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第四十九話 もう一人の〈双剣〉
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鍛冶屋を出発してから約半時(一時間)――。
武蔵とルリの二人は、冒険者ギルドの正面入り口前に到着した。
冒険者ギルドはアルビオン王国の顔である中央街の一角にある。
正式名称は冒険者ギルド・アルビオン支部。
木造式である周囲の建物とは違い、堅牢な石造りの三階建ての建物だ。
日ノ本の武家屋敷に似ているが、どこか門構えや細部の造りが微妙に異なる。
それは冒険者ギルドが中西国を中心とした〈世界天理武林〉という組織の直轄組織であるため、建物の外観や内装が中西国の文化を反映した造りになっているからだという。
これは冒険者ギルドに来る道中にルリから聞いたことである。
だが、今の武蔵にとってそんなことはどうでもよかった。
武蔵にとって重要なのは一刻も早く冒険者という職に就き、万病に効く〈ソーマ〉を手に入れるために迷宮へ行くことに他ならない。
こうしている間にも、伊織の寿命は刻一刻とすり減っているのだ。
「よし、行くぞ」
意を決した武蔵は、観音開き式の扉を開けて中に入った。
「だから冒険者ギルドは逃げへんて。そんな慌てんなや。それに冒険者になるだけやなくて、〈ソーマ〉を手に入れるためには赤猫の片割れに会う必要があるんやで……って聞いてへんか」
ルリは「やれやれ」と頭を掻きながら武蔵に続いていく。
冒険者ギルドは以前と変わらず喧騒に包まれていた。
革を重ねた鎧に南蛮風の剣や槍を持った人間たちが、円形の台を囲いながら床几(野外用の椅子)のようなものに座って談笑している。
そして前に来たときは気づかなかったが、なぜか室内の一角の壁には何十枚もの紙が貼られていた。
その紙が貼られている壁の前には、何人もの人間たちがたむろしている。
どうやら、壁に貼られている何十枚もの紙を見ているようだ。
「あれは仕事の依頼書や」
隣に佇んでいたルリが答える。
「冒険者たちが仕事を請け負う場合、まずはあの壁に貼られとる依頼書の中から自分の等級に見合った依頼を選ぶんや。そんで仕事をこなして評価を高めていくと、逆に今度は依頼主から直接仕事を依頼されるようになる。そうなると冒険者としては一流や。報酬なんかも個人で決められるようになるからな」
ただし、とルリは難しい顔をしてため息をつく。
「そこまで行けるのはAクラスの上位かSクラスの冒険者だけや。特にSクラスの冒険者の仕事はほぼすべて直接な依頼らしいわ。せやからSクラスの冒険者は冒険者ギルドに滅多に現れん。一部を除いてな」
などと説明されたものの、等級なしの武蔵にとっては関係のないことだった。
武蔵はルリを見下ろしながら尋ねる。
「それで、冒険者とやらになるにはどうすればいいのだ?」
ルリは「これも大事なことなんやけどな」とボヤきながらも答える。
「冒険者になるための登録自体はそんな難しいことやあらへんよ。受付で簡単な問診と登録書に記入をすれば……」
と、ルリが続きの言葉を口にしようとしたときだ。
「ん?」
武蔵は室内の空気が一変したことに気がついた。
ほんの今まで賑やかな声で溢れていた室内が、突如として通夜のように静まり返ったのである。
しかも全員はなぜか自分たちを見て目を丸くさせていた。
(こやつら、何ゆえ俺たちを見て驚いておる)
奇異な目を向けられて首を傾げた武蔵と同じく、ルリも同様に他の人間たちの視線に対して不思議そうに周囲を見渡す。
すると、あちらこちらから恐怖と好奇が混じった小声が聞こえてきた。
「あいつが例の大倭の剣士なのか?」
「間違いねえ。聞いていた背恰好とまったく同じだ」
「確かに見るからに強そうだぜ。本当にあれで等級なしなのかよ」
「ねえ、どうしてあのルリ・アートマンを連れているの?」
「まさか、〈街守の剣士《けんし》〉と〈白髪の守銭奴〉が手を組んだのか……」
街守の剣士と白髪の守銭奴。
そんな聞き慣れない言葉に武蔵は眉根を寄せたものの、ルリの「オッサン、連中を気にかけるよりも早く受付に行こうや」と促されたことで我に返った。
ルリの言う通りである。
今は他の冒険者たちの言葉を気にするよりも、自分が冒険者になることのほうが何よりも先決だ。
武蔵はルリに「そうだな」と頷いて見せると、周囲のざわつきを無視して受付へと向かう。
やがて受付口の前に来たとき、武蔵は何度も首を動かして周囲を確認する。
肝心の受付口には誰もいなかったのだ。
「おい、誰もいないぞ」
「おかしいな、昼休憩にはまだ早いと思うんやけど……まあ、そのうち誰か出てくるやろ。ちょっと待とうや」
「何を悠長に構えておるのだ。このまま誰も出て来なかったらどうする?」
そんなわけあるかい、とルリはきっぱりと断言した。
「腐ってもここは冒険者ギルドやで。たとえ受付口に誰もいなくても、受付口の前で誰かが立っていることぐらい担当者は分かっとるわ」
「どういうことだ?」
と、武蔵が頭上に疑問符を浮かべたときである。
「おい、てめえらが〈街守の剣士《けんし》〉と〈白髪の守銭奴〉ってのは本当か?」
突然、後方から威圧感のある低い声をかけられた。
武蔵とルリは身体ごと振り向く。
そこには一人の大男が仁王立ちしていた。
六尺(百八十センチ)の武蔵を見下ろすほどの背丈があり、まるで血のような赤髪をしていた巨体の持ち主である。
目つきは野犬のように鋭く、丸顔の中に納まっている鼻は獅子鼻だ。
そして分厚い革を何枚も重ねた鎧を着込んでおり、背中には殴打に特化したような金属製の巨大な棍棒を担いでいた。
それだけで赤髪の男が有している、剛力の凄まじさが窺い知れる。
だが、武蔵が感じた印象はそれだけだ。
ただ一つ気になる点があるとすれば、赤髪の男の表情には明らかな侮蔑の色が浮かんでいたことだろうか。
正直なところ、赤髪の男とは初めて会ったはずである。
それなのに見下すような目を向けられるのは不快でしかない。
「何だ、お主は?」
武蔵は臆することなく鋭い視線を飛ばすと、一方の赤髪の男も怯むことなく盛大に鼻を鳴らした。
「俺の名前はソドム。冒険者Aクラスのソドム・レッドフィールドだ」
赤髪の男が名乗った直後、室内が大きくざわめいた。
「おい、嘘だろ。本物のソドム・レッドフィールドだ」
「ソドムって……まさか、〈赤鬼のソドム〉か?」
「じゃあ、あいつが〈鬼人兄弟〉の片割れ……」
などという声が聞こえてくる中、武蔵は赤髪の男――ソドムを見上げながら「俺たちに何か用か?」と訊いた。
ソドムはぎろりと武蔵を睨みつける。
「用があるのは〈白髪の守銭奴〉のほうじゃねえ。〈街守の剣士〉と呼ばれているてめえのほうだよ。薄汚ねえ大倭のサムライ野郎」
武蔵は眉間に深くしわを寄せる。
同時に武蔵はこう思った。
もしかするとソドムは自分と誰かを人違いしているのではないか、と。
なので武蔵はソドムに対してきっぱりと言い放った。
「人違いであろう。俺は〈街守の剣士〉などと呼ばれてはおらん。それにたとえ呼ばれていたとしても、どのみちお主のような独活の大木に用などない。斬られたくなければ大人しくこの場から立ち去れ」
脅しや威嚇ではない。
掛け値なしの本気である。
ただでさえ時が惜しいというのに、人違いで絡んでくる無頼漢の相手などしてはいられなかった。
「等級なしの分際でAクラスの俺を斬るだぁ? 面白え、やってみろよ。どうせ〈街守の剣士〉なんていう二つ名持ちになったキメリエスの一件もデマなんだろ」
このキメリエスという言葉に反応したのはルリである。
「ちょい待てや。キメリエスの一件がデマってどういうことや?」
「そのままの意味に決まってんだろうが」
ソドムは下卑た笑みを浮かべながら言葉を続ける。
「〈断罪の森〉のギガントエイプを等級なしの剣士が倒せるわけねえだろ。おおかた他の冒険者たちが死に物狂いで瀕死の状態に追い込んだところを、そこの大倭人が我が物顔でとどめを横取りしたんだろうが」
ソドムは「俺はよ」と両手の指の関節をボキボキと鳴らした。
「下位クラスの奴が手柄を横取りしていい気になっているのが一番嫌いなんだ。てめえのような汚ねえ手で二つ名持ちになった奴はとくにな」
全身から大気を震わせるほどの殺意を放出させたソドム。
そんなソドムに武蔵は大刀の鯉口を切って見せる。
はっきり言ってソドムの言い分はほとんど理解できない。
しかし、その中でもソドムが自分に対して闘いを挑んでいることだけは明確に理解できた。
それこそ〝天下無双〟として名が通っていた元の世界にいたときは、ソドムのような無頼漢に闘いを挑まれるなど日常茶飯事だったのである。
ゆえに武蔵の対応は素早かった。
(どこのどいつかは知らぬが、俺の刃圏に入ったならば斬る)
そう武蔵が決意した直後であった。
「ここは冒険者ギルドであって決闘場ではありませんよ」
一触即発の空気が漂っていた室内に、落ち着き払った涼しげな声が響いた。
全員の視線が声の持ち主へと集中する。
声の持ち主は受付口の奥から出てきた黒髪の少年であった。
そして黒髪の少年が現れるなり、ルリは「オッサン、こいつや」と言ってくる。
「こいつが〈ソーマ〉を手に入れるためにどうしても必要になってくる赤猫の片割れ――もう一人の〈双剣〉の黒狼や」
黒髪の少年――黒狼は場の空気にそぐわない満面の笑みを浮かべた。
「ようこそ、冒険者ギルドへ」
武蔵とルリの二人は、冒険者ギルドの正面入り口前に到着した。
冒険者ギルドはアルビオン王国の顔である中央街の一角にある。
正式名称は冒険者ギルド・アルビオン支部。
木造式である周囲の建物とは違い、堅牢な石造りの三階建ての建物だ。
日ノ本の武家屋敷に似ているが、どこか門構えや細部の造りが微妙に異なる。
それは冒険者ギルドが中西国を中心とした〈世界天理武林〉という組織の直轄組織であるため、建物の外観や内装が中西国の文化を反映した造りになっているからだという。
これは冒険者ギルドに来る道中にルリから聞いたことである。
だが、今の武蔵にとってそんなことはどうでもよかった。
武蔵にとって重要なのは一刻も早く冒険者という職に就き、万病に効く〈ソーマ〉を手に入れるために迷宮へ行くことに他ならない。
こうしている間にも、伊織の寿命は刻一刻とすり減っているのだ。
「よし、行くぞ」
意を決した武蔵は、観音開き式の扉を開けて中に入った。
「だから冒険者ギルドは逃げへんて。そんな慌てんなや。それに冒険者になるだけやなくて、〈ソーマ〉を手に入れるためには赤猫の片割れに会う必要があるんやで……って聞いてへんか」
ルリは「やれやれ」と頭を掻きながら武蔵に続いていく。
冒険者ギルドは以前と変わらず喧騒に包まれていた。
革を重ねた鎧に南蛮風の剣や槍を持った人間たちが、円形の台を囲いながら床几(野外用の椅子)のようなものに座って談笑している。
そして前に来たときは気づかなかったが、なぜか室内の一角の壁には何十枚もの紙が貼られていた。
その紙が貼られている壁の前には、何人もの人間たちがたむろしている。
どうやら、壁に貼られている何十枚もの紙を見ているようだ。
「あれは仕事の依頼書や」
隣に佇んでいたルリが答える。
「冒険者たちが仕事を請け負う場合、まずはあの壁に貼られとる依頼書の中から自分の等級に見合った依頼を選ぶんや。そんで仕事をこなして評価を高めていくと、逆に今度は依頼主から直接仕事を依頼されるようになる。そうなると冒険者としては一流や。報酬なんかも個人で決められるようになるからな」
ただし、とルリは難しい顔をしてため息をつく。
「そこまで行けるのはAクラスの上位かSクラスの冒険者だけや。特にSクラスの冒険者の仕事はほぼすべて直接な依頼らしいわ。せやからSクラスの冒険者は冒険者ギルドに滅多に現れん。一部を除いてな」
などと説明されたものの、等級なしの武蔵にとっては関係のないことだった。
武蔵はルリを見下ろしながら尋ねる。
「それで、冒険者とやらになるにはどうすればいいのだ?」
ルリは「これも大事なことなんやけどな」とボヤきながらも答える。
「冒険者になるための登録自体はそんな難しいことやあらへんよ。受付で簡単な問診と登録書に記入をすれば……」
と、ルリが続きの言葉を口にしようとしたときだ。
「ん?」
武蔵は室内の空気が一変したことに気がついた。
ほんの今まで賑やかな声で溢れていた室内が、突如として通夜のように静まり返ったのである。
しかも全員はなぜか自分たちを見て目を丸くさせていた。
(こやつら、何ゆえ俺たちを見て驚いておる)
奇異な目を向けられて首を傾げた武蔵と同じく、ルリも同様に他の人間たちの視線に対して不思議そうに周囲を見渡す。
すると、あちらこちらから恐怖と好奇が混じった小声が聞こえてきた。
「あいつが例の大倭の剣士なのか?」
「間違いねえ。聞いていた背恰好とまったく同じだ」
「確かに見るからに強そうだぜ。本当にあれで等級なしなのかよ」
「ねえ、どうしてあのルリ・アートマンを連れているの?」
「まさか、〈街守の剣士《けんし》〉と〈白髪の守銭奴〉が手を組んだのか……」
街守の剣士と白髪の守銭奴。
そんな聞き慣れない言葉に武蔵は眉根を寄せたものの、ルリの「オッサン、連中を気にかけるよりも早く受付に行こうや」と促されたことで我に返った。
ルリの言う通りである。
今は他の冒険者たちの言葉を気にするよりも、自分が冒険者になることのほうが何よりも先決だ。
武蔵はルリに「そうだな」と頷いて見せると、周囲のざわつきを無視して受付へと向かう。
やがて受付口の前に来たとき、武蔵は何度も首を動かして周囲を確認する。
肝心の受付口には誰もいなかったのだ。
「おい、誰もいないぞ」
「おかしいな、昼休憩にはまだ早いと思うんやけど……まあ、そのうち誰か出てくるやろ。ちょっと待とうや」
「何を悠長に構えておるのだ。このまま誰も出て来なかったらどうする?」
そんなわけあるかい、とルリはきっぱりと断言した。
「腐ってもここは冒険者ギルドやで。たとえ受付口に誰もいなくても、受付口の前で誰かが立っていることぐらい担当者は分かっとるわ」
「どういうことだ?」
と、武蔵が頭上に疑問符を浮かべたときである。
「おい、てめえらが〈街守の剣士《けんし》〉と〈白髪の守銭奴〉ってのは本当か?」
突然、後方から威圧感のある低い声をかけられた。
武蔵とルリは身体ごと振り向く。
そこには一人の大男が仁王立ちしていた。
六尺(百八十センチ)の武蔵を見下ろすほどの背丈があり、まるで血のような赤髪をしていた巨体の持ち主である。
目つきは野犬のように鋭く、丸顔の中に納まっている鼻は獅子鼻だ。
そして分厚い革を何枚も重ねた鎧を着込んでおり、背中には殴打に特化したような金属製の巨大な棍棒を担いでいた。
それだけで赤髪の男が有している、剛力の凄まじさが窺い知れる。
だが、武蔵が感じた印象はそれだけだ。
ただ一つ気になる点があるとすれば、赤髪の男の表情には明らかな侮蔑の色が浮かんでいたことだろうか。
正直なところ、赤髪の男とは初めて会ったはずである。
それなのに見下すような目を向けられるのは不快でしかない。
「何だ、お主は?」
武蔵は臆することなく鋭い視線を飛ばすと、一方の赤髪の男も怯むことなく盛大に鼻を鳴らした。
「俺の名前はソドム。冒険者Aクラスのソドム・レッドフィールドだ」
赤髪の男が名乗った直後、室内が大きくざわめいた。
「おい、嘘だろ。本物のソドム・レッドフィールドだ」
「ソドムって……まさか、〈赤鬼のソドム〉か?」
「じゃあ、あいつが〈鬼人兄弟〉の片割れ……」
などという声が聞こえてくる中、武蔵は赤髪の男――ソドムを見上げながら「俺たちに何か用か?」と訊いた。
ソドムはぎろりと武蔵を睨みつける。
「用があるのは〈白髪の守銭奴〉のほうじゃねえ。〈街守の剣士〉と呼ばれているてめえのほうだよ。薄汚ねえ大倭のサムライ野郎」
武蔵は眉間に深くしわを寄せる。
同時に武蔵はこう思った。
もしかするとソドムは自分と誰かを人違いしているのではないか、と。
なので武蔵はソドムに対してきっぱりと言い放った。
「人違いであろう。俺は〈街守の剣士〉などと呼ばれてはおらん。それにたとえ呼ばれていたとしても、どのみちお主のような独活の大木に用などない。斬られたくなければ大人しくこの場から立ち去れ」
脅しや威嚇ではない。
掛け値なしの本気である。
ただでさえ時が惜しいというのに、人違いで絡んでくる無頼漢の相手などしてはいられなかった。
「等級なしの分際でAクラスの俺を斬るだぁ? 面白え、やってみろよ。どうせ〈街守の剣士〉なんていう二つ名持ちになったキメリエスの一件もデマなんだろ」
このキメリエスという言葉に反応したのはルリである。
「ちょい待てや。キメリエスの一件がデマってどういうことや?」
「そのままの意味に決まってんだろうが」
ソドムは下卑た笑みを浮かべながら言葉を続ける。
「〈断罪の森〉のギガントエイプを等級なしの剣士が倒せるわけねえだろ。おおかた他の冒険者たちが死に物狂いで瀕死の状態に追い込んだところを、そこの大倭人が我が物顔でとどめを横取りしたんだろうが」
ソドムは「俺はよ」と両手の指の関節をボキボキと鳴らした。
「下位クラスの奴が手柄を横取りしていい気になっているのが一番嫌いなんだ。てめえのような汚ねえ手で二つ名持ちになった奴はとくにな」
全身から大気を震わせるほどの殺意を放出させたソドム。
そんなソドムに武蔵は大刀の鯉口を切って見せる。
はっきり言ってソドムの言い分はほとんど理解できない。
しかし、その中でもソドムが自分に対して闘いを挑んでいることだけは明確に理解できた。
それこそ〝天下無双〟として名が通っていた元の世界にいたときは、ソドムのような無頼漢に闘いを挑まれるなど日常茶飯事だったのである。
ゆえに武蔵の対応は素早かった。
(どこのどいつかは知らぬが、俺の刃圏に入ったならば斬る)
そう武蔵が決意した直後であった。
「ここは冒険者ギルドであって決闘場ではありませんよ」
一触即発の空気が漂っていた室内に、落ち着き払った涼しげな声が響いた。
全員の視線が声の持ち主へと集中する。
声の持ち主は受付口の奥から出てきた黒髪の少年であった。
そして黒髪の少年が現れるなり、ルリは「オッサン、こいつや」と言ってくる。
「こいつが〈ソーマ〉を手に入れるためにどうしても必要になってくる赤猫の片割れ――もう一人の〈双剣〉の黒狼や」
黒髪の少年――黒狼は場の空気にそぐわない満面の笑みを浮かべた。
「ようこそ、冒険者ギルドへ」
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