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8 秘密基地-1-
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施術室に運ばれてきたのは若い男だった。
事前に寄せられた情報によると、調達屋であるこの男は作業中に右手指を怪我したらしい。
傷自体は浅かったが細菌感染を起こし、切断せざるを得なかったという。
パーツの備蓄は充分だったため、すぐに施術が行なわれた。
失われた神経を回復させる技術はまだ確立されていない。
通常、身体の末端部分の欠損には日常生活をサポートする程度の義肢しか装着させることはできない。
つまり手足の複雑な動きまでを再現することはできないのだが、彼の場合は幸いなことに付け根部分が残っており、
筋肉の動きに連動する義指を取り付けることで、物を掴む程度の動作は可能となる。
繊細な作業が必要だ。
カイロウはまずパーツ調整にとりかかった。
義指用の部品はひととおり揃っているが、所詮は規格品のようなものだ。
実際には個人個人に合わせた微調整をしなければ機能しない。
「ドクター、関節部の隙間にわずかな傷があります」
助手のひとりが目ざとく見つけて言う。
「あ、ああ、たしかに。これは取り換えよう」
ほんの小さな傷でも腐食や錆の原因になる。
初歩的なことであり、カイロウでなくともこれは見落としてはならないミスだった。
彼はすぐに予備の部品を取り寄せ、再び調整を施す。
今度は目立った瑕疵もなく、微細ながらも頑丈な義指が完成した。
仕上げの作業を経て、検査にかける。
「検査結果出ました。問題ありません」
助手の報告にカイロウは安堵する。
数年の経験があるとはいえ、ただ金属の塊を加工するのと、人体に装着するパーツを製作するのとでは重みも難しさもちがう。
多額の報酬を得られることも緊張感を煽るのに一役買っていた。
「今日はこの1件だけだったね。あとは私がいなくても大丈夫だろう」
施術が終われば彼の出る幕はない。
この後の事務手続等はそれを専門に受け持つスタッフがいる。
助手たちを軽くねぎらうと、彼は施術室を出て廊下を足早に歩いた。
突き当たりの薄暗い階段を降り、少し進んだ右手に鉄扉がある。
カイロウは懐から奇妙な形状の鍵を取り出し、鍵穴に差し込む。
古く、やや錆びついた扉は耳障りな音を響かせながらゆっくりと開いた。
地下に広がる大部屋。
ここが彼のもうひとつの仕事場だった。
自宅の作業場と異なり、ここには資材が大量に備蓄されてあった。
彼が専門に用いる銅板や鉄板の他に、いくつかの合金やプラスチック、ガラス繊維やゴム等もある。
奥はゆるやかな上り坂になっていて地上に続いているが、普段はシャッターで閉じられている。
本来は車庫や物資の搬入口として用いられるスペースだが、現在は施設裏に同様の機能を備えたプラットフォームがあるためそちらが使われている。
「さて――」
ここに来ると彼の顔つきは変わる。
寂寥感に襲われたような物悲しげな表情を浮かべたかと思えば、たちまち烈はげしい怒りに眼光を鋭くする。
しかし次の瞬間には長年の望みが叶う様を夢見て、うっとりと微笑む。
彼自身にその自覚はない。
ここでひそかにある物を作っている時、作業が進めば喜び、停滞すれば悲しんだ。
とはいえ彼は技師である。
感情の揺れが作業の正確性に影響を及ぼすことはなかった。
たとえ少しずつでも――。
これが完成に近づくのであれば、何の問題もなかったのだ。
「ここのバランスが重要だな」
少し前に難所は越えたが、納得のいく出来にはまだしばらく時間がかかりそうである。
「熱や冷気に耐えるにはどうすればいい……?」
カイロウは巨体を叩きながら唸った。
設計図はかつて彼がかき集めた資料のつなぎ合わせだ。
理論や構造の勉強はしたつもりだが、工程には不安が残る。
誰かに相談したいところだがそうもいかない。
これは秘密裡に行わなければならない一大プロジェクトなのだ。
「………………」
彼は作業に没頭した。
いくら頑張っても報酬はない。
これは彼が個人的に取り組んでいることだから、材料も工具も全て自費だ。
胴体部分は既に完成しており、今は脚にあたる部分の取り付けにかかっている。
技師としてのセンスがそうさせるのか、かなり堅実な作りだ。
実用に耐えられるかは不明だが、彼の頭の中ではこれが問題なく稼働している姿がイメージできていた。
事前に寄せられた情報によると、調達屋であるこの男は作業中に右手指を怪我したらしい。
傷自体は浅かったが細菌感染を起こし、切断せざるを得なかったという。
パーツの備蓄は充分だったため、すぐに施術が行なわれた。
失われた神経を回復させる技術はまだ確立されていない。
通常、身体の末端部分の欠損には日常生活をサポートする程度の義肢しか装着させることはできない。
つまり手足の複雑な動きまでを再現することはできないのだが、彼の場合は幸いなことに付け根部分が残っており、
筋肉の動きに連動する義指を取り付けることで、物を掴む程度の動作は可能となる。
繊細な作業が必要だ。
カイロウはまずパーツ調整にとりかかった。
義指用の部品はひととおり揃っているが、所詮は規格品のようなものだ。
実際には個人個人に合わせた微調整をしなければ機能しない。
「ドクター、関節部の隙間にわずかな傷があります」
助手のひとりが目ざとく見つけて言う。
「あ、ああ、たしかに。これは取り換えよう」
ほんの小さな傷でも腐食や錆の原因になる。
初歩的なことであり、カイロウでなくともこれは見落としてはならないミスだった。
彼はすぐに予備の部品を取り寄せ、再び調整を施す。
今度は目立った瑕疵もなく、微細ながらも頑丈な義指が完成した。
仕上げの作業を経て、検査にかける。
「検査結果出ました。問題ありません」
助手の報告にカイロウは安堵する。
数年の経験があるとはいえ、ただ金属の塊を加工するのと、人体に装着するパーツを製作するのとでは重みも難しさもちがう。
多額の報酬を得られることも緊張感を煽るのに一役買っていた。
「今日はこの1件だけだったね。あとは私がいなくても大丈夫だろう」
施術が終われば彼の出る幕はない。
この後の事務手続等はそれを専門に受け持つスタッフがいる。
助手たちを軽くねぎらうと、彼は施術室を出て廊下を足早に歩いた。
突き当たりの薄暗い階段を降り、少し進んだ右手に鉄扉がある。
カイロウは懐から奇妙な形状の鍵を取り出し、鍵穴に差し込む。
古く、やや錆びついた扉は耳障りな音を響かせながらゆっくりと開いた。
地下に広がる大部屋。
ここが彼のもうひとつの仕事場だった。
自宅の作業場と異なり、ここには資材が大量に備蓄されてあった。
彼が専門に用いる銅板や鉄板の他に、いくつかの合金やプラスチック、ガラス繊維やゴム等もある。
奥はゆるやかな上り坂になっていて地上に続いているが、普段はシャッターで閉じられている。
本来は車庫や物資の搬入口として用いられるスペースだが、現在は施設裏に同様の機能を備えたプラットフォームがあるためそちらが使われている。
「さて――」
ここに来ると彼の顔つきは変わる。
寂寥感に襲われたような物悲しげな表情を浮かべたかと思えば、たちまち烈はげしい怒りに眼光を鋭くする。
しかし次の瞬間には長年の望みが叶う様を夢見て、うっとりと微笑む。
彼自身にその自覚はない。
ここでひそかにある物を作っている時、作業が進めば喜び、停滞すれば悲しんだ。
とはいえ彼は技師である。
感情の揺れが作業の正確性に影響を及ぼすことはなかった。
たとえ少しずつでも――。
これが完成に近づくのであれば、何の問題もなかったのだ。
「ここのバランスが重要だな」
少し前に難所は越えたが、納得のいく出来にはまだしばらく時間がかかりそうである。
「熱や冷気に耐えるにはどうすればいい……?」
カイロウは巨体を叩きながら唸った。
設計図はかつて彼がかき集めた資料のつなぎ合わせだ。
理論や構造の勉強はしたつもりだが、工程には不安が残る。
誰かに相談したいところだがそうもいかない。
これは秘密裡に行わなければならない一大プロジェクトなのだ。
「………………」
彼は作業に没頭した。
いくら頑張っても報酬はない。
これは彼が個人的に取り組んでいることだから、材料も工具も全て自費だ。
胴体部分は既に完成しており、今は脚にあたる部分の取り付けにかかっている。
技師としてのセンスがそうさせるのか、かなり堅実な作りだ。
実用に耐えられるかは不明だが、彼の頭の中ではこれが問題なく稼働している姿がイメージできていた。
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