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ヤヤヤ

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 自宅のアパートを出発しておそらく三時間以上は経過しただろう。もしこのまま姉のドライブに付き合い続ければ、まず間違いなく朝方の時間帯に家路に着くことになる。
 海斗はアルバイトで生活費を稼ぐようになってから規則正しい生活とは無縁で、真夜中の外出にもすっかり慣れていた。いつのまにか頭と身体が夜型になっていて、夜中に行動することが当たり前になってしまったのだった。
 だがそんな海斗でも、今のこの状況を呑み込むには時間がかかりそうであった。いきなり連絡を寄越した姉が、自分の弟を車に乗せ、そこで自身の打ち明け話をし、夜中にあてもなく車を走らせ続ける……。
 この姉は、一体なにがしたいのだろうか。
 海斗はレバーを引いて座席の背もたれを後方へと倒し、両腕を頭の後ろに回した。先ほどなんの気なしにリアウィンドウを下ろしたせいで、車内はひんやりとしていて未だに肌寒い。車は一切止まる気配を見せず、雑木林と田畑に囲まれた狭い田舎道を真っ直ぐに進んでゆく。その車を運転している姉は、相変わらず口を閉ざしたまま静かな目で前方をじっと見つめている。
 こんな感じ、前にもあったな、と海斗はぼんやりした頭で数年前の記憶を思い起こした。それは姉が大学受験を間近に控えた、寒い冬の季節の出来事であった。
 当時高校生だった姉は、近所の公園に海斗を呼び出し、突然「私、大学いかないから」と宣言したのだった。
「え、なんで?」
「まあ、色々とね」
「色々ってなに?」
「色々は、色々だよ」
「理由、言えないの?」
「そうだね」
「それ、母さんたちが許すと思う?」
「いいんだよ」
 その時も、姉は真顔でそう言った。そしてすぐに「ばか弟だね、ほんと」と笑ったのだった。
 宣言通り、姉は本当に受験勉強をしなくなった。それがあまりにもあっさりしたものだったから、最初から大学になんていく気がなかったのではないか、と疑問に思うほどであった。
 だが案の定、姉は毎日のように両親から大学に進学するよう説得された。しかしそれでも姉がその説得に応じることはついになかった。
 姉がなぜあの時あんな選択をしたのか、今でもその理由はわからない。おそらくこの先もずっと、あの時の姉の心情を聞くことはないだろう。しかし海斗が今でも思うのは、次へ進む前にしっかり報告してくれてありがとう、である。
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