19 / 64
第三章
19・まるで山の中
しおりを挟む
車は進んで外れの方へ向かう。
いつの間にか、両側が森のように木が生い茂っていて、まさか山の中に?と思わず外を見る。
そんなキイロの様子に気づき、運転手は告げた。
「現在、薄氷さまの敷地内に入っております。ご安心ください」
「敷地内?」
「はい、先ほどから」
山の中ではないのか?
そういえば道路もちゃんとして揺れもほとんどない。
一体どこへ向かっているのか。
顔を見合わせるキイロと梅花だ。
やがて木々がなくなったかと思うと、いきなり目の前が開けた。
まるで英国の王族を思わせるような広い庭園と、洋館のような建物と、和風のお屋敷が並んで建っている。
「到着しました。薄氷家へご案内いたします」
運転手がそう言い、和風のお屋敷のほうへ車をつけた。
車専用の玄関があるのか、車をそのまま乗りつけると、ドアが開いた。
わらわらと女中が現れた。
「お待ちしておりました」
「お疲れ様でございます」
「お話は伺っております」
「お風呂のご用意が出来ております」
「え?え?え?」
次々に話かけられ、キイロが困惑していると、そのまま「さささ」と肩を押された。
キイロと梅花と子供は、やたら広い風呂場へ案内された。
「ささ、風邪をひかないうちに」
「子供は我々が預かります」
「ダメ!」
はっとキイロは子供を抱きかかえたが、一人の女中が首を横に振った。
「ご安心ください、我々も一緒にお風呂へ向かいます」
「あなた方が入浴している間、目の前でこの子の面倒をみます故」
「どうか、疑わないでいただきますよう」
次々にまたそう言われ、キイロは仕方なく頷いた。
(そもそも、こんな場所まで来てしまったんだし)
薄氷の家なら、もう預けるしかないのだろう。
「判りました。でも、すぐに戻してください」
一緒にお風呂まで来るなら、目の前で奪われることもないだろう。
キイロの返答に、女中らは次々に「ええ、ええ」と頷いた。
(それにしても一体、ここは何なんだろう?)
昨日から変な目にあってばかりだな、とキイロは思った。
入浴は女中らも一緒に風呂に入り、あれこれキイロどころか赤ん坊も梅花の世話もやいた。
体を洗われ、髪も数人で洗われ、ゆっくり湯船につけられて体の芯からあたたまった。
「やっぱりお風呂はいいわね。昨日の梅花のお風呂も助かったけど」
「なにいってんの。うちみたいな小さなお風呂」
「とんでもない。いきなり押しかけたのに、あたたかいお風呂に入れてくれて、感謝してる」
「キイロ……」
「わたし、そんなに恵まれてないと思ったけど、友達だけは最高に恵まれてる」
「私だってそうよ」
梅花の言葉に、キイロは頷いた。
入浴を済ませると、また女中らは着替えから髪のまとめから、なにからなにまで世話をやく。
「自分でできますから」
キイロと梅花が言うも、女中らは次々に首を横に振る。
「我々の仕事ですから」
「そうです、専門にお任せください」
そう言われると仕方なく、キイロらは従うしかなかった。
しかし専門というだけあって手際は見事で、キイロも梅花もあっというまに奇麗に身支度を整えて貰った。
「梅花、まるで女学校の時みたいね」
「キイロだってよく似合ってて可愛いわ」
品の良い、揃えの着物を着せられて二人はまるで姉妹のような感覚になる。
「とても良い着物ね。仕立てはどこかしら」
梅花が不思議がるが「わからないわ」と首をかしげる。
子供はどこ、とキイロがきょろきょろすると、女中がちゃんと着替えを済ませた子供を連れてきてくれた。
そこでキイロはあれ?と思う。
心なしか、子供が少し、大きくなった気がするのだ。
さっきまで確かに、1歳すぎ、なんとか2歳くらいのよちよちした雰囲気だったのに、目の前の子供はちょっと大きくなっている。
でも顔はそのままだし、雰囲気も変わってない。
(???なんで?)
それでも子供はキイロに向かって「だっこして」というように手を伸ばして来たのでキイロは抱きかかえた。
(やっぱり、重くなっているような)
いつの間にか、両側が森のように木が生い茂っていて、まさか山の中に?と思わず外を見る。
そんなキイロの様子に気づき、運転手は告げた。
「現在、薄氷さまの敷地内に入っております。ご安心ください」
「敷地内?」
「はい、先ほどから」
山の中ではないのか?
そういえば道路もちゃんとして揺れもほとんどない。
一体どこへ向かっているのか。
顔を見合わせるキイロと梅花だ。
やがて木々がなくなったかと思うと、いきなり目の前が開けた。
まるで英国の王族を思わせるような広い庭園と、洋館のような建物と、和風のお屋敷が並んで建っている。
「到着しました。薄氷家へご案内いたします」
運転手がそう言い、和風のお屋敷のほうへ車をつけた。
車専用の玄関があるのか、車をそのまま乗りつけると、ドアが開いた。
わらわらと女中が現れた。
「お待ちしておりました」
「お疲れ様でございます」
「お話は伺っております」
「お風呂のご用意が出来ております」
「え?え?え?」
次々に話かけられ、キイロが困惑していると、そのまま「さささ」と肩を押された。
キイロと梅花と子供は、やたら広い風呂場へ案内された。
「ささ、風邪をひかないうちに」
「子供は我々が預かります」
「ダメ!」
はっとキイロは子供を抱きかかえたが、一人の女中が首を横に振った。
「ご安心ください、我々も一緒にお風呂へ向かいます」
「あなた方が入浴している間、目の前でこの子の面倒をみます故」
「どうか、疑わないでいただきますよう」
次々にまたそう言われ、キイロは仕方なく頷いた。
(そもそも、こんな場所まで来てしまったんだし)
薄氷の家なら、もう預けるしかないのだろう。
「判りました。でも、すぐに戻してください」
一緒にお風呂まで来るなら、目の前で奪われることもないだろう。
キイロの返答に、女中らは次々に「ええ、ええ」と頷いた。
(それにしても一体、ここは何なんだろう?)
昨日から変な目にあってばかりだな、とキイロは思った。
入浴は女中らも一緒に風呂に入り、あれこれキイロどころか赤ん坊も梅花の世話もやいた。
体を洗われ、髪も数人で洗われ、ゆっくり湯船につけられて体の芯からあたたまった。
「やっぱりお風呂はいいわね。昨日の梅花のお風呂も助かったけど」
「なにいってんの。うちみたいな小さなお風呂」
「とんでもない。いきなり押しかけたのに、あたたかいお風呂に入れてくれて、感謝してる」
「キイロ……」
「わたし、そんなに恵まれてないと思ったけど、友達だけは最高に恵まれてる」
「私だってそうよ」
梅花の言葉に、キイロは頷いた。
入浴を済ませると、また女中らは着替えから髪のまとめから、なにからなにまで世話をやく。
「自分でできますから」
キイロと梅花が言うも、女中らは次々に首を横に振る。
「我々の仕事ですから」
「そうです、専門にお任せください」
そう言われると仕方なく、キイロらは従うしかなかった。
しかし専門というだけあって手際は見事で、キイロも梅花もあっというまに奇麗に身支度を整えて貰った。
「梅花、まるで女学校の時みたいね」
「キイロだってよく似合ってて可愛いわ」
品の良い、揃えの着物を着せられて二人はまるで姉妹のような感覚になる。
「とても良い着物ね。仕立てはどこかしら」
梅花が不思議がるが「わからないわ」と首をかしげる。
子供はどこ、とキイロがきょろきょろすると、女中がちゃんと着替えを済ませた子供を連れてきてくれた。
そこでキイロはあれ?と思う。
心なしか、子供が少し、大きくなった気がするのだ。
さっきまで確かに、1歳すぎ、なんとか2歳くらいのよちよちした雰囲気だったのに、目の前の子供はちょっと大きくなっている。
でも顔はそのままだし、雰囲気も変わってない。
(???なんで?)
