【ケーキバース】彼氏が僕を甘やかす理由

grotta

文字の大きさ
19 / 20
番外編【薫視点】俺が恋人を甘やかす理由

4

しおりを挟む
奥様が来てからというもの、唯斗の天真爛漫さに陰りが見え始めた。
彼の生活の中で、彼に悪意を向ける人間はいなかった――ある時期の俺を除いては。それが、急に自分のことを嫌っている人間と暮らすようになって彼はときおり悲しそうな顔を見せるようになった。

「薫、僕ってお母さんに嫌われてるのかな」
「そんなことないよ」
「でも、どうしても仲良くしてもらえないんだ。僕が何かした?」
「唯斗が気にすることは何もないよ」
「薫も……僕のことを嫌いになったりしないよね……?」
「そんなわけないだろ。俺は唯斗のことが好きだよ。誰よりもね」

俺は彼が安心するように力強く言った。すると彼は嬉しそうな顔で答えた。

「僕も薫が大好き。一番好き!」

そしてハッとして付け加えた。

「あ、父さんには内緒にしてね」
「どうして?」
「だって、前は父さんのことが一番好きって言ってたんだ。だから、薫が一番になったって知ったら悲しくなっちゃうかもしれないでしょ」

唯斗は旦那様に愛されていることをこれっぽっちも疑っていない。それだけでも旦那様に大きな存在価値があると俺には思えた。

奥様があんな性格じゃなければ――そして奥様に俺たちの病気のことがバレさえしなければ、唯斗は屋敷で穏やかに暮らせていたのに。
彼女がなんとしても唯斗と俺を陥れようと嗅ぎ回ったお陰で二人の秘密が知られてしまった。
そしてそれを機に俺と唯斗は二人暮らしを始めた。

これまで唯斗は屋敷の堅固さによって外界から守られていた。しかし、内部に不穏分子が紛れたのでは意味がない。やむなく始めた二人暮らしだったが、唯斗は新しい生活に心を躍らせていた。

「僕は身体が弱いから家を出るのは無理だと諦めてたんだ。でも薫のお陰で夢が叶った」

どうやら、大学で一人暮らしをしている学友の話を聞いて密かにマンションでの暮らしに憧れを持っていたらしい。狭い部屋に何もかもが収まっていることにはむしろ便利さを感じてるらしかった。
彼の実家は古い西洋建築の屋敷で、かなり広い。部屋からダイニングへ行くだけでも結構な距離がある。なのでリビングから数歩でダイニングテーブルに座れる距離感に唯斗ははしゃいでいた。

「リビングとダイニングが同じ空間に収まってるなんてすごいよね。誰が考えついたんだろう!」

世間知らずの唯斗は目を輝かせながら一般人が聞いたら眉をひそめるようなことを言った。

しかしそんな楽しい新生活も長くは続かなかった。奥様の嫌がらせは、家を出ても続いたのだ。誹謗中傷の汚い言葉を書き殴った手紙がポストに入っていたり、窓ガラスに石をぶつけられたり、ベランダに虫の死体がばらまかれたりもした。寝室の壁を挟んで隣の部屋から、夜中に壁をドンドン叩かれるようになって引っ越しを決めた。

その後も引越し先でまた奥様からの嫌がらせは続いた。
何度も引っ越しを繰り返し、とうとうただの嫌がらせではない相手が姿を現した。

そいつはフォークで、たまたま俺が店に顔を出した帰り道に発見した。なぜそいつがフォークとわかったかというと、彼が以前店の常連だったからだ。
俺はこの時既に旦那様の指示でフォークの欲望を満たすための施設を任されていた。政府の管理は徹底していて、利用者の利用頻度も全てデータ分析されている。そして、急に店を利用しなくなった人物は犯罪に関わる恐れがある『要注意人物』としてリスト入りするのだ。そのうちの一人が俺と唯斗の住むマンション近くに現れた。

俺は店の表には出ていないからそいつに顔はバレていない。そこで何気なく声を掛けた所、慌てて逃げ出そうとしたので締め上げた。するとそいつはナイフとロープを所持していた。警察に突き出すと脅してやると、ペラペラと雇い主のことを喋った。

「女に頼まれたんだ。ケーキを襲ってこいって、そしたら金をくれるって言うから――頼むよ、こんなのバレたら死刑だ。なんでもするから警察に行くのだけは勘弁してくれ」

女の特徴を聞くと、それはまさに奥様の見た目そのものだった。こんな人間に直接会って依頼するとは彼女はあまり賢くないようだ。実際その後も同じように襲ってくるフォークは全てリスト入りした人間だった。フォークがどれだけ事細かに管理されているのか彼女は知らないのだ。
俺は要注意人物のリストを入手していた。そして旦那様に頼んで、リスト上の人物の行動を監視してもらうことにした。例えばナイフやロープを購入したり、意味もなく俺たちの住居近くをうろつくフォークがいればすぐにわかるように手配したのだ。

自分たちが犯罪予備軍として疎まれていることを知っているフォークは、大体が目立つような行動を避けて真面目に生きている。少しでもおかしな行動をすればたちまち石を投げられるのがわかっているからだ。なので不審な行動を取る者はさほど多くない。そんな状況で、怪しい人物を捕まえるのは容易かった。

一人目の男は情報だけ吐かせて生きたまま逃した。しかし旦那様にこの件を報告したところ、次からは間違いなく始末するようにと言われた。

俺はそれを聞いてもなんの感情も湧かなかった。ただ、唯斗の安全のために旦那様の言うことを聞くだけだ。
フォークの亡骸を見つからないように処理することも旦那様の力があれば可能だった。しかし、彼は奥様への見せしめのため隠す必要は無いとおっしゃった。自分の手配したフォークが返り討ちにあったと知れば、すぐにこの意味のない行為をやめるだろうと旦那様は考えていたのだ。

しかし、奥様は想像以上に思慮に欠けていた。連続殺人事件としてワイドショーを賑わせるようになるまで、フォークを送るのをやめなかったのだ。
さすがにこれ以上話題になるのは避けようと旦那様から指示があった。遺体はその場に残さずに処理することになった。

しかしまずいことが起きた。よりによって唯斗に見られてしまったのだ。誰にも知られること無く闇に葬り去られるはずだった男と俺が対峙しているところを……。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

【完結 一気読み推奨】片想いの相手が「そろそろ恋愛したい」と言ったので、用済みの俺はニートになることにしました。

はぴねこ
BL
 高校生の頃、片想いの親友に告白した。  彼はノンケだったから玉砕して友人関係も終わるものだと思っていた。  もしかすると気持ち悪いと軽蔑される覚悟までしていたのに、彼は「今は恋愛をしている時間がないんだ」と自分の夢を語ってくれた。  彼は会社を興した祖父のことをとても尊敬していて、自分も起業したいと熱く語ってくれた。  そして、俺の手を握って「できれば親友のお前には俺の右腕になってほしい」と言われた。  同性愛者の俺のことを気持ち悪いと遠ざけることもせずに、親友のままでいてくれた彼に俺は感謝して、同じ大学に進学して、大学の頃に彼と一緒にゲームを作成する会社を起業した。  あれから二十年間、本当に二人三脚で駆け抜けてきた。  そして、昨年売り出したVRMMOが世界的に大ヒットし、ゲーム大賞を取ったことを祝うパーティーで親友が語った言葉に俺の覚悟も決まった。 「俺もそろそろ恋愛したい」  親友のその言葉に、俺は、長年の片想いを終わらせる覚悟をした。  不憫な拗らせアラフォーが”愛”へと踏み出すお話です。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

寂しいを分け与えた

こじらせた処女
BL
 いつものように家に帰ったら、母さんが居なかった。最初は何か厄介ごとに巻き込まれたのかと思ったが、部屋が荒れた形跡もないからそうではないらしい。米も、味噌も、指輪も着物も全部が綺麗になくなっていて、代わりに手紙が置いてあった。  昔の恋人が帰ってきた、だからその人の故郷に行く、と。いくらガキの俺でも分かる。俺は捨てられたってことだ。

俺の彼氏は真面目だから

西を向いたらね
BL
受けが攻めと恋人同士だと思って「俺の彼氏は真面目だからなぁ」って言ったら、攻めの様子が急におかしくなった話。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

処理中です...