すまない」
ルッツが低くつぶやく。
「ううん。きっと父が助けてくれるわ」
期待は出来ない。でも、そうでも言わないと、心が折れそうだ。
「それはどうでしょうね」
その声に、体が固まる。
アランが入ってきた。いつも通りの笑顔。どうして? 信じられなかった。
「アラン! これはなんだよ!?」
「だからお前は二流なんですよ、ルッツ。ボスに認められない甘ちゃんだ」
「俺が何をした!」
「私はね、ボスのためなら何でもします。命だって惜しくない」
「こんなことして! 父が知ったら、あなた……!」
「殺されますね……ふふふ」
アランは椅子に腰をかけて、優雅に脚を組む。
「いいですか、お嬢様。あなたには縁談がある。ボスが勧めようとしているんです。でもね、ルッツが邪魔なんですよ」
「はぁ? なんでよ! ルッツはただの友達よ」
そう言いながら、アランが私の気持ちに気づいているのがわかった。
「そ、そうだ。俺は関係ねえだろ!」
アランが口の端を上げた。
「かわいそうなルッツ。ペットにまで成り下がったのに、結局は“お嬢様の友達”止まりとは」
「ペットって何よそれ? ルッツは大事な親友よ!」
「レッドリバー伯爵家から『黒豹の捜索依頼』がありましてね。ボスは『娘のペットなので手出し無用』と返事を出しました」
「ルッツ……?」
「はぁ……お前の護衛を願い出たら、ペットになれってボスが言ったんだ。それだけだ」
「それでずっと黒豹のままで……バカなの?」
「うるせー! バカじゃねぇわ!」
アランはクスクス笑う。
「バカですよ。だってお嬢様のためにタマを一つ取ったんですから」
私の時間が一瞬止まった。
──え? タマ? え?
「アラン! てめえ殺すぞ!」
「タマ? どういうこと? 説明して!」
アランが肩をすくめる。
「だから、お嬢様はルッツの《番》なんですよ。つまり──運命のつがい。なのにお嬢様はダリオンと結婚してしまった。ルッツは辛くて耐え切れなかったんですよ」
《番》。
その言葉が、胸の奥で破裂した。
私がルッツの番? そうなの?
「ルッツ……あんた、私のこと……好きだったんだ?!」
声が震えた。
「そうだよ。悪いか! アラン、俺を殺せ。アリーを解放しろ。こいつは俺を嫌ってる」
目が熱くなる。こんな時なのに、涙がこぼれそう。
「ううん。嫌ってない。好き。……大好き」
「このアホ! 黙ってろ!」
顔を真っ赤にして怒鳴るルッツを見たら、余計に泣けた。
アランが腹を抱えて笑い出した。
「ははっ、いいですねぇ。恋と絶望が隣り合わせだ。あははは……」
その笑い声が壁に反射して、私の鼓動をかき乱す。
「お嬢様、縁談を承諾して下さればルッツは開放しますよ?」
「嘘言わないで。どうせルッツを始末するつもりでしょ。殺すなら、私も一緒に殺してよ」
「ふざけんなよ。アリーは生き残れ!」
「いやよ。一緒に死ぬわ!」
「ダメだ! 絶対ダメだ! 最後くらい俺に守らせろ!」
……そんな言葉、ずるい。縛られてなきゃ、抱きしめてた。
叔母さんの言葉が頭をよぎる。私はルッツが欲しい。心の底から。
「……という事です。もういいでしょう」
急にアランの声が優しくなった。
すると、御者が私達の縄を切った。
「この野郎!」
ルッツがアランに飛び掛かる。でも、あっさり蹴り飛ばされた。
「まぁまぁ。落ち着いて。これは二人のためですから」
アランの飄々とした声が、今はただ腹立たしい。
――その時。
「お前たちには死んでもらった」
父が入ってきた。静かな声で、物騒なことを言いながら。
「なんで過去形なの? まだ生きてますけど?」
「俺への報復にアリーも狙われている。だからお前は死ななければならん」
レッドリバーでも、狙われていたのは知ってる。
……でも、これはいったいなんなのよ?
