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お気軽魔道師
遺跡は続くよどこまでも……1
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遺跡9日目
「やれやれ、まさか今面倒な遺跡だったとはね……」
隊列の前から2番目を歩くエリナが、うんざりしているといった様子でそうぼやく声が聞こえた。
「そうですね。こんな事でしたら素直に地上で待っているべきでした」
と、彼女にしては珍しくかなり疲労の色をにじませた声で、エリナに答えるかのようにマリアまでそんな事をぼやく。
なにが待ち受けているか分からず、しかもどこまで続くか分からない通路。
そんな場所を、延々と歩き続けているというのだからあたしたちの疲労がどれほどのものかおおよそ察しがつくと思う。
これで、まだ途中で小部屋でもあればまだ多少は気分転換出来るのだが、目の前に現れるものは、とにかくひたすら無機質な通路だけである。
こうなってくると、ここ久しく登場していない罠や魔法生物諸君に出くわしたくなってくるから、人間とは不思議な生き物である。
「ほら、僕より若いくせに情けないこと言うんじゃない。大体、こんなヘンテコな遺跡を誰よりも早く歩けるなんて、この上なくすばらしい事じゃないか!!」
と、1人だけ元気朗らかにのたまっているアホは他の誰でもないお師匠である。
まあ、お師匠の遺跡好きは今に始まった事じゃないし、この底抜けの脳天気さ(?)はあたしもかなり慣れているつもりである。
しかし、この状況では真夏のポート・ファルシオンの蒸し暑さ並に鬱陶しい。ホント。
まっ、この人は放っておこう。
もうちょっと元気な時ならともかく、今のあたしには親子漫才に興じる余裕はない。
「マール、ごめんね。あたしが至らぬばかりに、こんなバカ弟子になっちゃって」
と、エリナがつぶやくようにそう言ってきた。
「……あっ、酷い」
お師匠がちょっとへこんだようにそう言った。
「いいわよ。もう慣れているから……」
お師匠は無視して、あたしはエリナにそう返した。
「なんと申しますか、3人とも仲がよろしいのですね」
『いや、ちょっと待て。どこが仲いいって!?』
突然割り込んできたマリアに、あたし、お師匠、エリナが異口同音にそうツッコミを入れた。
「いえ、あなた方の会話が単に鬱陶しいだけです」
「……」
キッパリハッキリそう言われてしまい、あたしはなにも言えなくなってしまった。
……あー、マリアってばかなりお疲れみたいね。
などと、胸中でつぶやき、あたしはとにかく先に進む事に全神経を傾けることにした。
とはいえ、息をするのも辛いほどの重い沈黙の中、魔術の明かりが届く範囲以外はなにも見えない闇の中をひたすら歩くというのはなかなか疲れるものである。
……うーむ、この雰囲気は、あまり好ましいものではないわね。
まあ、あたしたちは遠足に来ているわけではないし、全く無警戒かつお気楽に進むというのは自殺行為以外のなにものでもない。
しかし、だからといって、こうギスギスした空気が漂う中で先を進むというのも、それはそれで問題である。
こういう時、可能な範囲で最大限の『ガス抜き』をするのが隊長たる役目なのだろうが、ここで下手な冗談など飛ばそうものなら逆効果になりかねない。
さて、どうするか……。
と、一瞬、意識を現実から離してしまったのがいけなかった。
全く無意識のうちに踏み出した右足の裏に妙な違和感を感じたと思った瞬間、シュッとという風を切るような微かな音が聞こえ、それがなにかを察する間もなく右足太ももに焼け付くような激痛が走った。
「くっ!?」
思わず苦悶の声を上げてしまいながら、あたしはその場に跪いてしまった。
目の前がチカチカするような痛みの中、どうにかこうにか首を動かして右足を見やると魔術の明かりを受けて変な光り方をする2本の矢が、ものの見事にあたしの右足太もも辺りに突き刺さっている。
「マール!?」
何となく耳が遠くなっていたのであまりハッキリはしないが、恐らくマリアかエリナだと思われる悲鳴じみた声が聞こえた。
しかし、あたしの意識はどうにも冴えず、先ほど感じた激痛すら今はほとんど感じない。
……あれ、なんか眠く……。
次の瞬間、まるで冷水をぶっかけられたような衝撃を伴って、猛烈な激痛が襲いかかってきた。
「いだだだだ!!こ、こら、引っ張るんじゃない!!!」
思わず目の端に涙さえ浮かべてしまいながら、あたしは悲鳴……というよりは、ほとんど怒鳴り散らすようにしてそう喚いた。
「えっ、引っ張るなと言われましても……」
そして、困惑したマリアの声が返ってくる。
恐らく、慌てた末の咄嗟の行動だったのだろうが、彼女はあたしの太ももに刺さってる矢を力任せに引き抜こうとしていたのである。
まあ、普通に暮らしている人なら、矢で射られるなどという経験はまずないだろうが、一度体に刺さったこれを引く抜く時は数万倍の痛みを伴うのである。
なんであたしがこんな事を知ってるのかと言えば、昔々ある時なんかの気まぐれだと思うが、ローザがいきなり弓の練習がしたいなどと言いだし、それにあたしがつきあってあげた事があるのだ。
この時はしばらくは普通の的を使っていたのだが、予想外に命中率がよく調子に乗ったローザが『あたしの頭にリンゴを載せて、それを射抜いてみる』などと言い出したのだ。
まあ、今でこそ恐ろしい事ではあるが、当時はまだ若い故の無謀さを持ち合わせていたあたしもほとんどノリと勢いでそれを承諾してしまったのだが……。
まあ、結果は言うまでもないだろう。
ローザの放った矢は、ものの見事に目標であるリンゴから大きく逸れ、代わりにあたしの右肩をぶち抜いたのである。
とまあ、そんなわけで、あたしは矢が刺さった時の痛みも、それを抜く時のこの世の物とは思えない苦痛も知っているわけである。
……って、ごめん。なんか、思いっきり痛そうな話ばかりで。
「って、こら、だからって押し込むなぁぁぁぁ!!」
一瞬収まっていた激痛が再びぶり返し、あたしは思い切り絶叫する事となった。
何を思ったのか。マリアのヤツ、今度は矢をぐいぐいと押し込み始めたのである。
「ああっ、ご、ごめんなさい。引くなと言われたので、つい……」
あたしの絶叫ではたと我に返ったらしく、マリアは慌てて矢から手を離し真っ青な顔で謝った。
「はぁはぁ……。あ、あんたは、あたしを殺す気か!?」
しばしの後、ようやく痛みが少し引いてきて余裕が出来ると、あたしは即座にマリアにそうツッコミを入れてやった。
……引いてダメなら押すって、そーいう問題じゃないでしょーが。ったく。
「ほら、マリア。悠長にボケかましていないで、さっさとどいて!!」
どうやら、こっちはまともらしい。
珍しくオロオロしまくっているマリアを押しのけるようにして、今度はエリナがあたしの傷を見つめた。
「……まずいわね。これ、毒矢よ。まあ、いまだにあんたが平気そうにしている所をみると即効性の毒じゃないみたいだけど」
と、いつになく険しい表情で、エリナは恐ろしいことをあっさりと言ってのけた。
……あっ、なんかまた気が遠くなってきた。
「急がないとまずいわね……。マール、ちょっと我慢してね」
「……えっ!?」
次の瞬間、あたしにとってはまさに最悪の災難が襲いかかってきたのだった。
「ンギャァァァァァァァァァァァ!!??」
*あまりにエグくスプラッタであるため、詳細な描写は自主規制させていただきます。(by通りすがりの作者)
ああ……白い。全て真っ白。ただ、どこまでも白く、そして、広い……。
あそこで、ほほえみながら手招きしている人。どこかで見たことがあるような……。
ここは、相も変わらずジメジメした空気が漂う遺跡の地下である。
つい先ほど『戻ってきた』あたしは、床にぐったりと仰向けにひっくり返ったままエリナの治癒魔法を受けていた。
毒消しと傷の治癒。同時にやるなんてかなり器用である。
「どう、もう痛くない?」
魔法をかけながら、エリナがあたしに聞いてきた。
「大丈夫よ。次からはもっと優しく頼むわ」
あたしはそれにグッタリ返すのが精一杯。
なにしろ、エリナってば、いきなり○○○でその周囲を大きく○○した挙げ句、彼女の道具袋に入っていた○○○で、一気に矢を○○○○いてくれたのである。
あえて一部を伏せ字にしてみたのだが、かえってこちらの方が凄惨な気がするのは気のせいだろうか?
ともあれ、いくら怪我慣れしているあたしとて、さすがにこの時の激痛は筆舌に尽くしがたいものがあった。
あの矢が毒矢だったいうことは、刺さったままで放置されていたら今頃は本気で『お招き』されていただろう。
だから、あたしとて、エリナに対しては深い感謝の気持ちを抱いてはいるのだが、しかし、ちょっと優しくして欲しかった……。
「それにしても、まさか、あんな単純な罠を見落とすとはね。僕も自分で驚いたよ」
と、あたしからやや離れた場所で、なにやら自分の道具袋をゴソゴソやっているお師匠が、やれやれと言わんばかりにそう言ってきた。
「驚いたのは、あたしも同じですよ。まさか、お師匠がこんな単純な罠を見落とすなんて」
と、我ながら嫌みなやつだなと思いながら、あたしはそう言って苦笑を浮かべた。
隊列の先頭を歩くエリナとお師匠は、罠回避や危険な魔法生物を検知する役を担っている。
『毒矢』なんて落とし穴と並ぶ基本中の基本。
魔力によらない『スイッチ式』などという、ちょっと注意していれば絶対に見逃さなかった単純な罠を見逃したのだ。
集中力の欠如としかいいようがない。
「しかし、隊列の最後尾を歩いていた君が作動させるなんて、本当に運がないな」
道具袋から水筒らしきものを取り出しつつ、お師匠が言った。
「全くです。なんであたしに……」
ローザやマリアが引っかかればよかったとは言わないが、よりにもよって最後尾を歩いていたあたしが罠を作動させてしまったのだ。
罠の検知と解除をお師匠とエリナに任せて油断していたとはいえ、運が悪いとしかいいようがない。
「はい終わり。歩けるわね?」
エリナの治療が終わったようだ。
あたしはゆっくりと立ち上がった。
服こそ破れてはいたが、痛みもなければなんともない。
「ありがとう。大丈夫よ」
ゆっくりと歩いてみたりしながら、あたしは問題ない事を確認した。
ちょっと予想の斜め上を行くというか想定していなかったのだが、この件でみんなに緊張感が戻っているのが分かる。
「さて、行くわよ」
あたしの声が遺跡の闇に消えていった。
「やれやれ、まさか今面倒な遺跡だったとはね……」
隊列の前から2番目を歩くエリナが、うんざりしているといった様子でそうぼやく声が聞こえた。
「そうですね。こんな事でしたら素直に地上で待っているべきでした」
と、彼女にしては珍しくかなり疲労の色をにじませた声で、エリナに答えるかのようにマリアまでそんな事をぼやく。
なにが待ち受けているか分からず、しかもどこまで続くか分からない通路。
そんな場所を、延々と歩き続けているというのだからあたしたちの疲労がどれほどのものかおおよそ察しがつくと思う。
これで、まだ途中で小部屋でもあればまだ多少は気分転換出来るのだが、目の前に現れるものは、とにかくひたすら無機質な通路だけである。
こうなってくると、ここ久しく登場していない罠や魔法生物諸君に出くわしたくなってくるから、人間とは不思議な生き物である。
「ほら、僕より若いくせに情けないこと言うんじゃない。大体、こんなヘンテコな遺跡を誰よりも早く歩けるなんて、この上なくすばらしい事じゃないか!!」
と、1人だけ元気朗らかにのたまっているアホは他の誰でもないお師匠である。
まあ、お師匠の遺跡好きは今に始まった事じゃないし、この底抜けの脳天気さ(?)はあたしもかなり慣れているつもりである。
しかし、この状況では真夏のポート・ファルシオンの蒸し暑さ並に鬱陶しい。ホント。
まっ、この人は放っておこう。
もうちょっと元気な時ならともかく、今のあたしには親子漫才に興じる余裕はない。
「マール、ごめんね。あたしが至らぬばかりに、こんなバカ弟子になっちゃって」
と、エリナがつぶやくようにそう言ってきた。
「……あっ、酷い」
お師匠がちょっとへこんだようにそう言った。
「いいわよ。もう慣れているから……」
お師匠は無視して、あたしはエリナにそう返した。
「なんと申しますか、3人とも仲がよろしいのですね」
『いや、ちょっと待て。どこが仲いいって!?』
突然割り込んできたマリアに、あたし、お師匠、エリナが異口同音にそうツッコミを入れた。
