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第十三話 帰還
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妖魔討伐以外に紆余曲折はあったものの、俺とエミリアさんは無事に道家行へと帰ってきた。
俺たちは受付口の前に立つと、受付嬢に妖魔討伐を果たした証拠品を渡した。
野狗子の角である。
「まさか、本当に異国人の方が第四級の妖魔を討伐したんですか!」
受付嬢の驚きを含んだ叫びが周囲に響き渡る。
俺は「何も誤魔化していないからな」と念を押した。
「どうしても信じられないというのなら、早馬を飛ばして村で事情を聞けばいい。アリシアさんが妖魔を斬り伏せたという話は、出没していた村以外の近隣にまで伝わっているはずだ」
それよりも、と俺は受付嬢に言葉を続けた。
「道家長を呼んできてくれないか?」
「ど、道家長を……ですか?」
「ああ、そうだ。目付け役の俺からいくつか伝えたいことがある」
などと受付嬢と会話をしていたときだ。
「おいおい、誰かと思ったら異国人のくせに道士になりてえとか抜かしていた金毛女じゃねえか!」
ちょうど階段を上がってきたばかりの、以前にアリシアさんに絡んできた髭面の大男が俺たちの前に姿を現した。
「どうした? 試験の妖魔が倒せなくて逃げ出してきたのか? まあ、仕方ねえぜ。第三級に近い第四級の魔物なんて、異国人の女に倒せるわけなかったのさ」
がははははは、と大笑いする髭面の大男。
しかし、すぐに髭面の大男は気がついた。
自分以外のこの場にいる全員が、まったく笑っていないことに。
おそらく、髭面の大男は受付嬢の叫び声を聞いていなかったのだろう。
なので俺はもう一度、受付嬢の代わりに髭面の大男へ説明する。
「言っておくが、アリシアさんは試験を完璧に果たした。これでアリシアさんは晴れて俺たち道士の仲間入りだ」
「な、何だと!」
事情を聞いた髭面の大男は、俺からアリシアさんへと視線を移す。
「馬鹿も休み休み言いやがれ! 異国の女があんな内容の試験に合格できるわけねえだろ!」
不正だ、と髭面の大男は怒声を上げる。
そんな髭面の大男の主張を否定したのは受付嬢だった。
「いえ、確かにお2人が持ち帰ったのは討伐対象であった野狗子の角です。阿門さんもご存じでしょうが、野狗子という妖魔に本来は角などありません。突然変異した人間も襲う野狗子にのみ生えているのです。これは受付嬢として断言できます」
髭面の大男――阿門はチッと舌打ちする。
「つまり、こう言いてえのか? この角は別の動物の角を加工したり、誰かから金で買ったとかの不正はないと」
受付嬢はこくりと頷く。
そのときだった。
「私もそう思います」
緊迫した雰囲気が漂っていたこの場所に、落ち着いた様子で道家長が現れた。
「この角は間違いなく突然変異した野狗子のモノです。しかも角の形や太さから推測すると、第三級寄りの第四級ではなく第三級に入る強さを有していたかもしれません……少なくとも道士の資格を得るための新人が倒せる力量ではない」
道家長の言葉に、周囲がざわつき始めた。
「……ってことは、あの異国人の女はとんでもない力を持っているってことか?」
「しかも第三級の妖魔を倒せたってことは、第四級道士の阿門以上だな」
「そんなことより、ちゃんと試験に合格したんだから正式な登録と道符を与えるべきだろ」
他の道士たちはアリシアさんを異物ではなく、自分たちの正式な仲間であり競争他者として目の色を変えて見る。
それほどアリシアさんの今回の討伐は、他の道士たちの興味や関心を強く引いたのだ。
だとすると、アリシアさんが道士になれない理由はない。
あとは道士の登録と、道士の証である道符を貰えれば完璧だ。
そうすればアリシアさんは、今後は大手を振ってこの国で道士の仕事ができる。
と、俺と俺以外の道士の誰もがそう思ったときだ。
「納得いかねえ」
阿門がアリシアさんを指差しながら言った。
「俺は信じねえぞ。こんな異国人の女が第三級の妖魔なんぞ倒せるわけがねえ。仮にそこの目付け役の小僧が手伝ったとしても、そこの小僧も第五級の資格しかない新人と変わらねえ奴なんだ。きっと何か不正を働いたのに決まっている」
こいつは馬鹿か。
俺は場を乱している阿門に対し、少し灸を据えてやろうと思った。
しかし、動こうとした矢先に俺はアリシアさんに止められた。
「アリシアさん?」
「大丈夫です、龍信さん。私のいた国にもこのような人間は多くいました。そして、このような輩がどうすれば黙るのかも知っています」
アリシアさんはずいっと一歩前に出ると、道家長に礼儀正しく頭を下げた。
「道家長殿、この建物内に武術などの修練場はありますか?」
アリシアさんが尋ねると、道家長は「中庭にありますよ」と答える。
「その場所を少し貸してはいただけませんか?」
俺はすぐにアリシアさんが何を言いたいのかピンときた。
それは道家長も同じだったようだ。
「なるほど……そこで自分は不正などしていないと証明してみせると?」
「そうです」
アリシアさんは首を縦に振った。
「阿門さんと仰いましたね?」
続いてアリシアさんは阿門をキッと睨みつける。
「今から修練場に一緒に行きましょう」
