戦場の花

こあめ(小雨、小飴)

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戦場の花は舞う

奇襲

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 αが意識不明という知らせは各守備陣地に通達された。中には絶望にとらわれる者もいたが、多くのアロメルニア兵の思いは、
「αさんの仇討だ!」、「やられっぱなしでいられるか!」
 という意見が多数上がった。しかし、要塞は先ほどの帝国の砲撃により主力部隊と多数の指揮官が負傷、または戦死した。そのため、防衛能力も大幅に減少、劣勢を強いられていた。
負傷者を回収しきり、要塞内に撤退した主力はその7割を損失、防衛師団も2師団にも満たない戦力しかいなかった。
「最高指揮権は、トキさん…あなたです。」
 そう報告に来た兵に言われたトキは、焦っていた。いつもは自分の戦略に加えそれを修正してくれるαや、他の指揮官がいる。しかし、今は一人なのだ、だれも自分が正しいかなど答えてはくれない。
「私は…いったいどうすれば、こんな時、あなたならどうするの…?」
 今にも泣きそうになるのをこらえながら作戦を立てようとするが、うまいこと考えがまとまらない、αが心配な気持ちと、もう一つαが傷ついたことによる苛立ちで余計に考えがまとまらなくなっていた。そんな中、一つ気になって指揮所内の兵に聞く。
「あの、公国の防衛指揮官はどこへ行ったのですか?確か、私たちと残るはずでは…?」
「…ここだ、今戻った。」
 そう言いながら公国の指揮官が入ってくる、がその片腕は包帯でぐるぐるに包まれ、少し血がにじんでいる。
「どこへ行っていたのですか!?それにその傷は…?」
 トキがそう聞くと、彼はへッと笑いながら言う。
「いや、たまたま城塞砲の近くにいたもんだから直接指揮をしていたんだがな、砲弾がそこに飛んできて少し腕を負傷した。そこで提案がある。」
 彼はそう言ってトキの前に来て彼女を真っ直ぐ見据える。
「指揮権を私に譲ってはくれないか?」
 トキはその提案に一瞬却下しようとするが、まずは理由を正そうと思い聞いた。
「なぜですか?この場において義勇軍のあなたに指揮の権限はないはずです。承知の上で変われというのなら納得できる理由をおっしゃってください。」
「まずあなたは、いま指揮をできるような状態ではない。戦友が死にかけたときなんて大体どんな奴でもそんなもんだ。もう一つ、できれば正面の敵兵への対応を前線にてしてほしい。あなたの方が作戦の立案や行動判断は早いのは間違いない。一矢報いてはくれないか?」
 その言葉には、彼だけではなくこの襲撃の死傷者全員の気持ちにも思えた。
「…わかりました。指揮所の権限をあなたに譲渡します。私は、前線にて指揮をします、3番機銃は使用可能ですか?」
 公国指揮官についてきていた兵士がそれに答える。
「はい、3番は使用可能です。」
「では私はそこから攻撃をしながら指示出しをします。伝達はあなたたちに、お願いしますね。」
 そう言ってトキは指揮所を出る。公国指揮官は左右の陣地と後方陣地の指揮を指揮所内で開始する。現在、帝国兵は正面を突破しようと躍起になっており、側面と後方にはさほど兵が配置されていなかった。

 3番機銃のある防衛陣地にトキが駆け付け現状を聞く。
「部隊の損害と使用可能な火砲の数を教えてください。」
「現在部隊の2割が負傷、救護室に搬送しました。火砲は1~5番城塞砲、1、3~8番機銃が使用可能です。」
 それを聞き即座に作戦を練る。
「では、1、4、5番をのぞき城塞砲は発砲停止、機銃はできるだけ射撃を継続してください。それと無線室に空路での物資輸送の要請を。」
 そう言って自信は3番機銃に弾を込め射撃を開始する。しかし、あえて近くの敵ではなく、少し後ろの兵を狙う。もちろん命中率も落ちるが、後方で待機している兵士や砲撃を行っていた敵に命中していく。結果として歩兵には城壁への接近をある程度許したものの、砲兵などを大幅に減らすことが出来た。帝国歩兵が城壁を破壊するために爆薬を取り出し始める。
「2,3番今です!」
 そう、発砲していなかった二つの城塞砲は射角を変えるために発砲せずにずっと調節をしていたのだ。狙いはもちろん爆薬を仕掛けようとしている帝国兵にだ。
「撃て!」
 城塞砲二門が一斉に火を噴く、このことは帝国に対して全く予想外の出来事だった。なぜならトキが来る少し前にその二つの近くに砲弾が命中しており帝国側はその後発砲が止まったことから破壊したと思い込んでいたのである。二門の放った火の塊は、地面から少し離れた位置で炸裂。帝国の兵が手にしていた爆薬に命中した。
そこは爆心地とし、3か所で大きな爆発が発生した。爆心地から帝国兵が吹き飛ぶ。しかしその間に体勢を立て直した敵の砲兵が砲撃を再開、4,5番の城塞砲とそこの兵士が文字通り消し炭となった。

 その後、夜戦を避けたい帝国が一時的に戦闘を停止したため、その間に公国の部隊が裏から入城。医療物資や弾薬、食料も搬入したため、一時的に補給問題は解決した。次の日、城壁の前に公国の防衛線、城塞砲のほかに野戦砲を配置し、防御を固めた。帝国側ももはや奪還よりも破壊した方が良いと判断したのか、本格的に火砲や戦車までもを導入してきた。
 
 同時期、共和国本土と、隣接している小国が帝国の手に墜ち、勢いのついた帝国にさらに押される形で戦闘は進んでいった。
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