「いえ、あなた方の会話が単に鬱陶しいだけです」
「……」
キッパリハッキリそう言われてしまい、あたしはなにも言えなくなってしまった。
……あー、マリアってばかなりお疲れみたいね。
などと、胸中でつぶやき、あたしはとにかく先に進む事に全神経を傾けることにした。
とはいえ、息をするのも辛いほどの重い沈黙の中、魔術の明かりが届く範囲以外はなにも見えない闇の中をひたすら歩くというのはなかなか疲れるものである。
……うーむ、この雰囲気は、あまり好ましいものではないわね。
まあ、あたしたちは遠足に来ているわけではないし、全く無警戒かつお気楽に進むというのは自殺行為以外のなにものでもない。
しかし、だからといって、こうギスギスした空気が漂う中で先を進むというのも、それはそれで問題である。
こういう時、可能な範囲で最大限の『ガス抜き』をするのが隊長たる役目なのだろうが、ここで下手な冗談など飛ばそうものなら逆効果になりかねない。
さて、どうするか……。
と、一瞬、意識を現実から離してしまったのがいけなかった。
全く無意識のうちに踏み出した右足の裏に妙な違和感を感じたと思った瞬間、シュッとという風を切るような微かな音が聞こえ、それがなにかを察する間もなく右足太ももに焼け付くような激痛が走った。
「くっ!?」
思わず苦悶の声を上げてしまいながら、あたしはその場に跪いてしまった。
目の前がチカチカするような痛みの中、どうにかこうにか首を動かして右足を見やると魔術の明かりを受けて変な光り方をする2本の矢が、ものの見事にあたしの右足太もも辺りに突き刺さっている。
「マール!?」
何となく耳が遠くなっていたのであまりハッキリはしないが、恐らくマリアかエリナだと思われる悲鳴じみた声が聞こえた。
しかし、あたしの意識はどうにも冴えず、先ほど感じた激痛すら今はほとんど感じない。
……あれ、なんか眠く……。
次の瞬間、まるで冷水をぶっかけられたような衝撃を伴って、猛烈な激痛が襲いかかってきた。
「いだだだだ!!こ、こら、引っ張るんじゃない!!!」
思わず目の端に涙さえ浮かべてしまいながら、あたしは悲鳴……というよりは、ほとんど怒鳴り散らすようにしてそう喚いた。
「えっ、引っ張るなと言われましても……」
そして、困惑したマリアの声が返ってくる。
恐らく、慌てた末の咄嗟の行動だったのだろうが、彼女はあたしの太ももに刺さってる矢を力任せに引き抜こうとしていたのである。
まあ、普通に暮らしている人なら、矢で射られるなどという経験はまずないだろうが、一度体に刺さったこれを引く抜く時は数万倍の痛みを伴うのである。
なんであたしがこんな事を知ってるのかと言えば、昔々ある時なんかの気まぐれだと思うが、ローザがいきなり弓の練習がしたいなどと言いだし、それにあたしがつきあってあげた事があるのだ。
この時はしばらくは普通の的を使っていたのだが、予想外に命中率がよく調子に乗ったローザが『あたしの頭にリンゴを載せて、それを射抜いてみる』などと言い出したのだ。
まあ、今でこそ恐ろしい事ではあるが、当時はまだ若い故の無謀さを持ち合わせていたあたしもほとんどノリと勢いでそれを承諾してしまったのだが……。
まあ、結果は言うまでもないだろう。
ローザの放った矢は、ものの見事に目標であるリンゴから大きく逸れ、代わりにあたしの右肩をぶち抜いたのである。
とまあ、そんなわけで、あたしは矢が刺さった時の痛みも、それを抜く時のこの世の物とは思えない苦痛も知っているわけである。
……って、ごめん。なんか、思いっきり痛そうな話ばかりで。
「って、こら、だからって押し込むなぁぁぁぁ!!」
一瞬収まっていた激痛が再びぶり返し、あたしは思い切り絶叫する事となった。
何を思ったのか。マリアのヤツ、今度は矢をぐいぐいと押し込み始めたのである。
「ああっ、ご、ごめんなさい。引くなと言われたので、つい……」
あたしの絶叫ではたと我に返ったらしく、マリアは慌てて矢から手を離し真っ青な顔で謝った。
「はぁはぁ……。あ、あんたは、あたしを殺す気か!?」