「チッ、初めからそう言えっての。こんな芝居、必要ねぇだろう」
「お前がヘタレだから、こうしたんです。お嬢様にも危険を実感してもらえたでしょう?」
「十分よ。心臓止まるかと思った」
アランが満足そうにうなずく。
「馬車が襲撃され、お嬢様とルッツは死亡したと発表します。身代わりの遺体も手配済みです。これからは別人として生きてください」
「身代わりの……遺体?」
「死刑囚です。ご安心を」
安心なんて、できないわよ。やっぱりこの世界は恐ろしい。
報復に次ぐ報復。いつ終わるとも知れない。
それでも――ルッツが一緒なら別人でもなんでも、生き延びてやる。
67
あなたにおすすめの小説
ただの新米騎士なのに、竜王陛下から妃として所望されています
柳葉うら
恋愛
北の砦で新米騎士をしているウェンディの相棒は美しい雄の黒竜のオブシディアン。
領主のアデルバートから譲り受けたその竜はウェンディを主人として認めておらず、背中に乗せてくれない。
しかしある日、砦に現れた刺客からオブシディアンを守ったウェンディは、武器に使われていた毒で生死を彷徨う。
幸にも目覚めたウェンディの前に現れたのは――竜王を名乗る美丈夫だった。
「命をかけ、勇気を振り絞って助けてくれたあなたを妃として迎える」
「お、畏れ多いので結構です!」
「それではあなたの忠実なしもべとして仕えよう」
「もっと重い提案がきた?!」
果たしてウェンディは竜王の求婚を断れるだろうか(※断れません。溺愛されて押されます)。
さくっとお読みいただけますと嬉しいです。
王弟殿下の番様は溺れるほどの愛をそそがれ幸せに…
ましろ
恋愛
見つけた!愛しい私の番。ようやく手に入れることができた私の宝玉。これからは私のすべてで愛し、護り、共に生きよう。
王弟であるコンラート公爵が番を見つけた。
それは片田舎の貴族とは名ばかりの貧乏男爵の娘だった。物語のような幸運を得た少女に人々は賞賛に沸き立っていた。
貧しかった少女は番に愛されそして……え?
番認定された王女は愛さない
青葉めいこ
恋愛
世界最強の帝国の統治者、竜帝は、よりによって爬虫類が生理的に駄目な弱小国の王女リーヴァを番認定し求婚してきた。
人間であるリーヴァには番という概念がなく相愛の婚約者シグルズもいる。何より、本性が爬虫類もどきの竜帝を絶対に愛せない。
けれど、リーヴァの本心を無視して竜帝との結婚を決められてしまう。
竜帝と結婚するくらいなら死を選ぼうとするリーヴァにシグルスはある提案をしてきた。
番を否定する意図はありません。
小説家になろうにも投稿しています。
彼女は白を選ばない
黒猫子猫
恋愛
ヴェルークは、深い悲しみと苦しみの中で、運命の相手とも言える『番』ティナを見つけた。気高く美しかったティナを護り、熱烈に求愛したつもりだったが、彼女はどうにもよそよそしい。
プロポーズしようとすれば、『やめて』と嫌がる。彼女の両親を押し切ると、渋々ながら結婚を受け入れたはずだったが、花嫁衣装もなかなか決めようとしない。
そんなティナに、ヴェルークは苦笑するしかなかった。前世でも、彼女は自分との結婚を拒んでいたからだ。
※短編『彼が愛した王女はもういない』の関連作となりますが、これのみでも読めます。
私、異世界で獣人になりました!
