神の手は祈りの形をしていない 〜「将来、異能力で犯罪を犯す」と予知されて隔離されたボクら。最弱能力で未来を塗り替える〜

陽々陽

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ノクス「ユウの異能力はな……幻聴なんて、チンケなもんじゃねえんだ」

 ノクスはゆっくりと語り出した。

ノクス「幻聴も、血液操作も……ただの異能力の結果だ。
 アイツの異能力はさ……」

 ノクスは息をついた。そして、しっかりとした口調で、言った。

ノクス「『望んだこと』が、『望まぬ形で』叶う能力だ。

 望んだことが、なんでも、あり得ないことでも……現実が書き換わって、叶っちまう……
 ただし、決して思い描いた形じゃない。それ以上の不幸や歪みを生んじまう。
 そんなヤベえ能力なんだ。

 『猿の手』って、知ってるか?」

 あかりは首を横に振った。ノクスは呆れた声を出した。

ノクス「嘆かわしいな。エロい映画より見るもんあるだろ」

あかり「な、なんの話よ……」

 ノクスは小さく鼻で笑ってから、説明を続けた。

ノクス「ユウがなにかを望んだら、こう……神の手みたいなものが、現実をぐちゃぐちゃにかき回すんだ。雑にな。
 結果、望みは叶うが、決して幸せにはつながらない……
 そんなクソったれな能力だ」

あかり「じゃあ、ましろがいなくなったのも……
 トーマの異能力がなくなったのも……?」

ノクス「ユウが望んで……歪んじまった結果だ。

 ましろへの告白を無かったことにしたい……
 トーマみたいな異能力を発現したい……

 ユウの、無自覚に望んだことだ」

 ノクスはあかりの理解を待つように、一度、言葉を切った。

ノクス「ひょっとしたら、この学園生活そのものが……不自然にゆるい隔離教室も、ユウの望みで出来上がった歪んだ現実なのかも知れねえ」

あかり「そんな……」

 あかりは、いつしか見た気味の悪い夢を思い出した。

ノクス「おめえは、夢っつう無意識にアクセスする異能力を持ってるからか……
 他のヤツが気がつかない歪みに気づいちまったんだな」

あかり「そういえば……アンタ、ユウのフリして私のこと突き落としてくれたわね?」

ノクス「ソウガが受け止めたろ?
 受け止めとけって言っておいたからな」

あかり「……」

 あかりは不満げな顔をした。
 別に受け止められずに落下しても構わない。その程度に考えていることが、やすやすと想像できる。
 しかし、一旦、恨み言を飲み込んだ。

あかり「……じゃあ、あなたは、ユウのために、その異能力を消そうとした……ってこと?
 でも、せっかくそんな強力な異能力があるのに……」

 あかりの言葉に、ノクスは少し失望したような表情を浮かべた。

ノクス「いらねえよ、こんな異能力……
 能力者を幸せにしない異能力なんて、あっていいもんじゃねえ」

 ノクスは吐き捨てるように言った。

ノクス「……想像してみろ。
 ユウがこの異能力を知っちまったら、どうなる? なにか望むたびに不幸をまき散らす。
 心持ちひとつで、それこそ人類だって滅びかねない。
 心を動かすだけで怖くなる。罪悪感を感じても、終わりにしたいって思うことすら、なにを巻き起こすかわからねえんだ。

 ユウは、きっと堪えられないよ。
 アイツ……優しいからさ」

 ノクスが柔らかい表情をした。ノクスはユウのことを本気で案じている。そう、あかりには感じられた。

あかり「それなら……事情を話して、学院に協力してもらえば……
 こんなこと、しなくても……」

ノクス「ハッ……
 この学院のやつらが、簡単にユウの異能力を手放すかよ。
 クスリでもなんでも使って、コントロールしようとしてくるだろうよ。
 やべえ実験の被検体になるか、だれかの野望に利用されるか……

 ……ユウが傷つくに決まってる……」

 あかりは口をつぐんだ。
 なんでも叶う夢の異能力。たしかに、その抗いがたい魅力に狂う人がいてもおかしくない。
 そして、その場合……ユウの人格はきっと邪魔になる。

ノクス「学院の脅威って認められれば、この忌々しい異能力を消してもらえるんだ。

 じゃあ、脅威になれるよう、ド派手にぶちかますしかねえだろ。
 カオルに派手に暴れてもらって、注目を集めて……オレのちからを見せつけた。

 おかげで、ちゃんと消してもらえる。大成功だ」

あかり「でも……」

 あかりは自分にこんな感情が芽生えたことが意外だった。

あかり「でも、あなたも能力の産物なんでしょ?
 ユウの異能力を消したら……あなたも、消えちゃうんじゃない……?」

ノクス「まあ、そうだろうな……」

あかり「いいの? それで……いいの?

 話していて分かった。
 あなたも一人の……ちゃんとした人格を持ってるのよ。簡単に消して良いような存在じゃない。

 ユウのために、一人で頑張ってきたんでしょ?
 消えて、いなくなって……なにかを感じることも、ユウと話すことも……全部できなくなって……

 それで、本当に、いいの?」

 ノクスはさびしそうに、でも優しい目をして、つぶやいた。

ノクス「そんなの、全然……なんでもねえよ」

 そして、屈託のない笑顔を浮かべた。

ノクス「だって、オレ……

 ユウの、友達だから!」

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