これは正解の存在しないものであり、その解き方に間違いはない

hinafuyu

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唯一解き方が存在しない物、それが過去である。

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二五一六年七月一五日。株式会社ZLOによるカウリングの一人称RPGのリリースが始まり、ランダムで限定の人にしか配布されないこのイベントにゲーム界隈は尋常ならぬ熱気を見せていた。俺もその熱気の輪に入っていた一人で、今か今かと待っていた。普段はニュースさえも見ない両親が揃ってニュース画面を開いている。
「よっくん、これって面白いの?」
 険しい表情で母親が聞いてくる。はっきり言って分かるわけがない。ただ株式会社ZLOは数あるゲームを生み出し、かつ名作を生み出してきた。一ゲーマーとして考えるのなら、面白くないわけがない。しかし、ゲームを真剣にやっていない人々からすれば、面白いかどうかは分からない。言ってしまったら議論は全てなくなってしまうのだが、十人十色だ。
「俺は面白そうだと思うけど、人それぞれじゃない?」
 故に答え方はこうなる。
「そうよねぇ・・・・・・。」
「まあ、無視しておいてもいいだろう。アウトワークをしている人間からすれば、そんなものやっている暇などない。暇人のやることかよっくんのようにその道に生きる者がやることだ。」
 ド正論を叩き付ける父親。それではまるでプロゲーマーと単なる暇人が一緒のように聞こえてしまうぞ。いや、まあ、世間一般的に見れば大差ないのかもしれないが。その時に不安そうな顔をした母親に疑問を感じたが口にすることはなかった。
 始めの半月はモンスターを狩ることに注視していたが、それを過ぎると賑わいではなく、悲鳴が上がり始めたのだ。
『八月二日、お昼のニュースを始めます。速報です。先程、山手線線路内にて、約四〇名の死体が確認され、全路線が一時運休状態となっております。』
 これを皮切りに各地で死体確認の報道が相次ぎ、物騒な事件が起きていると捉えられていた。しかし、ただ物騒な事件というわけではない。翌日に報道で、司法解剖の結果各地で発見された死体がほぼ全て同時刻に生き途絶えていることが明らかになり、警察も本格的に対策本部を立ち上げ、政府と共に国民に注意喚起と調査を始めた。
「最近物騒ねぇ。」
 まるで他人事のように言う母親に思わず苦笑する。実際他人事なのだが、いつ巻き込まれるのか分からないとなると、他人事とも言ってられないのも事実なのだ。
 八月一五日。
『連日のように増える殺人事件の被害者ですが、警察の調べによりますと、先月リリースされた株式会社ZLOのゲームが原因とほぼ確定した模様です。被害者のカウリングの解析で、全ての被害者にそのゲームがインストールされているのが分かりました。加えて、直接プレイヤーと接触することができ、話を伺ったところ、「誰かを言えば死ぬから言えることは、確かにその現場をこの目で見ました。少なくとも、このゲームは生易しいものではなく、現実の生死を左右するものです。もしかしたら、ルールを見ていない方がいるかもしれませんので、ここで話させてもらいますけど、ゲームの中にポイントというのがありますが、それが一ヶ月間変動しない場合、永久退場となっています。それがゲームからなのか、この世からなのかは、今日が丁度一ヶ月なのでお答えしかねますが。」とのことです。』
――とのことです・・・・・・?
 純粋な疑問が浮かび上がる。現実の生死を左右するゲームが永久退場と言っていることが、ゲームからではないことは予想が付く。では、先月の今日、いつリリースされたのか。俺は慌ててゲーム開始時刻を調べる。
「一二時・・・・・・?」
 パソコンに表示されている秒単位表示の時計を見る。残り三〇秒を切った。リビングに戻ると、テレビは別の報道していたが、母親の様子がおかしい。青ざめているような、震えているような・・・・・・¬――よっくん、これって面白いの?――唐突にフラッシュバックされた言葉に頭の中に一つの可能性を導き出す。可能性というにはあまりにも確実でそれ以外にはあり得ないことではあるのだが、それでもそうであってほしくないという思いが優先する。
「母さん・・・・・・?」
 残り一〇秒。
「ごめんね、よっくん・・・・・・。しっかり生きるのよ。」
「俺たちはちゃんと見てるから。」
――そんな目で見ないでくれ・・・・・・。
 何かを悟ったかのように慈愛の眼を向けられる。何かを慈しむ、どこか申し訳なさそうな、それでも、その瞳はしっかりと俺自身を捉えている。まだ感謝も何もできていない。恩も返せていない。塞ぎ込んでも、学校に行かなくなっても何も言わずに俺を見守ってきた両親に何もできていない。
「あなたの全てを受け入れて、支え合えるような人が絶対にいるからね。」
「お前と過ごせてよかった。目の見える範囲は助けてあげなさい。私からの最期のお願いだ。」
――やめてくれ・・・・・・!
 そう叫びたかった。しかし、現実は叫ぶ暇すら与えてくれない。目の前で大量に吐血して、一切動かなくなる両親をただ見ておくことしかできなかった。感情という感情を完全に取り戻せていない俺にはショックはあれど、悲しみは抱かなかった。故に泣くこともせず、ただ冷静に救急車を呼び、ニュースキャスターが同じように倒れているのを眺めていた。事実に打ちのめされるだけ打ちのめされて、泣くこともできなかったのは後に最も後悔したことだった。
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