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17 オリジン-9-
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「宗教という概念はあらゆる時代、あらゆる場所において必要だ。拠り所がなければ人間は精神を病み、無益ないさかいを起こす」
「信仰が救いになると言いたいみたいだけど、それを忌み嫌っている人もいるわ」
「個々の性質は重視すべきではない。人間全てを管理するにはマイノリティは非効率的な存在だ」
「忌々しい……こんなことになると分かっていたら仕事を請けなかったのに――」
カイロウは今すぐオリジンの胴体から自作のパーツを引き剥がしたい衝動に駆られた。
「別の人間がそれに代わるだけだ。レキシベル工業社は27か月後まで政府と取引をする予定だった」
一瞬。
ほんの一瞬だけ、彼はオリジンを神だと思ってしまった。
さすがに年中泳ぎながら俯瞰しているだけあって、地上で起こっている全てを知っている。
一企業どころか政府をも操れるのだとしたら、神という表現もあながち間違いではないかもしれない。
太い取引先ができたとウォーレスは喜んでいたが、まさかこんな精巧なロボットが糸を引いていたとは夢にも思わないだろう。
「仕事にまで口出しをするのか?」
「雇用の調節のためだ。政府には段階的に特定の企業と取引をさせる。企業を潤わせ、貧困者をそこで働かせる。これで雇用は定着する。
だが特定企業の繁栄は経済にも進化にもアンバランスをもたらす。刺激を与えるためには時機を見て当該企業を解体し、これを繰り返す」
ロジカルにロジックを語るオリジンは、もはやこの世のものとは思えない異質の存在だった。
唯一、同じ時間、同じ場所にいると実感できるのは、金属製の指がネジをしめる所作を見せた時だけだ。
「つまり――」
リエは知らず苦笑していた。
「――全部、あなただった、ということなのね」
この支配者気取りのロボットは言った。
個々の性質は重視しないと。
だからコッサ家の長女がリエ=カザルスとして育った経緯に、オリジンは関与していない。
彼女が医療系の学校に進んだことも、カイロウの助手を務めたことも。
それらは偶然であり、オリジンの直接的な働きかけによるものではない。
だが養親に虐げられ、養父を殺害し、結果としてこのクジラに乗り込む動機を作ったのは全てオリジンだった。
生まれた時から薄暗い空の下、濁った水を飲み、萎びた果実を喰い、恵みの雨で負傷した患者の生々しい傷を見る毎日を送る羽目になったのも――。
「あなたがこんなふざけた世界を造ったのね!」
「全ては必要なことだ」
憤怒するリエの声は低く、オリジンには聞き取りやすかった。
「まだ大事なことを聞いていない」
今度はカイロウだ。
リエが怒ったことで、彼は反対に冷静さを取り戻し始めた。
とはいえオリジンに対する不信感や憎悪は時を追うごとに増していく。
「子どもを連れ去る目的は何だ? ここに来る途中、人の姿を見た。彼らがそうなのだろう?」
返答次第ではあの不愉快な青白い顔を撃ち抜いてやろうと思っていた。
そうするだけの正当性は充分にある。
自分が作ったパーツを補修に使うくらいなのだから耐久性も予想がつく。
「理解するためには第3ピリオドの顛末を知る必要がある」
「……つまり2回壊した後の話か?」
「そうだ。当該ピリオドはフェイズ1が異常な状態から始まってしまった。これにより進化の過程も速度もいびつとなった」
「また分からない言葉が出たな。フェイズの意味は?」
「ピリオド内における区切りをいう。人間の発展の度合いや自然その他の環境によってフェイズは移行する」
「フェイズ1は原始時代か?」
「それは2だ。通常は1から始まることはない」
「だから異常な状態から始まったということか」
「ちがう。第3ピリオドは第2ピリオドの遺産の多くが残っていた。そのため想定を超える速度で進化が起こった」
リエはほとんど話を聞いていなかった。
もはや彼女が知りたいことはひとづだけだった。
理解を助けるための説明などどうでもよい。
子どもを連れ去る理由すら、彼女にはもう興味のないことだった。
「信仰が救いになると言いたいみたいだけど、それを忌み嫌っている人もいるわ」
「個々の性質は重視すべきではない。人間全てを管理するにはマイノリティは非効率的な存在だ」
「忌々しい……こんなことになると分かっていたら仕事を請けなかったのに――」
カイロウは今すぐオリジンの胴体から自作のパーツを引き剥がしたい衝動に駆られた。
「別の人間がそれに代わるだけだ。レキシベル工業社は27か月後まで政府と取引をする予定だった」
一瞬。
ほんの一瞬だけ、彼はオリジンを神だと思ってしまった。
さすがに年中泳ぎながら俯瞰しているだけあって、地上で起こっている全てを知っている。
一企業どころか政府をも操れるのだとしたら、神という表現もあながち間違いではないかもしれない。
太い取引先ができたとウォーレスは喜んでいたが、まさかこんな精巧なロボットが糸を引いていたとは夢にも思わないだろう。
「仕事にまで口出しをするのか?」
「雇用の調節のためだ。政府には段階的に特定の企業と取引をさせる。企業を潤わせ、貧困者をそこで働かせる。これで雇用は定着する。
だが特定企業の繁栄は経済にも進化にもアンバランスをもたらす。刺激を与えるためには時機を見て当該企業を解体し、これを繰り返す」
ロジカルにロジックを語るオリジンは、もはやこの世のものとは思えない異質の存在だった。
唯一、同じ時間、同じ場所にいると実感できるのは、金属製の指がネジをしめる所作を見せた時だけだ。
「つまり――」
リエは知らず苦笑していた。
「――全部、あなただった、ということなのね」
この支配者気取りのロボットは言った。
個々の性質は重視しないと。
だからコッサ家の長女がリエ=カザルスとして育った経緯に、オリジンは関与していない。
彼女が医療系の学校に進んだことも、カイロウの助手を務めたことも。
それらは偶然であり、オリジンの直接的な働きかけによるものではない。
だが養親に虐げられ、養父を殺害し、結果としてこのクジラに乗り込む動機を作ったのは全てオリジンだった。
生まれた時から薄暗い空の下、濁った水を飲み、萎びた果実を喰い、恵みの雨で負傷した患者の生々しい傷を見る毎日を送る羽目になったのも――。
「あなたがこんなふざけた世界を造ったのね!」
「全ては必要なことだ」
憤怒するリエの声は低く、オリジンには聞き取りやすかった。
「まだ大事なことを聞いていない」
今度はカイロウだ。
リエが怒ったことで、彼は反対に冷静さを取り戻し始めた。
とはいえオリジンに対する不信感や憎悪は時を追うごとに増していく。
「子どもを連れ去る目的は何だ? ここに来る途中、人の姿を見た。彼らがそうなのだろう?」
返答次第ではあの不愉快な青白い顔を撃ち抜いてやろうと思っていた。
そうするだけの正当性は充分にある。
自分が作ったパーツを補修に使うくらいなのだから耐久性も予想がつく。
「理解するためには第3ピリオドの顛末を知る必要がある」
「……つまり2回壊した後の話か?」
「そうだ。当該ピリオドはフェイズ1が異常な状態から始まってしまった。これにより進化の過程も速度もいびつとなった」
「また分からない言葉が出たな。フェイズの意味は?」
「ピリオド内における区切りをいう。人間の発展の度合いや自然その他の環境によってフェイズは移行する」
「フェイズ1は原始時代か?」
「それは2だ。通常は1から始まることはない」
「だから異常な状態から始まったということか」
「ちがう。第3ピリオドは第2ピリオドの遺産の多くが残っていた。そのため想定を超える速度で進化が起こった」
リエはほとんど話を聞いていなかった。
もはや彼女が知りたいことはひとづだけだった。
理解を助けるための説明などどうでもよい。
子どもを連れ去る理由すら、彼女にはもう興味のないことだった。
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