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31 恋人としての、第1歩!
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例えば体育の授業やスポーツ系の部活動のあとに、気になる相手にそっとタオルと飲み物を差し出して、「あの、これ、よかったら…!」って頬を染めて言う。…正直、都市伝説なんじゃないかと思っていた、カワイイイベント。
「ほら、ほら、みっちゃんも…!」
「みっちゃんのドリンクとタオル、東雲さま、とっても楽しみにしてます…!」
ひかえめに、しかしぐいぐいと満面の笑顔で背中を押してくるマメシバ隊のみんな。
そして、ほんのり頬を染めて、照れくささと嬉しさを隠せない表情で、こちらに歩いてくる雅孝たち…!
うわあああぁん!
確かに、俺だって、こういうの憧れたことあるよ!?男の子だもん!…ただし、モチロンタオルを貰う方としてね?
…まさかまさか、自分がタオルを渡すほうになるだなんて、想像してなかったんだよお…。
ドキドキうるさい胸をおさえつつ、ぎゅっとタオルとドリンクを握って、雅孝をみつめた。
ううう、なにこれ!こんなに、好きな男の子にタオルを渡すのって勇気がいることなの…?知らなかった。
ここに集まってる、タオルを持って集まった女の子たち。…ううん、男の子も結構いる気がする。…ともかく、みんな、ブレイブが凄すぎない?…本気で尊敬するよ…!
「みつき…!」
わ~!おろおろしてたら、すぐ目の前まで雅孝たちが来ちゃった!
雅孝は、恥ずかしそうに頬を染めて、嬉しそうに笑った。その笑顔の、キラキラ眩しいこと!
「あの…僕たちの体育の授業、見に来てくれたんだね…。うれしいよ、ありがとう…!」
「う、うん!あの、俺たち、美術の授業が写生でさ。早めに終わったんだ。それで…あのね…あの、これっ...」
雅孝の眩しい笑顔に圧倒されて、俺はみっともなくモゴモゴと言って、握っていたタオルとバナナオーレのパックをそっと雅孝の前に差し出した。
ぐ、ぐわああああ、実際にやってみたら、恥ずかしいぞ、これえええ!プルプル手が震える~!ぽぽぽっ、ってほっぺに勝手に血が上っちゃう!…ひいい、俺、いまみっともないぐらい真っ赤っかじゃない?
…でもさ、考えてみたら俺、雅孝とお…お付き合い、させてもらってる状態なんだよね。それなのに、初デートもまだ待ってもらってて…。
「デートは、もちろんしたいけど。みつきにお付き合いをOKしてもらっただけでも、僕はすごく…すごく嬉しいからさ。
…みつきは男の人とのお付き合いに抵抗があるって言ってたし。無理しなくていいよ。みつきの心の準備ができるまで、僕は待てるから。あんまり気に病まないでね」
な~んて、雅孝は優しく言ってくれてたけど。ずいぶん我慢、させちゃってる…よね。
だからせめて、今回のタオルとドリンクの差し入れくらいは、してあげたいなって思ったんだ。
恋人らしいことの、第一歩として…ね。
…って、アレ?
どうしたんだろう。雅孝からのお返事がない…。全然、受け取ってくれないじゃん。
もしかして、こういうの、迷惑だった…とか?(結構、うれしそうなお顔をしてくれてるように見えたんだけど…)
俺は、恥ずかしくて俯いていた顔を上げて、こっそり彼の顔をうかがった。
「えっ?雅孝、どうしたの?」
そしたら、雅孝は眉間にぎゅぎゅっとシワを寄せて、まるでものすごくしょっぱいものでも食べたみたいな我慢してる時のお顔になっていた。
「うわ…僕のために、勇気を出して差し入れを持ってきてくれたみつき、可愛すぎる…!…震えてて真っ赤で…くううぅ、学校でさえなかったら、体育の後で汗をかいていなければ…抱きしめたい…ッ!なんて愛おしい時間なんだ、ずっと続けばいいのに。時間よ止まってくれ…!」
ん?なんか雅孝、苦しそうに何か小声で言ってるけど…どうしたの?
「ちょっ、東雲様、ダダ洩れ!心の中身、全部口からダダ洩れになっちゃってますから、ちょっと黙りましょうか」
「…大好きなみっちゃんが、うるうるしながら上目遣いで、一生懸命差し入れしにきてくれたの、嬉しかったんだよね。わかるよ。…でもちょっと奇跡の美貌が台無しだから、黙ろうか。あと、早く反応してあげて。みっちゃん泣きそうだから」
雅孝と同じクラスの、彼の側近的なポジションのマメシバ隊のふたりが、慌てて両側から雅孝を諫めている。
「…ッ!!…ありがとう、みつき!」
はっ!と我に返った雅孝が、慌てて笑顔にもどって、俺が差し出したタオルとドリンクを受け取ろうと、手を伸ばしてくれた。
…ところが、そこに。
「ちょおおおおっと、お待ちになっていただけますかしらっ!?」
周囲がびっくりして固まるぐらいの、凛とした女性の大声が響き渡った!
…あっぶね!俺、びっくりして差し入れのバナナオーレを落っことすところだった…。
たおやかさと雄々しさを兼ね備えた、淑女から出たにしてはあまりにも野太い、腹の底から出たような一本芯の通ったいい声で、例のスポンサーのお嬢さん、桜庭さんが言ったのだった。
そこに、今の野太い雄たけびを上げたのと同一人物とはとても思えない…可憐な楚々とした佇まいのお嬢さんが、頬をバラ色に染めて、目を潤ませて駆け寄ってきた。
「東雲さま…どうかお待ちになって。わたくしも、同じクラスではありますが、ささやかながらタオルとお飲み物をご用意いたしましたの…。」
まさに、完璧。絵に描いたような、完璧な『か弱い美しきご令嬢』の姿がそこにあった。
背景に大輪のバラと、花びらのエフェクトが見えそうだ…!
近くで見ると、やっぱり物凄い美少女だな~。
…それだけに…
「ぷふっ…」
「さっき、すっごいオスゴリラっぽい声出てなかった…?」
…あ~、後ろのマメシバ隊のみんな!あとうちのクラスの女子!こっそり笑っちゃダメ!
桜庭さん、きっとさっきは焦ってて、油断してすごい低い声がでちゃったんだよ…せっかく気をとりなおして、あんなに可憐な女の子モード全開で頑張ってるんだから、ここは聞かなかったことにしてあげるべきでしょ…!
…たしかにちょっとだけ、さっきのはオスゴリラっぽかったけど。
「んぶうっ…」
「さっ、さすがは、凄い演技力っ…!」
えっ?えっ?ちょっと、桜庭さんのお友達のみなさんまで…!声はおさえてるけど、すっごく笑ってる!
さっきまで、あんなに見事な連携プレイで、桜庭さんの特製ドリンクとかシェフのこと、褒めてたのに…!
せめてお友達は、味方でいてあげてよ…!
俺だって、実はちょっと笑うの我慢してるんだから…!
ギロッ…ジロリ
見事に雅孝からは見えない角度で、桜庭さんは笑っている面々に悪鬼のような表情で、睨みをきかせた。
…顔芸の幅が広い…!桜庭さんって、なんてユニークで面白いお嬢さんなんだ…。
「ごめんね、桜庭さん。…申し訳ないけど、それは受け取れないよ。」
すると、きちんと桜庭さんに向き直った雅孝が、丁寧に頭を下げて、申し訳なさそうに、しかしキッパリと断った。
「えっ…?」
こんなにしっかり断られるとは思っていなかったのか、桜庭さんはポカーンとお口を開けたまま放心している。
「先日から公言させてもらっている通り、僕は、こちらの並河みつきくんと、真剣にお付き合いさせてもらってるんだ。
最愛の恋人である彼からしか、ドリンクやタオルの差し入れを受け取るつもりはないよ。…僕は恋人には、誠実でありたいと思ってる。
…だから、ごめんなさい」
そう言って、雅孝は心をこめて桜庭さんに謝った。
一方の桜庭さんは、まだ口を開けたまま、固まってしまっている。彼女のお友達のみなさんが、桜庭さんを取り囲んで「お気を確かに…!」「ナイストライ…!」と声を掛けている。
…んん?
ちょっと待って。今、なんかちょっと聞き捨てならないこと言わなかった?
『公言』ってナニ?…まさか、俺たちがお付き合いしていること、周りじゅうに言ってあるっていうこと?うわっ、めちゃくちゃ恥ずかしい!
そりゃあ、モテモテな雅孝は人気者だから、お付き合いしてるひとがいますよ~って言っておかないと、毎日のようにアプローチを受けて大変だと思うけどさ。
雅孝は、ゆっくりと下げていた頭を上げると。
あらためて俺に向き直って、
「ありがとう、みつき。僕のために持ってきてくれたの、すごくうれしいよ」
そう言って、一歩こっちに踏み出して、タオルとドリンクを受け取ってくれようとして…
「クスクス…。でも、見て、並河くんの持ってきてるあれ…。あのボロい感じのタオル、ぜったい家から持ってきた普段使ってるタオルでしょ…」
「そうそう、しかも、ドリンクも見た?校内で売ってる、ただの安いパックジュースでしょ?」
桜庭さんをなぐさめていたお友達のみなさんが、俺の方を振り向いてクスクス笑い出した。
ボロい感じのタオル…ただの安いパックジュース。
急にマメシバ隊のみんなのおすすめで、差し入れをすることにしたから…。桜庭さんみたいに、たしかに充分な準備ができているとは言えない…よね。
自分が持ってきたものが、急にとってもショボくて申し訳ないものに見えて、俺は思わず、差し出していた手をひっこめた。
「…みつき…?」
急に差し入れをひっこめられた雅孝は、不思議そうに俺を見た。
…そうだよね、いくら急に思い立ったからって、俺、ちょっとしょうもないもの持ってきすぎちゃったよね。
そうか、雅孝はこんなに人気者で、すごく注目されてる。俺が友達の延長みたいなノリで、つまらないものをプレゼントしちゃったら、雅孝に迷惑がかかっちゃうのか…。
「あのタオルってさあ。いかにも、急に思い立って、ありあわせの私物を慌てて持ってきたって感じがするよね」
「あのドリンクも…!いかにも慌てて買ってきたって感じがしてさあ…」
「「「「そこがむしろいい~ッ!」」」」
しょんぼりうつむいていたら、急にヒートアップした桜庭さんのお友達のみなさんが、ほぼ声をそろえて叫んだ。
…え?なんの話?
「ちょっ、ちょっと!あなたたち、どういうつもりなの?」
お友達のみなさんの叫びで、やっと我に返った桜庭さんがキッと目を吊り上げた。
「あ~、こ~りゃダメっす、綾乃様!ぜんぜん勝ち目ないですわ!」
「やっぱり並河きゅん、けなげでいじらしくて…カワイすぎるでしょう!あっぶね、ついヨシヨシしたくなっちゃいますよ」
「凄腕シェフのお手製ドリンク?あっはっは、響かない響かない!そういうことじゃないんですよ。綾乃様!も~、わっかんないかなあ…」
「「「「あきらめて帰りましょう、あっはっはっは!!!」」」」
そう、豪快に笑って、桜庭さんのお友達たちは、周囲に「すみません、お騒がせしました~」「お邪魔しました~!」とぺこぺこと謝りつつ、目を白黒させている桜庭さんをがし~っと両側からつかんで、力強く引きずって行こうとする。
「ちょっと、あなたたち、誰の味方なのよぉ!んもおおおぉ!並河みつきイ!これで勝ったなんて思わないことね!わたくしは絶対にあきらめないわ!覚えてらっしよおおおぉ~!」
桜庭さんは雄々しくお手本のような捨て台詞を吐きながら、お友達のみなさんに引きずられて退場していったのだった。
……。
残されたのは、ぽかんと呆気にとられた俺たち。
前にもこんなことがあったけどさ。桜庭さんって、いっつもお友達に引きずられてない?…変わった友情の形だな~…。
「あ~…。その、雅孝…。ごめん、大したものじゃないんだけど、これ、差し入れ。受け取ってくれる?」
自信がなくなって、一度はひっこめてしまっていたささやかな差し入れの品だったけど。
俺は、あらためて雅孝の前にタオルとドリンクを差し出した。
「ああ…!もちろんだよ!…これ、僕の大好きなバナナオーレ、わざわざ買ってきてくれたんだね。ありがとう、うれしいよ、みつき!」
今度こそ、優しく笑って雅孝が差し入れを受け取ってくれた。
やっと…やっと、なんとか。
俺は、ささやかだけど、雅孝との恋人としての第一歩を踏み出せたのだった。
「ほら、ほら、みっちゃんも…!」
「みっちゃんのドリンクとタオル、東雲さま、とっても楽しみにしてます…!」
ひかえめに、しかしぐいぐいと満面の笑顔で背中を押してくるマメシバ隊のみんな。
そして、ほんのり頬を染めて、照れくささと嬉しさを隠せない表情で、こちらに歩いてくる雅孝たち…!
うわあああぁん!
確かに、俺だって、こういうの憧れたことあるよ!?男の子だもん!…ただし、モチロンタオルを貰う方としてね?
…まさかまさか、自分がタオルを渡すほうになるだなんて、想像してなかったんだよお…。
ドキドキうるさい胸をおさえつつ、ぎゅっとタオルとドリンクを握って、雅孝をみつめた。
ううう、なにこれ!こんなに、好きな男の子にタオルを渡すのって勇気がいることなの…?知らなかった。
ここに集まってる、タオルを持って集まった女の子たち。…ううん、男の子も結構いる気がする。…ともかく、みんな、ブレイブが凄すぎない?…本気で尊敬するよ…!
「みつき…!」
わ~!おろおろしてたら、すぐ目の前まで雅孝たちが来ちゃった!
雅孝は、恥ずかしそうに頬を染めて、嬉しそうに笑った。その笑顔の、キラキラ眩しいこと!
「あの…僕たちの体育の授業、見に来てくれたんだね…。うれしいよ、ありがとう…!」
「う、うん!あの、俺たち、美術の授業が写生でさ。早めに終わったんだ。それで…あのね…あの、これっ...」
雅孝の眩しい笑顔に圧倒されて、俺はみっともなくモゴモゴと言って、握っていたタオルとバナナオーレのパックをそっと雅孝の前に差し出した。
ぐ、ぐわああああ、実際にやってみたら、恥ずかしいぞ、これえええ!プルプル手が震える~!ぽぽぽっ、ってほっぺに勝手に血が上っちゃう!…ひいい、俺、いまみっともないぐらい真っ赤っかじゃない?
…でもさ、考えてみたら俺、雅孝とお…お付き合い、させてもらってる状態なんだよね。それなのに、初デートもまだ待ってもらってて…。
「デートは、もちろんしたいけど。みつきにお付き合いをOKしてもらっただけでも、僕はすごく…すごく嬉しいからさ。
…みつきは男の人とのお付き合いに抵抗があるって言ってたし。無理しなくていいよ。みつきの心の準備ができるまで、僕は待てるから。あんまり気に病まないでね」
な~んて、雅孝は優しく言ってくれてたけど。ずいぶん我慢、させちゃってる…よね。
だからせめて、今回のタオルとドリンクの差し入れくらいは、してあげたいなって思ったんだ。
恋人らしいことの、第一歩として…ね。
…って、アレ?
どうしたんだろう。雅孝からのお返事がない…。全然、受け取ってくれないじゃん。
もしかして、こういうの、迷惑だった…とか?(結構、うれしそうなお顔をしてくれてるように見えたんだけど…)
俺は、恥ずかしくて俯いていた顔を上げて、こっそり彼の顔をうかがった。
「えっ?雅孝、どうしたの?」
そしたら、雅孝は眉間にぎゅぎゅっとシワを寄せて、まるでものすごくしょっぱいものでも食べたみたいな我慢してる時のお顔になっていた。
「うわ…僕のために、勇気を出して差し入れを持ってきてくれたみつき、可愛すぎる…!…震えてて真っ赤で…くううぅ、学校でさえなかったら、体育の後で汗をかいていなければ…抱きしめたい…ッ!なんて愛おしい時間なんだ、ずっと続けばいいのに。時間よ止まってくれ…!」
ん?なんか雅孝、苦しそうに何か小声で言ってるけど…どうしたの?
「ちょっ、東雲様、ダダ洩れ!心の中身、全部口からダダ洩れになっちゃってますから、ちょっと黙りましょうか」
「…大好きなみっちゃんが、うるうるしながら上目遣いで、一生懸命差し入れしにきてくれたの、嬉しかったんだよね。わかるよ。…でもちょっと奇跡の美貌が台無しだから、黙ろうか。あと、早く反応してあげて。みっちゃん泣きそうだから」
雅孝と同じクラスの、彼の側近的なポジションのマメシバ隊のふたりが、慌てて両側から雅孝を諫めている。
「…ッ!!…ありがとう、みつき!」
はっ!と我に返った雅孝が、慌てて笑顔にもどって、俺が差し出したタオルとドリンクを受け取ろうと、手を伸ばしてくれた。
…ところが、そこに。
「ちょおおおおっと、お待ちになっていただけますかしらっ!?」
周囲がびっくりして固まるぐらいの、凛とした女性の大声が響き渡った!
…あっぶね!俺、びっくりして差し入れのバナナオーレを落っことすところだった…。
たおやかさと雄々しさを兼ね備えた、淑女から出たにしてはあまりにも野太い、腹の底から出たような一本芯の通ったいい声で、例のスポンサーのお嬢さん、桜庭さんが言ったのだった。
そこに、今の野太い雄たけびを上げたのと同一人物とはとても思えない…可憐な楚々とした佇まいのお嬢さんが、頬をバラ色に染めて、目を潤ませて駆け寄ってきた。
「東雲さま…どうかお待ちになって。わたくしも、同じクラスではありますが、ささやかながらタオルとお飲み物をご用意いたしましたの…。」
まさに、完璧。絵に描いたような、完璧な『か弱い美しきご令嬢』の姿がそこにあった。
背景に大輪のバラと、花びらのエフェクトが見えそうだ…!
近くで見ると、やっぱり物凄い美少女だな~。
…それだけに…
「ぷふっ…」
「さっき、すっごいオスゴリラっぽい声出てなかった…?」
…あ~、後ろのマメシバ隊のみんな!あとうちのクラスの女子!こっそり笑っちゃダメ!
桜庭さん、きっとさっきは焦ってて、油断してすごい低い声がでちゃったんだよ…せっかく気をとりなおして、あんなに可憐な女の子モード全開で頑張ってるんだから、ここは聞かなかったことにしてあげるべきでしょ…!
…たしかにちょっとだけ、さっきのはオスゴリラっぽかったけど。
「んぶうっ…」
「さっ、さすがは、凄い演技力っ…!」
えっ?えっ?ちょっと、桜庭さんのお友達のみなさんまで…!声はおさえてるけど、すっごく笑ってる!
さっきまで、あんなに見事な連携プレイで、桜庭さんの特製ドリンクとかシェフのこと、褒めてたのに…!
せめてお友達は、味方でいてあげてよ…!
俺だって、実はちょっと笑うの我慢してるんだから…!
ギロッ…ジロリ
見事に雅孝からは見えない角度で、桜庭さんは笑っている面々に悪鬼のような表情で、睨みをきかせた。
…顔芸の幅が広い…!桜庭さんって、なんてユニークで面白いお嬢さんなんだ…。
「ごめんね、桜庭さん。…申し訳ないけど、それは受け取れないよ。」
すると、きちんと桜庭さんに向き直った雅孝が、丁寧に頭を下げて、申し訳なさそうに、しかしキッパリと断った。
「えっ…?」
こんなにしっかり断られるとは思っていなかったのか、桜庭さんはポカーンとお口を開けたまま放心している。
「先日から公言させてもらっている通り、僕は、こちらの並河みつきくんと、真剣にお付き合いさせてもらってるんだ。
最愛の恋人である彼からしか、ドリンクやタオルの差し入れを受け取るつもりはないよ。…僕は恋人には、誠実でありたいと思ってる。
…だから、ごめんなさい」
そう言って、雅孝は心をこめて桜庭さんに謝った。
一方の桜庭さんは、まだ口を開けたまま、固まってしまっている。彼女のお友達のみなさんが、桜庭さんを取り囲んで「お気を確かに…!」「ナイストライ…!」と声を掛けている。
…んん?
ちょっと待って。今、なんかちょっと聞き捨てならないこと言わなかった?
『公言』ってナニ?…まさか、俺たちがお付き合いしていること、周りじゅうに言ってあるっていうこと?うわっ、めちゃくちゃ恥ずかしい!
そりゃあ、モテモテな雅孝は人気者だから、お付き合いしてるひとがいますよ~って言っておかないと、毎日のようにアプローチを受けて大変だと思うけどさ。
雅孝は、ゆっくりと下げていた頭を上げると。
あらためて俺に向き直って、
「ありがとう、みつき。僕のために持ってきてくれたの、すごくうれしいよ」
そう言って、一歩こっちに踏み出して、タオルとドリンクを受け取ってくれようとして…
「クスクス…。でも、見て、並河くんの持ってきてるあれ…。あのボロい感じのタオル、ぜったい家から持ってきた普段使ってるタオルでしょ…」
「そうそう、しかも、ドリンクも見た?校内で売ってる、ただの安いパックジュースでしょ?」
桜庭さんをなぐさめていたお友達のみなさんが、俺の方を振り向いてクスクス笑い出した。
ボロい感じのタオル…ただの安いパックジュース。
急にマメシバ隊のみんなのおすすめで、差し入れをすることにしたから…。桜庭さんみたいに、たしかに充分な準備ができているとは言えない…よね。
自分が持ってきたものが、急にとってもショボくて申し訳ないものに見えて、俺は思わず、差し出していた手をひっこめた。
「…みつき…?」
急に差し入れをひっこめられた雅孝は、不思議そうに俺を見た。
…そうだよね、いくら急に思い立ったからって、俺、ちょっとしょうもないもの持ってきすぎちゃったよね。
そうか、雅孝はこんなに人気者で、すごく注目されてる。俺が友達の延長みたいなノリで、つまらないものをプレゼントしちゃったら、雅孝に迷惑がかかっちゃうのか…。
「あのタオルってさあ。いかにも、急に思い立って、ありあわせの私物を慌てて持ってきたって感じがするよね」
「あのドリンクも…!いかにも慌てて買ってきたって感じがしてさあ…」
「「「「そこがむしろいい~ッ!」」」」
しょんぼりうつむいていたら、急にヒートアップした桜庭さんのお友達のみなさんが、ほぼ声をそろえて叫んだ。
…え?なんの話?
「ちょっ、ちょっと!あなたたち、どういうつもりなの?」
お友達のみなさんの叫びで、やっと我に返った桜庭さんがキッと目を吊り上げた。
「あ~、こ~りゃダメっす、綾乃様!ぜんぜん勝ち目ないですわ!」
「やっぱり並河きゅん、けなげでいじらしくて…カワイすぎるでしょう!あっぶね、ついヨシヨシしたくなっちゃいますよ」
「凄腕シェフのお手製ドリンク?あっはっは、響かない響かない!そういうことじゃないんですよ。綾乃様!も~、わっかんないかなあ…」
「「「「あきらめて帰りましょう、あっはっはっは!!!」」」」
そう、豪快に笑って、桜庭さんのお友達たちは、周囲に「すみません、お騒がせしました~」「お邪魔しました~!」とぺこぺこと謝りつつ、目を白黒させている桜庭さんをがし~っと両側からつかんで、力強く引きずって行こうとする。
「ちょっと、あなたたち、誰の味方なのよぉ!んもおおおぉ!並河みつきイ!これで勝ったなんて思わないことね!わたくしは絶対にあきらめないわ!覚えてらっしよおおおぉ~!」
桜庭さんは雄々しくお手本のような捨て台詞を吐きながら、お友達のみなさんに引きずられて退場していったのだった。
……。
残されたのは、ぽかんと呆気にとられた俺たち。
前にもこんなことがあったけどさ。桜庭さんって、いっつもお友達に引きずられてない?…変わった友情の形だな~…。
「あ~…。その、雅孝…。ごめん、大したものじゃないんだけど、これ、差し入れ。受け取ってくれる?」
自信がなくなって、一度はひっこめてしまっていたささやかな差し入れの品だったけど。
俺は、あらためて雅孝の前にタオルとドリンクを差し出した。
「ああ…!もちろんだよ!…これ、僕の大好きなバナナオーレ、わざわざ買ってきてくれたんだね。ありがとう、うれしいよ、みつき!」
今度こそ、優しく笑って雅孝が差し入れを受け取ってくれた。
やっと…やっと、なんとか。
俺は、ささやかだけど、雅孝との恋人としての第一歩を踏み出せたのだった。
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