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物理的法則に優劣が付こうとも、能力に優劣は存在しない
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正直死んだと思った。
「夜月さん!?」
賢の声は届くわけもなく、意識が飛びそうになる。
「まともに能力を使いこなせない。相手を知らない。動きが鈍い。その三原則が揃ったビギナーが今ので気絶すらしないこともあるのですね。余程能力が優秀なのでしょう。」
瓦礫に反射して、本来なら聞こえないはずの声が聞こえた。その場にいた無関係の人々は叫び声を上げながら散らばっていく。
「誰が能力に恵まれているって?」
「!?」
目の前にあった大きな瓦礫を吹き飛ばす。直線距離で詰めようとしていた彼女はすぐに足を止め、音でそれを砕く。
「んな!?」
その瓦礫に隠れながら直線距離で俺は距離を詰めていた。決して身体強化ではない。それこそ音の力だ。
「ふんっ!」
感覚的に拳を直接当てないように腹を目掛けて突き出す。彼女は咄嗟に音の壁を作ろうとするが、それよりも早く俺の空気の拳は彼女の腹部に届いた。
「ふっ・・・・・・!」
小さな呻き声と共に地面に転がる。いや、正確には地面と体との間に音を挟めて緩衝させながら転がっている。鉄製のゴミ箱にぶつかり、止まった彼女との距離を一瞬で詰めて、腹部を押さえて蹲ろうとした彼女に馬乗りになる。彼女は目を瞬かせ、何が起きたのか分かっていない。
「負けを認めろ。」
降伏勧告を彼女に突きつける。銃は所持しているが、音の目の前ではあっさり跳ね返されて、俺が致命傷になりかねない。しかし、それで収まるとも思っていない俺はある賭けに出た。
「殺せばいいでしょ? あなたの能力が私より上だったというだけじゃないですか。まさか、身体強化系の能力ごときに押されるとは思ってもいませんでしたが。」
一つの確認が取れた。俺の能力が身体強化系と誤解してくれている。この前提が崩れれば、そもそも賭けすら成立しない。であるならば、後は俺の実力・・・・・・運次第。
「殺すことはできない。できるなら誰も殺さずに、こんな馬鹿みたいなゲームを終わらせる。むしろ、誰かを殺した時点で、このゲームは負けだと思っている。」
嘘ではないが、これもその運の確立を上げるための策略。ある種のマインドコントロール。通常、男女の身体的力は男の方が圧倒的に強い。そして、その男が殺すことはしないと宣言した。ならば、能力を使ってでも俺を引き剥がそうとするはず。勿論、一般的思考の場合の話で、相手が頭脳派でないことが前提だが。
「だったら、あなたは私に殺されるだけですよ。」
不敵な笑みを浮かべ、今度は顔面に重みを感じた。何が何でも耐えなければならない。彼女の腰に手を回し、引き離されないよう力を込める。首が折れそうだ。
「ちょっ、何を!」
首を折ろうと、一点に集中させていた音の塊はどういうわけか散漫とした。コンマ秒の世界の話だったが、一瞬に近いその隙を俺が逃すはずもない。音の周波数が違うものを同時に放つと一定の距離で振幅が大きくなることがある。加えて、脳が揺れを感じる周波数も決まっている。ともすれば後遺症が残るかもしれないが、それぐらいは譲歩してほしい。でなければ、俺が死ぬ。
「え・・・・・・?」
俺の顔面は彼女の脳よりも少し遠い位置にある。ならば、音が重ならない場所からそれを行えばいい。成功すれば、今の彼女のように頭を押さえるしかない。次第に何も考えることができなくなり、やがて気絶する。必死に頭を上げていた彼女は意識を失いその勢いで地面に頭を強打しそうになるが、ギリギリのところで受け止めた。目の前には先日と同様に勝利の文字があり、その横に数字が書かれていた。これが亡くなったあの人が言っていたポイントだろう。これが一ヶ月間動かなければ、現実からも永久退場。ふざけた話だ。
「夜月さん、血が垂れていますけど、大丈夫ですか?」
銀髪の美少女を前に抱えながら、立とうとしていると走ってきた賢が少し息を切らしながら尋ねる。しかし、まあ、
「大丈夫に見えるなら、眼科に行くことをお勧めする。いや、あるいは脳外科医だな。」
初撃を受け、コンクリート製の壁に激突したのだ。無事で済むはずがない。骨折とか神経の損傷はなさそうなのが怖いが、一応地面に垂れるほどには、頭から血が流れている。
「私は正常だ! 全く失礼しちゃう! でも、大丈夫そうで良かった。」
――人の話聞いていたのか?
賢は本当に安堵している様子だったので、敢えて口にすることも顔に出すこともしなかったが、救急車を呼ぶ気配すらないことに少しの危機感を覚えてしまった。
「夜月さん!?」
賢の声は届くわけもなく、意識が飛びそうになる。
「まともに能力を使いこなせない。相手を知らない。動きが鈍い。その三原則が揃ったビギナーが今ので気絶すらしないこともあるのですね。余程能力が優秀なのでしょう。」
瓦礫に反射して、本来なら聞こえないはずの声が聞こえた。その場にいた無関係の人々は叫び声を上げながら散らばっていく。
「誰が能力に恵まれているって?」
「!?」
目の前にあった大きな瓦礫を吹き飛ばす。直線距離で詰めようとしていた彼女はすぐに足を止め、音でそれを砕く。
「んな!?」
その瓦礫に隠れながら直線距離で俺は距離を詰めていた。決して身体強化ではない。それこそ音の力だ。
「ふんっ!」
感覚的に拳を直接当てないように腹を目掛けて突き出す。彼女は咄嗟に音の壁を作ろうとするが、それよりも早く俺の空気の拳は彼女の腹部に届いた。
「ふっ・・・・・・!」
小さな呻き声と共に地面に転がる。いや、正確には地面と体との間に音を挟めて緩衝させながら転がっている。鉄製のゴミ箱にぶつかり、止まった彼女との距離を一瞬で詰めて、腹部を押さえて蹲ろうとした彼女に馬乗りになる。彼女は目を瞬かせ、何が起きたのか分かっていない。
「負けを認めろ。」
降伏勧告を彼女に突きつける。銃は所持しているが、音の目の前ではあっさり跳ね返されて、俺が致命傷になりかねない。しかし、それで収まるとも思っていない俺はある賭けに出た。
「殺せばいいでしょ? あなたの能力が私より上だったというだけじゃないですか。まさか、身体強化系の能力ごときに押されるとは思ってもいませんでしたが。」
一つの確認が取れた。俺の能力が身体強化系と誤解してくれている。この前提が崩れれば、そもそも賭けすら成立しない。であるならば、後は俺の実力・・・・・・運次第。
「殺すことはできない。できるなら誰も殺さずに、こんな馬鹿みたいなゲームを終わらせる。むしろ、誰かを殺した時点で、このゲームは負けだと思っている。」
嘘ではないが、これもその運の確立を上げるための策略。ある種のマインドコントロール。通常、男女の身体的力は男の方が圧倒的に強い。そして、その男が殺すことはしないと宣言した。ならば、能力を使ってでも俺を引き剥がそうとするはず。勿論、一般的思考の場合の話で、相手が頭脳派でないことが前提だが。
「だったら、あなたは私に殺されるだけですよ。」
不敵な笑みを浮かべ、今度は顔面に重みを感じた。何が何でも耐えなければならない。彼女の腰に手を回し、引き離されないよう力を込める。首が折れそうだ。
「ちょっ、何を!」
首を折ろうと、一点に集中させていた音の塊はどういうわけか散漫とした。コンマ秒の世界の話だったが、一瞬に近いその隙を俺が逃すはずもない。音の周波数が違うものを同時に放つと一定の距離で振幅が大きくなることがある。加えて、脳が揺れを感じる周波数も決まっている。ともすれば後遺症が残るかもしれないが、それぐらいは譲歩してほしい。でなければ、俺が死ぬ。
「え・・・・・・?」
俺の顔面は彼女の脳よりも少し遠い位置にある。ならば、音が重ならない場所からそれを行えばいい。成功すれば、今の彼女のように頭を押さえるしかない。次第に何も考えることができなくなり、やがて気絶する。必死に頭を上げていた彼女は意識を失いその勢いで地面に頭を強打しそうになるが、ギリギリのところで受け止めた。目の前には先日と同様に勝利の文字があり、その横に数字が書かれていた。これが亡くなったあの人が言っていたポイントだろう。これが一ヶ月間動かなければ、現実からも永久退場。ふざけた話だ。
「夜月さん、血が垂れていますけど、大丈夫ですか?」
銀髪の美少女を前に抱えながら、立とうとしていると走ってきた賢が少し息を切らしながら尋ねる。しかし、まあ、
「大丈夫に見えるなら、眼科に行くことをお勧めする。いや、あるいは脳外科医だな。」
初撃を受け、コンクリート製の壁に激突したのだ。無事で済むはずがない。骨折とか神経の損傷はなさそうなのが怖いが、一応地面に垂れるほどには、頭から血が流れている。
「私は正常だ! 全く失礼しちゃう! でも、大丈夫そうで良かった。」
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