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夜は恋人たちのためにある。
セーラはナイジェルの膝の上、後ろから抱きしめられて身動きができない。
(明日は朝からお互い仕事なのに困ったな)
騎士である彼の愛を一晩中受け止めるのは結構疲れるのだ。
(でも、今日は安全日だし、好きにさせていいかな)
口づけを交わしていると我慢できなくなったナイジェルがセーラをそっとベッドに押し倒した。
「なぁ そろそろ結婚しないか?」
ベッドの上、眠そうな目でナイジェルはセーラに求婚していた。
「本気? 私でいいの?」
「俺、この1年はセーラ以外の女性とキスすらしてないんだけど」
「浮気したらお別れの約束だよね?」
「キスも浮気なのか?」
「当たり前でしょう!」
セーラがナイジェルと恋人になって1年。彼とは学園時代も一緒だったが付き合いだしたのは二人が卒業してからだった。
騎士科の彼と魔術士科のセーラとは接点はなかったが、ナイジェルのモテっぷりはよく知っていたし、密かにセーラはナイジェルに憧れてもいた。
そんなナイジェルと自分がまさか恋人になるなんて、不思議だとセーラは思う。
同僚たちには付き合いを止められた。
『からかわれているのよ』『絶対に捨てられるから』
それでも憧れのナイジェルと少しの間だけでもセーラは傍で過ごしてみたかった。
二人が親しくなったきっかけは、瘴気の森を王宮騎士団と魔術師団が合同で浄化に行った時だった。
瘴気から生まれる魔物を一掃し、ひどく汚染され苦しんでいるナイジェルをセーラが清めて楽にしてあげた。
ただそれだけでナイジェルはセーラを気に入ってしまったのだ。
森の瘴気浄化は特級魔法士、汚染された騎士達の回復は新米のセーラたちの仕事だった。
「助かった、すげぇ楽になった。あんた凄いな。ありがとう!」
それからはセーラを見かけるたびにナイジェルは人懐っこい顔で声をかけてきた。
助けたのは仕事だったからと断っても、セーラに感謝して食事に誘ったりプレゼントを贈ろうとして、セーラを戸惑わせた。
「安物で悪いけど受け取ってよ。セーラに浄化してもらったら気持ちも体も軽くなったんだ。感謝してる」
「では、今回だけ頂きますね。有難うございます」
プレゼントの箱を開けると白百合の髪飾りが入っていた。
それから3か月後に二人は婚約した──といっても平民の二人は口約束だ。
恋人同士になると、寄宿舎を出てセーラは家を借りて一人暮らしを始めた。
もちろん二人の逢瀬の為の家。家賃を二人で折半して夜な夜なナイジェルはセーラを求めてやって来た。
明日結婚したって構わない。嬉しいはずのナイジェルの求婚だがセーラは素直に頷けない。
金髪に緑の瞳を持つナイジェルは口は悪いがどこか気品があり美しい男性だった。
比べてセーラは栗色の髪に濃いブラウンの瞳、どこにでもいる町娘だ。
おまけに身長差もあって、二人が並ぶと凸凹でお世辞にもお似合いとは言えない。
「セーラ眠いのか? 返事してくれよ」
「モテる旦那様って気苦労よね。毎日心配で」
「浮気なんかしないよ。一生セーラだけ愛してる」
「じゃぁ結婚してもいいかな?」
「なんで疑問形なんだよ。そうだ、結婚する前に話しておきたい事がある」
「うん?」
「俺、王宮騎士団を辞める。警備隊か貴族個人の騎士団に入ろうと思ってさ」
ナイジェルが上司と上手くいってないのをセーラは知っていたが、辞めたいほど悩んでいたのは知らなかった。
「『平民は警備隊にでも入ってろ!』って何度も言われてさ。どうせ平民は出世なんかできないし、稼ぎは少なくなるけど、俺、辞めていい?」
「うん、辞めちゃいなよ。ケーラ団長だっけ? 私も大嫌い」
「今度の仕事が終わったら辞表出すけど、結婚してくれる?」
「いいよ、結婚しよう!」
「ああ、俺──最高に幸せだ!」
ナイジェルは確かにそう言った。
セーラも同感で(子どもは3人、ナイジェル似の美形の子が欲しいな)なんて考えていた。
翌朝、二人で朝食を済ませると王宮に向かい、ナイジェルの所属する第三騎士団とセーラが属する治癒部隊は西の国境沿いの山に向かったのだった。
簡単な仕事のはずだった。山の中腹で違法栽培されている毒草の始末と犯罪者の確保、すぐに終わると思われていた。
治癒部隊は山麓にテントを張って騎士たちの帰りを待っていたが「遅くないか?」と誰かが言い出して護衛騎士達と共に治癒部隊が駆け付けると大勢の騎士が倒れていた。
その中にセーラは夥しい血だまりの中で倒れているナイジェルを見つけた。
「ナイジェル!・・・ああ、生きてる・・・」
治癒部隊は急いで息のある騎士達の回復を行ったが、大半の騎士は亡くなっていた。
セーラはナイジェルの膝の上、後ろから抱きしめられて身動きができない。
(明日は朝からお互い仕事なのに困ったな)
騎士である彼の愛を一晩中受け止めるのは結構疲れるのだ。
(でも、今日は安全日だし、好きにさせていいかな)
口づけを交わしていると我慢できなくなったナイジェルがセーラをそっとベッドに押し倒した。
「なぁ そろそろ結婚しないか?」
ベッドの上、眠そうな目でナイジェルはセーラに求婚していた。
「本気? 私でいいの?」
「俺、この1年はセーラ以外の女性とキスすらしてないんだけど」
「浮気したらお別れの約束だよね?」
「キスも浮気なのか?」
「当たり前でしょう!」
セーラがナイジェルと恋人になって1年。彼とは学園時代も一緒だったが付き合いだしたのは二人が卒業してからだった。
騎士科の彼と魔術士科のセーラとは接点はなかったが、ナイジェルのモテっぷりはよく知っていたし、密かにセーラはナイジェルに憧れてもいた。
そんなナイジェルと自分がまさか恋人になるなんて、不思議だとセーラは思う。
同僚たちには付き合いを止められた。
『からかわれているのよ』『絶対に捨てられるから』
それでも憧れのナイジェルと少しの間だけでもセーラは傍で過ごしてみたかった。
二人が親しくなったきっかけは、瘴気の森を王宮騎士団と魔術師団が合同で浄化に行った時だった。
瘴気から生まれる魔物を一掃し、ひどく汚染され苦しんでいるナイジェルをセーラが清めて楽にしてあげた。
ただそれだけでナイジェルはセーラを気に入ってしまったのだ。
森の瘴気浄化は特級魔法士、汚染された騎士達の回復は新米のセーラたちの仕事だった。
「助かった、すげぇ楽になった。あんた凄いな。ありがとう!」
それからはセーラを見かけるたびにナイジェルは人懐っこい顔で声をかけてきた。
助けたのは仕事だったからと断っても、セーラに感謝して食事に誘ったりプレゼントを贈ろうとして、セーラを戸惑わせた。
「安物で悪いけど受け取ってよ。セーラに浄化してもらったら気持ちも体も軽くなったんだ。感謝してる」
「では、今回だけ頂きますね。有難うございます」
プレゼントの箱を開けると白百合の髪飾りが入っていた。
それから3か月後に二人は婚約した──といっても平民の二人は口約束だ。
恋人同士になると、寄宿舎を出てセーラは家を借りて一人暮らしを始めた。
もちろん二人の逢瀬の為の家。家賃を二人で折半して夜な夜なナイジェルはセーラを求めてやって来た。
明日結婚したって構わない。嬉しいはずのナイジェルの求婚だがセーラは素直に頷けない。
金髪に緑の瞳を持つナイジェルは口は悪いがどこか気品があり美しい男性だった。
比べてセーラは栗色の髪に濃いブラウンの瞳、どこにでもいる町娘だ。
おまけに身長差もあって、二人が並ぶと凸凹でお世辞にもお似合いとは言えない。
「セーラ眠いのか? 返事してくれよ」
「モテる旦那様って気苦労よね。毎日心配で」
「浮気なんかしないよ。一生セーラだけ愛してる」
「じゃぁ結婚してもいいかな?」
「なんで疑問形なんだよ。そうだ、結婚する前に話しておきたい事がある」
「うん?」
「俺、王宮騎士団を辞める。警備隊か貴族個人の騎士団に入ろうと思ってさ」
ナイジェルが上司と上手くいってないのをセーラは知っていたが、辞めたいほど悩んでいたのは知らなかった。
「『平民は警備隊にでも入ってろ!』って何度も言われてさ。どうせ平民は出世なんかできないし、稼ぎは少なくなるけど、俺、辞めていい?」
「うん、辞めちゃいなよ。ケーラ団長だっけ? 私も大嫌い」
「今度の仕事が終わったら辞表出すけど、結婚してくれる?」
「いいよ、結婚しよう!」
「ああ、俺──最高に幸せだ!」
ナイジェルは確かにそう言った。
セーラも同感で(子どもは3人、ナイジェル似の美形の子が欲しいな)なんて考えていた。
翌朝、二人で朝食を済ませると王宮に向かい、ナイジェルの所属する第三騎士団とセーラが属する治癒部隊は西の国境沿いの山に向かったのだった。
簡単な仕事のはずだった。山の中腹で違法栽培されている毒草の始末と犯罪者の確保、すぐに終わると思われていた。
治癒部隊は山麓にテントを張って騎士たちの帰りを待っていたが「遅くないか?」と誰かが言い出して護衛騎士達と共に治癒部隊が駆け付けると大勢の騎士が倒れていた。
その中にセーラは夥しい血だまりの中で倒れているナイジェルを見つけた。
「ナイジェル!・・・ああ、生きてる・・・」
治癒部隊は急いで息のある騎士達の回復を行ったが、大半の騎士は亡くなっていた。
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