星宮歌
恋愛
昔から、人とは違うことを自覚していた。
人としておかしいと思えるほどの身体能力。
視力も聴力も嗅覚も、人間とは思えないほどのもの。
早く、早くといつだって体を動かしたくて仕方のない日々。
ただ、だからこそ、私は異端として、家族からも、他の人達からも嫌われていた。
『化け物』という言葉だけが、私を指す呼び名。本当の名前なんて、一度だって呼ばれた記憶はない。
妹が居て、弟が居て……しかし、彼らと私が、まともに話したことは一度もない。
父親や母親という存在は、衣食住さえ与えておけば、後は何もしないで無視すれば良いとでも思ったのか、昔、罵られた記憶以外で話した記憶はない。
どこに行っても、異端を見る目、目、目。孤独で、安らぎなどどこにもないその世界で、私は、ある日、原因不明の病に陥った。
『動きたい、走りたい』
それなのに、皆、安静にするようにとしか言わない。それが、私を拘束する口実でもあったから。
『外に、出たい……』
病院という名の牢獄。どんなにもがいても、そこから抜け出すことは許されない。
私が苦しんでいても、誰も手を差し伸べてはくれない。
『助、けて……』
救いを求めながら、病に侵された体は衰弱して、そのまま……………。
「ほぎゃあ、おぎゃあっ」
目が覚めると、私は、赤子になっていた。しかも……。
「まぁ、可愛らしい豹の獣人ですわねぇ」
聞いたことのないはずの言葉で告げられた内容。
どうやら私は、異世界に転生したらしかった。
以前、片翼シリーズとして書いていたその設定を、ある程度取り入れながら、ちょっと違う世界を書いております。
言うなれば、『新片翼シリーズ』です。
それでは、どうぞ!
異母姉の身代わりにされて大国の公妾へと堕とされた姫は王太子を愛してしまったので逃げます。えっ?番?番ってなんですか?執着番は逃さない
降魔 鬼灯
恋愛
やかな異母姉ジュリアンナが大国エスメラルダ留学から帰って来た。どうも留学中にやらかしたらしく、罪人として修道女になるか、隠居したエスメラルダの先代王の公妾として生きるかを迫られていた。
しかし、ジュリアンナに弱い父王と側妃は、亡くなった正妃の娘アリアを替え玉として差し出すことにした。
粗末な馬車に乗って罪人としてエスメラルダに向かうアリアは道中ジュリアンナに恨みを持つものに襲われそうになる。
危機一髪、助けに来た王太子に番として攫われ溺愛されるのだか、番の単語の意味をわからないアリアは公妾として抱かれていると誤解していて……。
すれ違う2人の想いは?
呪われた黒猫と蔑まれた私ですが、竜王様の番だったようです
シロツメクサ
恋愛
ここは竜人の王を頂点として、沢山の獣人が暮らす国。
厄災を運ぶ、不吉な黒猫──そう言われ村で差別を受け続けていた黒猫の獣人である少女ノエルは、愛する両親を心の支えに日々を耐え抜いていた。けれど、ある日その両親も土砂崩れにより亡くなってしまう。
不吉な黒猫を産んだせいで両親が亡くなったのだと村の獣人に言われて絶望したノエルは、呼び寄せられた魔女によって力を封印され、本物の黒猫の姿にされてしまった。
けれど魔女とはぐれた先で出会ったのは、なんとこの国の頂点である竜王その人で──……
「やっと、やっと、見つけた──……俺の、……番……ッ!!」
えっ、今、ただの黒猫の姿ですよ!? というか、私不吉で危ないらしいからそんなに近寄らないでー!!
「……ノエルは、俺が竜だから、嫌なのかな。猫には恐ろしく感じるのかも。ノエルが望むなら、体中の鱗を剥いでもいいのに。それで一生人の姿でいたら、ノエルは俺にも自分から近付いてくれるかな。懐いて、あの可愛い声でご飯をねだってくれる?」
「……この周辺に、動物一匹でも、近づけるな。特に、絶対に、雄猫は駄目だ。もしもノエルが……番として他の雄を求めるようなことがあれば、俺は……俺は、今度こそ……ッ」
王様の傍に厄災を運ぶ不吉な黒猫がいたせいで、万が一にも何かあってはいけない! となんとか離れようとするヒロインと、そんなヒロインを死ぬほど探していた、何があっても逃さない金髪碧眼ヤンデレ竜王の、実は持っていた不思議な能力に気がついちゃったりするテンプレ恋愛ものです。
世界観はゆるふわのガバガバでつっこみどころいっぱいなので何も考えずに読んでください。
※ヒロインは大半は黒猫の姿で、その正体を知らないままヒーローはガチ恋しています(別に猫だから好きというわけではありません)。ヒーローは金髪碧眼で、竜人ですが本編のほとんどでは人の姿を取っています。ご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる