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第3章 東の大陸

アヒラメ族

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 俺とマリエーヌはしばらく歩き、街道に出た。
街道とは言っても、地面は土で粗末な整備である。
まぁ、そこら辺は文明的に仕方がないよね。
遠くを見渡すと木々や山々が見えた。
見晴らしはいいが、人が住んでいるような場所は見当たらなかった。
サクラダ王国はどこにあるんだろう……?
マリエーヌはサンダルを履いて歩いている。
この大陸は暑めなので彼女の露出度は高いままだ。
白いベアトップとチェックのスカート……のみ!
そんなマリエーヌと一緒に街道を歩いていると、人間っぽい男が現れた。
だ、誰だ……!?

「おっと! お前ら、何者だ!?」

 緑色の髪の毛で短髪。
鉄っぽい鎧を装備しているが、武器は持っていないようだ。
細身だが背が大きい。
人間っぽいとは言ったが、人間とは言い難いぞ。
なぜなら、彼が喋った時にやたらと長い舌が口から飛び出ていたからだ。
常人の5倍……いや、10倍ぐらいの長さがあったぞ。

「えぇ!? に、人間……?」

 なんか変だぞ……。
俺が驚いていると、マリエーヌがつぶやいた。

「……魔人ね」

 彼女は男をジッと観察している。

「ま、魔人……!?」

 魔人ってなんでしょう……?
魔界的な世界があるのかなぁ……?

「見た目が人間に近い魔族のことを言うのよ」

 マリエーヌは魔人を凝視したまま説明してくれた。
……警戒しているな。
なるほど……魔族ね。
魔族ってそもそも何なんだって感じだが……。
じゃあ、全然見た目が人っぽくない魔族もいるってことだな。
そういやこの世界で人間以外に出会うのは初めてか?
ああ、サキュバスと会ったか。
さっきマリエーヌは、サキュバスは悪魔に分類されるって言っていたな。
悪魔(サキュバスとか)、魔族(魔人と魔人以外の魔族)、人間って感じか。
……あれ?
マリエーヌはどこに分類されるんだ?
魔女なんだよね……?
俺はマリエーヌの方を見た。

「……なに見てんのよ? 私は魔族じゃなわよ。魔女は魔女よ」

 あ……俺が疑問に思ったことを察してくれたようだ。
悪魔、魔族、人間、魔女って感じで分類されるのね。
あ、神とか精霊もいるって言っていたな。
なんかまだまだいそうだな……。
元理科の教師としては、こういう分類は覚えておきたいところだ。

「へっ! ここから先はエンダーク様の領域だぜ!」

 魔人が偉そうな態度でナワバリを主張した。
彼は魔王エンダークの部下なのか!

「エンダーク? 誰?」

 マリエーヌがとぼけ顔で言い返した。

「し、知らないのか!? 魔王様だぞ!」

「へぇ~。そうなの……」

 いやいや、知ってるでしょ……マリエーヌ。
俺はちゃんと覚えましたよ。
彼女も俺と同様、あおりグセがあるな。

「なめやがって……!」

 魔人が構えた。
やばいやばいっ!
戦闘か……!?

「あんた、代わりに戦って。はい、マドロミーナの剣」

 マリエーヌは俺の方を向き、俺がもつ彼女の黒いカバンからマドロミーナの剣を取り出した。
お、俺が戦うんかい!?
俺はかなりビビっているんですけど!!?
人外をリアルで見たのは初めてだから!
まぁ、サキュバスも人外だけど、彼女たちは綺麗な女の子だったからね。

「マ、マジすか……? 彼、強いですか!?」

「そこそこ強そうね。けど、下っ端だから大丈夫でしょ。すぐに倒せるタイプの奴よ」

 マリエーヌが俺の方を見ながら淡々と相手の悪口を言っている。

「な、なんだとぉ……!?」

 奴が怒っているぞ……!
マリエーヌ、煽らないで……。

「こんなところでウロついているってことは、下っ端なのよ。アヒラメ族は舌で攻撃してくるから気をつけて」

「そう、アヒラメ族だ! それと、俺は下っ端じゃない! この大陸に来た人間達をここで葬る仕事を任されたエリートの防衛隊長だ! 俺の力を見せてやる!」

 ア、【アヒラメ族】!?
また知らない単語が出てきた……。
よく分からんけど、細かく分類すると、そういう種族になるんだな。
この防衛隊長さんが他国からの援軍を壊滅させていたということか……?
精鋭の騎士団がこの大陸に来たってマリエーヌが言っていたっけ?
そいつらを倒したってことは、彼は強いのでは……!?
マリエーヌは無表情で俺から少し離れた。
マ、マジかよ……。
俺、魔法の去勢装置は外してもらったけど、魔封じの腕輪は装備したままなんですけど!?
あ……だから武器を渡してくれたのか。

「くらえっ……!!」

 うだうだ考えていると、防衛隊長が突っ込んできた!
タ、タックルだ……!
ガードしなきゃ!!

「おふうぅっ……!!?」

 ガードしたのに、すごい衝撃だ……!!
俺は街道の隅の方まで吹っ飛び、倒れた。
……し、舌を使った攻撃じゃねぇのかよっ!!?
はい、強い……。
これヤベェじゃん……。

「い、いたたた……」

 痛がっている俺のところにマリエーヌが歩いて近づいてきた。
両手を腰に当てながら、倒れている俺を見下ろしている。
またパンツが見えないかな……。

「マ、マリエーヌ様……魔封じの腕輪を取っていただけないでしょうか?」

 マリエーヌが少しかがみ、上から俺を覗き込んできた。
む、胸の谷間は見えたぞ……。
い、いかんいかん……!
戦闘に集中しなくては!
彼女の露出度が高いので目を奪われてしまう。

「いやいや、あんた剣術ダメなんだから実戦で練習しなさい。アヒラメ族は魔法が使えないから大丈夫よ」

 ヒ、ヒェぇ……!!
スパルタ……。
けど、たしかに相手も魔法を使えないのなら大丈夫……かなぁ?

「相手は武器を持っていないのよ? その剣を当てれば勝ちじゃない。舌を使った攻撃には気をつけて」

 そうか、剣を当てて眠らせてしまえば勝ちか。
買っておいて良かった……マドロミーナの剣!
タックルもガードしないで剣を当てればよかったな。

「俺のタックルを食らって立ち上がっただと!? 手加減し過ぎたか……。だが、今度は本気だ!!」

 防衛隊長が再び突っ込んできた!
よしっ!!

「……えいっ!!」

 俺は剣先を突っ込んでくる防衛隊長に向けた。

「当たるか! そんなもん!!」

 彼は俺が前方に突き出した剣を俊敏なフットワークでかわし、右フックを放ってきた!

「いっ!? いたあああぁっ!!?」

 腹部にヒット!!!
俺はまたしても相手の攻撃の直撃を許してしまった!
街道の端から反対側の端っこまで吹っ飛んだ!!
……し、舌は使わないのかよ!?
それにしても強いでしょ、この防衛隊長……。
やはり下っ端ではない。

「あちゃー」

 マリエーヌの呆れている声が聞こえた……。

「ザコが! 次はお前だ! 生意気な女め!!」

 防衛隊長が吹っ飛んだ俺に背を向け、街道の反対側の端にいるマリエーヌの方を向いた。

「私? もうちょっと彼に頑張って欲しいんだけどねー」

「くらいやがれっ!! ぶばはあぁっ!!」

 防衛隊長が力を込め、長い舌を出したのが見えた!!
な、なんだっ!?
大量の液体が奴の口から吐き出されたようだ!!
範囲が広い!!
マリエーヌめがけて180度近い範囲に液体が!!
あの液体……ちょっと白いぞ!?
マリエーヌに白い液体が襲いかかる……!!

「ちょ、ちょっと! 何よこの液……!? く、口に入ったじゃない!!」

 うおぉっ!?
直撃したっ!!!
マリエーヌが相手の攻撃の直撃を許すとは……!
しかも、全身にぶっかけられてしまったぞ!?
め、珍しいな……!
さすがにあそこまで広範囲な攻撃は防げなかったか。
てかあの白い液体、ドロドロしてない!?
な、何なんだアレは……!?

「マ、マリエーヌ様! 大丈夫ですか!? 身体中に白い液体が!! マリエーヌ様の顔に白いドロドロとした液体が! ドロドロとした白い、え……液体が!!」

「分かったわよ! うるさいわね! 何よこれ!」

「俺の精液だ! ギャハハッ!」

 防衛隊長が勝ち誇ったように言った。

「は?」

 マリエーヌの表情が固まった。

「……せ、精液ですって!?」

 マリエーヌが驚きの表情を浮かべながら精液まみれになった自分の身体を見つめている……。
え!?
口から精液が出るの!?
口から精子が出たの……!!?
……アヒラメ族はどうやって子作りするんだよ!?
って、そんなことを考えている場合じゃない!
げげっ!? マ、マリエーヌの雰囲気がヤバいぞ……!

「おい」

 マリエーヌの表情が変わった……。
や、やばい!!
目がわっている……!
マリエーヌが力み始めた!!
……マジでやばい雰囲気だ!
なんか辺りが熱いぞ!?
……まさか魔法か!?
炎系の魔法を放つもりだな!?
手加減なしでっ!!
死ぬ!
巻き込まれて俺も死ぬっ!!!
彼女の本気の魔法がヤバ過ぎるのは、ついさっき目の当たりにしたばかりだ……!
俺は全力で走り出し、落ちていたマリエーヌと俺の荷物を拾った。
そのまま防衛隊長の横を通り過ぎてマリエーヌに抱きついた!
魔法を放つ人のすぐ側は安全なはずっ!!
……たぶん!!

「ファイアストーム!!」

 マリエーヌが魔法を唱えた!!
最強クラスの炎系魔法だ!
周囲が炎の渦で包まれた!!
マリエーヌに密着したおかげで、俺に被害は出ていないようだ……。
やはり術者のすぐ近くは大丈夫なんだな。
多少は熱いけども。
助かった……我ながら良い判断だ。
十数秒後、炎が消えた。
……うおぉっ!?
なんてこった!!
周りは焼け野原じゃないですか……。
いやホント、見渡す限り焼けているんですけど。
周りに人が住んでいるところがなくて良かったね。
マリエーヌならサクラダ王国を一瞬で壊滅できるな。
や、ヤベェ……防衛隊長は跡形もねぇ。
マリエーヌ……やり過ぎ。
林に続いて、東の大陸の自然を破壊しているぞ……。
マリエーヌとエンダーク……もはやどっちがこの大陸に侵攻しているのか分からないな。

「おい、どけ」

 マリエーヌがつぶやいた。
もはやヤンキーじゃないですか。
どけって……抱きついている俺に言っているんだよな……。
俺はすぐさま彼女から離れた。
やべぇ……俺の服にも精子が……。

「だ、大丈夫ですか? マリエーヌ様」

 マリエーヌはまだ目が据わっている。
なに勝手に抱きついてんだ、殺すぞ変態ドMクソ野郎とか思っていそうだ。
明らかに顔射されたショックを引きずっているな。
相手を跡形もなく焼き殺したみたいだけど、怒りは収まっていないようだ……。

「泉……探すわよ。この辺りにあったはずだから」

 マリエーヌの目つきがヤベェ……。
猫っぽい目がさらに鋭くなっている。
泉……?
あ、泉で精子を洗い流すつもりか!
泉があるということだが、ファイアストームで泉が蒸発していなきゃいいけど。

「は、はい~!! ま……参りましょう!」

 こうして、顔射された……というか全身精子まみれのマリエーヌと共に泉を目指すことにした。
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