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思いがけない予約
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僕は蒼井家の健斗の部屋を訪れていた。そして先日のパーティのことを愚痴っている。
あの教師から暴行を受けて以来、僕は従兄弟の健斗には何もかも包み隠さず話すことにしていた。それは精神を安定させるためでもあり、僕が馬鹿なことをして危ない目に遭わないように健斗が見張るためでもあった。
「……ってことがあって、悔しいから手を出そうかと思ったけど自分が恥ずかしくなってやっぱりやめた」
「やめた、じゃないだろ。そもそも東郷はお前のことなんて相手しないに決まってる」
「わかってるってば! でも物凄くかっこよくなってて僕の好みど真ん中だったなぁ……」
「はは、それは世の中の多くのお嬢さんがそう思ってるさ」
「あの身体にめちゃくちゃにされたら死ぬほど気持ちいいだろうなぁ……いてっ!」
「下品なこと言うんじゃない」
健斗に頭を小突かれた。
「そのお綺麗な顔で全く……。お前の本音を聞いたら男はみんな裸足で逃げ出すぞ。相手してもらいたいなら黙ってることだな」
「はぁい。………ねえ健ちゃん。ほんとに東郷と繋がるの無理?」
「無理だよ。大体お前もわかってる通りあいつは長男で今や東郷グループのCEO。それがお前のおかしな魅力に血迷ったなんて事になってみろ。親父さんも向こうの会長も黙っちゃいないぞ」
そうだった。父にそんなこと知られたら僕はきっと死ぬほど怒られる。いや、それでは済まないかも?
はぁ、でも……あの大きな身体で押し倒されて思い切り抱きしめられたら……
そんなことを考えてうっとりしていたらまた健斗に額を叩かれた。
「変な顔するのやめろって」
「酷いよ、何回も叩かないで」
はぁあ……面白くない。
今の生活に満足していたはずなのに、東郷に再会してからどんな男に抱かれても全然満たされない。
やっぱり強い雄をねじ伏せて意のままにしたいって気持ちが僕にまだあるから?
このコンプレックスはとっくに治ったと思ったのにな……。
◇◇◇
そんなある日、僕はクリニックの予約名簿に思わぬ名前を見つけた。
「東郷雅貴って……同姓同名じゃないよね」
健ちゃんのサプライズ? だとしたら優秀だけど。あんなに無理って言ってたのに。
そして診察室に入ってきたのは紛れもなく東郷本人だった。
「やあ」
「こんにちは。まさか普通に予約して来るとは思ってなかった」
「ああ、社交辞令を本気にして来たよ」
「あ……ああ」
そういえば、パーティのとき僕が「カウンセリングやってるから来て」とかなんとか言ったんだっけ。
え――これって僕が水曜日何してるか知ってるってこと? 知らないってこと?
「それで、どうしました?」
「本当に医者やってるんだな。あ、いや悪い。最近眠れなくてね。運動もしてるし食べてもいるんだが。これ以上不眠続きになると仕事に差し障りがあるんで睡眠薬でも出してもらおうと」
「ああ、忙しいものね。わかりました、じゃあ一週間分出すから様子を見てまた……来週は来られそうかな?」
「ああ、何とか時間を作ろう」
せっかくの機会だからダメ元で試してみるか。
「………来週水曜日はどう?」
「水曜日か、ちょっと待ってくれ」
スマホで予定を確認してから頷く。
「午前中ならなんとか来られそうだ」
「じゃあ10時でも?」
「10時だな、わかった」
東郷はそのまま予定を書き込んでいる。
えっと――水曜日に予約してもらえた。どういう意味かわかってるのかな。
まぁこの人は噂話に興味が無いから知らないよね。
もう10年もこんな事をやってるので、西園寺の馬鹿息子がやってる「悪い事」を知ってる人は知っている。
このクリニックを開いてからはその方法がちょっと変わった。
僕と寝たいって男がいたら、蒼井健斗の口利きでクリニックの診察日に予約し、僕の”診察”を受ける。そして、僕が相手を気に入れば休診日の水曜日に来るようにと次の予約を取らせる。
