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第二章
13・ひょっとして女中?
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「まだどんな方かは判らないし、それに、この子を渡して良いものかも判らないし」
子供は大人しく、ずっとキイロにしがみついている。
(この子を知ってたみたいだけど)
でも、強引に奪われなくて良かった、とキイロは思った。
ひょっとしたらこの子は、とんでもなくエライ人の子供なのかな、という想像くらいしかできない。
だが、キイロにしがみつく子供はただ可愛いだけだった。
「よく判んないけど、良い方そうだから、それは良かったなって思うわ。今はね」
そう、今は、なのだ。
今は確かに、美しい人で、立場も強いのだろうけれど、そういった人で、外と内が違った場合が一番怖い。
あんなに強い立場の人に、家で苛められたらもう逃げ場所なんかないな、とキイロは苦笑した。
(なんなら、離縁してくれたらいいのにな)
ひょっとしたら、立場があってキイロを守るしかないのかもしれないし、軍人なら、愛人の一人くらい居てもおかしくない。
そこでキイロは、はっと気づく。
(そ、っか。そうよ、そうだったんだ!)
あんなに美しい人に、恋人が存在しないわけがない。
多分、どこかのご令嬢とか、芸子さんとか、とにかく美しくて凄い方に違いない。
だとしたら、妻にキイロのような、あまり関わらなくて良い、立場のない女性を選ぶのはあながち間違っていない気がする。
(そうよね、わたし、ご飯がおなかいっぱい食べられたらいいんだし)
軍の仕事も忙しいだろうし、家にいることもないだろう。
実際、式の当日だって本人がいないと言われていたし。
(成程、そういう意図か!じゃあわかる!)
だったら、本当は本命がそっちに居て、それまではキイロに家を管理して欲しいということかもしれない。
いや、むしろそう考えたらつじつまがあう。
(じゃあ、ご飯を食べさせて貰えて、勉強する時間もできるかもしれない!)
この子もいずれ誰かの所へ帰るだろうし、でもそれまではキイロが面倒をみてやればいい。
幸い、大人しいし可愛いし、これまで子供の世話を押し付けられっぱなしだったキイロにしてみたら、こんなにありがたい子供はいないし。
そんな事を考えていると馬車が止まった。
「到着しました。どうぞ」
扉が開き、病院の玄関前に到着したのだが。
キイロは目を見張った。
あまりに立派な病院だったからだ。
「ここは?」
「軍専門の病院でございます」
「そんな場所にどうして」
すると白衣を着た男が現れた。
「あなたが軍人の妻だからですよ。薄氷夫人」
丸いメガネをかけ、かなり長身の男がそこに立っていた。
そしてすさまじく美形だった。
「あなたは?」
「縹と申します。薄氷とは腐れ縁でして。式には参加できず残念に思っていましたが、災難でしたね」
「あ、いいえ」
全く話にはついていけないが、どうやらこの人は薄氷の友人であるらしい。
「僕は薄氷とは親戚でもあってね。だから安心していい。さ、話は聞いているので診察室へ」
「は、はい」
子供を抱えたまま、キイロは縹について病院の中へ入って行った。
縹はキイロの怪我を見て、「こりゃひどいな」と表情をしかめた。
「骨には影響はないだろうが、打撲とあざがひどい。薬を出しておこう。しばらく重いものは持たないように、と言っても子供がいるか」
ずっと子供を抱えたままのキイロに縹は苦笑した。
「すみません。離そうとするとしがみつくので」
一応、診察室に入る前に、梅花に預けようとしたのだが、子供は泣きはしなかったものの、キイロにしがみついてけっして離れようとしなかった。
「いいですよ。そのくらいなら構わないでしょう」
そういって縹はキイロの怪我の上に軟膏を塗り、包帯を巻いた。
「こんなに丁寧にしてもらって」
「あざが出る程叩かれるのはけっこうな怪我ですよ。もしこのさき、似たような事があっても薄氷に伝えて下さい。僕が見るので」
「は、はい」
親切な人たちだな、とキイロは思った。
「おい、治療は終わったか?」
診察室の向こうから声がした。
薄氷だ。
キイロはどきっとした。
美しい声だから、すぐにわかる。
子供は大人しく、ずっとキイロにしがみついている。
(この子を知ってたみたいだけど)
でも、強引に奪われなくて良かった、とキイロは思った。
ひょっとしたらこの子は、とんでもなくエライ人の子供なのかな、という想像くらいしかできない。
だが、キイロにしがみつく子供はただ可愛いだけだった。
「よく判んないけど、良い方そうだから、それは良かったなって思うわ。今はね」
そう、今は、なのだ。
今は確かに、美しい人で、立場も強いのだろうけれど、そういった人で、外と内が違った場合が一番怖い。
あんなに強い立場の人に、家で苛められたらもう逃げ場所なんかないな、とキイロは苦笑した。
(なんなら、離縁してくれたらいいのにな)
ひょっとしたら、立場があってキイロを守るしかないのかもしれないし、軍人なら、愛人の一人くらい居てもおかしくない。
そこでキイロは、はっと気づく。
(そ、っか。そうよ、そうだったんだ!)
