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第5章 棘城編

第131話 超高級旅館エスピナ2 @

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超高級旅館エスピナの開店の前にゲレミオの関係者を呼んで日頃の疲れを労う意味も含め、お披露目する事となったので昼過ぎに大広間に集まってもらった。

まずは全員を紹介させ今後帝國の予定を説明し館内を視察した後、食事の時間まで自由時間とした。
聖魔法王国の総責任者リカルドと副責任者リリオ(2人は日中の業務があるので夕方から参加予定)と、コメルベビーダ飲食関係から責任者のフォーレとグラナダ。
ビエネスグッズ関係の責任者はフォーレが兼任している。
ブルデール娼館関の責任者はトバラオンと妻のコンシャ。
セゴリダッド警備関係の責任者はラゴスタ。
慈善団体ベルデボラ緑玉の責任者はガンソ。
獣王国での総責任者でガルガンダが並んで座る。

そして今回全員に紹介する超高級旅館エスピナの2人の女将チャルタランとアミスターに、新たに加わるエルフ国でのゲレミオの仲間で男性三人のオセアノ、プライヤ、イスラと、女性二人のネブリナ、カリマだ。

「本日はお忙しい中、”旅館エスピナ”のお披露目会にお集まり頂いきまして真にありがとうございます」
「まだまだ至らぬ箇所がございますが、心置きなく御寛おくつろぎくださいませ」

獣王国の民族衣装を現代風に仕立てた旅館専用の衣装を身に纏い、格式と高級感を漂わせながら交互に丁寧な挨拶をしたチャルタランとアミスター。

エルフ達は自己紹介をした後に代表してオセアノが挨拶する。
「我々はエル・モンド陛下によって選ばれたエルフ族の五人です。陛下の為、帝國の為にいち早くエルフ国への参入を強く希望しております。暫くの間は皆さんの元で研修も兼ねて学んで参りますので宜しくお願いします」

事前にラゴスタとトバラオンにコンシャには、ゴルフィーニョでのチャルタランとアミスターの事は他言無用だと言い聞かせてある。”今”こうして居るのも、あの2人が関わったお蔭なので、こころよく納得してくれた三人だった。

「ゲレミオの諸君。計画では一年後に獣王国の王都遷都記念、三ヵ国同盟記念、獣王国における聖教会布教記念としてブエロ・マシルベーゴォのレースを予定している。出発地点はエルフ国で、目的地はカスティリオ・エスピナだ。だがその前にエルフ国にゲレミオとしてどこまで準備出来るかが重要になってくる。時間は無いし、城下街ペンタガラマの参入もまだ途中なので、この半年が山場だ。諸君の活躍に期待している」
簡単な挨拶をした後でガンソから提案が有った。


「陛下、各部署がエルフの方達を交えてこの後会議を開きたいと思いますが宜しいでしょうか?」
とやかく言う事は無いと思ったので任せる事にした。

「程々にな。今日はこの旅館を諸君が体感して各方面に広める為の集まりでも有るからな」
「ハハァッこのガンソ確かに賜りました。では館内の案内を見学してから夕食までの間に打ち合わせをするのではどうでしょうか?」

個人的には”余喜に計らえ”だが・・・
「今日は概略だけだぞ。諸君の慰労も兼ねているのだからな」
(せっかく集まってもらって体感しないと説明できないだろ! )

と思いながら、みんなの為的な事を言うと

「我らの為にそこまでお考えとは・・・」
涙ぐむ悪人面が嘘っぽくも見える。

「承知しました。後程大まかな説明をして日を改めて細かな打ち合わせを致しましょう」
説明好きのガンソが仕切っているような感じだ。

敷地はかなりの広さが有り、館内は五階建てだ。
一階には転移室が有り、五階、四階、三階、二階と繋がる転移室の扉が有る。
勿論階段も有るが最上階にはコメルベビーダの高級レストランと会員制倶楽部も用意してある。
一階には受付と広々とした待合室が有り、ティールームも兼ねている。
奥には旅館運営事務所やスタッフ用の部屋も完備。
そして最奥には庭園を眺める大浴場が有るのだが男性用だ。

二階には料理屋が二店あり、どちらも聖魔法王国からの出店だ。
その先を進むと女性用の大浴場が見えてくる。
どう足掻いても一階から二階の風呂場は見えないようになっている。
三階と四階が宿泊施設で五階の一部が高級仕様の部屋になっていて、その部屋は内装や調度品が豪華になっている。部屋の間取りは一番小さい部屋でも二部屋有り、四階は四部屋の間取りだ。

男風呂は受付の広間から庭園を挟んで反対側にあるので”見えない”ように配置されており、室内と屋外に風呂が設置されている。
室内は大浴場で泳げる広さが有る。
屋外は棘や他種多様な木々が生えていて周りからは一切見えない。
屋船は大きめの石をふんだんに使って石風呂になっている。

