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第2章 聖魔法王国編

第51話 エルフ王と元聖魔法王国国王

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エルフ国メディテッラネウスにてブリンクス王に謁見する前に祖父のマルソとロリは、王宮でマルソの旧友と再会していた。

「やぁロザリー」

名前を呼びながら近づくマルソだったが、近づくにつれてエルフ違いだと思った。
だが隣にはグンデリックが居る。
目の前に来たマルソは挨拶した。

「これは失礼しました。まさかブリンクス伯爵の血族の娘さんとは驚きました。初めまして私はマルソと申します」クスクスと笑う娘に首をかしげたマルソはグンデリックを見た。

「本当に久しぶりですねマルソ。私が解らないのですか?」
その声は古くから良く知る人物の声とそっくりだった。

「えっ?ロザリー?」
「そうですよ、私以外居ないでしょう?」
「イヤ、私の知っているロザリーはもっとこう・・・」

グンデリックの顔を見た。
頷くグンデリック。

「本当にロザリーか?信じられない?」
「じゃ私たちしか知らない貴方の恥ずかしい昔話でもしましょうか? 貴方が聖魔法王国の国王になる前の悪行の数々を」
「本当なのか?グンデリック」
「はい。間違いありません」
「例えば、あの話はどうかしら。昔、湖に観光で来ていた・・」

“湖に観光”と言う単語で全て悟ったマルソだ。
「悪かった!私が悪かった」

ニッコリと微笑むロザリー。

「しかし、何故これほど若く・・・私の婚姻で王宮に訪れた時はもっと・・・」
「もっと、何かしら?」
コメカミの血管が浮いてきたのを見たマルソは慌てて撤回した。

「イヤ、何でもない。以前にもまして美しくなったなロザリー」
「ありがとうマルソ。貴方こそ貫禄が出てきたわ」
「君の方こそ驚いたよ!いったいどうやって!是非教えて欲しい」
「エルフの貴方には若さは必要無いでしょ?」
「あぁ私では無い」

ロザリーはピンと来た。
「奥様ね」
「あぁ」
「余り詳しい事は教えられないの。それに人族には意味が無いのよ」
それでも、どうしても聞かせて欲しいと詰め寄るマルソ。

「じゃ後で・・ところで隣の方は?」
「おぉこれは失礼。これは私の孫でロリと申します」
「初めましてブリンクス伯爵様。ロリ・ヴァネッサ・シャイニングと申します。以後お見知りおき下さい」
深々とお辞儀をするロリ。

「まぁ、とても可愛い方ね。好感が持てるわ」
「私など新参者ですから伯爵様のようにお美しくも無いですし、実績もございません」
「まぁお口がお上手ね。でもマルソのお孫さんであればクォーターでしょ?」
「ハイ。他の王国の方よりは長生き出来るわ。焦らないで頑張るのよ」
「ハイ。伯爵様、ありがとうございます」

「ロリよ」
「ハイ何でしようか、お祖父様?」
「ブリンクス伯爵は昔からエルフの聖女と言われていたのだぞ」
「本当ですか?お祖父様。では、伯爵様も聖魔法の奥義を使えるのですか?まさか王国の御出身?」
「違うのだ、ロリよ。我らの王国で言う聖女とは違う意味の聖女なのだ。女性の鏡としての意味でエルフの聖女と言われていたのだ」
「女性の鏡ですか?」

「今はそうでも無いのよ・・マルソ」
「何? 何が有った?」
「イロイロとね。オンナは変わるのよ・・・」

「では、何がどう変わったのか後で聞かせてもらおう」
「所でいつまでこっちに居るの?」
「特に予定は無いが、ブリンクス王とも久しぶりにお話をしたいし、ロザリーとも話がしたいな。本当にゆっくり話が出来るのはいつ振りだろう・・・」

「そろそろ時間です御爺様」
「あぁそうだな」
「私達もブリンクス王に呼ばれているから一緒に行くわ」
「では謁見の間で」
「えぇ」

謁見の間に入って来たマルソとロリはブリンクス王の前まで進むと敬意を示す礼をとり話し始めた。

「久しいのマルソ」
「ハッ、ブリンクス王もお変わりなくお元気そうで」

玉座に座るブリンクス王。傍(かたわ)らには親衛隊長のジャックが常に付き従う。
正面に元聖魔法王国王マルソと、後ろに孫のロリ。
玉座に対して右側にロザリー、グンデリック。
玉座に対して左側に親衛隊隊長の部下でジョンが立って居る。
入り口に警備の為の4名のエルフ。
エルヴィーノと親衛隊隊長の部下のミシェルは裏の部屋で待機している。
今回の訪問はマルソから送られた書状でブリンクス王は知っていた。

内容は、代々聖魔法王国となる者は聖女の婿として教祖初め、力のある者が占ってきた。
孫娘の聖女が資格を取ったので数年前から占っていた者と会う旅に出ていた。
ところが連れて帰ってきた者を良く見ると、ダークエルフだったので驚いたが、その者が言うには(自分の親はブリンクス王が厳重に管理しているので、自分の事はブリンクス王に確かめて欲しいと言っているので是非教えて頂きたい)と。

ブリンクス王は実の息子であるエルヴィーノからもエマスコ(通信魔道具)で連絡があった。
だが、内容はかなり異なっていた。

(突然女が現れて、顔を見せろと言われて無視して去ろうとしたら戦闘になって、従者から改めて説明を聞くと、聖女の婿になって欲しいと。断ったが、イロイロあって離れなくなってしまった。そして聖魔法王国の家族にあったら祖父さんがエルフだった。婚姻についてもロリから聞いていた俺は、王など興味は無いしやりたくない。大司教など真っ平御免だ。だが、宿命を背負ったロリが可哀想だったからズルズルとここまで来てしまったのは共感があったからだと思う。婚姻はどうでも良いがロリの事は愛しているし、ロザリーの事も愛している。ロリにはエアハルトの事は話してあるが母親の事は王宮で話すと言って誤魔化した事も手紙に書いた。で、どうしたら良いか・・・悩んでいる)と。

「ところでマルソよ。お前は私の事をどう思っている?」
「ハイ。ブリンクス王は私の最も敬愛するエルフです。そして私が聖魔法王国の王だった頃は、王としての手本として最も尊敬しておりました」
「そうか。では、言葉では無く態度で示してくれるか? どれだけ私をうやまっているかをな」
「それは・・・」
「別に私で無くても良いぞ。今回はお前の孫の事で来たのだろう。それだけ孫が可愛いか?」
「ハイ。それはもう」

自慢の孫を見ながら微笑むマルソ。
(言葉では無く態度か・・・)
困ってしまったマルソ。

「マルソよ、私はエルフの中では親衛隊長のジャックを1番信頼しておる。お前よりもだ。だが今はそのジャックよりも信頼できる者が私には居る。先日起きたドラゴンの襲来は聞いておるか?」
「ハイ」

「ワイバーンをほふり、ドラゴンを退しりぞけ、エルフやこのバルバル城とエルフの城下街アルバを"たった1人で救ってくれた者"がおる」

「1人でですか?」
「そうだマルソよ。私も見た」
「そのような事は一切聞いておりませんが・・・」

「当然だ。箝口令を敷いたからな。一部のエルフを除いてほとんどのエルフはこの事実を教えていな」
「何故ですか?」
マルソがブリンクス王に尋ねる。

「言えない理由は当然ある。ジャック」
「人払いを」
「ジョン」
「ハッ」
「呼んで来てくれ」
「ハッ」

謁見の間にはブリンクス王と親衛隊長のジャック、元聖魔法王国だったマルソと孫のロリに、ロザリーとグンデリックとジョン、ミシェルだけとなった。

そしてジョンに連れられて奥から出てきたエルヴィーノだ。
ジャックはバオス・ホステ(音声調整魔法)、オウデシオン・アホステ(聴覚調整魔法)を唱えた。
これはこの場所に居る者しか会話が出来ないようにする魔法だ。

「エルヴイーノ? 何故貴方がここに居るの?」

ロザリーの問いかけに答えたのはブリンクス王だった。
「私が呼んだのだ、ロザリー」
「何故? どうして・・・」
「我らの話を聞いていなさい」

自分の知らないうちにエルヴィーノが王宮に来ていた事が気に入らない様子のロザリー。
ブリンクス王は改めて話を進める。

「所でマルソよ」
「ハイ」
「聞いてはいるが確認の為だ。今回はどのような件で来たのだ?」
「ハイ。私の孫で、聖女でもあるロリ・ヴァネッサ・シャイニングの婚姻の為の確認です」
「ウム。で、その確認とは?」
「聖魔法王国は女性社会なのはご存知だと思いますが?」
「ウム」
「そして婚姻の相手を占いで選ぶ事も」
「ウム」

ここまで聞いたロザリーとグンデリックは嫌な予感がしてならなかった。
うつむきジッとしているロザリー。

「そして、孫の占いが数年来変わらないのです」
「ほう」
「それが占いの廻りあわせて出会った者がここに居るダークエルフの彼でした」

ビクッとするロザリー。
額に手を当てるグンデリック。
エルヴィーノは目をつむり黙って聞いていた。

直ぐにロザリーは意見を述べた。
「私は反対です! そのような占いで決める婚姻など断固反対します」

当然予想していた。
マルソとロリは驚いた。
先ほどの美しく優しそうなロザリーをロリから見れば、年の近いお姉さん的なブリンクス伯爵が怒りをあらわにして反対する理由が解らなかった。
そんなロザリーをブリンクス王が止めた。

「待て、ロザリー。全て話をしてからお前の意見を聞こう」
「ですが・・・分かりました」
“しゅん”とするロザリー。

「聖魔法王国王都イグレシアで家族と面会した時に彼エルヴィーノが”両親はブリンクス王の厳重な監視の元、他のエルフに知られないようなっている”と。そして”ブリンクス王から直接答えて頂いた方が信用に値するからだ”と。それで今回の謁見となった訳です」

ブリンクス王が説明を聞いて答える。
「宜しい。そちらの事情は分かった。話を戻そう。ここにいる者は私が信頼する者ばかりだ。当然マルソお前もだ」
「ありがたき幸せ」
「孫とは初めて会ったが同様だ。そなたを信用するのも理由がある」
「それは私の孫だからでしょうか?」
「いいや違う」
「聖女だからですか?」
「いいや違う」
「では何故?」
「それはメディテッラネウスを救った真の英雄である我が息子が連れてきた女性だからだ」

「「?」」

マルソとロリは誰の事なのか理解出来なかった。

「我が息子? 失礼ですが、ブリンクス王の御子息は皆さん戦死されたはずでは・・・」
「お前も鈍いのぉ、マルソよ。エルヴィーノが我が自慢の息子だ」
「はぁ――っ」
「えぇ―――っ」

ロリの方が驚いたようだ。

「いやっ、あのっ、ブリンクス王も冗談がお好きだ。ハハハハハハハハッ」

1人で笑うマルソ。
キラキラした目でエルヴィーノを見るロリ。
周りを見渡すと真剣な表情。
キリッとした表情でマルソがブリンクス王に問いかける。

「ダークエルフですよ! 何故ブリンクス王の子がダークエルフになるのですか?」
「母親がダークエルフだからだ」
ブリンクス王が答える。

「馬鹿な! 気でも触れたのですかブリンクス王」
その言葉にジャックが剣を抜き威嚇する。

「我らがエルフ王にそのような無礼な言動を。いくらマルソ殿でもただでは済みませんぞ!」
「あっいやっ申し訳ない。訂正いたします。ですが、ブリンクス王。理由をお聞かせください」

「もう一度言うぞ、これから話す事はこの国で1番の秘密だ。お前たちが聖魔法王国にも、教会にも、嫁や親、親族にも話してはならないエルフだけの秘密だ」
「解りました。ここに居る者達にも誓います。決して誰にも話さないと。ロリも良いか?」
「ハイ。お祖父様」

ブリンクス王には解っていた。
孫が知ったのなら子にも話すだろうと。
それも仕方ないと考えていた。

「良いか順を追って話すぞ」
そして、ブリンクス王が語りだした。
エルフの忌まわしき闇の歴史を。









あとがき
次回、修羅が2体現れる。
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