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この男は動じない。
ならば、怒るだけその労力が無駄になるじゃないか。平常心平常心。
「着替えるので個室から出て下さい。部屋からも出て、帰ってくれていいですよ? と言うか、帰って下さい」
「嫌だと言ったら?」
「追い出します!」
会長の背を押して、個室から出てもらい、部屋からも出そうとする。
「わかった。部屋の外の廊下で待っている」
「待たないで下さい」
「ユーリ、そんなに俺が憎いか?」
「憎い? いえ、憎いことはありませんが……って」
「なら、いいよな」
「え、よくありません!」
会長は一人で納得している。
僕は入る学校を間違えてしまったらしい。でも魔力のある子供はみんなこの学園だったり、それ相応の学校に入るんだけどね。貴族の子供はほとんどこの学園に入っている。
もし未来がわかったのならば、この学園には入らなかった。それだけは確かだ。
会長は帰ってくれそうにはないし、これ以上会長の相手をしていても朝の貴重な時間がなくなってしまうので、仕方なしに自分の個室に戻る。
昨日も部屋まで送ると聞かない会長に押し切られる形で寮の部屋を知られてしまったし、まだうまい御し方が掴めないのだ。
この先もこの勢いで来られたら、どうしよう。
いや、やめとこう。そうなりそうで怖い。
僕は壁にかけていた制服を一枚ずつ取って、着替え始める。
今日から朝の畑の水やりもある。ゆっくりしていられないし、厄介な人が一人増えたくらい、目をつぶるしかない。
「よし」
部屋の共有部分では朝の支度を終えたノアがソファに腰掛けていた。
「準備出来た? ご飯食べに行こっか」
「うん。生徒会長も一緒だけど、いい?」
「俺は気にしないけど」
懐の深い同室者で助かる。朝食を食べるだけだし、人当たりの良いノアが目をつけられることはないと思うけど、会長はもっと自分の影響力というものを考えて欲しい。
万が一も有り得ますからね。
「早かったな。ここ、寝癖ついてる」
廊下に出ると会長が宣言通り待っていた。僕の寝癖に気が付いて、手と水魔法と風魔法で直してくれる。
「あ、ありがとう……ございます」
「うん。ユーリからお礼を言われるのもいいな」
柔らかく笑む会長を見て、なぜか心臓がどくんと跳ねた。
どうした、僕の心臓。きっと気の迷いだ。
「ところで、二人はいつから知り合いなんですか? 随分仲が良さそうですけど」
「き、昨日だよ」
「俺の一目惚れで、迫ったら拒否された」
ノアがちょっと不機嫌そうに質問してくる。会長は前世のことは言わずに、一目惚れということにするらしい。賢明な判断だと思うけど、平凡な僕に一目惚れか。むむ。
「一目惚れしていきなり迫ったんですか。そりゃ嫌がられますよ」
「早く俺を認識して欲しくてな。余裕がなさ過ぎたと反省はしている」
「反省してこれですか。まだ付き合うことも了承してないのに」
付き合いたてのカップルなら、ひと時も離れたくないなんてこともあるかもしれないけど、僕と会長は友達ですらない。精々顔見知り程度だ。
それなのにこの纏わりつきぶり。前世を引きずってる証拠だろう。
それにもし、もし例えば僕と会長が付き合ったりしたとしても、僕との温度差は避けては通れないだろう。
それで幸せって言えるのかな、この人は。
もしかして、それを手懐けるのがいいとか言わないよな……。
「だから、お互いを知ることから始めよう」
「僕は会長の事知りたくありません」
「失策が響いてますね」
「直感的な好き嫌いはともかく、まずはお互いを知らなければ情も生まれてこないだろ?」
「だから情を持つ気もないんですってば」
人間に転生して少しは情緒が育ったのかもしれないが、絆されたくもない。
敵は手強い。
それがわかっただけでも良しとしよう。じゃないとメンタルがもたない。
ならば、怒るだけその労力が無駄になるじゃないか。平常心平常心。
「着替えるので個室から出て下さい。部屋からも出て、帰ってくれていいですよ? と言うか、帰って下さい」
「嫌だと言ったら?」
「追い出します!」
会長の背を押して、個室から出てもらい、部屋からも出そうとする。
「わかった。部屋の外の廊下で待っている」
「待たないで下さい」
「ユーリ、そんなに俺が憎いか?」
「憎い? いえ、憎いことはありませんが……って」
「なら、いいよな」
「え、よくありません!」
会長は一人で納得している。
僕は入る学校を間違えてしまったらしい。でも魔力のある子供はみんなこの学園だったり、それ相応の学校に入るんだけどね。貴族の子供はほとんどこの学園に入っている。
もし未来がわかったのならば、この学園には入らなかった。それだけは確かだ。
会長は帰ってくれそうにはないし、これ以上会長の相手をしていても朝の貴重な時間がなくなってしまうので、仕方なしに自分の個室に戻る。
昨日も部屋まで送ると聞かない会長に押し切られる形で寮の部屋を知られてしまったし、まだうまい御し方が掴めないのだ。
この先もこの勢いで来られたら、どうしよう。
いや、やめとこう。そうなりそうで怖い。
僕は壁にかけていた制服を一枚ずつ取って、着替え始める。
今日から朝の畑の水やりもある。ゆっくりしていられないし、厄介な人が一人増えたくらい、目をつぶるしかない。
「よし」
部屋の共有部分では朝の支度を終えたノアがソファに腰掛けていた。
「準備出来た? ご飯食べに行こっか」
「うん。生徒会長も一緒だけど、いい?」
「俺は気にしないけど」
懐の深い同室者で助かる。朝食を食べるだけだし、人当たりの良いノアが目をつけられることはないと思うけど、会長はもっと自分の影響力というものを考えて欲しい。
万が一も有り得ますからね。
「早かったな。ここ、寝癖ついてる」
廊下に出ると会長が宣言通り待っていた。僕の寝癖に気が付いて、手と水魔法と風魔法で直してくれる。
「あ、ありがとう……ございます」
「うん。ユーリからお礼を言われるのもいいな」
柔らかく笑む会長を見て、なぜか心臓がどくんと跳ねた。
どうした、僕の心臓。きっと気の迷いだ。
「ところで、二人はいつから知り合いなんですか? 随分仲が良さそうですけど」
「き、昨日だよ」
「俺の一目惚れで、迫ったら拒否された」
ノアがちょっと不機嫌そうに質問してくる。会長は前世のことは言わずに、一目惚れということにするらしい。賢明な判断だと思うけど、平凡な僕に一目惚れか。むむ。
「一目惚れしていきなり迫ったんですか。そりゃ嫌がられますよ」
「早く俺を認識して欲しくてな。余裕がなさ過ぎたと反省はしている」
「反省してこれですか。まだ付き合うことも了承してないのに」
付き合いたてのカップルなら、ひと時も離れたくないなんてこともあるかもしれないけど、僕と会長は友達ですらない。精々顔見知り程度だ。
それなのにこの纏わりつきぶり。前世を引きずってる証拠だろう。
それにもし、もし例えば僕と会長が付き合ったりしたとしても、僕との温度差は避けては通れないだろう。
それで幸せって言えるのかな、この人は。
もしかして、それを手懐けるのがいいとか言わないよな……。
「だから、お互いを知ることから始めよう」
「僕は会長の事知りたくありません」
「失策が響いてますね」
「直感的な好き嫌いはともかく、まずはお互いを知らなければ情も生まれてこないだろ?」
「だから情を持つ気もないんですってば」
人間に転生して少しは情緒が育ったのかもしれないが、絆されたくもない。
敵は手強い。
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