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8 完結
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毎日、毎日。
後悔ばかりの時間を生きている。
あの日――
バルコニーから落ちなければ。
こんな未来にはならなかった。
最初は、第一王子派の陰謀を疑った。
だが調べてみれば、バルコニーの柵は古く、腐っていたらしい。
何という不運。
それだけで、私の人生は変わってしまった。
鏡を見るたびに思い知らされる。
私はもう、以前の姿ではない。
右足は不自由になった。
片眼は完全に失明した。
そして――
顔の半分には、大きな傷跡が残った。
……セリーナは、それに耐えられなかった。
私は、見る影もなく変わってしまったからだ。
今の彼女は、シリウスとの復縁を願っているらしい。
アーシャに私を返すだと?
何様だ!
私だって、セリーナとの婚約は解消したい。
アーシャと入れ替わって、
多くの真実を知った。
できることなら――
もう一度、アーシャとやり直したい。
そう思わない日はない。
だが、
それは叶わない。
私は許されることのない加害者だから。
──シリウス。
彼は本当に先見の明があった。
セリーナの正体など、とっくに見抜いていたのだ。
考えてみれば当然だ。
公爵家が内情を調べもせず、婚姻を結ぶなどあり得ない。
あのポーラは、公爵家の手先だった。
そして――
アーシャはシリウスに見初められ、婚約者になった。
彼女は、ようやく幸福を掴んだ。
だから思う。
その幸福を、守ってやりたいと。
王太子候補から下りた私に、政略婚はもう必要ない。
それでも。
私はセリーナと結婚してやる。
そして言ってやりたい。
「一生、お前を愛することはない」と。
時々、考える。
なぜ私とアーシャは――
入れ替わったのだろう。
*****
前回の人生で。
アーシャはエリック第二王子に嫁いだ。
だが彼女は、決して愛されなかった。
第一王子殿下が暗殺され。
そして――
ブラウン侯爵家とアーヴァイン公爵家の後ろ盾を得て、
エリック殿下は王太子になった。
数年後には王位を継ぐ。
その時、
セリーナはエリック王の公妾になって、贅沢を貪った。
一方で――
アーシャはセリーナに冤罪をきせられ、自害した。
レオンは宰相に就任した。
だが国は荒れた。
腐敗した貴族。
貧困に喘ぐ国民。
エリックの王政は崩れていった。
彼は――王の器ではなかったのだ。
数年後。
アーヴァイン公爵家が反旗を翻した。
最初に殺されたのが私だった。
私は──アーシャの父。
グラッド・ブラウン侯爵。
その時、シリウスは言った。
「貴方が憎い。私はアーシャを愛していた」
彼は何度も、
セリーナとの婚約解消を申し出ていた。
だが私は認めなかった。
私は子ども達を平等に愛していた。
アーシャが王家に嫁げば、
誰からも見下されない。
セリーナは我儘だが、
人格者のシリウスが夫になれば、あの子を諭し、正しく導いてくれる。
レオンは傲慢だが、頭は良い。
エリック殿下の信頼も厚い。
きっと国の役に立つ。
そう信じていた。
……なのに。
最後には、三人とも失った。
シリウスは狂ったように王族を皆殺しにし、
貴族たちを滅ぼした。
そして――
残虐な英雄となり、その後は姿を消した。
私の死後、神は言った。
「この結果は、お前にも責任があるのだ」と。
滅びた国を元に戻すため、
「流れに身を任せよ」と命じられた。
何ということだ。
私は、再び地上に戻された。
目の前には――
十六歳のシリウスがいた。
彼はあの日と同じように、
セリーナとの婚約解消を願い出ていた。
そして。
可哀そうなアーシャを保護してほしいと訴えた。
この日がターニングポイントだったのだ。
前回、私は拒否した。
だが今回は――
「分かった。セリーナが納得すれば、婚約は解消しよう」
アーシャを離れ屋へ移し、
ポーラを専属侍女にする。
そう約束した。
シリウスは満足そうに頷いた。
その時、私は確信した。
彼も――戻ってきたのだと。
それから私は、何も関与しなかった。
ただ、静かに見守った。
すると。
アーヴァイン公爵家は第一王子派に入り、
第一王子の暗殺は回避され、王太子になった。
エリック殿下のあの事故……
本当に偶然だったのだろうか?
神の采配。
もしくは、
彼──シリウスが。
だとしても。
アーシャはシリウスと結ばれ、
二児の幸福な母親になった。
やがて、シリウスは宰相に就任し、
陛下の信頼を受け、この国の中心に立った。
セリーナはエリック殿下の妃になった。
窮屈な王宮の中で、
夫に愛されることも無く。
どんな我儘も許されず。
ストレスだけが積もる日々を生きている。
レオンは傲慢な性格が仇となり、
王宮勤めも叶わず、孤立した。
領地で酒浸りの生活を送っている。
これが正しい選択だったのか?
