30 / 64
第三十話 刀を求めて異人街へ
しおりを挟む
迷宮に潜る。
そうルリが口にしたとき、扉の外からノックする音が聞こえてきた。
「失礼、邪魔させてもらうよ」
やがて扉がゆっくりと開き、ある人物が部屋の中に入ってくる。
赤猫と同じく、動きやすそうなシャツとズボン姿の男。
ファングであった。
「お疲れ様ッす。もう全部の魔核の回収は済んだんッすか?」
「いや、さすがに人手が足りないから冒険者ギルドに応援を出したところだ」
「五十匹のゴブリンと十匹のオーク、それにギガントエイプの魔核やからな。取り出す作業も一苦労やろうし、生き残った連中は犠牲者の弔いもせなあかん。冒険者ギルドに応援を出したのは正解やと思うで」
ルリがうんうんと頷くと、ファングは「ギガントエイプの魔核は駄目だった」と溜息混じりに言った。
「ゴブリンとオークの魔核はほとんど無事だったんだが、肝心のギガントエイプの魔核は頭部の中にあったらしくてな。見つけたときには一部が欠けていた状態だった。当の本人の前で言うことではないのだが、別の場所を斬ってもらえたら無傷の状態で魔核が手に入ったかもしれない」
「おいおい、そんな言い方はないやろ。オッサンがギガントエイプを斬ってくれたお陰でうちらの命は助かったんや。確かに街災級の魔物の魔核が手に入らんかったのは惜しかったけど、オッサンも魔核を斬りたくて斬ったわけやないと思うで」
「その点は俺も承知しているさ。彼が命を懸けてギガントエイプと闘ってくれたこともだ。ただ、それらを踏まえても街災級の魔物の魔核が無傷で手に入らなかったのは惜しい。さすがに学院の連中も破損している魔核は欲しがらないからな」
「それはそうや。学院の連中もただの鉱物になった魔核に大金を払うほど研究費があるわけやないからな。ましてやゴブリンやオークなんかの魔核は連中にとって希少価値があるわけやないし……残念やけどギガントエイプの破損した魔核を欲しがるのは物好きな収集家か、良くて異人街の鍛冶師ギルドの連中くらいか」
このとき、武蔵の目の色が明らかに変わった。
武蔵には迷宮や魔核という言葉の意味は分からなかったが、その中でも自分が知る言葉があったことを聞き逃さなかったからだ。
鍛冶師、という言葉をである。
「一つ聞きたい。この国に刀を打てる刀工は何人いる?」
こればかりは知っておかなければならないことであった。
現在、武蔵には頼りにすべき得物がない。
小刀は目の前で巨猿に叩き折られ、あれから見てはいないが〈無銘・金重〉もおそらく無事ではないだろう。
さすがに折れてはいないだろうが、下手をすれば刀身に曲がりやねじれが生じているかもしれない。
武蔵はせめて〈無銘・金重〉は無事であってほしいと思った。
もしも刀身に曲がりやねじれがあれば刃筋が通らなくなり、相手を上手く斬ることができなくなる。
それは即ち、相手に不意な反撃をされる可能性が高くなるということだ。
だからこそ、武蔵は〝剣〟ではなく〝刀〟を打てる刀工と会いたかった。
理由は当然ながら折れた小刀の代わりの刀が欲しいということと、もう一つは弟子である伊織の大小刀も手に入れたいからである。
だが、この異世界に日ノ本のような刀を打てる刀工はいるのか?
おそらく、刀を打てる刀工はいると武蔵はある人物を見て思っていた。
ルリである。
今は襦袢のような衣服を着ているが、初めて会った昨日は日ノ本の着物に似た衣服を着ており、なおかつ刀に非常によく似た刀身の仕込み杖を持っていたのだ。
「刀工って大倭国の刀を打てる鍛冶師のことか? それなら異人街におるで。なんせうちの仕込みも異人街の刀工に打ってもらった特注品やからな」
(やはり、いるのか!)