あんなに美しい人に、恋人が存在しないわけがない。
多分、どこかのご令嬢とか、芸子さんとか、とにかく美しくて凄い方に違いない。
だとしたら、妻にキイロのような、あまり関わらなくて良い、立場のない女性を選ぶのはあながち間違っていない気がする。
(そうよね、わたし、ご飯がおなかいっぱい食べられたらいいんだし)
軍の仕事も忙しいだろうし、家にいることもないだろう。
実際、式の当日だって本人がいないと言われていたし。
(成程、そういう意図か!じゃあわかる!)
だったら、本当は本命がそっちに居て、それまではキイロに家を管理して欲しいということかもしれない。
いや、むしろそう考えたらつじつまがあう。
(じゃあ、ご飯を食べさせて貰えて、勉強する時間もできるかもしれない!)
この子もいずれ誰かの所へ帰るだろうし、でもそれまではキイロが面倒をみてやればいい。
幸い、大人しいし可愛いし、これまで子供の世話を押し付けられっぱなしだったキイロにしてみたら、こんなにありがたい子供はいないし。
そんな事を考えていると馬車が止まった。
「到着しました。どうぞ」
扉が開き、病院の玄関前に到着したのだが。
キイロは目を見張った。
あまりに立派な病院だったからだ。
「ここは?」
「軍専門の病院でございます」
「そんな場所にどうして」
すると白衣を着た男が現れた。
「あなたが軍人の妻だからですよ。薄氷夫人」
丸いメガネをかけ、かなり長身の男がそこに立っていた。
そしてすさまじく美形だった。
「あなたは?」
「縹と申します。薄氷とは腐れ縁でして。式には参加できず残念に思っていましたが、災難でしたね」
「あ、いいえ」
全く話にはついていけないが、どうやらこの人は薄氷の友人であるらしい。
「僕は薄氷とは親戚でもあってね。だから安心していい。さ、話は聞いているので診察室へ」
「は、はい」
子供を抱えたまま、キイロは縹について病院の中へ入って行った。
縹はキイロの怪我を見て、「こりゃひどいな」と表情をしかめた。
「骨には影響はないだろうが、打撲とあざがひどい。薬を出しておこう。しばらく重いものは持たないように、と言っても子供がいるか」
ずっと子供を抱えたままのキイロに縹は苦笑した。
「すみません。離そうとするとしがみつくので」
一応、診察室に入る前に、梅花に預けようとしたのだが、子供は泣きはしなかったものの、キイロにしがみついてけっして離れようとしなかった。
「いいですよ。そのくらいなら構わないでしょう」
そういって縹はキイロの怪我の上に軟膏を塗り、包帯を巻いた。
「こんなに丁寧にしてもらって」
「あざが出る程叩かれるのはけっこうな怪我ですよ。もしこのさき、似たような事があっても薄氷に伝えて下さい。僕が見るので」
「は、はい」
親切な人たちだな、とキイロは思った。
「おい、治療は終わったか?」
診察室の向こうから声がした。
薄氷だ。
キイロはどきっとした。
美しい声だから、すぐにわかる。
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