こんなはずじゃなかったのに、でも

東屋猫人

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こんなはずじゃなかったのに、でも

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「こんなはずじゃなかった」
そう頭によぎるのは、喜ぶべきか、悲しむべきか。


私は至ってふつうで、そこらじゅうどこにでもいる人間のひとりだ。
進学や就職、転職のときこそ夢を抱いたものの、結局は無難な道を選んで歩いてきた。
振り返れば「後悔しないのが一番。あとから、ああすればよかったと思わないでいられるように。着実に、真面目に」と納得させて歩んできた舗装路が、途中まで続いている。


そう、途中まで。


舗装路を逸れたのは、はじめて就職した会社にいるときだった……と思う。
なんとか無事に就職が決まって、意気揚々と出社した。
しかし、はじめて教えを乞うことになったのは「新人泣かせ」の上司。
あとから知ったのだが、次々と新人を辞めさせることで有名なひとだった。

毎日出勤前にはお腹を下して、ときには職場で過呼吸を起こし、それでも食らいついて仕事をした。
しかし、会社の求めるスタンスと自身の働き方の違い、度重なる異動のストレス、パワハラの被害、それらが徐々に徐々に、歯車を狂わせていってしまった。


3年目の節目を迎えた際、昇進を辞退して転職。
当然ながら、2社目でもがんばろうと意気込んで出勤したことを覚えている。


結局、やはり合わなかった。


目まぐるしく変わる就労環境と長過ぎる通勤時間に、体が拒否反応を起こしたのだった。
呼吸困難に陥る、思考がまとまらない、眠れない、食欲がまったくわかない、常にお腹を下している……そんな日々が続き、体重は10kg以上減った。
そしてついに、出勤しようとすると恐怖感で脳がしびれたように、あるいは、手足が震えるようになったときに、メンタルクリニックの戸を叩いた。

結果――抑うつ・適応障害の診断が下った。


親には「絶対に精神科など行ってくれるな」と言われたので、無断で行った。
以来、多少の寛解と悪化を繰り返しながら、4年の月日が経つ。


今でも服薬は続いており、克服できていない。
それどころか、休職をしてから人と会うことに恐怖感を覚えるようになったので、外に働きに出られなくなり完全在宅の仕事をしている。
収入はごくわずか。とても老後のこと、万が一のことなど考えられない、いっぱいいっぱいの経済状況。


「こんなはずじゃなかったのに」
今頃は、もっと貯金ができているはずだったのに。外でたくさんの人と関わりながら、たくさんの刺激をこの身に受けながら、明るく働いているはずだったのに。


でも。それでも。
眠れない夜があっても、翌日、自分の都合で調節できる。
人と会わなくて良い。
そんな就労環境に満足している自分も確かにいる。

収入が少なくても、自分のスタンスに合わせて集中して仕事ができる。
家族のために家のこともやってあげられる。
大切な家族、愛おしい猫たちとも一緒にいてあげられる。
――大切に扱いたいと願って止まなかった、ことばに日々寄り添える。


経済的な不安は強い。
毎日、どうしようと考えている。
どうすれば舗装路から転げ落ちずに済んだのかを考えるときもある。


でも昼下がり、自宅でこうして文章を打ったり本を読んだりしていると、やっぱり幸福なのだ。
こんなはずじゃなかったのに。でも、こうなってよかった。
人生って、先がわからないから面白い。
願わくば、地獄の釜が口を開いていませんよう――。
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