武蔵の胸中に希望の光が灯った。
この際、著名な刀工が打った刀などという贅沢は言わない。
せめて刀身に曲がりやねじれ、研ぎにムラがない真面目な作刀が手に入ればそれだけで満足であった。
武蔵は真剣な眼差しをルリに向ける。
「ロリよ、すまんがその刀工のところへ案内してくれんか?」
「誰がロリやねん! うちの名前はルリやっちゅうとるやろうが! 名前を憶えてくれんのやったら、どこにも案内せえへんぞ……っていうか、オッサンらはまったく金がないんやろ。せやったら、刀工のところに行く前にやっぱり迷宮に潜るんが先――」
そのとき、ルリは大きく目を見開いた。
「そうや、金やったらゴブリンとオークの魔核を売ればええやないか。ほとんど無傷で手に入ったんなら、あれだけの数の魔核なら売れば一財産やろ」
「残念ながらそれは無理ッすよ。確かにゴブリンとオークの魔核を売れば数が数なんでそれなりの金額になるッすけど、武蔵さんたちは冒険者章のない等級なしッすからね……規定上の関係で等級なしの武蔵さんは今回の任務での分け前は得られないッす。本当に申し訳ないんッすが」
構わん、と武蔵は赤猫に声をかける。
「俺が今回の戦に参加したのは、元より金のためではなく人としての義のためだ。お主が気に病むことはない」
とはいえ、さすがの武蔵もこのときばかりは表情を曇らせた。
(さて、どうするか……)
これが自分一人だったのならば、あまり悩まずに済む話だった。
金が無くとも山の中で獲物を仕留めて生き長らえるか、どうしても金が必要になるのなら人足仕事などを見つけて汗水を流せばいい。
武蔵はちらりと伊織を見た。
しかし、今は宮本伊織という女子を弟子にしている身だ。
どのような形であれ弟子として認めた以上は、伊織を〝一人前の兵法者〟に育てるのが師である自分の役目であり責任だと武蔵は思っている。
そうなると、やはり先決なのは伊織の大小刀を手に入れることに尽きるだろう。
大小刀がなければ自分の身を守れないどころか、円明流の技を教えることも満足にできない。
それに伊織が大小刀を持つことにより、自分の対人稽古の相手も務められる。
また冒険者として仕事をすれば、実戦を経験させつつ路銀も手に入るとまさに一石二鳥であった。
だからこそ、まずは何としてでも刀を手に入れるための金がいる。
(あまり気乗りはせぬが、いざとあらば道場破りの一つや二つせねばならんか)
などと武蔵が考えをめぐらせたときだ。
ルリは「すっかり忘れとったわ」と頭を掻いた。
「そう言えば、オッサンらは冒険者章のない等級なしやったな。せやったら迷宮に潜る前に冒険者章を取るのが先なんやけど、どのみち冒険者章を取る試験にも武器がいるかもしれんし……」
数秒後、ルリは「しゃあないな」と大きく柏手を打った。
「オッサンらの刀の代金はうちが持ったるわ」
このルリの提案に、驚きの声を上げたのは赤猫であった。
「熱でも出てきたんッすか。あんたが他人の武器の代金を払うなんて信じられないッす……まさか、よからぬことでも企んでいるんッすか?」
「あほか、何も企んでいることなんてあるかい。これはちゃんとした善意や。うちの大事な取り引き先の修道院を守ってくれた礼に決まってるやろ」
ただな、とルリは満面な笑みを浮かべながら両手をこすり始める。
「もしもオッサンがうちの善意に少しでも恩を感じてくれるゆうんなら、冒険者章を取って迷宮に潜るときには是非ともうちを一緒に連れて行ってほしいんや」
「構わんぞ」
武蔵はあっさりと即答した。
「刀の代金を肩代わりしてくれるというのなら、こちらとしては願ってもいないことだ。そのだんじょんとやらもどういう場所かは分からぬが、俺たちに必要な場所と言うのならばともに行こうではないか」
「待つッす、武蔵さん。こいつのは善意じゃなくて思いっきり私欲ッすよ。こいつは武蔵さんと一緒に迷宮に潜って財宝やレアアイテムを手に入れたいだけッす」
「それでも構わん。善意だろうと私欲だろうと、金を出してくれること自体が今の俺たちにはありがたいことだ」
ルリよ、と武蔵は今度こそ名前を間違わなかった。
「案内してくれ。その異人街とやらの刀工の元へ」
「商談成立やな。ほな、一息ついたら出発しようか。それともまだ休んでたほうがええか?」
「手足が折れているわけでもないのだ。俺のことは気遣い無用。それよりも――」
武蔵は伊織の方へ顔を向けた。
「お主のほうはどうなのだ。怪我の具合はもうよいのか?」
「私は大丈夫です……それで、お師匠様。刀と聞いて思い出したんですけど」
伊織は「少しお待ちください」と武蔵に頭を下げ、そのまま部屋を出ていった。
ほどしばくして、伊織は大事そうに二本の大小刀を抱えて帰ってきた。
二本ともきちんと鞘に納められた、武蔵の大小刀である。
「見せてみよ」
伊織から大小刀を受け取った武蔵は、まずは小刀を鞘から抜いた。
やはり小刀は真ん中の部分からへし折れている。
こうなってしまっては刀としての役目は果たせない。
けれども、小刀に関しては分かっていたことなので大きな落胆はなかった。
問題だったのは大刀のほうである。
武蔵は折れた小刀を鞘に納めると、今度は大刀――〈無銘・金重〉をすらりと抜いた。
(よくぞ、無事でいてくれた)
武蔵は〈無銘・金重〉を見て、心の底から安堵の息を漏らした。
〈無銘・金重〉は折れてはいなかったのである。
しかし、もしかすると刀身に曲がりやねじりが生じているかもしれない。
武蔵は両眼の間に刀を立て、刀身に曲がりやねじれがないか確認していく。
「まだ俺にも運があるようだ。この金重さえ無事ならば、大抵のことはどうにでもなる」
〈無銘・金重〉の刀身に曲がりやねじれは生じてはいなかった。
さすがは幾多の修羅場をともに潜り抜けてきた愛刀である。
武蔵は大刀を鞘に納め、刀工の場所を知っているルリに視線を移す。
「待たせたな。俺のほうはいつでも行けるぞ」
ルリはこくりと頷いた。
「そうか。ほな、ここの後始末は他の者に任せて、うちらは準備を整えたら向かおうか」
などと話がまとまったとき、赤猫が「武蔵さん、私も一緒に行くッす」と話に割り込んできた。
「はあ? 何でお前がついてくるんや?」
「当たり前じゃないッすか。私は師父(お師匠)からお二人の面倒を看るよう言われてるッすよ」
「それは討伐任務が終わるまでの話やろ。せやったら、ここら先はお役目ごめんとちゃうんか。それに、お前は冒険者としてきちんと事後処理をせなあかんで」
「彼女の言う通りだ。君には任務に当たった冒険者として、俺らと一緒に後始末をしてくれないと困る」
先輩の冒険者であるファングに言われてはどうしようもなかったのだろう。
赤猫は渋々と了承するように、やがて小さく首を縦に振った。
「わ、分かったッす。でも、武蔵さん。新しい武器を手に入れたあとには、必ず冒険者ギルドに来てほしいッす。そのときは私が責任を持って冒険者登録や試験の案内をさせてもらうッすから」
「ああ、そのときはよろしく頼みたい」
武蔵は赤猫に軽く頭を下げ、持っていた大刀の鞘を強く握った。
早く異世界の刀工が打った刀を見てみたい、と武蔵は期待に胸を躍らせたのだ。
やがて武蔵、伊織、ルリの三人はキメリエス女子修道院をあとにする。
けれども、このときの武蔵は知らなかった。
自分がこれから向かう異人街と呼ばれる場所が、アルビオン王国の中でも暗部と呼ばれるほどの無法地帯だということを――。
そうルリが口にしたとき、扉の外からノックする音が聞こえてきた。
「失礼、邪魔させてもらうよ」
やがて扉がゆっくりと開き、ある人物が部屋の中に入ってくる。
赤猫と同じく、動きやすそうなシャツとズボン姿の男。
ファングであった。
「お疲れ様ッす。もう全部の魔核の回収は済んだんッすか?」
「いや、さすがに人手が足りないから冒険者ギルドに応援を出したところだ」
「五十匹のゴブリンと十匹のオーク、それにギガントエイプの魔核やからな。取り出す作業も一苦労やろうし、生き残った連中は犠牲者の弔いもせなあかん。冒険者ギルドに応援を出したのは正解やと思うで」
ルリがうんうんと頷くと、ファングは「ギガントエイプの魔核は駄目だった」と溜息混じりに言った。
「ゴブリンとオークの魔核はほとんど無事だったんだが、肝心のギガントエイプの魔核は頭部の中にあったらしくてな。見つけたときには一部が欠けていた状態だった。当の本人の前で言うことではないのだが、別の場所を斬ってもらえたら無傷の状態で魔核が手に入ったかもしれない」
「おいおい、そんな言い方はないやろ。オッサンがギガントエイプを斬ってくれたお陰でうちらの命は助かったんや。確かに街災級の魔物の魔核が手に入らんかったのは惜しかったけど、オッサンも魔核を斬りたくて斬ったわけやないと思うで」
「その点は俺も承知しているさ。彼が命を懸けてギガントエイプと闘ってくれたこともだ。ただ、それらを踏まえても街災級の魔物の魔核が無傷で手に入らなかったのは惜しい。さすがに学院の連中も破損している魔核は欲しがらないからな」
「それはそうや。学院の連中もただの鉱物になった魔核に大金を払うほど研究費があるわけやないからな。ましてやゴブリンやオークなんかの魔核は連中にとって希少価値があるわけやないし……残念やけどギガントエイプの破損した魔核を欲しがるのは物好きな収集家か、良くて異人街の鍛冶師ギルドの連中くらいか」
このとき、武蔵の目の色が明らかに変わった。
武蔵には迷宮や魔核という言葉の意味は分からなかったが、その中でも自分が知る言葉があったことを聞き逃さなかったからだ。
鍛冶師、という言葉をである。
「一つ聞きたい。この国に刀を打てる刀工は何人いる?」
こればかりは知っておかなければならないことであった。
現在、武蔵には頼りにすべき得物がない。
小刀は目の前で巨猿に叩き折られ、あれから見てはいないが〈無銘・金重〉もおそらく無事ではないだろう。
さすがに折れてはいないだろうが、下手をすれば刀身に曲がりやねじれが生じているかもしれない。
武蔵はせめて〈無銘・金重〉は無事であってほしいと思った。
もしも刀身に曲がりやねじれがあれば刃筋が通らなくなり、相手を上手く斬ることができなくなる。
それは即ち、相手に不意な反撃をされる可能性が高くなるということだ。
だからこそ、武蔵は〝剣〟ではなく〝刀〟を打てる刀工と会いたかった。
理由は当然ながら折れた小刀の代わりの刀が欲しいということと、もう一つは弟子である伊織の大小刀も手に入れたいからである。
だが、この異世界に日ノ本のような刀を打てる刀工はいるのか?
おそらく、刀を打てる刀工はいると武蔵はある人物を見て思っていた。
ルリである。
今は襦袢のような衣服を着ているが、初めて会った昨日は日ノ本の着物に似た衣服を着ており、なおかつ刀に非常によく似た刀身の仕込み杖を持っていたのだ。
「刀工って大倭国の刀を打てる鍛冶師のことか? それなら異人街におるで。なんせうちの仕込みも異人街の刀工に打ってもらった特注品やからな」
(やはり、いるのか!)
武蔵の胸中に希望の光が灯った。
この際、著名な刀工が打った刀などという贅沢は言わない。
せめて刀身に曲がりやねじれ、研ぎにムラがない真面目な作刀が手に入ればそれだけで満足であった。
武蔵は真剣な眼差しをルリに向ける。
「ロリよ、すまんがその刀工のところへ案内してくれんか?」
「誰がロリやねん! うちの名前はルリやっちゅうとるやろうが! 名前を憶えてくれんのやったら、どこにも案内せえへんぞ……っていうか、オッサンらはまったく金がないんやろ。せやったら、刀工のところに行く前にやっぱり迷宮に潜るんが先――」
そのとき、ルリは大きく目を見開いた。
「そうや、金やったらゴブリンとオークの魔核を売ればええやないか。ほとんど無傷で手に入ったんなら、あれだけの数の魔核なら売れば一財産やろ」
「残念ながらそれは無理ッすよ。確かにゴブリンとオークの魔核を売れば数が数なんでそれなりの金額になるッすけど、武蔵さんたちは冒険者章のない等級なしッすからね……規定上の関係で等級なしの武蔵さんは今回の任務での分け前は得られないッす。本当に申し訳ないんッすが」
構わん、と武蔵は赤猫に声をかける。
「俺が今回の戦に参加したのは、元より金のためではなく人としての義のためだ。お主が気に病むことはない」
とはいえ、さすがの武蔵もこのときばかりは表情を曇らせた。
(さて、どうするか……)
これが自分一人だったのならば、あまり悩まずに済む話だった。
金が無くとも山の中で獲物を仕留めて生き長らえるか、どうしても金が必要になるのなら人足仕事などを見つけて汗水を流せばいい。
武蔵はちらりと伊織を見た。
しかし、今は宮本伊織という女子を弟子にしている身だ。
どのような形であれ弟子として認めた以上は、伊織を〝一人前の兵法者〟に育てるのが師である自分の役目であり責任だと武蔵は思っている。
そうなると、やはり先決なのは伊織の大小刀を手に入れることに尽きるだろう。
大小刀がなければ自分の身を守れないどころか、円明流の技を教えることも満足にできない。
それに伊織が大小刀を持つことにより、自分の対人稽古の相手も務められる。
また冒険者として仕事をすれば、実戦を経験させつつ路銀も手に入るとまさに一石二鳥であった。
だからこそ、まずは何としてでも刀を手に入れるための金がいる。
(あまり気乗りはせぬが、いざとあらば道場破りの一つや二つせねばならんか)
などと武蔵が考えをめぐらせたときだ。
ルリは「すっかり忘れとったわ」と頭を掻いた。
「そう言えば、オッサンらは冒険者章のない等級なしやったな。せやったら迷宮に潜る前に冒険者章を取るのが先なんやけど、どのみち冒険者章を取る試験にも武器がいるかもしれんし……」
数秒後、ルリは「しゃあないな」と大きく柏手を打った。
「オッサンらの刀の代金はうちが持ったるわ」
このルリの提案に、驚きの声を上げたのは赤猫であった。
「熱でも出てきたんッすか。あんたが他人の武器の代金を払うなんて信じられないッす……まさか、よからぬことでも企んでいるんッすか?」
「あほか、何も企んでいることなんてあるかい。これはちゃんとした善意や。うちの大事な取り引き先の修道院を守ってくれた礼に決まってるやろ」
ただな、とルリは満面な笑みを浮かべながら両手をこすり始める。
「もしもオッサンがうちの善意に少しでも恩を感じてくれるゆうんなら、冒険者章を取って迷宮に潜るときには是非ともうちを一緒に連れて行ってほしいんや」
「構わんぞ」
武蔵はあっさりと即答した。
「刀の代金を肩代わりしてくれるというのなら、こちらとしては願ってもいないことだ。そのだんじょんとやらもどういう場所かは分からぬが、俺たちに必要な場所と言うのならばともに行こうではないか」
「待つッす、武蔵さん。こいつのは善意じゃなくて思いっきり私欲ッすよ。こいつは武蔵さんと一緒に迷宮に潜って財宝やレアアイテムを手に入れたいだけッす」
「それでも構わん。善意だろうと私欲だろうと、金を出してくれること自体が今の俺たちにはありがたいことだ」
ルリよ、と武蔵は今度こそ名前を間違わなかった。
「案内してくれ。その異人街とやらの刀工の元へ」
「商談成立やな。ほな、一息ついたら出発しようか。それともまだ休んでたほうがええか?」
「手足が折れているわけでもないのだ。俺のことは気遣い無用。それよりも――」
武蔵は伊織の方へ顔を向けた。
「お主のほうはどうなのだ。怪我の具合はもうよいのか?」
「私は大丈夫です……それで、お師匠様。刀と聞いて思い出したんですけど」
伊織は「少しお待ちください」と武蔵に頭を下げ、そのまま部屋を出ていった。
ほどしばくして、伊織は大事そうに二本の大小刀を抱えて帰ってきた。
二本ともきちんと鞘に納められた、武蔵の大小刀である。
「見せてみよ」
伊織から大小刀を受け取った武蔵は、まずは小刀を鞘から抜いた。
やはり小刀は真ん中の部分からへし折れている。
こうなってしまっては刀としての役目は果たせない。
けれども、小刀に関しては分かっていたことなので大きな落胆はなかった。
問題だったのは大刀のほうである。
武蔵は折れた小刀を鞘に納めると、今度は大刀――〈無銘・金重〉をすらりと抜いた。
(よくぞ、無事でいてくれた)
武蔵は〈無銘・金重〉を見て、心の底から安堵の息を漏らした。
〈無銘・金重〉は折れてはいなかったのである。
しかし、もしかすると刀身に曲がりやねじりが生じているかもしれない。
武蔵は両眼の間に刀を立て、刀身に曲がりやねじれがないか確認していく。
「まだ俺にも運があるようだ。この金重さえ無事ならば、大抵のことはどうにでもなる」
〈無銘・金重〉の刀身に曲がりやねじれは生じてはいなかった。
さすがは幾多の修羅場をともに潜り抜けてきた愛刀である。
武蔵は大刀を鞘に納め、刀工の場所を知っているルリに視線を移す。
「待たせたな。俺のほうはいつでも行けるぞ」
ルリはこくりと頷いた。
「そうか。ほな、ここの後始末は他の者に任せて、うちらは準備を整えたら向かおうか」
などと話がまとまったとき、赤猫が「武蔵さん、私も一緒に行くッす」と話に割り込んできた。
「はあ? 何でお前がついてくるんや?」
「当たり前じゃないッすか。私は師父(お師匠)からお二人の面倒を看るよう言われてるッすよ」
「それは討伐任務が終わるまでの話やろ。せやったら、ここら先はお役目ごめんとちゃうんか。それに、お前は冒険者としてきちんと事後処理をせなあかんで」
「彼女の言う通りだ。君には任務に当たった冒険者として、俺らと一緒に後始末をしてくれないと困る」
先輩の冒険者であるファングに言われてはどうしようもなかったのだろう。
赤猫は渋々と了承するように、やがて小さく首を縦に振った。
「わ、分かったッす。でも、武蔵さん。新しい武器を手に入れたあとには、必ず冒険者ギルドに来てほしいッす。そのときは私が責任を持って冒険者登録や試験の案内をさせてもらうッすから」
「ああ、そのときはよろしく頼みたい」
武蔵は赤猫に軽く頭を下げ、持っていた大刀の鞘を強く握った。
早く異世界の刀工が打った刀を見てみたい、と武蔵は期待に胸を躍らせたのだ。
やがて武蔵、伊織、ルリの三人はキメリエス女子修道院をあとにする。
けれども、このときの武蔵は知らなかった。
自分がこれから向かう異人街と呼ばれる場所が、アルビオン王国の中でも暗部と呼ばれるほどの無法地帯だということを――。
0
あなたにおすすめの小説
最強剣士が転生した世界は魔法しかない異世界でした! ~基礎魔法しか使えませんが魔法剣で成り上がります~
渡琉兎
ファンタジー
政権争いに巻き込まれた騎士団長で天才剣士のアルベルト・マリノワーナ。
彼はどこにも属していなかったが、敵に回ると厄介だという理由だけで毒を盛られて殺されてしまった。
剣の道を極める──志半ばで死んでしまったアルベルトを不憫に思った女神は、アルベルトの望む能力をそのままに転生する権利を与えた。
アルベルトが望んだ能力はもちろん、剣術の能力。
転生した先で剣の道を極めることを心に誓ったアルベルトだったが──転生先は魔法が発展した、魔法師だらけの異世界だった!
剣術が廃れた世界で、剣術で最強を目指すアルベルト──改め、アル・ノワールの成り上がり物語。
※アルファポリス、カクヨム、小説家になろうにて同時掲載しています。
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
オレの異世界に対する常識は、異世界の非常識らしい
広原琉璃
ファンタジー
「あの……ここって、異世界ですか?」
「え?」
「は?」
「いせかい……?」
異世界に行ったら、帰るまでが異世界転移です。
ある日、突然異世界へ転移させられてしまった、嵯峨崎 博人(さがさき ひろと)。
そこで出会ったのは、神でも王様でも魔王でもなく、一般通過な冒険者ご一行!?
異世界ファンタジーの "あるある" が通じない冒険譚。
時に笑って、時に喧嘩して、時に強敵(魔族)と戦いながら、仲間たちとの友情と成長の物語。
目的地は、すべての情報が集う場所『聖王都 エルフェル・ブルグ』
半年後までに主人公・ヒロトは、元の世界に戻る事が出来るのか。
そして、『顔の無い魔族』に狙われた彼らの運命は。
伝えたいのは、まだ出会わぬ誰かで、未来の自分。
信頼とは何か、言葉を交わすとは何か、これはそんなお話。
少しづつ積み重ねながら成長していく彼らの物語を、どうぞ最後までお楽しみください。
====
※お気に入り、感想がありましたら励みになります
※近況ボードに「ヒロトとミニドラゴン」編を連載中です。
※ラスボスは最終的にざまぁ状態になります
※恋愛(馴れ初めレベル)は、外伝5となります
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる