【完結】ナチュラルキラー46 ~異世界転移から始まる、最強の強化少年と最硬の機人による復讐冒険譚~

ともボン

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第十話     陰謀

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 燦然と輝く朝日が完全に昇った。

 その太陽から放射される陽光がアッシリアならずバルセロナ城さえも包み込み始めた頃、寝室の窓を通して外の景色を眺めている人物がいた。

 袖と肩の繋ぎ目を隠すためにつけられた襞飾りが印象的なドレスを着た若い女性。

 入念に化粧が施された顔は目眉も綺麗に整えられており、抜けるように白い肌は白粉を塗っているのだろうか。

 顔の造詣だけを見れば、老若男女問わず溜息を漏らすほどの美貌の持ち主であった。

 だが最も印象的だったのは整った相貌でも深紅色の高価そうなドレスでもなく、数多の宝石が散りばめられている首飾りでもない。

 白銀色の長髪である。

 色素が抜け落ちた白髪とは違い、一本一本が窓から入ってくる陽光に反射されてこの世の物とは思えない輝きを放っていた。

 女性は右手に持っていた扇子で自分を扇ぎ、外の風景を謳歌していると、樫の木製のドアをノックする音が聞こえた。

「お入りなさい」

 ノックした人物に入室を許可すると、一人の青年が部屋へと入ってきた。

 二十代前半と思われる金髪の青年であった。

 左側だけ前髪を伸ばし顔の半分を覆い隠していた。

 だが、もう半分の顔からは細く長い眉に尖った鼻梁が覗き見え、一流の彫刻家が美の神を模倣したような整った顔立ちが露になっている。

 着ていた服装も白の胴着の上から襟元が折り返された紫のジャケットを羽織り、膝下までしかないズボンの下には絹の長靴下が履かれていた。

「よくぞ来てくれましたね、カルマ」

 女性は扇をパチンと閉じるなり、カルマと呼んだ青年に微笑を向けた。

 カルマは五指を合わせた右手を胸元に添えて頭を垂れる。

「とんでもございません、オリエンタ様。主人の命令に忠実に従うのが側近の役目でございます」

「ふふふ、そなたは相変わらず律儀ですね。良いのですよ、二人きりのときはもっと楽に構えても。そう、二人きりのときは」

 オリエンタ・リズムナリ・バルセロナ。

 バルセロナ公国の王位継承権第三位であったオリエンタは、バルセロナ城内に幾つも点在している尖塔の一つに居を構えている。

 それが側近であるカルマを呼び寄せたこの寝室であり、寝室の中は絢爛豪華な装飾品で埋め尽くされていた。

 赤を基調とした家具に紗幕が取り付けられている清潔感が溢れる巨大なベッド。

 天井にはそれ一つで小さな家が建つほどの煌びやかさを誇るシャンデリアが吊るされていた。

「お戯れはお止めください。貴方様はこれよりバルセロナの女王となる御方。そんな御方に側近の私如きがどうして迂闊に言葉を交わせましょうか」

 カルマは顔を上げるなり、そうオリエンタに言葉を返した。

「カルマ」

 オリエンタはドレスの裾を持ち上げながらカルマに歩み寄った。

 そしてカルマを強く抱き締めると、自分の唇をカルマの唇にそっと重ねた。

 やがてカルマの唇から自分の唇を離したオリエンタは、琥珀色の瞳を潤わせながら恍惚の表情を浮かべた。

 そしてカルマの耳元で睦言のようにそっと囁く。

「そのような悲しいことを言わないでおくれ。たとえ私が女王となっても、そなたを愛でる気持ちは変わらない」

「恐悦至極に存じます……ですが貴方様はこれよりセシリア様に代わり、バルセロナ公国の女王となる。要らぬ噂が立てば御身の名に傷がつくのではありませんか?」

 その言葉を聞いてオリエンタの表情が一変した。眉間に激しく皴を寄せ、奥歯を激しく噛み締める。

「そう、私はこの国の女王となる。だがそれには決定的なモノが足りない」

 続きの言葉はカルマが繋いだ。

「王家の証ですか?」

 オリエンタはカルマに背中を向けると、持っていた扇子を勢いよく平手に打ちつけた。

 それだけでもオリエンタの今の心境が怒りに満ち溢れていることがわかる。

「そう、この国を統べる王だけが持つことを許された王家の証。あれが手元になくては民衆も私を王とは認めない」

 ぎりり、とオリエンタは奥歯を軋ませた。

 王位継承権第一位であったセシリアが即位したのは、今から約半年前のことである。

 半年前に病気で亡くなった先代の国王は男子にこそ恵まれなかったものの、正室と側室に生ませた腹違いの女の子供は四人いた。

 一人目は正室に生ませた第一王女セシリア、二人目は第一側室に生ませた第二王女オルセイア、三人目は第二側室に生ませたオリエンタ、そして最後の四人目は第三側室に生ませたアルテイシアである。