しばしの後、ようやく痛みが少し引いてきて余裕が出来ると、あたしは即座にマリアにそうツッコミを入れてやった。
……引いてダメなら押すって、そーいう問題じゃないでしょーが。ったく。
「ほら、マリア。悠長にボケかましていないで、さっさとどいて!!」
どうやら、こっちはまともらしい。
珍しくオロオロしまくっているマリアを押しのけるようにして、今度はエリナがあたしの傷を見つめた。
「……まずいわね。これ、毒矢よ。まあ、いまだにあんたが平気そうにしている所をみると即効性の毒じゃないみたいだけど」
と、いつになく険しい表情で、エリナは恐ろしいことをあっさりと言ってのけた。
……あっ、なんかまた気が遠くなってきた。
「急がないとまずいわね……。マール、ちょっと我慢してね」
「……えっ!?」
次の瞬間、あたしにとってはまさに最悪の災難が襲いかかってきたのだった。
「ンギャァァァァァァァァァァァ!!??」
*あまりにエグくスプラッタであるため、詳細な描写は自主規制させていただきます。(by通りすがりの作者)
ああ……白い。全て真っ白。ただ、どこまでも白く、そして、広い……。
あそこで、ほほえみながら手招きしている人。どこかで見たことがあるような……。
ここは、相も変わらずジメジメした空気が漂う遺跡の地下である。
つい先ほど『戻ってきた』あたしは、床にぐったりと仰向けにひっくり返ったままエリナの治癒魔法を受けていた。
毒消しと傷の治癒。同時にやるなんてかなり器用である。
「どう、もう痛くない?」
魔法をかけながら、エリナがあたしに聞いてきた。
「大丈夫よ。次からはもっと優しく頼むわ」
あたしはそれにグッタリ返すのが精一杯。
なにしろ、エリナってば、いきなり○○○でその周囲を大きく○○した挙げ句、彼女の道具袋に入っていた○○○で、一気に矢を○○○○いてくれたのである。
あえて一部を伏せ字にしてみたのだが、かえってこちらの方が凄惨な気がするのは気のせいだろうか?
ともあれ、いくら怪我慣れしているあたしとて、さすがにこの時の激痛は筆舌に尽くしがたいものがあった。
あの矢が毒矢だったいうことは、刺さったままで放置されていたら今頃は本気で『お招き』されていただろう。
だから、あたしとて、エリナに対しては深い感謝の気持ちを抱いてはいるのだが、しかし、ちょっと優しくして欲しかった……。
「それにしても、まさか、あんな単純な罠を見落とすとはね。僕も自分で驚いたよ」
と、あたしからやや離れた場所で、なにやら自分の道具袋をゴソゴソやっているお師匠が、やれやれと言わんばかりにそう言ってきた。
「驚いたのは、あたしも同じですよ。まさか、お師匠がこんな単純な罠を見落とすなんて」
と、我ながら嫌みなやつだなと思いながら、あたしはそう言って苦笑を浮かべた。
隊列の先頭を歩くエリナとお師匠は、罠回避や危険な魔法生物を検知する役を担っている。
『毒矢』なんて落とし穴と並ぶ基本中の基本。
魔力によらない『スイッチ式』などという、ちょっと注意していれば絶対に見逃さなかった単純な罠を見逃したのだ。
集中力の欠如としかいいようがない。
「しかし、隊列の最後尾を歩いていた君が作動させるなんて、本当に運がないな」
道具袋から水筒らしきものを取り出しつつ、お師匠が言った。
「全くです。なんであたしに……」
ローザやマリアが引っかかればよかったとは言わないが、よりにもよって最後尾を歩いていたあたしが罠を作動させてしまったのだ。
罠の検知と解除をお師匠とエリナに任せて油断していたとはいえ、運が悪いとしかいいようがない。
「はい終わり。歩けるわね?」
エリナの治療が終わったようだ。
あたしはゆっくりと立ち上がった。
服こそ破れてはいたが、痛みもなければなんともない。
「ありがとう。大丈夫よ」
ゆっくりと歩いてみたりしながら、あたしは問題ない事を確認した。
ちょっと予想の斜め上を行くというか想定していなかったのだが、この件でみんなに緊張感が戻っているのが分かる。
「さて、行くわよ」
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