しかし――
我が子は三人とも、生きている。
あの滅びの未来は回避された。
この国は、救われたのだ。
きっとどこかで、大いなる神の加護が、密かに働いたのだろう。
それが何なのかは、分からない。
ふと、思う。
もし──あの時、神に背いて、
シリウスの願いを、もう一度拒んでいたら。
この国は今も、存在していただろうか。
それとも――
あの日と同じように、
すべてが血に沈んでいたのだろうか。
終わり。
最後まで読んで頂いて本当にありがとうございました。
後悔ばかりの時間を生きている。
あの日――
バルコニーから落ちなければ。
こんな未来にはならなかった。
最初は、第一王子派の陰謀を疑った。
だが調べてみれば、バルコニーの柵は古く、腐っていたらしい。
何という不運。
それだけで、私の人生は変わってしまった。
鏡を見るたびに思い知らされる。
私はもう、以前の姿ではない。
右足は不自由になった。
片眼は完全に失明した。
そして――
顔の半分には、大きな傷跡が残った。
……セリーナは、それに耐えられなかった。
私は、見る影もなく変わってしまったからだ。
今の彼女は、シリウスとの復縁を願っているらしい。
アーシャに私を返すだと?
何様だ!
私だって、セリーナとの婚約は解消したい。
アーシャと入れ替わって、
多くの真実を知った。
できることなら――
もう一度、アーシャとやり直したい。
そう思わない日はない。
だが、
それは叶わない。
私は許されることのない加害者だから。
──シリウス。
彼は本当に先見の明があった。
セリーナの正体など、とっくに見抜いていたのだ。
考えてみれば当然だ。
公爵家が内情を調べもせず、婚姻を結ぶなどあり得ない。
あのポーラは、公爵家の手先だった。
そして――
アーシャはシリウスに見初められ、婚約者になった。
彼女は、ようやく幸福を掴んだ。
だから思う。
その幸福を、守ってやりたいと。
王太子候補から下りた私に、政略婚はもう必要ない。
それでも。
私はセリーナと結婚してやる。
そして言ってやりたい。
「一生、お前を愛することはない」と。
時々、考える。
なぜ私とアーシャは――
入れ替わったのだろう。
*****
前回の人生で。
アーシャはエリック第二王子に嫁いだ。
だが彼女は、決して愛されなかった。
第一王子殿下が暗殺され。
そして――
ブラウン侯爵家とアーヴァイン公爵家の後ろ盾を得て、
エリック殿下は王太子になった。
数年後には王位を継ぐ。
その時、
セリーナはエリック王の公妾になって、贅沢を貪った。
一方で――
アーシャはセリーナに冤罪をきせられ、自害した。
レオンは宰相に就任した。
だが国は荒れた。
腐敗した貴族。
貧困に喘ぐ国民。
エリックの王政は崩れていった。
彼は――王の器ではなかったのだ。
数年後。
アーヴァイン公爵家が反旗を翻した。
最初に殺されたのが私だった。
私は──アーシャの父。
グラッド・ブラウン侯爵。
その時、シリウスは言った。
「貴方が憎い。私はアーシャを愛していた」
彼は何度も、
セリーナとの婚約解消を申し出ていた。
だが私は認めなかった。
私は子ども達を平等に愛していた。
アーシャが王家に嫁げば、
誰からも見下されない。
セリーナは我儘だが、
人格者のシリウスが夫になれば、あの子を諭し、正しく導いてくれる。
レオンは傲慢だが、頭は良い。
エリック殿下の信頼も厚い。
きっと国の役に立つ。
そう信じていた。
……なのに。
最後には、三人とも失った。
シリウスは狂ったように王族を皆殺しにし、
貴族たちを滅ぼした。
そして――
残虐な英雄となり、その後は姿を消した。
私の死後、神は言った。
「この結果は、お前にも責任があるのだ」と。
滅びた国を元に戻すため、
「流れに身を任せよ」と命じられた。
何ということだ。
私は、再び地上に戻された。
目の前には――
十六歳のシリウスがいた。
彼はあの日と同じように、
セリーナとの婚約解消を願い出ていた。
そして。
可哀そうなアーシャを保護してほしいと訴えた。
この日がターニングポイントだったのだ。
前回、私は拒否した。
だが今回は――
「分かった。セリーナが納得すれば、婚約は解消しよう」
アーシャを離れ屋へ移し、
ポーラを専属侍女にする。
そう約束した。
シリウスは満足そうに頷いた。
その時、私は確信した。
彼も――戻ってきたのだと。
それから私は、何も関与しなかった。
ただ、静かに見守った。
すると。
アーヴァイン公爵家は第一王子派に入り、
第一王子の暗殺は回避され、王太子になった。
エリック殿下のあの事故……
本当に偶然だったのだろうか?
神の采配。
もしくは、
彼──シリウスが。
だとしても。
アーシャはシリウスと結ばれ、
二児の幸福な母親になった。
やがて、シリウスは宰相に就任し、
陛下の信頼を受け、この国の中心に立った。
セリーナはエリック殿下の妃になった。
窮屈な王宮の中で、
夫に愛されることも無く。
どんな我儘も許されず。
ストレスだけが積もる日々を生きている。
レオンは傲慢な性格が仇となり、
王宮勤めも叶わず、孤立した。
領地で酒浸りの生活を送っている。
これが正しい選択だったのか?
しかし――
我が子は三人とも、生きている。
あの滅びの未来は回避された。
この国は、救われたのだ。
きっとどこかで、大いなる神の加護が、密かに働いたのだろう。
それが何なのかは、分からない。
ふと、思う。
もし──あの時、神に背いて、
シリウスの願いを、もう一度拒んでいたら。
この国は今も、存在していただろうか。
それとも――
あの日と同じように、
すべてが血に沈んでいたのだろうか。
終わり。
最後まで読んで頂いて本当にありがとうございました。
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入れ替わった王子はどうなるのか?
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