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第3章 獣王国編

第84話 獣王国のその後

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獣王国バリエンテの全域に、更に隣接する近隣諸国は”ドラゴン降臨”の話しで持ち切りになっていた。

曰く神龍を降臨させし者、黒龍の支配者、龍の召還魔法師、自国の問題を解決してくれた勇者に国を挙げて歓喜した。

それは伝説の始まりと誰もが考えたからで騒ぎは増す一方だった為、獣王から事の顛末について説明があった。


棘王から姫を救い出した英雄は棘王との決戦の前に姫と結婚の約束を交わし戦いを始めた。
棘王は決戦前に棘の森の棘を集めて巨大化し、(※目撃者によれば、3000mは越えていたと言う)勇者を迎え打つ体制をとったと聞く。

一方の勇者は奥義でもある神龍召還魔法で呼び出された黒龍の広域殲滅魔法を棘王に放つ。
その光は遠く王都からでも確認でき、直後に強大なキノコのような煙が上がり、轟く爆音が聞こえると強風で引き込まれた後に、未だかつて無い激風が木々や岩をも吹き飛ばしていた。

そして勇者は棘の鎧が無くなった棘の元凶を倒しに飛び立ち、その結果・・・穏やかな平和が訪れた。

棘王の脅威は無くなり平和が訪れたが勇者は行方不明で目下捜索中である。
(多分に脚色されていた)



パウリナが仮眠状態の時にコラソンから教えられた棘王とは、もともと神に近い存在だったが遥か昔に闇に侵された結果棘の魔物となり、この大陸を蹂躙し支配していた。
見かねた数人の龍人達が戦ったが倒すことは出来ず封印するとなった時に、龍人達は棘王の中に眠る微かな光を分離させ具現化し対話出来る存在を作った。

それがコラソンであり、棘王を”倒す存在”を悠久の時間待ったが一向に現れ無かったので意図的に力を持つ者を集める工夫をした。

その工夫が今の時代ではパウリナであり、結果的に勇者が現れたのだった。
その事を”両親”に説明すると王家の秘密とされて、どんな事をしてもモンドリアンを探しだし結婚して子供を沢山生む様にと両親から御墨付を頂いた。

所が主役の英雄様が居ないので凱旋は無く種族を挙げての捜索となったが、流石に決戦の地は恐ろしくてしばらくの間誰も近寄らなかった。
方々探したが見つからず生死に係わらず探し出せと伝令を変えても一向に吉報は無かった。

そんな中パウリナとビエルナスは、懇意にしている宿屋の親父さんの所に顔を出していた。

「親父さん元気? エルヴィーノから連絡はあった?」
「ひっ、姫様! このような所に来られては行けません」
「大丈夫よ、変装しているから」

そんなパウリナを見た親父さんは返す言葉が無かった。
それはどう見ても変装と言うよりも派手な衣装? にしか見えなかったが、隣でビエルナスが笑顔で立っている。

「それで何か連絡は有りましたか?」
「何も無いな。他の2人からも連絡は無いし、こちらから連絡する手段も無い」
「そうですか・・・」

ションボリするパウリナとビエルナスに親父さんが話しかける。

「姫様はヤツが死んだと思っていますか?」
「いいえ絶対に私の元に帰ってきます」

笑顔になった親父さんは助言をくれた。

「ヤツが何者かは分からないがフォーレは人族だ。そしてリカルドは明らかに聖魔法王国の司祭に間違い無い。その筋をあたった方が良いのではないか?」

「ありがとうございます。早速王宮に戻り手配致します」

わずかな手がかりでも入手出来たことに喜び2人は王宮に戻って”両親”に説明して聖魔法王国に間諜を多数送り込むのであった。

数日後に間諜からの報告では、聖魔法王国では数か月前から次期国王と聖女の結婚が決まっており、多方面が準備に向けて慌ただしい状態であるとの報告を受けた。

「次期王妃は教祖直系の聖女ロリ・ヴァネッサ・シャイニングで現国王リアム・ガブリエル・シャイニングと王妃プリマベラの娘で婚姻後は聖女としての重大発表があると教祖が国内から全聖女を集める予定だそうです。また、婚約者に関しては、名前はおろか一切の素性も明らかにされていません。金をばら撒き懐柔も試みたが成果は有りませんでした」

「フム・・・ガードが堅いな。まぁ奴らの婚姻などどうでも良い。重要なのはパウリナとモンドリアンの婚姻だ。我が血族にドラゴンの支配者を必ず入れる事が最も重要なのだ。良いな皆の物」

「「「「「ハハァァ」」」」」

獣王の決定に家臣も気合十分で、家臣はおろか国民がその事を望んでいる様子だった。

獣王国は英雄の登場で明るい未来を想像出来たが近隣諸国では、まさに驚異の一言だった。
あの日の出来事は辛うじて生き残った間諜から全て”大げさ”に報告を聞いていたからで、エルフ国メディテッラネウスと聖魔法王国アルモニア以外は、もはや獣王国の属国、支配下、敵対国の三択しか道は無かった。


※Cerounodostrescuatrocincoseissieteochonuevediez


更に時は過ぎ獣王が聖魔法王国アルモニア放った間諜が戻り報告を受けて驚いた。

「誰かパウリナを呼べ!」
暫くしてパウリナとアンドレアにビエルナスも続いて来た。

「その方、もう一度皆に説明せよ」
「ハハッ」
その間諜は人族に変化した獣人で魔法を解いてから説明した。


「我々がアルモニアでの調査対象はリカルドと言う司祭でした。結論から申し上げますと今の教会にはリカルドと名乗る司祭はいませんでした」
「”今の”とはどういう事ですか?」
「ハイ、数か月前に田舎町の教会に居たリカルドと名乗る司祭が退職したと記録が有りました」
「それで?」
「その後を探ってみると、特定の人物の”親衛隊”に昇格すると聞きつけました」
「その人物とは誰なのですか?」
「ハッ、そのリカルドは王族の婚姻の後に親衛隊長としての地位を約束されている。との事です」
「何ですって! それは信用出来る情報源ですか?」
「ハッ、調査対象者が長らく勤めていた生まれ故郷の教会近くにある宿屋の幼馴染夫婦の話です」
「特定の人物の名前は聞いて無いの?」
「ハッ何度も尋ねたのですが、それだけは決して話してはくれませんでした」


うつむき両手を握りしめるパウリナを優しく抱き寄せるアンドレア。

「聖女と結婚するんだって」
目には涙を浮かべるパウリナ。

「まだ決まった訳では無いわ」
慰めるアンドレア。

「パウリナよ、お前はどうしたい?」
「ハイ、お父様。私は三番目でも構わないとあの人に伝えてあります」
「良し、分かった。我らもアルモニアへ行って婚儀に参加しよう。そしてそれ以上の婚儀を執り行うのだ」

獣王の決定に反対する者はおらず、参加者と御祝い品や作戦が練られていった。
徒歩や馬車であれば婚儀に間に合わないが、港街リベルタの”教会”からであれば時間もかからず行けるので、どうやって全員行くかを考えた。

まずは獣王国国王夫婦。
この2人は子供に”変化”し特使としてお祝いする。
次にパウリナは子猫に変化して珍しい貴重な品種とし”男に幸運を呼ぶ猫”として新国王に献上する。
ビエルナスが数人の召使いを同行させる事で敵意を見せずにお祝いの雰囲気を出す。

「あなた、良いのですか? 突然に訪れて」
「大丈夫だ、我とリアムの仲だ。ヤツの驚く顔が楽しみだ! ハーハッハハ!」

ライオネル・モンドラゴンとリアム・ガブリエル・シャイニングはお互いに結婚し国王となる前は冒険者として腕を競った仲だった。

「久しくヤツの顔も見て無いしなぁ、本当に楽しみだ」

一行は獣王国からの女子供だけのお祝い特使として教会に話を付けて”特別に許可をもらい”その時に備えるのであった。
この後式典の規模や状況を調べる為に”変化した間諜”が多数送られる事となった。















あとがき
獣王の暗躍が進む。

変化の魔法は熟練度と魔素量で身体の変化も可能とする。
獣人族は魔素が少ないので魔石を使用する。
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