1 / 67
第一話 理不尽な追放
しおりを挟む
「龍信、貴様は今日限りで解雇だ。この屋敷から出ていけ」
部屋の中に入るなり、次期当主にそう告げられた俺こと孫龍信は、嫌な予感が的中したなと思った。
なぜなら、先ほどの夕飯に自分だけの食事が用意されていなかったのだ。
この華秦国において、食客の食事が用意されないと言うことは、お前はもう我が家には必要ないから出て行けという意味がある。
しかし食客に対して、何の理由もなく解雇はあり得なかった。
俺は解雇になるようなことなどまったくしていないのだ。
なので俺は目の前の恰幅の良い髭面の男――今日1日の当主とご子息の葬儀を取り仕切った孫笑山に尋ねた。
「笑山さま、ぜひとも理由をお聞かせください。何の理由も説明もなく解雇で追放とは、次期当主としてあまりにも理不尽が過ぎます」
現在、俺はこの屋敷の当主の部屋にいる。
そして目の前の椅子に座っている150斤(約90キロ)はある笑山は、ご子息と一緒に事故で突如として亡くなった当主の弟だ。
「理由だと?」
ふん、と笑山は忌々しそうに鼻で笑った。
「当主であった兄上とともに、息子の憂炎も一緒に事故で死んだのだ。ならば憂炎の武術教師だった貴様はもう用済みだろうが」
笑山は微妙に息を切らせながら言葉を続ける。
俺は用済みという言葉に対して怒りを覚えた。
同時に腰帯に差していた長剣の柄に手を掛けようとしたが、こんなところで抜くわけにはいかないと堪える。
代わりに両手の指を胸の前で組み合わせる敬礼――拱手を取って反論した。
「お言葉ですが、笑山さま。確かに俺……いえ、私は憂炎ぼっちゃんの武術教師を任されておりました。しかし、当主である仁翔さまにはこうも言っていただいておりました。もしも憂炎ぼっちゃんがこの屋敷から巣立った場合や、万が一にも憂炎ぼっちゃんの身に何かあった場合にも、そのままこの屋敷に家守の1人として住んでも良いと」
嘘偽りのない事実だった。
それほど当主の仁翔さまは、俺に盗賊団から自分と息子の命を助けて貰った恩をずっと感じてくれていたのだ。
だが、笑山にはそんなことなど関係なかったのだろう。
「黙れ! 屋敷から追い出されたくないからと言って嘘をつくな!」
笑山は聞く耳を持たないと言った態度を取る。
「嘘ではありません。何でしたら兼民さんにお聞きください。仁翔さまにそう言われたとき、兼民さんも隣に居合わせておりましたので」
兼民さんはこの屋敷の家令であり、どこの馬の骨か分からない自分にも良くしてくれた一角の人物だった。
「そんなことはもうできん。兼民はお前よりも一足早く解雇にしたからな。そして解雇にしたのは兼民だけではない。雷公や白騎、小鈴なども揃って解雇にしたわ」
「え!」
この告白には俺も驚愕した。
雷公さんは凄腕の料理長であり、白騎さんは槍の達人である警備隊長。
そして小鈴さんは憂炎ぼっちゃんの乳母だった。
つまり、仁翔さまから全幅の信頼を置かれていた人たちに他ならない。
その4人をよりにもよって、仁翔さまと憂炎ぼっちゃんの葬儀が終わった直後に解雇にしたという。
どうしてそんなことを?
などと思ったのは一瞬だ。
俺はすぐにピンときた。
「まさか、あなたはその4人から次期当主に反対されると思って先手を打ったのですか?」
笑山は図星だとばかりに顔を歪めた。
この屋敷にはいなかったとはいえ、笑山の悪名はそれとなく伝わっている。
清廉潔白を絵に描いたような仁翔さまとは違い、笑山はわざわざ王都の花街に行くほどの色狂いだという。
「そ、そんなことはお前にはもう関係ないだろ!」
顔を真っ赤にさせた笑山は、唾を吐き飛ばしながら怒声を上げる。
それだけではない。
笑山はここぞとばかりに俺に人差し指を突きつけた。
「それに聞いたところによると、お前は自分のことを道士だと周囲に言っていたらしいが、お前はずっと屋敷にいて道家行に行っていた様子はないという」
これはどういうことだ、と笑山は言葉で詰め寄ってくる。
道家行。
それは大きな街には必ず1つはある、妖魔討伐や薬草採取を生業とする道士たちの仕事斡旋所だ。
貿易も仕事の内だった仁翔さまによると、西方の国々では道家行のことを冒険者ギルド、道士のことを冒険者と呼んでいるらしい。
それはさておき。
「一体、お前は何者なんだ!」
笑山の問いに、俺は「分かりません」と正直に答えた。
「分からないだと?」
「はい、分かりません。今の私は自分の龍信という名前と、道士ということ以外の記憶がないからです。そして道家行には、道士の資格である道符を手に入れに1度だけ行っただけでした。あくまでも屋敷に置いておく以上、正式な道士という身分を手に入れるだけで良いという仁翔さまのご指示でしたので」
しかし、と俺は言葉を続けた。
「いくら資格があろうとなかろうと、自分が記憶を失った以前から道士だったということは分かるのです。信じて貰えないかもしれませんが……」
「信じられるか!」
すぐに笑山は言葉を返してきた。
「自分の名前と道士ということ以外の記憶がないだと? だったら、なおさらこの屋敷に置いておくにはいかん」
「ですが、当主の仁翔さまはそれでも屋敷にいて良いと仰って下さいました」
「もう屋敷の当主はこのワシだ! 兄上がお前に言ったことなど知らんわ!」
そう言うと笑山は、卓子の上に置かれていた花瓶を手に取った。
それだけではない。
何と笑山は俺に向かって花瓶を投げつけてきたのだ。
瞬間、俺は両目に意識を集中させた。
すると花瓶は非常にゆっくりとした動きで俺の額へと飛んでくる。
実際は普通の速度で飛んできたのだが、両目に意識を集中させた俺の目には花瓶がゆるやかに飛んでくるように見えたのだ。
このまま花瓶ごと笑山を斬り捨ててしまおうか。
花瓶がゆるやかに飛んでくるように見える中、俺は自分の目の前にもう1人の自分を想像した。
そのもう1人の自分に腰帯に差してある長剣を抜かせ、空中にあった花瓶を真下から抜き打ちの要領で一刀両断させる。
当然ながら、それだけでは終わらない。
俺はもう1人の自分を意識で動かし、椅子にふんぞり返っている笑山の首を一刀の元に刎ね飛ばしたのだ。
と同時に、俺の額に花瓶が当たった。
そのまま花瓶は床に落ち、パリンという音とともに床に欠片が散らばる。
「何が道士だ! 素人のわしが投げた花瓶すら避けられない無能者が!」
つう、と俺の額からあご先に向けて血が流れ落ちる。
本当は花瓶を避けるなど目を閉じていても可能だった。
それどころか、俺はやろうと思えば花瓶と笑山を斬れたのだ。
実際、俺はやろうと思えばできたことを念として飛ばした。
しかし、俺は笑山どころか花瓶すらも斬らなかった。
こいつの汚い血で仁翔さまの部屋を汚すわけにはいかないからな。
もう仁翔さまはいなくなってしまったとはいえ、この当主の部屋は俺にとっても思い出が深い場所だ。
その思い出の場所を〝色狂いの豚〟の血で汚すくらいなら、花瓶をぶつけられて悪態を吐かれることなど何でもない。
そう俺が思っていると、笑山は卓子の上をバンッと叩く。
「いいからお前のような口先だけの無駄飯食らいはさっさとこの屋敷から出ていけ! これは現当主である孫笑山の命令だ! もしも駄々をこねるのなら、役人に知らせることになるぞ!」
これ以上の会話は無用とばかりに笑山は手首を振る。
さっさと出て行けという意味なのだろう。
俺は仁翔さまと憂炎ぼっちゃんの顔を思い浮かべた。
同時に盗賊団から2人を助けた数年前のことも思い出す。
数年前、俺はふと気づくと街道近くの森の中で目を覚ました。
このときのことは今でも鮮明に覚えている。
自分の名前と道士ということ以外の記憶がまったく無かったのだ。
それこそ自分がどこの生まれで、なぜ記憶を失っているのかはさっぱりだった。
