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あいつに相応しい〝ざまぁ〟は婚約破棄の後で
「おい、リリア。お前は今日から僕の婚約者になった。つまり、婚約者の僕はお前に何をしてもいいということだ」
私が9歳のとき、当時10歳だったダミアンさまにそう言われた。
貴族の中で爵位が低い男爵家の令嬢だったリリア・ノートンこと私は、自宅の庭に現れた金髪のぽっちゃりとした体格のブロデリカ伯爵家の令息――ダミアンさまにそう言われても首をかしげるしかなかった。
当然だった。
そんな話はまったく聞いたことがなかったからだ。
「ダミアンさま、リリアとあなたが婚約するとは何かの間違いではないのですか?」
ダミアンさまに面と向かって言ったのは、私と庭でオママゴトをしていた私と同じ年齢だったエリナだった。
栗色の髪の毛の私と違って、東方の国の血が入っているエリナの髪は流麗な黒髪である。
そしてエリナの家柄もダミアンさまと同じ伯爵家だった。
しかし、エリナは家柄など気にせず、お茶会で出会った私と親友以上に優しく接してくれていた。
そんなエリナと楽しいひと時を過ごしている中、いきなり現れたのがダミアンさまだったのだ。
ダミアンさまはふんと鼻を鳴らす。
「間違いではない。リリアは僕と婚約する。だから僕の言うことは何でも聞け」
男爵家と伯爵家では家柄の格が違いすぎる。
それは9歳の私でもよくわかっていた。
なので私は「わかりました」と二つ返事で了承した。
それから私はダミアンさまの婚約者という名の奴隷となった。
ダミアンさまは私を呼び出すと、ことごとく暴力を振った。
「何で兄上たちは僕を馬鹿にするんだよ!」
などとわけのわからないことを口走りながら、私を地面に押し倒して蹴り続けた。
それは王立学院に入学してからも変わらなかった。
いや、もっと酷い仕打ちを浴びた。
ダミアンさまの授業の課題をやらされるのは序の口、ときにはダミアンさまの取り巻き連中の前で水をかけられて罵倒されることもあった。
それでも私は耐えた。
悔しくて眠れない夜もあったが、その酷い仕打ちに耐え続けた。
学院内で「リリア・ノートンはダミアン伯爵子息の使用人」などと陰口を叩かれても、私はあることを胸に抱いて必死にそのときが来るのを待ち続けた。
やがて私が正式に婚約できる16歳になったとき、ついにそのときがやってきた。
ある日、プロデリカ伯爵家の大広間でパーティーが開かれた。
表向きは私とダミアンさまの正式な婚約披露パーティーという名目だったが、それが偽りの名目だったことは私にはわかっていた。
現にパーティーが宴もたけなわになってきた頃、ダミアンさまは大広間の中央に歩み寄って「お集りの皆さまにお伝えしたいことがあります」と声を張り上げた。
それだけではない。
ダミアンさまは1人の女性を自分の隣に招き呼んだ。
エリナ・ハミルトン。
私と子供の頃からの親友……いや親友以上の関係の女性であった。
そして――。
私は何も驚かずにダミアンさまの一挙手一投足を見ていると、ダミアンさまは大広間全体を見回しながら叫ぶように言った。
「私はリリア・ノートンと婚約破棄し、代わりにここにいるエリナ・ハミルトンと新たに婚約いたします!」
ダミアンの突然の発言に貴族たちはざわめいた。
「私がリリアと婚約破棄するに至ったのには理由があります! リリアはあまりにも無能で私の存在を貶めてきました。そんな彼女もいつかは我がプロデリカ伯爵家に相応しい女性になってくれると信じて耐えてきましたが、ついに私も彼女には失望いたしました。そこで私は彼女との婚約を白紙にし、私と同じ伯爵家の立派な淑女であるエリナと新たな婚約をするに至ったのです」
一気にまくしたてたダミアンは、私にむかって盛大なドヤ顔をしてみせた。
まるで「下賤な男爵家のお前と婚約したのは、1人前の貴族として認められるこの年齢になるまでの日頃の鬱憤を晴らすための存在だったのだ」と言わんばかりに。
事実、そうだったのだろう。
でなければ伯爵家の令息が男爵家の令嬢と婚約するはずがない。
そしてダミアンは私からエリナに顔を向けた。
私には1度たりとも向けたことない満面な笑顔で。
「エリナ、僕との婚約を皆の前で承諾してくれるよな!」
しんと静まった中、エリナはニコリと微笑んで口を開いた。。
「はい、もちろんお断りいたします」
「…………え?」
ダミアンの顔から笑みが消えた。
「エリナ、僕の聞き間違いかな? 僕との婚約は断るって……」
「いいえ、聞き間違いではありませんよ。あなたのような下賤なクソ野郎と婚約などいたしません」
「なっ!」
ダミアンは金棒で頭を殴られたようにショックを受けていた。
エリーナはチラッと私を見ると小さく頷き、言葉を続けた。
「リリアさんは人柄もよく、自分が信じたことを達成するまで耐え忍ぶことができる貴族令嬢の鏡のような存在。しかし、そんなリリアさんとは違ってダミアンさま……あなたは子供の頃から自分が兄弟に向けられていた鬱憤を晴らすため、無理やりリリアさんと婚約していたのわかっています」
貴族たちのざわつきが一気に激しくなる。
「まさか、プロデリカ伯爵家の人間がそんな卑劣な真似をするなんて」
「いくら男爵家のご令嬢とはいえ酷すぎますわ」
「ダミアンさま……何という下劣なお人だったのだ」
「あんな人間に貴族の称号など相応しくない」
「皆さま、こうなったら王族との縁が強いピースクロフト公爵家にこのことを伝えましょう」
エリナの言葉がきっかけでダミアンさまを断罪する声が響き渡る。
「ち、違う……僕は……そんなことは……」
ダミアンはその場から逃げようとしたが、その前に貴族の男性たちに捕まって床に押し倒された。
そんなダミアンを見下ろしながら、私は小さくつぶやいた。
「うふふ……ざまぁ」
その後、パーティーに集まった貴族たちはこの一件を本当にピースクロフト公爵家に伝えた。
すると今までのダミアンの私に対する様々な悪事が明るみに出たことで、ダミアンは爵位を剥奪されてプロデリカ公爵家からも勘当されたという。
もちろん、それからダミアンさま……いえ、ダミアンのクソ野郎がどうなったかなど知る由もない。
風の噂では王都の一角で身ぐるみを剥がされて殺されたダミアンに似たような男の死体が出てきたというが、私にとってそれが当人なのか別人なのかはどちらでもよかった。
私は今回の一件でプロデリカ公爵家から、節約すれば一生何不自由なく暮らせるほどの多額の慰謝料を手に入れたからだ。
これで王都から離れた土地に別荘を買って遊んで暮らすのもいいわね。
などと考えていると、隣にいたエリナがたずねてくる。
「ねえ、リリア。これからどうする?」
現在、私とエリナはノートン男爵家の正門前にいた。
そんな正門にはあらかじめ旅行用の馬車を用意してある。
私は正直に答えた。
「風光明媚なアルメイアに土地を買って別荘を買うわ。そして慎ましくも楽しく暮らすの。政略結婚の道具になるのはもう嫌だから。でも、それ以上に男に嫁ぐことがもう耐えられない。まあ、そんなことは貴族令嬢として世間に言えないことだから、とにかくほとぼりが冷めるまで田舎でのんびり暮らす」
エリナはこくりとうなずいた。
「わかった。じゃあ、私も一緒に行くわね」
私はじっとエリナを見つめた。
子供の頃から私の秘密の恋人だったエリナを。
「私もあなたも三女だから、政略結婚をしないのなら修道院送りになるだけ。だったら、私は恋人のあなたと一緒に暮らしたい。ちょうどそういう機会が巡ってきたからね」
「ダミアンね」
「そうよ。あいつは本当に最低のクソ野郎だった。でも、そんなクソ野郎にも利用価値があったわ。あいつのお陰でリリア・ノートンは婚約破棄されたことに心が痛み、結婚もできずに田舎で長く療養することになった。そんなリリアを心配した親友の私が、付き添いでリリアの行く場所までついていくという口実がね」
そう、すべては私たちの企みだった。
ダミアンにずっと屈辱的なことをされていても、私のそばには心身ともに励ましてくれる親友以上の恋人であったエリナがいた。
やがてダミアンは社交界でも絶世の美女と謳われていたエリナに目をつけた。
もともとダミアンは私と本当に結婚などする気はなく、単に自分が兄弟にやられていた心身的な屈辱のはけ口として私を婚約者に選んだだけだったのだ。
婚約関係の相手になら、しかも格下の家柄の令嬢にはある程度何をやっても許される風潮が貴族の間にはまだ残っている。
それを私たちは逆に利用した。
特にダミアンに怒りを超えた殺意を持っていたのはエリナだ。
エリナはダミアンの性格や行動を調べ上げ、最終的にどういった振る舞いをするかを丹念に調べ上げた。
ダミアンはいつか自分の家でパーティーを開き、リリア・ノートンこと私との婚約破棄を堂々と公衆の面前で告げる。
そして前もって声をかけていたエリナと新たに婚約することも。
なぜなら、エリナは事前にダミアンからその計画を聞いていたからだ。
もちろん、エリナはそのときどきで調子よくダミアンの言葉に同意していた。
裏ではダミアンを裏切ることを頭に浮かべながらだ。
かくして私たちの計画は最大限に成功した。
復讐相手だったダミアンはいなくなり、多額の賠償金が手に入ったのである。
私は場所の足掛け台に乗ると車体の扉を開いた。
すでに車体の中には着替えなどは入っている。
「では、エリナ。本当に私と一緒に行くのなら手を取って」
私が左手を差し出すと、エリナは満面の笑みで私の手を取った。
「もちろん、行くわよ。あなたと一緒ならどこまでも」
そうして私たちは多くの貴族たちが別荘を建てている、王都からかなり離れた田舎のアルメイアに向かって馬車を走らせた。
馬車の上空からは、2人の門出を祝うかのように燦々とした太陽の日差しが降り注いでいた。
〈Fin〉
================
【あとがき】
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。
主人公たちの人生はまだまだ続きますが、物語自体はここで幕引きとさせていただきます。
そして第19回恋愛小説大賞に新作を投稿しました。
【タイトル】
【連載】悪役毒妃の後宮心理術
目次ページです
https://www.alphapolis.co.jp/novel/269374665/401981361
よろしければ、ご一読くださいm(__)m
私が9歳のとき、当時10歳だったダミアンさまにそう言われた。
貴族の中で爵位が低い男爵家の令嬢だったリリア・ノートンこと私は、自宅の庭に現れた金髪のぽっちゃりとした体格のブロデリカ伯爵家の令息――ダミアンさまにそう言われても首をかしげるしかなかった。
当然だった。
そんな話はまったく聞いたことがなかったからだ。
「ダミアンさま、リリアとあなたが婚約するとは何かの間違いではないのですか?」
ダミアンさまに面と向かって言ったのは、私と庭でオママゴトをしていた私と同じ年齢だったエリナだった。
栗色の髪の毛の私と違って、東方の国の血が入っているエリナの髪は流麗な黒髪である。
そしてエリナの家柄もダミアンさまと同じ伯爵家だった。
しかし、エリナは家柄など気にせず、お茶会で出会った私と親友以上に優しく接してくれていた。
そんなエリナと楽しいひと時を過ごしている中、いきなり現れたのがダミアンさまだったのだ。
ダミアンさまはふんと鼻を鳴らす。
「間違いではない。リリアは僕と婚約する。だから僕の言うことは何でも聞け」
男爵家と伯爵家では家柄の格が違いすぎる。
それは9歳の私でもよくわかっていた。
なので私は「わかりました」と二つ返事で了承した。
それから私はダミアンさまの婚約者という名の奴隷となった。
ダミアンさまは私を呼び出すと、ことごとく暴力を振った。
「何で兄上たちは僕を馬鹿にするんだよ!」
などとわけのわからないことを口走りながら、私を地面に押し倒して蹴り続けた。
それは王立学院に入学してからも変わらなかった。
いや、もっと酷い仕打ちを浴びた。
ダミアンさまの授業の課題をやらされるのは序の口、ときにはダミアンさまの取り巻き連中の前で水をかけられて罵倒されることもあった。
それでも私は耐えた。
悔しくて眠れない夜もあったが、その酷い仕打ちに耐え続けた。
学院内で「リリア・ノートンはダミアン伯爵子息の使用人」などと陰口を叩かれても、私はあることを胸に抱いて必死にそのときが来るのを待ち続けた。
やがて私が正式に婚約できる16歳になったとき、ついにそのときがやってきた。
ある日、プロデリカ伯爵家の大広間でパーティーが開かれた。
表向きは私とダミアンさまの正式な婚約披露パーティーという名目だったが、それが偽りの名目だったことは私にはわかっていた。
現にパーティーが宴もたけなわになってきた頃、ダミアンさまは大広間の中央に歩み寄って「お集りの皆さまにお伝えしたいことがあります」と声を張り上げた。
それだけではない。
ダミアンさまは1人の女性を自分の隣に招き呼んだ。
エリナ・ハミルトン。
私と子供の頃からの親友……いや親友以上の関係の女性であった。
そして――。
私は何も驚かずにダミアンさまの一挙手一投足を見ていると、ダミアンさまは大広間全体を見回しながら叫ぶように言った。
「私はリリア・ノートンと婚約破棄し、代わりにここにいるエリナ・ハミルトンと新たに婚約いたします!」
ダミアンの突然の発言に貴族たちはざわめいた。
「私がリリアと婚約破棄するに至ったのには理由があります! リリアはあまりにも無能で私の存在を貶めてきました。そんな彼女もいつかは我がプロデリカ伯爵家に相応しい女性になってくれると信じて耐えてきましたが、ついに私も彼女には失望いたしました。そこで私は彼女との婚約を白紙にし、私と同じ伯爵家の立派な淑女であるエリナと新たな婚約をするに至ったのです」
一気にまくしたてたダミアンは、私にむかって盛大なドヤ顔をしてみせた。
まるで「下賤な男爵家のお前と婚約したのは、1人前の貴族として認められるこの年齢になるまでの日頃の鬱憤を晴らすための存在だったのだ」と言わんばかりに。
事実、そうだったのだろう。
でなければ伯爵家の令息が男爵家の令嬢と婚約するはずがない。
そしてダミアンは私からエリナに顔を向けた。
私には1度たりとも向けたことない満面な笑顔で。
「エリナ、僕との婚約を皆の前で承諾してくれるよな!」
しんと静まった中、エリナはニコリと微笑んで口を開いた。。
「はい、もちろんお断りいたします」
「…………え?」
ダミアンの顔から笑みが消えた。
「エリナ、僕の聞き間違いかな? 僕との婚約は断るって……」
「いいえ、聞き間違いではありませんよ。あなたのような下賤なクソ野郎と婚約などいたしません」
「なっ!」
ダミアンは金棒で頭を殴られたようにショックを受けていた。
エリーナはチラッと私を見ると小さく頷き、言葉を続けた。
「リリアさんは人柄もよく、自分が信じたことを達成するまで耐え忍ぶことができる貴族令嬢の鏡のような存在。しかし、そんなリリアさんとは違ってダミアンさま……あなたは子供の頃から自分が兄弟に向けられていた鬱憤を晴らすため、無理やりリリアさんと婚約していたのわかっています」
貴族たちのざわつきが一気に激しくなる。
「まさか、プロデリカ伯爵家の人間がそんな卑劣な真似をするなんて」
「いくら男爵家のご令嬢とはいえ酷すぎますわ」
「ダミアンさま……何という下劣なお人だったのだ」
「あんな人間に貴族の称号など相応しくない」
「皆さま、こうなったら王族との縁が強いピースクロフト公爵家にこのことを伝えましょう」
エリナの言葉がきっかけでダミアンさまを断罪する声が響き渡る。
「ち、違う……僕は……そんなことは……」
ダミアンはその場から逃げようとしたが、その前に貴族の男性たちに捕まって床に押し倒された。
そんなダミアンを見下ろしながら、私は小さくつぶやいた。
「うふふ……ざまぁ」
その後、パーティーに集まった貴族たちはこの一件を本当にピースクロフト公爵家に伝えた。
すると今までのダミアンの私に対する様々な悪事が明るみに出たことで、ダミアンは爵位を剥奪されてプロデリカ公爵家からも勘当されたという。
もちろん、それからダミアンさま……いえ、ダミアンのクソ野郎がどうなったかなど知る由もない。
風の噂では王都の一角で身ぐるみを剥がされて殺されたダミアンに似たような男の死体が出てきたというが、私にとってそれが当人なのか別人なのかはどちらでもよかった。
私は今回の一件でプロデリカ公爵家から、節約すれば一生何不自由なく暮らせるほどの多額の慰謝料を手に入れたからだ。
これで王都から離れた土地に別荘を買って遊んで暮らすのもいいわね。
などと考えていると、隣にいたエリナがたずねてくる。
「ねえ、リリア。これからどうする?」
現在、私とエリナはノートン男爵家の正門前にいた。
そんな正門にはあらかじめ旅行用の馬車を用意してある。
私は正直に答えた。
「風光明媚なアルメイアに土地を買って別荘を買うわ。そして慎ましくも楽しく暮らすの。政略結婚の道具になるのはもう嫌だから。でも、それ以上に男に嫁ぐことがもう耐えられない。まあ、そんなことは貴族令嬢として世間に言えないことだから、とにかくほとぼりが冷めるまで田舎でのんびり暮らす」
エリナはこくりとうなずいた。
「わかった。じゃあ、私も一緒に行くわね」
私はじっとエリナを見つめた。
子供の頃から私の秘密の恋人だったエリナを。
「私もあなたも三女だから、政略結婚をしないのなら修道院送りになるだけ。だったら、私は恋人のあなたと一緒に暮らしたい。ちょうどそういう機会が巡ってきたからね」
「ダミアンね」
「そうよ。あいつは本当に最低のクソ野郎だった。でも、そんなクソ野郎にも利用価値があったわ。あいつのお陰でリリア・ノートンは婚約破棄されたことに心が痛み、結婚もできずに田舎で長く療養することになった。そんなリリアを心配した親友の私が、付き添いでリリアの行く場所までついていくという口実がね」
そう、すべては私たちの企みだった。
ダミアンにずっと屈辱的なことをされていても、私のそばには心身ともに励ましてくれる親友以上の恋人であったエリナがいた。
やがてダミアンは社交界でも絶世の美女と謳われていたエリナに目をつけた。
もともとダミアンは私と本当に結婚などする気はなく、単に自分が兄弟にやられていた心身的な屈辱のはけ口として私を婚約者に選んだだけだったのだ。
婚約関係の相手になら、しかも格下の家柄の令嬢にはある程度何をやっても許される風潮が貴族の間にはまだ残っている。
それを私たちは逆に利用した。
特にダミアンに怒りを超えた殺意を持っていたのはエリナだ。
エリナはダミアンの性格や行動を調べ上げ、最終的にどういった振る舞いをするかを丹念に調べ上げた。
ダミアンはいつか自分の家でパーティーを開き、リリア・ノートンこと私との婚約破棄を堂々と公衆の面前で告げる。
そして前もって声をかけていたエリナと新たに婚約することも。
なぜなら、エリナは事前にダミアンからその計画を聞いていたからだ。
もちろん、エリナはそのときどきで調子よくダミアンの言葉に同意していた。
裏ではダミアンを裏切ることを頭に浮かべながらだ。
かくして私たちの計画は最大限に成功した。
復讐相手だったダミアンはいなくなり、多額の賠償金が手に入ったのである。
私は場所の足掛け台に乗ると車体の扉を開いた。
すでに車体の中には着替えなどは入っている。
「では、エリナ。本当に私と一緒に行くのなら手を取って」
私が左手を差し出すと、エリナは満面の笑みで私の手を取った。
「もちろん、行くわよ。あなたと一緒ならどこまでも」
そうして私たちは多くの貴族たちが別荘を建てている、王都からかなり離れた田舎のアルメイアに向かって馬車を走らせた。
馬車の上空からは、2人の門出を祝うかのように燦々とした太陽の日差しが降り注いでいた。
〈Fin〉
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【あとがき】
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。
主人公たちの人生はまだまだ続きますが、物語自体はここで幕引きとさせていただきます。
そして第19回恋愛小説大賞に新作を投稿しました。
【タイトル】
【連載】悪役毒妃の後宮心理術
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