アリシアさんは堂々と胸を張って言い放つ。
「このアリシア・ルーデンベルグの真の力をお見せ致します」
俺たちは受付口の前に立つと、受付嬢に妖魔討伐を果たした証拠品を渡した。
野狗子の角である。
「まさか、本当に異国人の方が第四級の妖魔を討伐したんですか!」
受付嬢の驚きを含んだ叫びが周囲に響き渡る。
俺は「何も誤魔化していないからな」と念を押した。
「どうしても信じられないというのなら、早馬を飛ばして村で事情を聞けばいい。アリシアさんが妖魔を斬り伏せたという話は、出没していた村以外の近隣にまで伝わっているはずだ」
それよりも、と俺は受付嬢に言葉を続けた。
「道家長を呼んできてくれないか?」
「ど、道家長を……ですか?」
「ああ、そうだ。目付け役の俺からいくつか伝えたいことがある」
などと受付嬢と会話をしていたときだ。
「おいおい、誰かと思ったら異国人のくせに道士になりてえとか抜かしていた金毛女じゃねえか!」
ちょうど階段を上がってきたばかりの、以前にアリシアさんに絡んできた髭面の大男が俺たちの前に姿を現した。
「どうした? 試験の妖魔が倒せなくて逃げ出してきたのか? まあ、仕方ねえぜ。第三級に近い第四級の魔物なんて、異国人の女に倒せるわけなかったのさ」
がははははは、と大笑いする髭面の大男。
しかし、すぐに髭面の大男は気がついた。
自分以外のこの場にいる全員が、まったく笑っていないことに。
おそらく、髭面の大男は受付嬢の叫び声を聞いていなかったのだろう。
なので俺はもう一度、受付嬢の代わりに髭面の大男へ説明する。
「言っておくが、アリシアさんは試験を完璧に果たした。これでアリシアさんは晴れて俺たち道士の仲間入りだ」
「な、何だと!」
事情を聞いた髭面の大男は、俺からアリシアさんへと視線を移す。
「馬鹿も休み休み言いやがれ! 異国の女があんな内容の試験に合格できるわけねえだろ!」
不正だ、と髭面の大男は怒声を上げる。
そんな髭面の大男の主張を否定したのは受付嬢だった。
「いえ、確かにお2人が持ち帰ったのは討伐対象であった野狗子の角です。阿門さんもご存じでしょうが、野狗子という妖魔に本来は角などありません。突然変異した人間も襲う野狗子にのみ生えているのです。これは受付嬢として断言できます」
髭面の大男――阿門はチッと舌打ちする。
「つまり、こう言いてえのか? この角は別の動物の角を加工したり、誰かから金で買ったとかの不正はないと」
受付嬢はこくりと頷く。
そのときだった。
「私もそう思います」
緊迫した雰囲気が漂っていたこの場所に、落ち着いた様子で道家長が現れた。
「この角は間違いなく突然変異した野狗子のモノです。しかも角の形や太さから推測すると、第三級寄りの第四級ではなく第三級に入る強さを有していたかもしれません……少なくとも道士の資格を得るための新人が倒せる力量ではない」
道家長の言葉に、周囲がざわつき始めた。
「……ってことは、あの異国人の女はとんでもない力を持っているってことか?」
「しかも第三級の妖魔を倒せたってことは、第四級道士の阿門以上だな」
「そんなことより、ちゃんと試験に合格したんだから正式な登録と道符を与えるべきだろ」
他の道士たちはアリシアさんを異物ではなく、自分たちの正式な仲間であり競争他者として目の色を変えて見る。
それほどアリシアさんの今回の討伐は、他の道士たちの興味や関心を強く引いたのだ。
だとすると、アリシアさんが道士になれない理由はない。
あとは道士の登録と、道士の証である道符を貰えれば完璧だ。
そうすればアリシアさんは、今後は大手を振ってこの国で道士の仕事ができる。
と、俺と俺以外の道士の誰もがそう思ったときだ。
「納得いかねえ」
阿門がアリシアさんを指差しながら言った。
「俺は信じねえぞ。こんな異国人の女が第三級の妖魔なんぞ倒せるわけがねえ。仮にそこの目付け役の小僧が手伝ったとしても、そこの小僧も第五級の資格しかない新人と変わらねえ奴なんだ。きっと何か不正を働いたのに決まっている」
こいつは馬鹿か。
俺は場を乱している阿門に対し、少し灸を据えてやろうと思った。
しかし、動こうとした矢先に俺はアリシアさんに止められた。
「アリシアさん?」
「大丈夫です、龍信さん。私のいた国にもこのような人間は多くいました。そして、このような輩がどうすれば黙るのかも知っています」
アリシアさんはずいっと一歩前に出ると、道家長に礼儀正しく頭を下げた。
「道家長殿、この建物内に武術などの修練場はありますか?」
アリシアさんが尋ねると、道家長は「中庭にありますよ」と答える。
「その場所を少し貸してはいただけませんか?」
俺はすぐにアリシアさんが何を言いたいのかピンときた。
それは道家長も同じだったようだ。
「なるほど……そこで自分は不正などしていないと証明してみせると?」
「そうです」
アリシアさんは首を縦に振った。
「阿門さんと仰いましたね?」
続いてアリシアさんは阿門をキッと睨みつける。
「今から修練場に一緒に行きましょう」
アリシアさんは堂々と胸を張って言い放つ。
「このアリシア・ルーデンベルグの真の力をお見せ致します」
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