女風呂は二階だが一部、り出した部分に屋外風呂が配置されている。
そこには年中花が咲く様に多様な種類の花の咲く木で覆われていた。
因みに今は壁一面に真っ赤なバラが咲いている。
花びらが浴槽に舞い散り、漂う香りが鼻孔をくすぐられ湯に浸かれば、日頃の鬱憤うっぷんも泡と消えるだろう。
これもコラソン達のお蔭だ。
屋内の風呂は一階ほど広くは無いが十分と言えるくらいの広さは有る。

今回のお披露目の前日には、ここで働く獣人達や人族が全員で風呂に入り食事をして部屋を使って寝泊まった。
これも2人の女将チャルタランとアミスターの指導で”従事する者が理解していないと説明できない”と修行先で教わった事だ。

リカルドが夕方から来るので、先に風呂に入りに向かう仲間たちだがエルヴィーノは行かなかった。
闇の帝王が部下と一緒に大浴場に入ると、闇っぽく無い? 帝王っぽく無い感じがしたので、折角だから1人の時間を満喫する為に一番良い部屋で寝転がっていた。

みんなが身体を温めて日頃の疲れを落とし、綿で出来た貫頭衣を着て夕食前の会議を始めようとした所にリカルドとリリオが遅ればせながら登場した。

「遅くなってすみません、皆さん」
「待っていましたぞリカルド殿」

ガンソが出迎えて先ほどまでの概略を説明し、夕食まで大まかなエルフ国での準備と割り振りを決める事を説明した。
若返ったエルフの五人以外ではリリオだけがエルフとしての帝國民なので、リカルド含め五人のエルフ達に獣人達と挨拶を交わして着席する。

「エルフの皆さんからは、ご自身が希望する部署は有りますか? ブルデール以外で選んで頂ければ良いのですが」
ガンソからの提案を聞いてエルフ達が決めていた事を話した。

「私はセゴリダッドでお願いします」
まず一番体格の良いオセアノが発言した。

続いて
「私はベルデボラでお願いします」
良く喋るプライヤがガンソの仲間になる。
(うるさくなりそうだ)

「私はビエネスでお願いします」
サービス精神旺盛のイスラが小売りを担当する。

「私はコメルベビーダでお願いします」
「私もコメルベビーダでお願いします」
ネブリナの後にカリマも続き、女性達2人は揃って飲食関係を希望した。

誰も気にしていなかったが”ある人物”の口元が緩んでいた事を、その場に居なかったエルヴィーノは知っている。
後で教えてくれた女将2人が見ていたからだ。
女将達は初めて会った時から”その男”を警戒しているようだった。

大まかな役割を決めたので、それぞれが後日打ち合わせする事になる。
リカルドとリリオは温泉に向い、食事の時間まで自由となったがエルフ達は早速打ち合わせをしていた。
皆張り切っているが女性2人で料理にとても関心が有ると言うのでフォーレが食いついて来た。
しかし、斜め後ろに影の様に寄り添っていたグラナダが、すっと横に並ぶと目に見えない何かが女性三人の間に有ったとフォーレから聞いた。

一部のエルフを除いてエルフ達は国から殆ど出無い。
理由は戦争で人口が少なくなった為で、正当な理由が無いと出国出来なかったのだ。
しかし、戦争前に出て行った者達が少なからず居てリリオもその一人だった。
だから国外の食べ物は他種族の旅行者や本でしか知識が無く2人の女性エルフは興味深々なのだ。

「そんなに興味があるなら一度イグレシアに来てください。エルフの口に合う店を選んで出店交渉しましょう」
サワヤカに話すフォーレの後、間髪入れずにグラナダが口を挟む。

「お越しの際は、全ての店に私がご案内しますので安心してくださいね」

笑顔のグラナダだが
(危ない危ない、放っとくと又この人”危険行為”に走るからエルフ達は私が隔離しないと)

 もう1人笑顔の”男”は心の中で
(クソッ、余計な所で出しゃばりやがって。まぁ良い。チャンスはいくらでも有るからな。クククッ)

 一方2人のエルフはと言うと
(あぁ早くイグレシアの美味しい物を食べ回りたいわ) 
(確かに女同士の方が気兼ねしなくて良いわね)
それぞれの思いを胸に楽しく微笑む四人だった。


そして宴会時間。
改めてリカルドが仕切り”帝王として一言”と言われたが何も考えていなかった。
「諸君。今日は日頃の疲れを温泉で洗い流し、来たるべき計画に向けて存分に英気を養ってもらおう」

我ながら本当に簡単な挨拶だ。
大広間には円形に机が並べられ上下左右の差を無くしてある。
料理は旅館に入る店が作り、素材は獣王国の物で聖魔法王国風の調理法と味付けだ。
ワイルドさと繊細さを器に並べた美味しい料理が次々と出てくる。
獣人達も美味しそうに食べているがエルフ達の五人は驚きながら楽しそうに食べている。

そんな中、チャルタランとアミスターとグラナダがコソコソと話していた。
「先ほどは簡単な挨拶でしたが、あなたがフォーレさんの奥様ですか?」

以前フォーレに言い寄られた時に特別な匂いの元を嗅ぎつけたチャルタランがグラナダに問いかけた。
「嫌ですわ奥様だなんて。私達は”タダ”の同僚ですわよ」

多少酔っているが更に赤く頬を染めたグラナダが答えるが2人は聞いていない。
「大丈夫ですよ。私達は知っていますから」
遠回しに答えるアミスター。
「やっぱりバレてましたか」
自分の”所有物”と認めたグラナダに忠告する2人。

「でもお気をつけた方が良いのでは?」
「彼はモテそうですから」

2人に諫言かんげんされて気づくグラナダだった。
「ハッまさか、あなた達をイヤラシイ目で見ていたの?」

2人共にこやかに頷き答える。
「あの色魔しきまめぇ~」

一瞬グラナダの怒気で耳が角の様に見えた2人は激怒げきおこのグラナダをなだめ、これからも協力(通報)する事で獣人女同士の硬い仲間意識が出来上がった。

そんな事とは露知らず、ネブリナとカリマに料理店の話しや、エルフ国の料理店の事を聞きながら脳内はピンクな事で一杯のフォーレだった。

某王国の末っ子と獣人達は放って置いて、ガルガンダとリカルドに「俺は今日酔いつぶれるから、必ず2人が部屋に送って欲しい」と告げた。

何故そんな事をワザワザ言ったのか解らなかったが頷いた2人だ。
エルヴイーノは”あの2人”が居る限り、必ず襲って来る事を警戒し作戦を立てた。
名付けて”酔いつぶれ作戦”だ。
酔いつぶれたヤツは沢山見て来たが、まさか自分が望んで酔いつぶれる事を選ぶとは夢にも思わなかった。
2人が襲って来ると予測するのは理由が有る。

旅館エスピナが超高級旅館エスピナと呼んでいる様に超高級の由縁だが、部屋付のお世話係が付く事である。
”あのゴルフィーニョでの出来事”で思いついた事だ。
ブルデールからの派遣でも良かったが、必要としない者も居ると判断して、もしも気に入れば。
もしも手を出たら料金が跳ね上がる事にしたのだ。

ただし、この事はガルガンダとチャルタランとアミスターに旅館の従業員しか知らないし、今回はゲレミオでも独り者の部屋にしか配置していないからだ。
本来は男性客には女性の獣人で、女性客には男性の獣人だ。
夫婦などは女性の獣人が付く。
このお世話係は通常の御持て成しをする訳だが、別途の特別待遇も用意されている。
その特別待遇は各部屋に備え付けてある取扱い説明書を読んで指示してもらえば済む事だ。
何をするのかは、お客様の自由で暴力的な行動に言動や傷付ける行為以外は大丈夫だと”取説”に書いてある。
勿論一晩だ。

まさか、自分で設定した特別接待を逆手に取られて自らが襲われるとはシャレにならないし、最悪の場合も想定して女将達には近づかない様に考えた作戦だ。
転移するのは簡単だが、折角作った一番良い部屋に泊まりたいのだ。
それも久しぶりに1人で。
そう、エルヴィーノにとって1人で寝る事が今一番の贅沢なのだ。
まぁ所謂いわゆる無い物強請りなのは理解しているが、女将達を邪険にも出来ないので苦肉の策だ。


チャルタランとアミスターは開店前に帝國のお披露目会を行うと聞いた時から既に計画を立てていた。
長い間待ち、あきらめ、それでも忘れられなかった男が直ぐ側に来るのだ。
こんなチャンスを放って置く訳が無い。
帝王が泊まる部屋への侵入方法を幾つか考える2人。
扉の合鍵に、窓からの侵入方法。
天井や壁に穴を開けるなども考えたが後が大変なので、壊さずに済む方法は合鍵か窓を多少壊す位だった。

そして、えんもたけなわになり、計画通りエルヴィーノはフラフラになってガルガンダに背負われリカルドと一緒に自分の部屋に向った。

鍵を開けベッドに横たわると
「じゃ早く寝ろよ」
「お休みなさい」
2人に声を掛けられて静かになる部屋。
酔いが回って寝息を立てていたのだろう深い眠りの淵にいた。


そんなエルヴィーノを左右からベッドを挟んで見ている者の目が怪しく光った。







あとがき
何者かに襲われる俺。☆(16)
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