そして、水曜日にその”患者”が来た時は僕のプライベートルームに案内してカウンセリングもそこそこにベッドに入るというわけだ。
あの教師から暴行を受けて以来、僕は従兄弟の健斗には何もかも包み隠さず話すことにしていた。それは精神を安定させるためでもあり、僕が馬鹿なことをして危ない目に遭わないように健斗が見張るためでもあった。
「……ってことがあって、悔しいから手を出そうかと思ったけど自分が恥ずかしくなってやっぱりやめた」
「やめた、じゃないだろ。そもそも東郷はお前のことなんて相手しないに決まってる」
「わかってるってば! でも物凄くかっこよくなってて僕の好みど真ん中だったなぁ……」
「はは、それは世の中の多くのお嬢さんがそう思ってるさ」
「あの身体にめちゃくちゃにされたら死ぬほど気持ちいいだろうなぁ……いてっ!」
「下品なこと言うんじゃない」
健斗に頭を小突かれた。
「そのお綺麗な顔で全く……。お前の本音を聞いたら男はみんな裸足で逃げ出すぞ。相手してもらいたいなら黙ってることだな」
「はぁい。………ねえ健ちゃん。ほんとに東郷と繋がるの無理?」
「無理だよ。大体お前もわかってる通りあいつは長男で今や東郷グループのCEO。それがお前のおかしな魅力に血迷ったなんて事になってみろ。親父さんも向こうの会長も黙っちゃいないぞ」
そうだった。父にそんなこと知られたら僕はきっと死ぬほど怒られる。いや、それでは済まないかも?
はぁ、でも……あの大きな身体で押し倒されて思い切り抱きしめられたら……
そんなことを考えてうっとりしていたらまた健斗に額を叩かれた。
「変な顔するのやめろって」
「酷いよ、何回も叩かないで」
はぁあ……面白くない。
今の生活に満足していたはずなのに、東郷に再会してからどんな男に抱かれても全然満たされない。
やっぱり強い雄をねじ伏せて意のままにしたいって気持ちが僕にまだあるから?
このコンプレックスはとっくに治ったと思ったのにな……。
◇◇◇
そんなある日、僕はクリニックの予約名簿に思わぬ名前を見つけた。
「東郷雅貴って……同姓同名じゃないよね」
健ちゃんのサプライズ? だとしたら優秀だけど。あんなに無理って言ってたのに。
そして診察室に入ってきたのは紛れもなく東郷本人だった。
「やあ」
「こんにちは。まさか普通に予約して来るとは思ってなかった」
「ああ、社交辞令を本気にして来たよ」
「あ……ああ」
そういえば、パーティのとき僕が「カウンセリングやってるから来て」とかなんとか言ったんだっけ。
え――これって僕が水曜日何してるか知ってるってこと? 知らないってこと?
「それで、どうしました?」
「本当に医者やってるんだな。あ、いや悪い。最近眠れなくてね。運動もしてるし食べてもいるんだが。これ以上不眠続きになると仕事に差し障りがあるんで睡眠薬でも出してもらおうと」
「ああ、忙しいものね。わかりました、じゃあ一週間分出すから様子を見てまた……来週は来られそうかな?」
「ああ、何とか時間を作ろう」
せっかくの機会だからダメ元で試してみるか。
「………来週水曜日はどう?」
「水曜日か、ちょっと待ってくれ」
スマホで予定を確認してから頷く。
「午前中ならなんとか来られそうだ」
「じゃあ10時でも?」
「10時だな、わかった」
東郷はそのまま予定を書き込んでいる。
えっと――水曜日に予約してもらえた。どういう意味かわかってるのかな。
まぁこの人は噂話に興味が無いから知らないよね。
もう10年もこんな事をやってるので、西園寺の馬鹿息子がやってる「悪い事」を知ってる人は知っている。
このクリニックを開いてからはその方法がちょっと変わった。
僕と寝たいって男がいたら、蒼井健斗の口利きでクリニックの診察日に予約し、僕の”診察”を受ける。そして、僕が相手を気に入れば休診日の水曜日に来るようにと次の予約を取らせる。
そして、水曜日にその”患者”が来た時は僕のプライベートルームに案内してカウンセリングもそこそこにベッドに入るというわけだ。
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