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第一章【レイシア編】

許し

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「そしてモルダーへの復讐を果たした後ノーライフキングが現れて、奴の魔法に焼かれたシンを、ずっと使ってこなかった治癒魔法で治療し、シンを二度と傷付けない為に拘束し、今に至る」

 レイシアの話が終わると、暫く部屋には無言が流れた。
 余りにも衝撃的過ぎる、自分すら知らない自分自身の過去に、シンとメレーヌは言葉を失った。
 その横でリザがグスングスンと涙を流していた。

「グスッ……酷い……ダーリンを殺すなんて……メレーヌ酷い! 許せない! レイシアは悪くない!」

 リザはレイシアの過去に共感したらしく、メレーヌに対して怒りだした。

「こ、こんなのデタラメですわ! どうしてわたくしが記憶にない事で責められなければならないのか、全く理解出来ませんわ!」

 メレーヌは、身に覚えのない問責に強く反論した。

「残念だけどこれは事実だ。それに例え全く違う世界で起きた未来の出来事だとしても、私は今の人生でも貴女達親子の事をずっと見てきた。
 貴女達親子はどの人生でもずっと非道な行いをしているし、貴女は今の歳で既に奴隷に対する虐待行為に手を染めている。
 少しでも改善しそうな余地もあれば私も復讐を思い止まったかもしれないが、残念ながら貴女達親子に情状の余地は微塵も無い」

「ぐっ……そ、それは……」

 レイシアの冷たい言葉にメレーヌは閉口する。

「…………さない」

 そこでようやくシンが口を開いた。

「……許さない」

 シンは怒りの表情を浮かべながら呟いた。

「ひっ……! や、やめて! わ、わたくしは悪くないっ! わたくしは何もしてなーー」

 シンの怒りに満ちた表情に、メレーヌが青ざめながら必死に言い訳を述べようとしたがーー

「僕は貴女を許せない……レイシアさん」

 シンはメレーヌではなく、レイシアに対して怒りの矛先を向けていた。

「シン……そうだね。確かに私もシンの能力を奪って苦しめてしまった。それは許されるような事じゃない」

 レイシアはシンが自分に対して怒っている事に驚きを見せず、ただ自責の言葉を口にした。

「……違う。そうじゃない……レイシアさん……貴女は……貴女はどうして僕を信じてくれなかったんですか!」

「えっ……」

 シンの口から出た言葉は、レイシアにとって意外なものだった。

「どうして……どうして僕を見捨てて一人で去ってしまったんですか!
 僕は……僕は! ずっと一人で……孤独に苛まれながら育ってきたんだ! 貴女には僕と過ごした記憶があっても、僕には貴女の記憶がない!
 そんな中……どれ程孤独に生きてきたか、分かりますか!?」

「し、シン……」

 確かにたった一人で復讐を誓って生きてきたレイシアも孤独だった。
 だがレイシアにはシンと過ごした幸せな日々の記憶があり、シンの顔を見る度にそれを思い出しながら心の支えとする事が出来た。
 対するシンは親に捨てられ、仲間も得られず、弱小のまま孤独に悩み続けた記憶しか無かったのだ。

「折角生き返ったのに、どうして僕を信じて僕に全てを話し、僕と共に違う未来を歩んではくれなかったんですか!
 僕は貴女の言葉ならきっと信じた! 僕は貴女と育った記憶が無くたって、貴女と出会い、貴女に恋をしたのだから!」

 シンの言葉にレイシアはハッとした。

「そうだ……わ、私は……どうして……どうしてシンを信じられずに見捨てたりなんか……」

 シンを信じずに、愛情を向けず見捨てたりなどしてしまったら、それはシンを捨てた父親とやった事は何も変わらないのだ。
 その事に初めて気付かされ、レイシアは目に涙を浮かべて自身の行動を悔いた。

「人は、やり直せるのならばどんな風にだって生き方を変えられるんだ! 貴女が僧侶から剣士となり、僕が剣士から降魔術師となったように!
 二人で力を合わせればひょっとしたら、モルダー親子の事だって何かを変えられたかもしれない! 殺したりなんかしなくても!
 貴女のやった事は僕の為なんかじゃない!
 自分自身の復讐を果す為、ただそれだけだったんだ!」

 シンの訴えに、リザも、メレーヌも、そしてレイシアも言葉を発することが出来なかった。
 レイシアは、ただただ後悔と自責の念にボロボロと涙を溢した。

「僕は……貴女のやった事を許せない……けどっ」

 シンは大きく息を吸い、『フウーッ』と長く息を吐いて深呼吸をした。

「だけど……もし僕が生き残って、目の前でレイシアさんが殺される所を見たら……ひょっとしたら僕も同じように復讐心に駆られていたかもしれない……
 僕の辛かった日々が僕にしか分からないように、レイシアさんも、きっと誰も想像出来ないような苦悩に苛まれていたのだろうと、僕にも理解出来ます」

 レイシアは、シンの言葉に泣き崩れた。
 レイシアはたった一人で業を抱えて生きてきたのだ。その辛さはおおよそ常人に量れるようなものでは決してなかった。
 シンは許しがたい感情を持ちつつも、そんなレイシアをそのまま責め続ける事は出来なかった。

「そして僕がリザという愛すべき存在と出会い、幸せな第二の人生を送れたのもレイシアさん、貴女のお陰です。
 だから、もしレイシアさんが今までの過去を悔いて、メレーヌに貴女と同じ苦しみを負わせた事を償うのであれば、僕は貴女を許します。
 そして、貴女を遺して死んでしまった僕を……どうか許して欲しい」

 その時、レイシアの目には今のシンの姿に、かつて愛し合った大人のシンの姿が重なって見えた。
 二人のシンが、レイシアに向かって優しく微笑みかける。

 その光景に、レイシアは今までの思いが溢れ出し、シンの胸に顔を埋めて泣き崩れた。

「うわああぁぁあん! シィィン! シィィィィンン!!」

 シンはレイシアの錠を優しく外すと、二人はかつて共に過ごした時間をようやく取り戻したように、強く抱き締め合った。

「メレーヌも父親を殺されてこんな目に遭って辛かっただろうけど、許してくれるか?」

 シンが胸で泣くレイシアの頭を撫でながら、メレーヌにたずねた。

「全く……貴族であるわたくし達の馬車を壊して、パパを殺して、わたくしまで殺された事にされて、その上わたくしの初めてまで奪われて……それで許してくれだなんて、虫が良すぎるにも程がありますわ……
 ですが……あんな話を聞かされた後にこんな光景を見させられたら、貴方達を責める気も起きませんわ」

 メレーヌは渋々と言った様子で、シンの謝罪を受け入れた。

「ありがとう。メレーヌ」

「私も……貴女を恨んでいたにせよ、別の人生の未来の事で、何も知らない貴女に復讐しようとしたのは間違っていた……本当に申し訳ない」

 シンがメレーヌにお礼の言葉を述べ、レイシアも涙を拭いながら謝罪した。

「もう良いですわ。確かに今までの私の生き方だったら、きっとまた同じ人生を辿っていましたわ。
 それにたとえ貴方達とは何も無かったとしても、他の誰かから恨まれて酷い目に遭っていたかもしれないと、貴方達の言葉で気付かされましたわ」

 まだ幼いメレーヌが、シンとレイシアによってその生き方を変えようとしている。

「メレーヌ偉いっ!ちゃんと良い子になって良かったね、ダーリンッ!」

 リザがメレーヌの言葉を称賛した。
 シンの言った通り、一人一人の生き方によって未来は大きく変わろうとしていた。

「ただし……わたくしにはもう帰る場所がありませんわ。ですからシン、貴方がこれからもわたくしをしっかり護衛なさい!
 まだ貴方達に依頼した任務は終わっていませんわよ!」

 メレーヌからの意外な言葉にシンとレイシアは目を丸くし、程なく二人で顔を見合わせて笑い合った。

「はははっ、そうですね。もし僕の家で良かったら、これからしっかり護衛を務めさせて頂きますよ、お嬢様」

「そっその呼び方はもうお辞めなさい! め、メレーヌで良いわ……」

 メレーヌが顔を赤らめながら答える姿に、シンは更に顔を綻ばせた。

「あ、あの……シン……そ、その……身を弁えない願いなのは重々承知の上だが……わ、私もシンの側に居させて欲しい」

 レイシアがモジモジと体を擦りながら、メレーヌに乗っかるようにシンとの同居を申し出た。

「勿論っ。そ、その……家に帰ったら、沢山子作りをする約束だっただろ? レイシア」

 シンが少し背伸びをしながら、照れ臭そうにレイシアの記憶の中にある自分を演じようとしてみせた。
 その様子に、レイシアは『パァッ』と目を輝かせた。

「うんっ! いっぱい、いっぱい子作りしてっ! シン!」

 レイシアが息を荒くしながらシンの体に抱き付いた。

「わっわたくしもっ! そのっ……初めてを奪った挙げ句、こんな歳でわたくしを女に目覚めさせた、その責任を取りなさいっシン!」

 メレーヌも負けじとシンの腕を取り、成長前の身体を一所懸命押し付けた。

「わーい! 皆と沢山エッチな事するの楽しみー!」

 リザも三人の輪に交ざり、シンの首元にしがみついた。

「あ、あはは……こりゃ参ったな」

 シンは嬉しくも辛い複雑な状況に、ポリポリと頬を掻いた。
 何はともあれハーレムの仲間が増えた事に、シンはムクムクと情欲を沸き上がらせながら、皆で仲良く愛の巣へと帰っていった。

 だが、この時シンは、ある重大な事を忘れていたのだーー


「シン様っ! ああっ……無事だったんですね! 良かった……!」

 家に着くなり、待てど待てど一向に帰ってこないシンを心配していたソフィーヤが、涙を浮かべながらシンの体に飛び付いた。

「シン……これは一体ど・う・い・う・事・だ・い?」

 何故かソフィーヤがシンを迎え、更には激しく抱き付いているのを見て、レイシアが冷えきった声たずねた。

(し、しまった……ソフィーの事をレイシアさんに説明するのを忘れていたっ!)

 シンは言い逃れ出来ない状況に、大量の汗を吹き出しながら返答に迷った。

「あら? どうしてレイシアさんがここにいるんですか?」

 ソフィーヤがシンに抱き付きながら、サラリと質問する。

「それはこっちの台詞だソフィーヤ! 何で貴女がここにいるんだ! シンの体から離れろっ!」

 レイシアがソフィーヤに強く反論し、その体を引き剥がそうとする。

「嫌っ! ちょっと、辞めてくださいレイシアさんっ! 私の身体は愛するシン様のモノなのですから、この身を捧げるのは当然の事ですっ!」

 ソフィーヤがシンに胸と秘部を押し付けながら、火に大量の油を注いだ。

「なっ……ま、まさか……シン……もうソフィーヤと事を為したんじゃ……」

「え、ええ~っと、その……はい……」

 最早言い訳する事が出来ずシンが正直に答えると、レイシアはわなわなと怒りに身を震わせた。

「シン……ごめんよ。やっぱり約束は守れそうにない……このクソビッチを殺す。今すぐ殺す」

 レイシアが凍てつくような目を見せながら、ゆっくりと剣を引き抜いた。

「ちょ、ちょっと落ち着いてレイシアさん! レイシアさああぁぁん!」

 シンが必死にレイシアを制止するが、今のシンのレベルではレイシアの力に到底太刀打ち出来そうにない。
 静かな湖の畔で、シンと女達はドタバタと激しく騒ぎ立てた。

「ああ~~~っ!」

 そこで突然、リザの一際大きな叫び声が響き渡った。
 それまでぎゃあぎゃあと騒いでいた4人が、何事かとピタリと動きを止めた。

「忘れてたーー! 魔界にダーリンを連れて行かなきゃ行けないんだったー!」

「「「「魔界?」」」」

 突然リザの口から飛び出した「魔界」というワードに、シン達4人は同時に首を傾げたーー


ーーーーーーーーーー

これにて第一章「レイシア編」は完結となります。次からは第二章「魔界編」となります。
それに伴い、「弱小剣士が降魔術師になって人生やり直し~淫魔に毎日搾られて最強に~」は一度完結とさせて頂きます。
現在作者は急性憩室炎による療養中でありまして、暫く更新をお休みさせて頂きます。
誠に申し訳ありません。
そしてここまで読んで頂いた方に心から御礼申し上げます。

次回からの第二章は体調が回復次第執筆させて頂きますので、楽しみにお待ち頂ければ幸いです。

なお、ご意見ご感想や作者への個人的な質問等があれば、感想やメッセージ等でお書きいただければ、今後のネタバレにならない範囲でお答えさせて頂きますので、是非是非お待ちしております。

それではまた。
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