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第6章 棘城編2

第155話 セルビエンテ族

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ガトー族の街メレナから上流にあるセルビエンテ族が住むビボラ毒蛇の谷は険しい山や川沿いを数日かけて歩くしかないのだが、龍騎士隊であれば空を駆けて直ぐそこの距離だった。
龍騎士隊全員が慎重に山の頂上上空からゆっくりと降下するようにして一定の高さで川を下って行く。
川の両岸を見下ろし警戒するアベス族に、川と森の境界線を注意して見ているペロ族にプテオサウラ達だ。
記憶を辿って探すネル殿が森の中に小さな集落が有り目的のセルビエンテ族を見つけた。

「見ろ! あそこがセルビエンテ族の集落だ」
確認したので慎重に川を下って行く一行。

上空から一度見たので同じような容姿を探すだけだから簡単な事だと考えていた隊員達。
気流に乗りゆっくりと河口方面に移動するが1度目の飛行では確認できなかったので何度か往復飛行する事となる。

「おい! あそこを見ろ!」
アギラ族のアベントゥラが声を掛けて来た。

「居たぞぉ!」
凝視するペロ族が上空で旋回して知らせる。

河原と森の境界線を這うように進むセルビエンテ族を2体見つけた。
監視を付けて他にも居ないか探す一行。
1日がかりで周囲を見回った結果は数体が何かを探しているように河口に向い、ガトー族の縄張りまで来たら引き返して行くのを確認した。
その夜はセルビエンテ族に対抗する会議が開かれた。

族長の1人が不安そうに話す。
「セルビエンテ族を討伐出来ないのか? あんなのが居ては我らが安心して暮らせん」

難しい顔のネル殿が話す。
「そうは言っても、アレもこの国の部族だ。数年に一度誰かが犠牲になるが受け入れれば一生楽しく過ごせるのだろう? 何とか話し合いで解決できないモノか?」

「何度もこころみたぞ。その度に石にされとる」
溜息をついて答える族長。

「問答無用だ」
明らかに敵対の意思を示す他の族長もいた。
とはいえ、部族の討伐とは絶滅を意味する事なので、元獣王としては国全体の事を考えて対処しなければならなかった。

「討伐するかどうは、黒龍王に相談してみよう」
城での会議にかけようと考えたネル殿だった。
「頼むぞ、ライオネル」
「「「お願いします」」」

族長達からも熱心にお願いされ、おめかけさんのお願いは適当だが、今回の件に関しては昔からの問題なので”黒龍王なら”何とかしてくれるかも知れないと、安易な考えでいたネル殿だった。

一夜明けた翌日の夕方にはカスティリオ・エスピナに戻り、まずは”愛妻”に相談するネル殿だ。
相談の内容は2つで、1つはセルビエンテ族の事。
1つは黒龍王の力を他部族に少しだけ分ける事。
妻のアンドレアは間諜を使い自国内の事を調査していたので、おおよその事は把握していた。
もっとも、何度も女を連れて城に押しかけて来ていた種族達を追い返していたのはアンドレアなのだから、夫が訪問した際に言い寄って来るのは想定の範囲内だった。

「あなた、まさか承諾はしていないでしょうね?」
「もっ、勿論だとも。我が勝手な事をする訳が無い」
ジト目で見つめられるネル殿の額に汗が流れていた。

「それならば良いですけど」
「当たり前だ。ただ・・・」
「ただ何?」
「また、女どもを連れて城に来るらしい」
懲りない種族長達だと思い出していたアンドレアだった。

アンドレアはセルビエンテ族の事も十分知っていた。
何故なら自身もガトー族だから。
一族の女子供がセルビエンテ族と遭遇しても、一切手は出さず成人した男だけを攫って行くので、幼い頃に見た事があったのだ。
しかしながらセルビエンテ族も古い種族の1つで討伐するとなると躊躇ためらいがある。

「困ったわ。この件だけは黒龍王に相談しようかしら」
「ウム。我もそれが良いと思うぞ」
既に黒龍王が何とかしてくれると考えていたネル殿だ。



※Cerounodostrescuatrocincoseissieteochonuevediez



エルヴィーノは聖魔法王国アルモニアと獣王国バリエンテの国王だ。
しかし、国王しての実務に関しては一切関与しない事が条件で両国の御飾国王おかざりこくおうになった。
にもかかわらず最低週に一度はそれぞれの執務室に向い、書類に署名やら判子などを押す仕事が有る。
あくまでも国の重要な懸案に対しての事だ。
最終確認書類が来るまでに多方面が準備しての事だが仕方が無いと思っていた。
事実それだけなのだ。

実際に人族と獣人族の文字が読めないのだから。
妻か周りの者が読み上げて”分かった”とか”良いよぉ~”とか無言で署名するだけだ。
そして、たまに会議が有る。
急を要す重要な懸案が出た時だ。

(俺が居なくても良いんじゃない?) と思うが妻達に連れられて強制参加している。
そして今回はアンドレアからの連絡で会議に参加した。
アンドレアが呼び出す場合は用意周到に準備しての事だと認識していた。

今回の議題はセルビエンテ族と言う蛇の獣人一族が、他部族を攫うので討伐するかどうかを検討する会議だ。
エルヴィーノはずっと話を聞いていたが種族の生き残り? 生存競争? だし、犯罪では無いから何故そこまでするのか解らなかった。
しかし、ネル殿もアンドレアもガトー族なので、その恐ろしさを知っているようで討伐派だ。

セルビエンテ族に対する情報を聞いているが、他種族の者は余り関心が無いようだ。
セルビエンテ族が成人男性を誘拐するのは繁殖の為(羨ましいと思ったが口には出さない)だし、繁殖の相手は一生だと言う。
逃げようとしたり、抵抗すると恐ろしい石化の魔法で石にされてしまうそうだ。
過去の歴史の中で何度も和解や交渉を試みたが一度も会話した事は無く、数年に一度は繁殖の為に男を探して街に近づくらしく最近目撃者が出たらしい。

一通り説明が終わって沈黙の皆に確認した。
「それって、言葉が通じないからだろ?」
「石化の魔法を使われるから近づけないのだ」
「それで、過去は殺し合いになったのか」
「その通りだ」

黒龍王とネル殿の会話を聞いている一同。
だからと言って自分の意見で種族の存続が左右する事も無いと思っていたがアンドレアの一言で変わった。

「ねぇ黒龍王。なんとか出来ないかしら?」
「おぉ黒龍王ならば、きっと何とかしてくれるぞ」

部外者の種族の者達が、エルヴィーノになすり付けようとしていると思えたが、単に魅力で過剰に偉大な王と思っているだけだと後から思った。

「しかしだなぁ」
腕を組み、目を閉じて考えているフリをして”ある男”と念話していた。


(コラソン、聞こえるかコラソン!)
(ハイハイ聞こえていますよ。モンドリアンさん)
(実はちょっと確認したい事が有ってさ)
(はい何でしょう)
(この棘の腕輪は状態異常を受け付けないって言ったよな?)
(そうですよ)
(石化の魔法はどうなんだ?)
(まったく問題ありません。石化の魔法だろうが毒の沼を泳ごうが大丈夫です)
(良かったぁ。実は面倒な事が有ってさ)
(どうしたのですか?)
(セルビエンテ族ってのが居て、共存出来ないなら討伐すると騒いでいるんだよ)
(なるほどなるほど)
(俺は翻訳魔導具があるから話をしに行こうと思ったけど石にされるって言われてさ)
(そうでしたか。1人で行くのですか?)
(そうだよ)
(ではフィドキアの”背に乗り”向かった方が良いですね)
(ええぇ~何でそんな面倒な事を?)
(かの種族は大昔の実験で男子が産めなくなったのですよ)
(実験は知らないけど、聞いた)
(それでも古い眷族の1つなので私からもお願いします)
(眷族って事はプテオサウラと同じ?)
(少し違いますが、大きな枠で考えるとそうです)
(まぁ取りあえず会って来るか)
(お願いしますね、モンドリアンさん)


ゆっくりと目を開けると、全員が黒龍王を見ていた。
「仕方が無い。俺が行こう」
「「「おおおっ」」」
会議室が異様に盛り上がった。

「黒龍王よ、行くと言っても石化の魔法はどう対処するのだ?」
ネル殿が心配してくれた。
「大丈夫。俺に考えが有るから」
腕輪の事は秘密だ。

翌日の明け方。
コラソンの指示通りフィドキアを召喚して一緒に現地に向う。
一応、住民に配慮して騒ぎにならない様に明け方にしたのだが街を見下ろせば、かなりの獣人達が空を見上げていた。

(なぁフィドキア)
(何だ)
(セルビエンテ族の事だけど)
(ウム、お前に任せる)
(あのな、任せるって言ったって)
(後の事は気にせず、お前の好きにするが良い)

溜息をついてフィドキアの背で寝そべり空を眺めていた。
暫くすると咆哮を発するフィドキアが上空を旋回していると、既に目的地で下に小さく見える集落に広場に出て来てわめいてるセルビエンテ族達が居た。
巨大なフィドキアが集落の近くに降り立ち、巨大な頭を広場に近づけるとエルヴィーノはフィドキアの頭から飛び降りてセルビエンテ族達の前に立った。






あとがき
ニャーの次はシャー。
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