それでも子供はキイロに向かって「だっこして」というように手を伸ばして来たのでキイロは抱きかかえた。
(やっぱり、重くなっているような)
53
あなたにおすすめの小説
異世界転生してしまった。どうせ死ぬのに。
あんど もあ
ファンタジー
好きな人と結婚して初めてのクリスマスに事故で亡くなった私。異世界に転生したけど、どうせ死ぬなら幸せになんてなりたくない。そう思って生きてきたのだけど……。
オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~
雪丸
ファンタジー
アタシ、アドルディ・レッドフォード伯爵。
突然だけど今の状況を説明するわ。幼女を拾ったの。
多分年齢は6~8歳くらいの子。屋敷の前にボロ雑巾が落ちてると思ったらびっくり!人だったの。
死んでる?と思ってその辺りに落ちている木で突いたら、息をしていたから屋敷に運んで手当てをしたのよ。
「道端で倒れていた私を助け、手当を施したその所業。賞賛に値します。(盛大なキャラ作り中)」
んま~~~尊大だし図々しいし可愛くないわ~~~!!
でも聖女様だから変な扱いもできないわ~~~!!
これからアタシ、どうなっちゃうのかしら…。
な、ラブコメ&ファンタジーです。恋の進展はスローペースです。
小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。(敬称略)
異世界転生した女子高校生は辺境伯令嬢になりましたが
初
ファンタジー
車に轢かれそうだった少女を庇って死んだ女性主人公、優華は異世界の辺境伯の三女、ミュカナとして転生する。ミュカナはこのスキルや魔法、剣のありふれた異世界で多くの仲間と出会う。そんなミュカナの異世界生活はどうなるのか。
『ひまりのスローライフ便り 〜異世界でもふもふに囲まれて〜』
チャチャ
ファンタジー
孤児院育ちの23歳女子・葛西ひまりは、ある日、不思議な本に導かれて異世界へ。
そこでは、アレルギー体質がウソのように治り、もふもふたちとふれあえる夢の生活が待っていた!
畑と料理、ちょっと不思議な魔法とあったかい人々——のんびりスローな新しい毎日が、今始まる。
そんな未来はお断り! ~未来が見える少女サブリナはこつこつ暗躍で成り上がる~
みねバイヤーン
ファンタジー
孤児の少女サブリナは、夢の中で色んな未来を見た。王子に溺愛される「ヒロイン」、逆ハーレムで嫉妬を買う「ヒドイン」、追放され惨めに生きる「悪役令嬢」。──だけど、どれもサブリナの望む未来ではなかった。「あんな未来は、イヤ、お断りよ!」望む未来を手に入れるため、サブリナは未来視を武器に孤児院の仲間を救い、没落貴族を復興し、王宮の陰謀までひっくり返す。すると、王子や貴族令嬢、国中の要人たちが次々と彼女に惹かれる事態に。「さすがにこの未来は予想外だったわ……」運命を塗り替えて、新しい未来を楽しむ異世界改革奮闘記。
【完結】悪役令嬢は婚約破棄されたら自由になりました
きゅちゃん
ファンタジー
王子に婚約破棄されたセラフィーナは、前世の記憶を取り戻し、自分がゲーム世界の悪役令嬢になっていると気づく。破滅を避けるため辺境領地へ帰還すると、そこで待ち受けるのは財政難と魔物の脅威...。高純度の魔石を発見したセラフィーナは、商売で領地を立て直し始める。しかし王都から冤罪で訴えられる危機に陥るが...悪役令嬢が自由を手に入れ、新しい人生を切り開く物語。
豊穣の巫女から追放されたただの村娘。しかし彼女の正体が予想外のものだったため、村は彼女が知らないうちに崩壊する。
下菊みこと
ファンタジー
豊穣の巫女に追い出された少女のお話。
豊穣の巫女に追い出された村娘、アンナ。彼女は村人達の善意で生かされていた孤児だったため、むしろお礼を言って笑顔で村を離れた。その感謝は本物だった。なにも持たない彼女は、果たしてどこに向かうのか…。
小説家になろう様でも投稿しています。
使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。気長に待っててください。月2くらいで更新したいとは思ってます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる