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第一章 ~勇者パーティーを追放された空手家~
道場訓 三 勇者の誤った行動 ➀
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「はあ~、これでやっと清々した! 戦闘もできない余計なお荷物が消えてくれたんだ。これで俺たちは実力ともに立派な勇者パーティーを名乗れるぜ。そうだろ、みんな?」
「本当にそう思うわよ。これならもっと早く追い出しておけばよかったね。きっとケンシンは自分を闘えば強い空手家だと思い込んでいる素人だったのよ」
「うむ……おそらくケンシンは空手家と名乗っていたが、実のところ闘いの「た」の字も知らない未熟者だったのだろうな。だが、それを知られては自分の立つ瀬がないと思い、常日頃から空手着を着て必死に空手家であることを周囲にアピールしていたのだろう。まったくもって痛い奴だった」
さすが俺が見込んだ二人だ。
アリーゼもカチョウも俺が考えていることと同じ意見を述べてくれる。
しかし、完全に追い出したとはいえ腹の虫は微妙に治まらない。
あの野郎、クビを告げられても平然としてやがった。
もっと慌てふためいてクビを撤回してくれと土下座ぐらいはしてくるかとも思ったが、最後の最後まで上から目線で対応してきたのは想定外だ。
まさか、他の冒険者パーティーに伝手でもあるのか?
いや、少なくとも他の冒険者パーティーと細かく連絡を取り合ったり交流していた素振りはほとんどなかった。
まあ、仮に交流があったとしても邪険にされていただろうがな。
俺は内心でほくそ笑んだ。
なぜなら、俺はこういうときのために他の冒険者たちにさり気なくケンシンの無能ぶりを吹聴していたからだ。
まったく、本当に無能な奴だったぜ。
半年前、最初はケンシンを気まぐれで道端で拾ったときは多少は使える奴かとも思った。
雑用や荷物持ちをちょうど探していたときだったし、そのときのケンシンはボロボロの空手着と死んだような目でいたから、お情けでパーティーにサポーターとして入れてやったのだ。
魔力が0だと聞いたのはそのときだった。
マジか、とそのときの俺は思ったものだ。
この国で魔法が使えないなんて奴はザラだが、まさか魔力が0な奴なんているのかというのが率直な感想だった。
ただ、魔力が0な奴には魔法が使えない代わりにスキルという固有能力が顕現する場合がある。
理屈も原理もよく知らねえ。
昔からそういうもんとしてあるんだからな。
まあ、それはさておき。
そしてケンシンは自分が魔力が0で魔法が使えなかったものの、スキルという固有能力を持っていると言った。
俺はそのとき考えた。
魔法が使えなくとも、珍しいスキル持ちなら俺が立ち上げた【神竜ノ翼】の名に少しでも箔が付くんじゃないかと。
もしかすると、それで指名クエストが来るんじゃないかと少なからず期待したのも事実だ。
そういうわけでサポーターとしてケンシンを【神竜ノ翼】に入れてやったのだが、あろうことかケンシンのスキルは俺たちに何の恩恵も与えられない無能スキルだったのだから驚きだったぜ。
いや、これだけだと語弊があるな。
はっきりと言えば俺たちがケンシンのスキルの恩恵を得るためには、どういうわけかケンシンを神のように崇め奉る目上の人間として接しなくてはならなかったのだ。
しかもそれだけではなく、ケンシンと同じクソだせえ空手着を常に着ることも条件だと聞いた俺たちは激怒したね。
どうして新入りのサポーターのスキル程度を使うために、俺たちがそこまでしなくてはならないんだ、とな。
本来ならすぐにでもボコボコにしてパーティーから追放したかったのだが、すでに冒険者ギルドに正式登録したあとだったからそれもできなくなっていた。
この国の冒険者ギルドでは冒険者たちの犯罪の抑制や防止のため、冒険者ギルドに正式登録したパーティーメンバーは最低でも半年は無断で解消できないことになっている。
この規定を破ると恐ろしい罰則金が科せられ、他にも大手の依頼主などに事情が説明されて今後はまともに冒険者として活動できなくなるのだ。
だから今まではどんなにケンシンが俺に対して上から目線で文句や意見を言ってきても無視していたが、ようやく昨日付けで規定の半年が過ぎたのでケンシンをクビにすることができた。
そもそも数日前に国から正式な勇者として俺が認められたときも、ケンシンがアホみたいな格好で国王に接見したことで俺たちは大恥を掻いたことは生涯忘れることはないだろう。
くそっ、改めて思い出したことで腸が煮えくり返ってきた。
何か憂さ晴らしをしないと気が晴れねえな。
などと俺が思っていると、アリーゼが声をかけてきた。
「ねえ、キース。こんなことになるのなら最初からケンシンなんて拾わないほうがよかったね。一昔前ならともかく、今は探せば戦闘ぐらいできるサポーターなんているんだから。今まであいつにあげていた報酬の分け前がもったいなかったよ」
「それは拙者もアリーゼの意見に同意する。しかもサポーターしかできなかった男が、勇者パーティーのリーダーであるキースに堂々と文句や意見を言うのもおかしかった……なあ、キース。今からでもケンシンを追いかけて今まで拙者らが与えた報酬の分け前を返してもらわないか?」
「どうやってだ? 今のあいつはほとんど無一文だぜ」
「簡単なことだ。ケンシンを商業街かヤマトタウンの奴隷商人に売ればいい。大した金額にはならないだろうが、それでも今まで与えた報酬分け前のいくらか分ぐらいは取り返せるだろう」
俺は両腕を組んで考えを巡らせる。
カチョウの提案も魅力的と言えば魅力的だった。
ケンシンを奴隷として売れば俺の気も晴れるし、少しばかりの金は入ってくるだろう。
だが、全体的な労力を考えると面倒くさいの一言で終わってしまう。
それに俺はこのリザイアル王国の国王に選ばれた正式な勇者だ。
最近になって復活しつつあるという、魔族や魔人たちの王である魔人王から世界を救うために選ばれた救世主だ。
だったらクビにした無能で役立たずなサポーターのことなど無視するに限る。
「カチョウ、お前の言いたいことは分かる。だが、もうあんな役立たずな奴のことなんて綺麗さっぱり忘れようぜ」
本音を言えば心のどこかにケンシンに対するモヤがあったものの、いずれはその感情も次第に消えていくに違いない。
「そうか……勇者であるお主がそう言うのなら拙者はもう何も言わん。だが、それならばこれからどうする? 宿屋に戻るか?」
「まだ昼過ぎだぜ。宿屋に戻るのは早えだろ……そうだな、これから以前に攻略した【断罪の迷宮】にでも行って軽く魔物を倒さないか?」
「賛成賛成! 弱っちい魔物でも狩って憂さ晴らししようよ!」
アリーゼの言う通りだ。
こういうときは簡単に倒せる魔物でも狩って憂さ晴らししたほうがいい。
小遣い程度の金も入ってくるしな。
「よし、そうと決まったら早速行こうぜ」
俺が高らかに宣言すると、カチョウが「待て」と口を挟んできた。
「持っていくアイテムなんかはどうする? アイテム管理なんかはケンシンがしていただろう」
「そんなもんどうだっていいじゃねえか。未知の迷宮に潜るんじゃねえんだ。アイテムなんざ適当に持って行ってもどうとでもなるだろうよ」
「そうだな。すまん、今の拙者の意見は忘れてくれ」
「大丈夫よ、カチョウ。いざとなったら私の回復魔法があるじゃないの。でも、あそこだけじゃなくて他の迷宮でも私たちが潜るときには下級や上級を問わずなぜか魔物たちはすごく弱くて回復アイテムも回復魔法もほとんど使わなくて済んだじゃない。それほど今の私たちは強くなっているってことよ」
「アリーゼの言う通りだ。半年前ならともかく、今の俺たちは泣く子も黙るSランクの勇者パーティーだ。何だったらアイテムなしで潜ってみるか? きっと他の冒険者たちは驚きすぎて目玉を飛び出すぜ」
「アイテムなしで迷宮を制するか……それもまた一興だな」
アリーゼとカチョウからの同意も得られたことで、俺はアイテムなしで迷宮に潜ることを決心した。
そうとなれば前もって他の冒険者たちにも宣伝しておこう。
勇者パーティーはサポーターもアイテムもなしに迷宮を制してやる、と。
きっと達成したあかつきには、他の冒険者たちからの賛辞や尊敬は凄まじいものになるだろう。
くくくっ……めちゃくちゃ楽しみだ。
「本当にそう思うわよ。これならもっと早く追い出しておけばよかったね。きっとケンシンは自分を闘えば強い空手家だと思い込んでいる素人だったのよ」
「うむ……おそらくケンシンは空手家と名乗っていたが、実のところ闘いの「た」の字も知らない未熟者だったのだろうな。だが、それを知られては自分の立つ瀬がないと思い、常日頃から空手着を着て必死に空手家であることを周囲にアピールしていたのだろう。まったくもって痛い奴だった」
さすが俺が見込んだ二人だ。
アリーゼもカチョウも俺が考えていることと同じ意見を述べてくれる。
しかし、完全に追い出したとはいえ腹の虫は微妙に治まらない。
あの野郎、クビを告げられても平然としてやがった。
もっと慌てふためいてクビを撤回してくれと土下座ぐらいはしてくるかとも思ったが、最後の最後まで上から目線で対応してきたのは想定外だ。
まさか、他の冒険者パーティーに伝手でもあるのか?
いや、少なくとも他の冒険者パーティーと細かく連絡を取り合ったり交流していた素振りはほとんどなかった。
まあ、仮に交流があったとしても邪険にされていただろうがな。
俺は内心でほくそ笑んだ。
なぜなら、俺はこういうときのために他の冒険者たちにさり気なくケンシンの無能ぶりを吹聴していたからだ。
まったく、本当に無能な奴だったぜ。
半年前、最初はケンシンを気まぐれで道端で拾ったときは多少は使える奴かとも思った。
雑用や荷物持ちをちょうど探していたときだったし、そのときのケンシンはボロボロの空手着と死んだような目でいたから、お情けでパーティーにサポーターとして入れてやったのだ。
魔力が0だと聞いたのはそのときだった。
マジか、とそのときの俺は思ったものだ。
この国で魔法が使えないなんて奴はザラだが、まさか魔力が0な奴なんているのかというのが率直な感想だった。
ただ、魔力が0な奴には魔法が使えない代わりにスキルという固有能力が顕現する場合がある。
理屈も原理もよく知らねえ。
昔からそういうもんとしてあるんだからな。
まあ、それはさておき。
そしてケンシンは自分が魔力が0で魔法が使えなかったものの、スキルという固有能力を持っていると言った。
俺はそのとき考えた。
魔法が使えなくとも、珍しいスキル持ちなら俺が立ち上げた【神竜ノ翼】の名に少しでも箔が付くんじゃないかと。
もしかすると、それで指名クエストが来るんじゃないかと少なからず期待したのも事実だ。
そういうわけでサポーターとしてケンシンを【神竜ノ翼】に入れてやったのだが、あろうことかケンシンのスキルは俺たちに何の恩恵も与えられない無能スキルだったのだから驚きだったぜ。
いや、これだけだと語弊があるな。
はっきりと言えば俺たちがケンシンのスキルの恩恵を得るためには、どういうわけかケンシンを神のように崇め奉る目上の人間として接しなくてはならなかったのだ。
しかもそれだけではなく、ケンシンと同じクソだせえ空手着を常に着ることも条件だと聞いた俺たちは激怒したね。
どうして新入りのサポーターのスキル程度を使うために、俺たちがそこまでしなくてはならないんだ、とな。
本来ならすぐにでもボコボコにしてパーティーから追放したかったのだが、すでに冒険者ギルドに正式登録したあとだったからそれもできなくなっていた。
この国の冒険者ギルドでは冒険者たちの犯罪の抑制や防止のため、冒険者ギルドに正式登録したパーティーメンバーは最低でも半年は無断で解消できないことになっている。
この規定を破ると恐ろしい罰則金が科せられ、他にも大手の依頼主などに事情が説明されて今後はまともに冒険者として活動できなくなるのだ。
だから今まではどんなにケンシンが俺に対して上から目線で文句や意見を言ってきても無視していたが、ようやく昨日付けで規定の半年が過ぎたのでケンシンをクビにすることができた。
そもそも数日前に国から正式な勇者として俺が認められたときも、ケンシンがアホみたいな格好で国王に接見したことで俺たちは大恥を掻いたことは生涯忘れることはないだろう。
くそっ、改めて思い出したことで腸が煮えくり返ってきた。
何か憂さ晴らしをしないと気が晴れねえな。
などと俺が思っていると、アリーゼが声をかけてきた。
「ねえ、キース。こんなことになるのなら最初からケンシンなんて拾わないほうがよかったね。一昔前ならともかく、今は探せば戦闘ぐらいできるサポーターなんているんだから。今まであいつにあげていた報酬の分け前がもったいなかったよ」
「それは拙者もアリーゼの意見に同意する。しかもサポーターしかできなかった男が、勇者パーティーのリーダーであるキースに堂々と文句や意見を言うのもおかしかった……なあ、キース。今からでもケンシンを追いかけて今まで拙者らが与えた報酬の分け前を返してもらわないか?」
「どうやってだ? 今のあいつはほとんど無一文だぜ」
「簡単なことだ。ケンシンを商業街かヤマトタウンの奴隷商人に売ればいい。大した金額にはならないだろうが、それでも今まで与えた報酬分け前のいくらか分ぐらいは取り返せるだろう」
俺は両腕を組んで考えを巡らせる。
カチョウの提案も魅力的と言えば魅力的だった。
ケンシンを奴隷として売れば俺の気も晴れるし、少しばかりの金は入ってくるだろう。
だが、全体的な労力を考えると面倒くさいの一言で終わってしまう。
それに俺はこのリザイアル王国の国王に選ばれた正式な勇者だ。
最近になって復活しつつあるという、魔族や魔人たちの王である魔人王から世界を救うために選ばれた救世主だ。
だったらクビにした無能で役立たずなサポーターのことなど無視するに限る。
「カチョウ、お前の言いたいことは分かる。だが、もうあんな役立たずな奴のことなんて綺麗さっぱり忘れようぜ」
本音を言えば心のどこかにケンシンに対するモヤがあったものの、いずれはその感情も次第に消えていくに違いない。
「そうか……勇者であるお主がそう言うのなら拙者はもう何も言わん。だが、それならばこれからどうする? 宿屋に戻るか?」
「まだ昼過ぎだぜ。宿屋に戻るのは早えだろ……そうだな、これから以前に攻略した【断罪の迷宮】にでも行って軽く魔物を倒さないか?」
「賛成賛成! 弱っちい魔物でも狩って憂さ晴らししようよ!」
アリーゼの言う通りだ。
こういうときは簡単に倒せる魔物でも狩って憂さ晴らししたほうがいい。
小遣い程度の金も入ってくるしな。
「よし、そうと決まったら早速行こうぜ」
俺が高らかに宣言すると、カチョウが「待て」と口を挟んできた。
「持っていくアイテムなんかはどうする? アイテム管理なんかはケンシンがしていただろう」
「そんなもんどうだっていいじゃねえか。未知の迷宮に潜るんじゃねえんだ。アイテムなんざ適当に持って行ってもどうとでもなるだろうよ」
「そうだな。すまん、今の拙者の意見は忘れてくれ」
「大丈夫よ、カチョウ。いざとなったら私の回復魔法があるじゃないの。でも、あそこだけじゃなくて他の迷宮でも私たちが潜るときには下級や上級を問わずなぜか魔物たちはすごく弱くて回復アイテムも回復魔法もほとんど使わなくて済んだじゃない。それほど今の私たちは強くなっているってことよ」
「アリーゼの言う通りだ。半年前ならともかく、今の俺たちは泣く子も黙るSランクの勇者パーティーだ。何だったらアイテムなしで潜ってみるか? きっと他の冒険者たちは驚きすぎて目玉を飛び出すぜ」
「アイテムなしで迷宮を制するか……それもまた一興だな」
アリーゼとカチョウからの同意も得られたことで、俺はアイテムなしで迷宮に潜ることを決心した。
そうとなれば前もって他の冒険者たちにも宣伝しておこう。
勇者パーティーはサポーターもアイテムもなしに迷宮を制してやる、と。
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