家族内ランクE~とある乙女ゲー悪役令嬢、市民堕ちで逃亡します~

りう

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第二章 教会生活

33 醜い小娘

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私は美人だ。
そんじょそこらの美人ではない。
母親に似た、冷たい印象を与えながらも麗しい紫色の瞳、サラサラの水色から灰色の髪はこの世界に珍しい色合い。人形のように整った顔、張りのある胸、きゅっと妖精のようなコケティッシュな腰つきに、小さなお尻。あ、ここらへんはどっちかって言うと監禁・幽閉・絶食の結果かな。肉は大事。肉をくれ。
そう、見目麗しい私の姿は、もちろん道を通るだけで男女問わずその場の皆の視線を奪う。
つ、と小馬鹿にしたような笑みでさえも、向けられたものは歯ぎしりをする前に見とれたものだ。
そう、私の容姿は母親と同じ。
妹も一緒。
だからそれを、疑問に思うことは無かった。
――今の今まで。
「醜い小娘、ですか」
「そう――そうよ、貴女のその姿を留めるために、私の精霊がどれだけ力を尽くしたか……無理をしたか。
生まれた時、貴女はしわくちゃだった。――ひと目でわかったわ、失敗作だと」
「奥様!」
年老いた執事の声がする。せき止めるための声。
「貴女は私と似ても似つかぬ姿で生まれてきた。
そんなこと、許されるわけがない!」
「そんな」
「なんで」
周りが息を呑む。哀れみの視線を私に向ける。
「私はどういった姿だったのですか」
そのせいで、私の心はどんどん冷静になった。
まわりの熱が、私から温度を奪っているみたい。
「私の色を引き継がなかった」
そればかりか、と母親は続ける。
「ジェイルドと同じ色を持って生まれながら、シワにまみれて、平坦で、弱々しい姿だった。すぐ熱を出して――私が子どものときにはそんなことはなかったのに、ただの平民のように泣いて、喚いて」
内容に拍子抜けする。
醜さの基準が、平民か。
それって私が知ってる赤ちゃんそのものだ。前世の世界じゃ普通でも、この世界では基準が違うから、他の皆には衝撃的なんだろうか。
貴族であれば、たいがいが生まれた瞬間に親族が契約した精霊の加護の、その恩恵を受ける。そのお陰で、赤子はより安全で清浄な世界で生きられる。さんざん私が体験してきたとおり、空腹であっても生きられるので、少しばかり放置しても死なない。加えて、加護が大きければ大きいほど、その世界は輝いて見えるらしい。だから精神も安定して、めったに泣くこともないという。泣かない赤子、常にご機嫌で笑って、寝て、家族を求める赤子。――可愛いに決まってる。
周囲が泣かない赤子を連れる中、生まれた自分の子どもが泣きわめいた時の、彼女の絶望は少しだけ予想できる。プライドの高い、誰でも言うことを聞いただろう母親の唯一言うことを聞かない自分の娘。――それは、きっとずっと、想定の外の外。寄り添うべき家族は、駆け落ち同然で傍にいない。駆け落ち同然で離れた一族の、かすがいになると期待した子どもが母親の精霊の加護の影響を受けていない。
母親は、『本当に育てられるのか』って不安に思ったんだろう。
精霊の加護を持った貴族の中の、そのイレギュラーを前に、母親は恐怖したのだろう。
誰にも相談できない状況に、一人思い詰めた。

ああ。
私の友達でも、そうなっちゃった子がいた。
『可愛いのに可愛くない。四六時中起きとかなきゃいけない。旦那さんも手伝ってくれない。実家は遠い』
そう言って、昼間のカフェで泣き出したあの子。話を聞くだけしかできなくて、頷いて、一緒に御飯を食べるしかできなくて、でもそれでも、気分転換になったって笑ってた。
最終的に二人目を産んで、そのときには立派な『お母ちゃん』になっていた。イチゴ狩りに行くんだって、笑ってたのが覚えている最後。
あの子は、悩んで、色んな人に相談して、感情をぶつけて、協力することができた。
思えば、今の母親と前世の私、そう年齢は変わらないんだよね。

母親に、そういう人はいたのだろうか。
父親以外に、頼り、甘え、弱音を吐く相手はいたのだろうか。
「けっきょく精霊たちと新たな契約を結ばなければならなかった……それにも大量の魔力を犠牲にして! 
醜い貴女を隠すのに、私がどれだけ努力したか――どれだけの力を注いだか!
貴女が一族に受け入れられなければ、ジェイルドも受け入れられない。私たちは駆け落ち同然に一緒になったのに――貴女のせいで、ジェイルドが立てた功績の何もかもが無意味に」
壁を隔てて聞いている、母親の声が荒々しく響く。
そうね。

――だからって、自分が友達にとは思わないけどね。絶対下僕扱いするタイプだし。パシリにされて、失敗談とかネタにされそう。あ、してましたわ、娘のワタクシに対して。
不出来な私が、更に不出来だったわけだ。そりゃあ自尊心の高い母親はキレるわね。
「そうですか」
吐息みたいに力なく出た。
同時に、びりびりと、空気が熱気と冷気の混じった空気に震える。互い違いの空気の波が、窓越しにあふれて、強風が顔を叩いた。
「奥様――気を、気を確かに」
「加護を断ち切れば、貴女の容姿は醜いものになる。私の息女として受けていた加護、全て破棄すれば」
「破棄すれば?」
「貴女は、平民と同じ、病に侵され、体も精神も弱り、後悔することになるのよ!」

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