 だが、二人目のオルセイアと四人目のアルテイシアはもうこの世にはいない。

 第二王女であったオルセイアは、二十年以上前に馬車の移動中に山賊に襲われて消息を絶った。

 母親と護衛をしていた騎士団の遺体は発見されたものの、肝心のオルセイアの姿はなかったという。

 その後、国王は国中にお触れを出して懸命にオルセイアの足取りを捜索したが、結局オルセイアは見つからなかった。

 捜索に当たった騎士団の話によれば、外国に売られてしまった可能性が高いという。

 第四王女であったアルテイシアは、生まれたときから身体が弱かった。

 それは宮廷を歩き回っただけでも体調を崩すほどであり、七歳になる頃にはほとんど部屋から出ることも出来なくなった。

 そして九歳の誕生日を迎える頃には流行病にやられ、散々苦しんだ挙句にこの世を去った。

 遺体を埋葬するときには肌は青白く変色し、同年代の子供に比べて痩せ衰えて骨と皮だけになっていた。

 それを見たオリエンタは、何て無残な死に様であろうと思ったほどである。

 かくして王位継承権を持つ人物は、セシリアとオリエンタの二人だけとなった。

 しかし、どう足掻いても第三王女のオリエンタは第一王女のセシリアには適わない。

 先代国王はセシリアを溺愛し、セシリア自身は公国のことを第一と考えていたほどの才女であった。

 民衆からの人望も厚く、宮廷内での評判も一際高かった。

 たとえ男子が生まれていたとしても、女王として国を統べてほしいと噂されるほどに。

「あの盗賊どもめ。よりにもよって約束を破り、王家の証を奪い去るとは……しょせんは薄汚い蛮族風情だったというわけか」

「申し訳ございません。すべては橋渡しをした私の責任にござります」

 オリエンタの独白に対してカルマが謝罪する。

「いえ、何もそなたを責め立てているわけではない。それよりも……」

 ドレスの裾を持ち上げたオリエンタは、テラスへと続く窓の傍に歩み寄った。

 そのまま窓を開放しテラスへと躍り出る。

 心地良い風が白銀の髪を揺らし、渡り鳥の群れが目の前を通り過ぎていく。

 オリエンタはテラスからアッシリアの街並みを睥睨した。

 一国の首都とはいえ何と小さな街なのだろう。

 オリエンタは前髪を掻き上げながら心底辟易した。
 バルセロナ公国は、標高が高い山岳地帯の中にぽつりと存在している。

 即位したセシリアはこの雄大な自然と人々は末永く共存していかなければならないと唱え、領土を拡大することなく軍備の縮小も考えていた。

 何て甘いのだろう。

 セシリアが女王に即位して初めて行った軍事会議において、その会議に参加していたオリエンタは終始そう思っていた。

 オリエンタは第三王女という身分だったので、王位継承権第一位であったセシリアと違い比較的外出は自由に許可されていた。

 だからかもしれない。

 オリエンタは幼少の頃から護衛つきの馬車で他国へと赴き、様々な風土や文化をその目で見てきた。

 その中でも一番衝撃的だったのは、広大な海を通して遠く異大陸の国と貿易を交わしていたカーメルンという国である。

 領土はバルセロナ公国の三分の一程度であったが、その国防力はバルセロナとは大人と子供ぐらいの差が開いていただろう。

 貿易という外交手段により手に入れた通貨によって軍備を増大し、絶えず外と情報を交換していたことは幼かったオリエンタにもその凄さがわかった。

 同時にひどく落胆を覚えた。カーメルンにではない。

 外の世界に目を向けることもせず、ただ現状に満足しているバルセロナ公国にである。

 今、世界は恐ろしいほどの速度で発展していた。

 百年前には考えられなかった新しい武器が開発され、未開であった大陸の詳細が冒険家たちにより次々に明らかにされている。

 このまま行けば、近い将来必ず大きな戦争が起こる。

 そのときに勝利するのは広大な領土を持っている国ではない。

 他国の情報を常に把握し、強大な軍事力を密かに蓄えているカーメルンのような国である。

 だからこそ、一刻も早く手を打たなければならない。

「カルマ」

 オリエンタは振り向くことなく側近の名前を呼んだ。

 カルマはすでにテラスへと入り、オリエンタの後方に控えていた。

「あの者たちは今までの人間と違って仕事を果たしてくれると思いますか?」

 遥か彼方を見つめるオリエンタの脳裏には、雄大な大自然の風景ではなく外套を羽織った一人の少年と、見る者すべてを驚愕させるほどの巨人の姿が浮かんでいた。

「噂に嘘偽りがなければその可能性は高いかと」

 カルマがそう答えるなり、オリエンタはゆっくりと振り返った。

 絹と鳥の羽毛で作られた豪華な扇を広げ、口元を覆い隠す。

「ですが万一あの者たちが失敗するようなことがあれば……わかっていますね?」

「その点に関して抜かりはありません。しかし、問題があるとすれば彼女のことかと」

 扇で口元を隠していたオリエンタは、今度は顔全体を覆い隠すように扇を動かした。

 その扇の中で、オリエンタは艶かしい朱唇を歪めた。

「そちらはすでに手は打ってありますよ」
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