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第7章 レース編

第190話 レース後の天国と地獄

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最後の2人をゴール地点で待ち構えていた関係者達。
規定内容は全員知っているので、2人は失格だが最後までゴールする情熱に関係者は拍手を送っていた。
だが、極一部の女性達は腕組みをして睨みつけていた。

眉間にシワを寄せ冷酷非情な目で見ていた2人が話し合っていた。
「アンドレアさん」
「どうされました? プリマベラさん」
「ちょっと、お話が有りますの」
ピンと来たアンドレア。
「私も相談したい事がありますので、部屋に行きましょう」
そう言って2人は城内に消えて行った。

レース結果は1位(3,フリオ・カデラ)。
2位は同着で(2,カミラ)と(9,ビエルナス)。
4位(6,ブオ)。
5位(1,ローガン)。
6位(8,カニーチェ)。
7位(5,バスティアン)。
(4,リアム)と(7,ネル)は失格。
カミラとビエルナスは同着で互いに譲り合ったが、最初に声を掛けたのがカミラだったので順位を決めた委員会だ。
そして当り券は単券3。
双券3、2。
連券3、2、9となった。

まだ、日の高い内に結果が分かり各国では大騒ぎだった。
一部の関係者達は計算に追われていた。
掛け金に対する倍率が結構高いからだ。
当初どこの国もバスティアンが優勝候補で間違いないと思っていたからだが、所が蓋を開けてみると予想だにしていなかったエルフが1位2位で女性が2位3位なのだ。
各国も可能性は低いとして多めの倍率にしていたのだった。

祝賀パーリーまでには各国の集計が出そろい王族に送られた。
そして、各国のレース券販売所には張り紙が出されていた。
”単券、双券で数枚であれば販売所で換金するが所定の金額以上の場合は王城の専用受付での換金となる”。
連券を数枚買った者は数十年遊んで暮らせるだろう。
当選者にもよるが一生生活に困らない金額なのだ。
したがって王城での手続きも厳重になる。
まずは偽造などの不正を調べる。
これは専用の魔導具に照らせばオスクロ・マヒアが反応すれば本物だ。
メディテッラネウスとバリエンテでは一度に出す金額の制限をした。

敵対種族に悪用されない為である。
アルモニアは国内で使える魔導カードが渡されて、加盟店であれば限度額まで使用可能なのだ。
そしてエルフ好きや、女好きなのか解らないが各国で数十人が連の当り券を持って来たと言う。

そして、伝説は始まったのだ。
同族以外から見れば成人前の子供と、種族を越えて同性で協力し合う者達。
魔弾を撃たれても身を挺して仲間を守る行動に称賛の声と拍手が送られた。
祝賀パーリーは大賑わいで、その内容はカミラとビエルナスとバスティアンの戦いで持ち切りだった。
獣人族の間ではビエルナス派とカミラ派が出来ているようだった。
ビエルナスは同族のガトー族に圧倒的な指示を受けているようで、カミラは種族を問わず男が目立つ。と言うか、間違い無く男ばかりだ。
少数派だがフリオとバスティアンにも支持者がいる様だ。

大盛況のパーリー会場で一部どんよりとしている2人が居た。
ゴールした少しあと、召使いから声を掛けられる。
「奥様がお呼びですので、どうぞこちらへ」
瞬時に血の気が引いていく2人は譲り合う。
「おい呼ばれているぞ」
「お前だろ?」
牽制し合う2人に無情な召使いの言葉が聞こえた。
「御2人共です」
「「・・・」」

冷や汗を流し黙って付いて行く2人だった。
居住区の共同応接室に連れてこられた2人は扉を開けると脇に嫌な汗が流れた。
ソファに座っていたのは銀髪の婦人と金髪の婦人が微笑みを浮かべていたのだ。

「今回の二人が行なった結果に関して私達は厳罰を考えています」
「ちょ、チョット待ってくれ」
プリマベラとリアムだ。

「お静かに。この件に関しては国王や親族の援助は一切出来ません」
「既に私達に協力し、あなた達に援助しないと承諾をもらっています」
「ムグゥ」
アンドレアが説明しネルが何か言いかけだが口ごもる。

「とは言っても、今日は国民も含めて祝賀会も有りますし、明日の朝からは関係者でレース結果の反省会が有りますから」
「あなた達の罰は明日の午後から執行しようと思っています」
プリマベラとアンドレアが交互に話してくる。
ニコニコと微笑みながら話しかけてくる妻達は目が笑っていなかった。
逆にそれが恐ろしかったリアムとネルは直ぐに降参したのだった。

会場ではカミラとビエルナスとバスティアンが話していた。
「まさか共闘して来るとは思わなかったぞ。2人には本当に良い経験を教わった」
優勝候補に褒められて照れる2人だ。
「来年はこうわ行かんからな。次回が楽しみだ」
そう言ってフリオの隣に行った。
(ねぇねぇカミラ) 
(何ぃビエルナス) 
(バスティアン怒ってるよね)
(大丈夫よ。前回も同じだったから)
(ふぅぅん)
心配性のビエルナスに、もう慣れたカミラだった。

「フリオ・カデラ。優勝おめでとう」
握手を求めて来たバスティアンだ。
「あ、ありがとうございます。でも運が良かっただけですから」
「フフフッその運を持っているから君は強いのさ」
照れるフリオ。
「どうだろう、我が国の龍戦隊に志願しては? 我らは常時ブロエ・マルシベーゴォに乗り訓練しているからな、更に上達するぞ」
そんな話しを聞いていた男が割り込んできた。
「それは聞き捨てならんな。彼は我が国の期待の新人であるからしてご遠慮願おうか」
頑固者のローガンだ。
「確かにフリオの操作は群を抜いている。我ながら驚いたほどだ。評価して頂くのは嬉しいが他国の軍に派遣となるとそうはいかん」
「まぁまぁ、バスティアン殿もそれだけ認めたと言う事ですよ」
マズイと思ったブオがすかさず間に入る。
「兎に角フリオ・カデラよ。おめでとう。そして又会おう」
そう言ってバスティアンは席に戻った。

バスティアンの一件でローガンはヤル気になってしまったのだ。
それは教官として後継者達を育成する事だ。

(国に戻り、国王に説明してフリオとカミラを筆頭にして募集をすれば・・・ククククッ) 
ローガンの思考は別世界に行ってしまった。

そんなエルフのおっさんを横目にフリオは動いた。
「カニーチェ、今回は色々教えてもらったよ。本当にありがとう」
そう言って手を差し伸べた。
「お、おめでとうカデラさん。僕は残念な結果に終わったけど、次回は一位を目指しますから」
ガッシリと握手し健闘を称えあった。

そんな2人を遠くから見て涙ぐむエルフが1人居た。
”今夜は自粛しなさい”とあるじから命令が有ったので遠くから見守るだけだった。
このパーリー会場には急遽ブリンクス伯爵家の奉公人全員がペンタガラマに転移して祝っていた。
当家の者が2人も入賞し一位二位を独占したのだからロザリーの鼻が更に高くなっていた。

ロザリーの満面の笑顔を見て嫉妬の炎を燃やす女が2人居た。
1人は楽しみにしていたレースで国からは1人しか入賞出来なかったが、赤らまさに喜びを振りまいている姿を見ていると、ふつふつと込み上げるモノが解った。
そしてもう1人は激オコだ。
それはロザリーに対してでは無い。
選手達三人に対してだ。
ブオはそれでも健闘した方だろう。
バスティアンは期待していただけにショックだが攻防を見聞きする限り、悔しいが納得した。
だが許せない者が居た。
それは失格になった2人だ。

銀髪の女性は「もっと考えてくれればいいのに!」
桃色の髪の女性は「もう絶対に許さないから!」
2人はそれぞれの母親に相談しに行った。

そんな女性達を余所に、この数日間忙しかったエルヴィーノだ。
しかし仕事では無い。
立場上中立として運営委員会で多少マルソ殿と打ち合わせはしたが違う事で忙しかった。
それはバリアンテで影の支配者アンドレアに許可を取り、何の気兼ねも無く魔精を求めてくるペルフメと便乗するチャルタランと乱戦を行なった後、”全てを知る”紫の髪に蹂躙される毎日だ。
当然夜は正妻達に身も心も捧げて奉仕する。
それ以外の外出は一切出来ないのだ。

ふと(俺ってずっと性奴隷なのかなぁ)と思ってしまった。
決して嫌な訳では無いが、本来の目的に向う事が出来ずにいる自分が情けなくなる。
快楽に溺れている自覚は有るのだが諸事情がエルヴィーノを自由にさせてくれなかった。

表彰を行い、選手たちの活躍を称え、年に一度の開催を約束し、各国で早期に選抜大会を開く事を宣言して式典は終了した。

その後、ラ・ノチェ・デル・カ夜の帝國城スティリオ・インペリオでは主要関係者に明言した。
「各国責任者が中心となって体制を整えて欲しい。情報は共有する事で土台作りを早めれば、地方レースも自ずと早くなるだろう。結果、ゲレミオの収益に繋がるのだ。良いな、諸君」
「「「ハハッ」」」







一応無事にお開きになりました。
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