そのときの身なりはきちんとしていたし、腰帯には1振りの長剣が握られていたことから物乞いの類であることは絶対になかった。
そして森の中を当てもなくさまよっていたとき、盗賊団に襲われている馬車を見つけた。
立派な馬車だったので盗賊団に目を付けられたのだろう。
俺は馬車を守っていた護衛の人間が逃げ去るのを見たとき、鞘から剣を抜き放って一目散に馬車へと駆け出した。
あとは肉体に刻まれていた武術の技を以て、10人以上いた盗賊団を根こそぎ斬り捨てていった。
すると頭目と思しき屈強で長身の男は、部下が根こそぎ俺に斬り捨てられたのを見て明らかに驚愕した。
そんな頭目の男は「このガキ、何者だ!」と尋ねてきたので、俺は「龍信だ」とだけ名乗って頭目の男の上半身を袈裟斬りにして勝利したのである。
やがて俺は馬車に乗っていた仁翔さまと憂炎ぼっちゃんに感謝され、孫家の食客として屋敷へと招かれた。
しばらくすると俺は憂炎ぼっちゃんの武術教師も任されたばかりか、仁翔さまから家族の証として「孫」の名字もいただいたのだ。
嬉しかった。
本当に心の底から嬉しかった。
このときから俺は仁翔さまのために生きようと決心したのだ。
記憶を無くしていようが関係ない。
仁翔さまのため、そして仁翔さまが愛する憂炎ぼっちゃんのために生きれるのなら記憶を取り戻す必要などないと思ったほどだった。
だが、その2人はもうこの世にはいない。
俺は先ほど笑山に家守として屋敷に置いてくれと言ったものの、仁翔さまと憂炎ぼっちゃんのいない屋敷の家守に価値なんてあるのだろうか。
冷静になった俺は、自分の進むべき道を決めた。
「分かりました。荷物をまとめてすぐに出て行きます」
俺は一応、笑山に頭を下げる。
「言っておくが、お前の退職金などビタ一文たりとも出さんからな」
「要りません」
アンタからの金は特にな、と俺は心中で思いながら振り返った。
そのまま出入口の扉へと歩いていく。
「とっとと出ていけ。この無能者の野良犬風情が……いや、もう野良犬ではなくて野良道士か。がはははははは」
俺は笑山からの嫌味を無視して部屋から出る。
背後からは笑山の笑い声がいつまでも聞こえていた。
部屋の中に入るなり、次期当主にそう告げられた俺こと孫龍信は、嫌な予感が的中したなと思った。
なぜなら、先ほどの夕飯に自分だけの食事が用意されていなかったのだ。
この華秦国において、食客の食事が用意されないと言うことは、お前はもう我が家には必要ないから出て行けという意味がある。
しかし食客に対して、何の理由もなく解雇はあり得なかった。
俺は解雇になるようなことなどまったくしていないのだ。
なので俺は目の前の恰幅の良い髭面の男――今日1日の当主とご子息の葬儀を取り仕切った孫笑山に尋ねた。
「笑山さま、ぜひとも理由をお聞かせください。何の理由も説明もなく解雇で追放とは、次期当主としてあまりにも理不尽が過ぎます」
現在、俺はこの屋敷の当主の部屋にいる。
そして目の前の椅子に座っている150斤(約90キロ)はある笑山は、ご子息と一緒に事故で突如として亡くなった当主の弟だ。
「理由だと?」
ふん、と笑山は忌々しそうに鼻で笑った。
「当主であった兄上とともに、息子の憂炎も一緒に事故で死んだのだ。ならば憂炎の武術教師だった貴様はもう用済みだろうが」
笑山は微妙に息を切らせながら言葉を続ける。
俺は用済みという言葉に対して怒りを覚えた。
同時に腰帯に差していた長剣の柄に手を掛けようとしたが、こんなところで抜くわけにはいかないと堪える。
代わりに両手の指を胸の前で組み合わせる敬礼――拱手を取って反論した。
「お言葉ですが、笑山さま。確かに俺……いえ、私は憂炎ぼっちゃんの武術教師を任されておりました。しかし、当主である仁翔さまにはこうも言っていただいておりました。もしも憂炎ぼっちゃんがこの屋敷から巣立った場合や、万が一にも憂炎ぼっちゃんの身に何かあった場合にも、そのままこの屋敷に家守の1人として住んでも良いと」
嘘偽りのない事実だった。
それほど当主の仁翔さまは、俺に盗賊団から自分と息子の命を助けて貰った恩をずっと感じてくれていたのだ。
だが、笑山にはそんなことなど関係なかったのだろう。
「黙れ! 屋敷から追い出されたくないからと言って嘘をつくな!」
笑山は聞く耳を持たないと言った態度を取る。
「嘘ではありません。何でしたら兼民さんにお聞きください。仁翔さまにそう言われたとき、兼民さんも隣に居合わせておりましたので」
兼民さんはこの屋敷の家令であり、どこの馬の骨か分からない自分にも良くしてくれた一角の人物だった。
「そんなことはもうできん。兼民はお前よりも一足早く解雇にしたからな。そして解雇にしたのは兼民だけではない。雷公や白騎、小鈴なども揃って解雇にしたわ」
「え!」
この告白には俺も驚愕した。
雷公さんは凄腕の料理長であり、白騎さんは槍の達人である警備隊長。
そして小鈴さんは憂炎ぼっちゃんの乳母だった。
つまり、仁翔さまから全幅の信頼を置かれていた人たちに他ならない。
その4人をよりにもよって、仁翔さまと憂炎ぼっちゃんの葬儀が終わった直後に解雇にしたという。
どうしてそんなことを?
などと思ったのは一瞬だ。
俺はすぐにピンときた。
「まさか、あなたはその4人から次期当主に反対されると思って先手を打ったのですか?」
笑山は図星だとばかりに顔を歪めた。
この屋敷にはいなかったとはいえ、笑山の悪名はそれとなく伝わっている。
清廉潔白を絵に描いたような仁翔さまとは違い、笑山はわざわざ王都の花街に行くほどの色狂いだという。
「そ、そんなことはお前にはもう関係ないだろ!」
顔を真っ赤にさせた笑山は、唾を吐き飛ばしながら怒声を上げる。
それだけではない。
笑山はここぞとばかりに俺に人差し指を突きつけた。
「それに聞いたところによると、お前は自分のことを道士だと周囲に言っていたらしいが、お前はずっと屋敷にいて道家行に行っていた様子はないという」
これはどういうことだ、と笑山は言葉で詰め寄ってくる。
道家行。
それは大きな街には必ず1つはある、妖魔討伐や薬草採取を生業とする道士たちの仕事斡旋所だ。
貿易も仕事の内だった仁翔さまによると、西方の国々では道家行のことを冒険者ギルド、道士のことを冒険者と呼んでいるらしい。
それはさておき。
「一体、お前は何者なんだ!」
笑山の問いに、俺は「分かりません」と正直に答えた。
「分からないだと?」
「はい、分かりません。今の私は自分の龍信という名前と、道士ということ以外の記憶がないからです。そして道家行には、道士の資格である道符を手に入れに1度だけ行っただけでした。あくまでも屋敷に置いておく以上、正式な道士という身分を手に入れるだけで良いという仁翔さまのご指示でしたので」
しかし、と俺は言葉を続けた。
「いくら資格があろうとなかろうと、自分が記憶を失った以前から道士だったということは分かるのです。信じて貰えないかもしれませんが……」
「信じられるか!」
すぐに笑山は言葉を返してきた。
「自分の名前と道士ということ以外の記憶がないだと? だったら、なおさらこの屋敷に置いておくにはいかん」
「ですが、当主の仁翔さまはそれでも屋敷にいて良いと仰って下さいました」
「もう屋敷の当主はこのワシだ! 兄上がお前に言ったことなど知らんわ!」
そう言うと笑山は、卓子の上に置かれていた花瓶を手に取った。
それだけではない。
何と笑山は俺に向かって花瓶を投げつけてきたのだ。
瞬間、俺は両目に意識を集中させた。
すると花瓶は非常にゆっくりとした動きで俺の額へと飛んでくる。
実際は普通の速度で飛んできたのだが、両目に意識を集中させた俺の目には花瓶がゆるやかに飛んでくるように見えたのだ。
このまま花瓶ごと笑山を斬り捨ててしまおうか。
花瓶がゆるやかに飛んでくるように見える中、俺は自分の目の前にもう1人の自分を想像した。
そのもう1人の自分に腰帯に差してある長剣を抜かせ、空中にあった花瓶を真下から抜き打ちの要領で一刀両断させる。
当然ながら、それだけでは終わらない。
俺はもう1人の自分を意識で動かし、椅子にふんぞり返っている笑山の首を一刀の元に刎ね飛ばしたのだ。
と同時に、俺の額に花瓶が当たった。
そのまま花瓶は床に落ち、パリンという音とともに床に欠片が散らばる。
「何が道士だ! 素人のわしが投げた花瓶すら避けられない無能者が!」
つう、と俺の額からあご先に向けて血が流れ落ちる。
本当は花瓶を避けるなど目を閉じていても可能だった。
それどころか、俺はやろうと思えば花瓶と笑山を斬れたのだ。
実際、俺はやろうと思えばできたことを念として飛ばした。
しかし、俺は笑山どころか花瓶すらも斬らなかった。
こいつの汚い血で仁翔さまの部屋を汚すわけにはいかないからな。
もう仁翔さまはいなくなってしまったとはいえ、この当主の部屋は俺にとっても思い出が深い場所だ。
その思い出の場所を〝色狂いの豚〟の血で汚すくらいなら、花瓶をぶつけられて悪態を吐かれることなど何でもない。
そう俺が思っていると、笑山は卓子の上をバンッと叩く。
「いいからお前のような口先だけの無駄飯食らいはさっさとこの屋敷から出ていけ! これは現当主である孫笑山の命令だ! もしも駄々をこねるのなら、役人に知らせることになるぞ!」
これ以上の会話は無用とばかりに笑山は手首を振る。
さっさと出て行けという意味なのだろう。
俺は仁翔さまと憂炎ぼっちゃんの顔を思い浮かべた。
同時に盗賊団から2人を助けた数年前のことも思い出す。
数年前、俺はふと気づくと街道近くの森の中で目を覚ました。
このときのことは今でも鮮明に覚えている。
自分の名前と道士ということ以外の記憶がまったく無かったのだ。
それこそ自分がどこの生まれで、なぜ記憶を失っているのかはさっぱりだった。
そのときの身なりはきちんとしていたし、腰帯には1振りの長剣が握られていたことから物乞いの類であることは絶対になかった。
そして森の中を当てもなくさまよっていたとき、盗賊団に襲われている馬車を見つけた。
立派な馬車だったので盗賊団に目を付けられたのだろう。
俺は馬車を守っていた護衛の人間が逃げ去るのを見たとき、鞘から剣を抜き放って一目散に馬車へと駆け出した。
あとは肉体に刻まれていた武術の技を以て、10人以上いた盗賊団を根こそぎ斬り捨てていった。
すると頭目と思しき屈強で長身の男は、部下が根こそぎ俺に斬り捨てられたのを見て明らかに驚愕した。
そんな頭目の男は「このガキ、何者だ!」と尋ねてきたので、俺は「龍信だ」とだけ名乗って頭目の男の上半身を袈裟斬りにして勝利したのである。
やがて俺は馬車に乗っていた仁翔さまと憂炎ぼっちゃんに感謝され、孫家の食客として屋敷へと招かれた。
しばらくすると俺は憂炎ぼっちゃんの武術教師も任されたばかりか、仁翔さまから家族の証として「孫」の名字もいただいたのだ。
嬉しかった。
本当に心の底から嬉しかった。
このときから俺は仁翔さまのために生きようと決心したのだ。
記憶を無くしていようが関係ない。
仁翔さまのため、そして仁翔さまが愛する憂炎ぼっちゃんのために生きれるのなら記憶を取り戻す必要などないと思ったほどだった。
だが、その2人はもうこの世にはいない。
俺は先ほど笑山に家守として屋敷に置いてくれと言ったものの、仁翔さまと憂炎ぼっちゃんのいない屋敷の家守に価値なんてあるのだろうか。
冷静になった俺は、自分の進むべき道を決めた。
「分かりました。荷物をまとめてすぐに出て行きます」
俺は一応、笑山に頭を下げる。
「言っておくが、お前の退職金などビタ一文たりとも出さんからな」
「要りません」
アンタからの金は特にな、と俺は心中で思いながら振り返った。
そのまま出入口の扉へと歩いていく。
「とっとと出ていけ。この無能者の野良犬風情が……いや、もう野良犬ではなくて野良道士か。がはははははは」
俺は笑山からの嫌味を無視して部屋から出る。
背後からは笑山の笑い声がいつまでも聞こえていた。
0
あなたにおすすめの小説
さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。
ヒツキノドカ
ファンタジー
誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。
そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。
しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。
身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。
そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。
姿は美しい白髪の少女に。
伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。
最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。
ーーーーーー
ーーー
閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります!
※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!
~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる
静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】
【複数サイトでランキング入り】
追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語
主人公フライ。
仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。
フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。
外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。
しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。
そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。
「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」
最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。
仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。
そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。
そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。
一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。
イラスト 卯月凪沙様より
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。
玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!?
成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに!
故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。
この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。
持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。
主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。
期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。
その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。
仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!?
美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。
この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。
ユニークスキルの名前が禍々しいという理由で国外追放になった侯爵家の嫡男は世界を破壊して創り直します
かにくくり
ファンタジー
エバートン侯爵家の嫡男として生まれたルシフェルトは王国の守護神から【破壊の後の創造】という禍々しい名前のスキルを授かったという理由で王国から危険視され国外追放を言い渡されてしまう。
追放された先は王国と魔界との境にある魔獣の谷。
恐ろしい魔獣が闊歩するこの地に足を踏み入れて無事に帰った者はおらず、事実上の危険分子の排除であった。
それでもルシフェルトはスキル【破壊の後の創造】を駆使して生き延び、その過程で救った魔族の親子に誘われて小さな集落で暮らす事になる。
やがて彼の持つ力に気付いた魔王やエルフ、そして王国の思惑が複雑に絡み大戦乱へと発展していく。
鬱陶しいのでみんなぶっ壊して創り直してやります。
※小説家になろうにも投稿しています。
防御力ゼロと追放された盾使い、実は受けたダメージを100倍で反射する最強スキルを持ってました
黒崎隼人
ファンタジー
どんな攻撃も防げない【盾使い】のアッシュは、仲間から「歩く的」と罵られ、理不尽の限りを尽くされてパーティーを追放される。長年想いを寄せた少女にも裏切られ、全てを失った彼が死の淵で目覚めたのは、受けたダメージを百倍にして反射する攻防一体の最強スキルだった!
これは、無能と蔑まれた心優しき盾使いが、真の力に目覚め、最高の仲間と出会い、自分を虐げた者たちに鮮やかな鉄槌を下す、痛快な成り上がり英雄譚! 「もうお前たちの壁にはならない」――絶望の底から這い上がった男の、爽快な逆転劇が今、始まる。
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる