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9 観測-1-
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目立たないところに車両を停め、それぞれに荷物を持って降りる。
目的地まではかなりあるが、近くまで車を進めてしまうと最悪の場合、盗難に遭う恐れがある。
というのはダージでなくとも、たいていの調達屋が一度はする失敗だ。
「ここからは歩きだ。順調にいけば1時間ってところですかね。途中、登りがありますが、まあ大丈夫でしょう」
このダージという男、華奢な体つきだが見かけによらず体力がある。
調達屋を始めて間もない頃、車を盗まれて険路を10時間かけて歩いて帰ったというくらいだから、相当な健脚の持ち主である。
「それにしても珍しいこともあるもんだ。ダンナが現場見学なんてな」
すぐ後ろを行くカイロウに、彼は不思議そうに言った。
「いつも世話になっているきみが普段、どんなふうに仕事をしているのか気になってね」
収獲用の大袋を抱えるダージに比して、彼は小さなバッグに収まる程度の荷物しか持っていない。
「なるほどねえ……ん? そうだ! 調達屋の仕事体験ツアーとかどうですかね? 参加費用を徴収すりゃかなり儲かりそうだ」
同行させてほしい、とカイロウが言ったのは一週間前のことだった。
調達屋の仕事は年中無休だが、彼が希望したのは一番乗り――つまり恵みの雨が降るタイミングであった。
実入りは多いが危険も大きいとしてダージは断ったが、彼が執拗に頼むので渋々ながら了承した恰好だ。
引き受けたものの、もしや自分の仕事ぶりに不満があるのでは……とダージは内心、気が気ではなかった。
「それもいいかもしれないな。今日の分はきちんと払うから安心してくれ」
「いやいや! そういうつもりで言ったんじゃねえんで。もちろんダンナは無料でさあ」
「そうはいかないよ。彼女への報酬の足しにすればいい」
カイロウは後ろをぴったりとついて歩くネメアをちらりと見た。
目が合うと、彼女は勝ち気な笑みを浮かべた。
「それにしても女性がボディーガードとはね」
たしかにネメアの体格を見れば、そのあたりの男なら簡単にねじ伏せられてしまいそうだ。
とはいえ相手は賊徒だ。
荒事には慣れているだろう。
そういう輩を相手に通用するのか、と彼は懐疑的だった。
「あたしのことが信用ならないって? だったら試してみる?」
ネメアは少しだけ不機嫌そうに言うと、カイロウの目の前で拳を握った。
「――申し訳ない、失言だった。今のできみの実力はよく分かったよ」
カイロウは額の汗を拭った。
彼女の手の中に筒状の黒い何かを見たからだ。
(武器を仕込んであるにちがいない。さすがに命を奪うようなものではないと思うが……)
それをしっかりと握っているところに、彼女のボディガードとしてのプロ意識の高さを感じ取る。
「実を言うと今日の護衛対象はあんたなんだよ」
「私の――?」
「こういうところ、慣れてないんだろう? だから雇い主――彼に依頼されたんだ」
ダージは数メートル先を歩いていて、二人の会話は聞こえていない。
「そういうことなら――」
なおさら参加費用を払わなければならないな、と彼は思った。
町を抜けると人通りはまばらになり、建物の類も少なくなる。
そうなると見通しが良くなるハズなのだが、隠れる場所がなくなってかえって危険だとネメアは言う。
ならず者は死角からの返り討ちを恐れて、獲物を見つけても深追いはしないものらしい。
賊はいつも集団で行動するから、開けた場所で相手に見つかっても数に飽かせて執拗に追い回してくるという。
もし見つかったら急いで町に逃げ走るのが最善だ、と彼女は真剣な表情で言った。
「そういうものなのか……」
彼女の説明にカイロウは感心しきりだった。
やはり現場でじかに物事に触れると得られるものがちがう。
経験者の声は説得力があるし、なにより彼女の語りは無駄がなく分かりやすい。
先ほどの件といい、かなりの熟練者かもしれないと彼は思った。
目的地まではかなりあるが、近くまで車を進めてしまうと最悪の場合、盗難に遭う恐れがある。
というのはダージでなくとも、たいていの調達屋が一度はする失敗だ。
「ここからは歩きだ。順調にいけば1時間ってところですかね。途中、登りがありますが、まあ大丈夫でしょう」
このダージという男、華奢な体つきだが見かけによらず体力がある。
調達屋を始めて間もない頃、車を盗まれて険路を10時間かけて歩いて帰ったというくらいだから、相当な健脚の持ち主である。
「それにしても珍しいこともあるもんだ。ダンナが現場見学なんてな」
すぐ後ろを行くカイロウに、彼は不思議そうに言った。
「いつも世話になっているきみが普段、どんなふうに仕事をしているのか気になってね」
収獲用の大袋を抱えるダージに比して、彼は小さなバッグに収まる程度の荷物しか持っていない。
「なるほどねえ……ん? そうだ! 調達屋の仕事体験ツアーとかどうですかね? 参加費用を徴収すりゃかなり儲かりそうだ」
同行させてほしい、とカイロウが言ったのは一週間前のことだった。
調達屋の仕事は年中無休だが、彼が希望したのは一番乗り――つまり恵みの雨が降るタイミングであった。
実入りは多いが危険も大きいとしてダージは断ったが、彼が執拗に頼むので渋々ながら了承した恰好だ。
引き受けたものの、もしや自分の仕事ぶりに不満があるのでは……とダージは内心、気が気ではなかった。
「それもいいかもしれないな。今日の分はきちんと払うから安心してくれ」
「いやいや! そういうつもりで言ったんじゃねえんで。もちろんダンナは無料でさあ」
「そうはいかないよ。彼女への報酬の足しにすればいい」
カイロウは後ろをぴったりとついて歩くネメアをちらりと見た。
目が合うと、彼女は勝ち気な笑みを浮かべた。
「それにしても女性がボディーガードとはね」
たしかにネメアの体格を見れば、そのあたりの男なら簡単にねじ伏せられてしまいそうだ。
とはいえ相手は賊徒だ。
荒事には慣れているだろう。
そういう輩を相手に通用するのか、と彼は懐疑的だった。
「あたしのことが信用ならないって? だったら試してみる?」
ネメアは少しだけ不機嫌そうに言うと、カイロウの目の前で拳を握った。
「――申し訳ない、失言だった。今のできみの実力はよく分かったよ」
カイロウは額の汗を拭った。
彼女の手の中に筒状の黒い何かを見たからだ。
(武器を仕込んであるにちがいない。さすがに命を奪うようなものではないと思うが……)
それをしっかりと握っているところに、彼女のボディガードとしてのプロ意識の高さを感じ取る。
「実を言うと今日の護衛対象はあんたなんだよ」
「私の――?」
「こういうところ、慣れてないんだろう? だから雇い主――彼に依頼されたんだ」
ダージは数メートル先を歩いていて、二人の会話は聞こえていない。
「そういうことなら――」
なおさら参加費用を払わなければならないな、と彼は思った。
町を抜けると人通りはまばらになり、建物の類も少なくなる。
そうなると見通しが良くなるハズなのだが、隠れる場所がなくなってかえって危険だとネメアは言う。
ならず者は死角からの返り討ちを恐れて、獲物を見つけても深追いはしないものらしい。
賊はいつも集団で行動するから、開けた場所で相手に見つかっても数に飽かせて執拗に追い回してくるという。
もし見つかったら急いで町に逃げ走るのが最善だ、と彼女は真剣な表情で言った。
「そういうものなのか……」
彼女の説明にカイロウは感心しきりだった。
やはり現場でじかに物事に触れると得られるものがちがう。
経験者の声は説得力があるし、なにより彼女の語りは無駄がなく分かりやすい。
先ほどの件といい、かなりの熟練者かもしれないと彼は思った。
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