6 / 101
3 調達屋-1-
しおりを挟む
日が沈み、民家の明かりもまばらになった頃。
ダージは音を立てないように通りを横ぎった。
目指すは同業者の間で”第3の聖地”と呼ばれている東の丘。
この辺りで3番目にクジラの恩恵が多く降る場所、という意味だ。
普通は恵みの雨が降ると同時か、やや間をおいて飛び込むのが定石だが、彼は敢えて数日後のこの深夜を選んだ。
もちろん目ぼしいものは採り尽くされているだろう。
行ったところでそれこそガラクタしか残っていないにちがいない。
――というのは素人の考えだ。
探してみれば意外と宝はどこにでも転がっているものだ。
それにモノの価値は人によって異なる。
骨董品のように意外な物に高値がつくことだって珍しくはない。
この業界で成功する秘訣は一に目利き。
次いで必要なのは、無価値と思う物でもとりあえず持ち帰る貪欲さだ。
「今日は月が出てないからな。足元に気を付けろよ」
今夜は仲間のクイとネメアも一緒だ。
「気を付けるのはお前だろうがよ! 連中はどこから襲ってくるか分からんぜ!?」
クイは大笑した。
この屈強な男はダージが雇った用心棒だ。
周辺には稼ぎを横取りする賊も多く、万が一のときのための保険だ。
現に数日前、貴重な獲物を強奪されてしまっている。
「ま、もらってる分はしっかり働くから、安心してくれやっ!」
彼は拳を鳴らして豪快に笑った。
ダージは舌打ちした。
どうも彼は品性に欠ける。
筋骨隆々で頼りにはなるが、もう少し思慮深さが欲しいところだ。
これでは何のために人目を忍んで行動しているのか分からない。
そもそも賊を避けてこの時間帯を選んでいるのだから、目立ってしまっては意味がない。
「あんた、ちょっとは静かにしなよ。ご近隣の皆さまの迷惑になるだろ」
もうひとりの用心棒、ネメアがたしなめる。
こちらは女ながらボディガードとしての体力や腕力は男に負けていない。
見た目にも強そうだがそれだけでなく、女性特有のしなやかさも見える。
わざわざ深夜に行動するという、隠密性が必要な理由をちゃんと理解しているようだった。
次からはクイを雇うのはやめよう、と思いつつダージは闇にまぎれるように町を移動した。
目的の聖地までは町を出て、さらに数十分ほど歩かなければならない。
途中の道は整備されていないから、移動には意外と時間がかかる。
ダージたちは小さなランプを手に、丘を目指す。
「お前さんよう! なんでわざわざこんな遠い場所を選ぶんだ?」
先ほど注意されたばかりだというのに、クイはまた大きな声で言った。
「漁り場なんて他にいくらでもあるじゃねえか」
「静かに……! あるものを回収しに行くんだよ」
「あるものって何だ?」
「行きゃ分かる。無事に持ち帰れたら報酬を上乗せしてやるよ」
「そりゃ景気がいいや!」
どうやら静かにしろ、というのは彼には難しい注文のようだ。
なだらかだった道に勾配がつきはじめる。
ランプの灯をしぼり、できる限り自分たちの存在を隠す。
ダージは微苦笑した。
この仕事を始めて間もない頃、落下物による負傷を避けるため、今のように日が沈んでから出かけたことがある。
その時、辺りにほのかな火がいくつもゆらめき、彼は人魂が出たと言って慌てて引き返した。
仲間にそのことを話すと、あそこで死んだ者たちの霊が成仏できずにさまよっているという。
怖くなったダージはしばらく夜の外出を控えていたが、のちに人魂の正体が同業者であることを知る。
彼らが持っていたランプだ。
幽霊の話が広がったのも、おそらく競争相手を減らすための策略だったのだろう。
いま自分がその人魂になっていることに、ダージは妙な懐かしさを感じていた。
ダージは音を立てないように通りを横ぎった。
目指すは同業者の間で”第3の聖地”と呼ばれている東の丘。
この辺りで3番目にクジラの恩恵が多く降る場所、という意味だ。
普通は恵みの雨が降ると同時か、やや間をおいて飛び込むのが定石だが、彼は敢えて数日後のこの深夜を選んだ。
もちろん目ぼしいものは採り尽くされているだろう。
行ったところでそれこそガラクタしか残っていないにちがいない。
――というのは素人の考えだ。
探してみれば意外と宝はどこにでも転がっているものだ。
それにモノの価値は人によって異なる。
骨董品のように意外な物に高値がつくことだって珍しくはない。
この業界で成功する秘訣は一に目利き。
次いで必要なのは、無価値と思う物でもとりあえず持ち帰る貪欲さだ。
「今日は月が出てないからな。足元に気を付けろよ」
今夜は仲間のクイとネメアも一緒だ。
「気を付けるのはお前だろうがよ! 連中はどこから襲ってくるか分からんぜ!?」
クイは大笑した。
この屈強な男はダージが雇った用心棒だ。
周辺には稼ぎを横取りする賊も多く、万が一のときのための保険だ。
現に数日前、貴重な獲物を強奪されてしまっている。
「ま、もらってる分はしっかり働くから、安心してくれやっ!」
彼は拳を鳴らして豪快に笑った。
ダージは舌打ちした。
どうも彼は品性に欠ける。
筋骨隆々で頼りにはなるが、もう少し思慮深さが欲しいところだ。
これでは何のために人目を忍んで行動しているのか分からない。
そもそも賊を避けてこの時間帯を選んでいるのだから、目立ってしまっては意味がない。
「あんた、ちょっとは静かにしなよ。ご近隣の皆さまの迷惑になるだろ」
もうひとりの用心棒、ネメアがたしなめる。
こちらは女ながらボディガードとしての体力や腕力は男に負けていない。
見た目にも強そうだがそれだけでなく、女性特有のしなやかさも見える。
わざわざ深夜に行動するという、隠密性が必要な理由をちゃんと理解しているようだった。
次からはクイを雇うのはやめよう、と思いつつダージは闇にまぎれるように町を移動した。
目的の聖地までは町を出て、さらに数十分ほど歩かなければならない。
途中の道は整備されていないから、移動には意外と時間がかかる。
ダージたちは小さなランプを手に、丘を目指す。
「お前さんよう! なんでわざわざこんな遠い場所を選ぶんだ?」
先ほど注意されたばかりだというのに、クイはまた大きな声で言った。
「漁り場なんて他にいくらでもあるじゃねえか」
「静かに……! あるものを回収しに行くんだよ」
「あるものって何だ?」
「行きゃ分かる。無事に持ち帰れたら報酬を上乗せしてやるよ」
「そりゃ景気がいいや!」
どうやら静かにしろ、というのは彼には難しい注文のようだ。
なだらかだった道に勾配がつきはじめる。
ランプの灯をしぼり、できる限り自分たちの存在を隠す。
ダージは微苦笑した。
この仕事を始めて間もない頃、落下物による負傷を避けるため、今のように日が沈んでから出かけたことがある。
その時、辺りにほのかな火がいくつもゆらめき、彼は人魂が出たと言って慌てて引き返した。
仲間にそのことを話すと、あそこで死んだ者たちの霊が成仏できずにさまよっているという。
怖くなったダージはしばらく夜の外出を控えていたが、のちに人魂の正体が同業者であることを知る。
彼らが持っていたランプだ。
幽霊の話が広がったのも、おそらく競争相手を減らすための策略だったのだろう。
いま自分がその人魂になっていることに、ダージは妙な懐かしさを感じていた。
0
あなたにおすすめの小説
僕に仕えるメイドは世界最強の英雄です1~またクビになったけど、親代わりのメイドが慰めてくれるので悲しくなんてない!!~
あきくん☆ひろくん
ファンタジー
仕事を失い、居場所をなくした青年。
彼に仕えるのは――世界を救った英雄たちだった。
剣も魔法も得意ではない主人公は、
最強のメイドたちに守られながら生きている。
だが彼自身は、
「守られるだけの存在」でいることを良しとしなかった。
自分にできることは何か。
この世界で、どう生きていくべきか。
最強の力を持つ者たちと、
何者でもない一人の青年。
その主従関係は、やがて世界の歪みと過去へと繋がっていく。
本作は、
圧倒的な安心感のある日常パートと、
必要なときには本格的に描かれる戦い、
そして「守られる側の成長」を軸にした
完結済み長編ファンタジーです。
シリーズ作品の一編ですが、本作単体でもお楽しみいただけます。
最後まで安心して、一気読みしていただければ幸いです。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
【完結】竜騎士の私は竜の番になりました!
胡蝶花れん
ファンタジー
ここは、アルス・アーツ大陸。
主に5大国家から成り立つ大陸である。
この世界は、人間、亜人(獣に変身することができる。)、エルフ、ドワーフ、魔獣、魔女、魔人、竜などの、いろんな種族がおり、また魔法が当たり前のように使える世界でもあった。
この物語の舞台はその5大国家の内の一つ、竜騎士発祥の地となるフェリス王国から始まる、王国初の女竜騎士の物語となる。
かくして、竜に番(つがい)認定されてしまった『氷の人形』と呼ばれる初の女竜騎士と竜の恋模様はこれいかに?! 竜の番の意味とは?恋愛要素含むファンタジーモノです。
※毎日更新(平日)しています!(年末年始はお休みです!)
※1話当たり、1200~2000文字前後です。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる