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プロローグ
二
しおりを挟むどこまでも続く草原の草花が、心地良い風が吹き抜けるたびに柔らかい音色を奏で、空へと消えていく。見えないそれを追いかける様に空を見上げれば、澄み切った青い空が広がっている。
此処で寝転べば、きっと何も考えずにいられる。そんな、気持ちの良い場所に私は立っている。
「こんにちは。ようこそ、クリエナへ!」
寝転んでみようかと真剣に検討していると、鈴が転がる様な軽やかな声が聞こえてくる。渋々声の聞こえてきた方に振り返ると、蒼い髪色で青色のワンピースを着た小さな女の子が満面の笑みを携えて宙に浮いていた。
大きさは私の手と同じくらいで、風に棚引く髪やワンピースが非常に絵になる。
暫く観察と鑑賞をしていると、女の子は私の目線と位置を微調整してから不思議そうに顔を傾けた後、私の眼の前で手を横に振り始める。
「なんでしょうか?」
問いかけてみると、女の子は目を丸くして少し後ろに下がる。
「すみません。あまりにも反応がなくて、つい」
「観察していたので。他の人も似たようなものかと思いますけど」
見慣れないものが現れたらまず観察。動物であるが故に本能ともいえる行動で、不自然ではないはず。しかし、女の子は緩やかに首を横に振るう。
「ううん。他の人達は、“わー! 妖精だ!”とか、“可愛いー!”、“きたー!”等々結構な反応が返ってくると聞いていますよ?」
百面相しながら他の人の反応を再現してくれる。似ているのかどうか分からないけれど、女の子の行動が可愛らしく、頬が緩むのを感じる。
「そういうのを期待するなら、他の人にお願いします」
「そ、そうですか。え、え~と、き、気を取り直しで!」
非常に慌てた様子で仕切り直そうとしたけれど、舌を思いっきり噛んでしまい、口を手で覆い隠してクルクルと回り始める。
悶えているのだろうか。まあ、あれは痛い。
「深呼吸して落ち着いて」
一緒に数回深呼吸して、仕切り直し。となるはずが、女の子が咽てしまったので落ち着くのを待つ。
「はぁ。すみません。では、仕切り直しです」
咳払いした後、真剣な顔になって右手の人差し指を立てる。
「私は妖精のルルと言います。彼方のお名前は?」
「えーと、名前は桜華でお願いします。躯体はリアル準拠で、髪の色を底なしの暗い色で」
何か言いたそうな顔をしたルルさんが、立てていた人差し指をクルクルと回して勢いよく私の足元を指さす。
すると、足の下に魔方陣が現れてまっすぐ上に上がっていき、頭の上にたどり着くと小さな光の粒になって消える。
「適用完了です。このようなお姿になりましたよ」
どこからともなく姿見が現れて、濃紺よりも墨色という感じの髪が腰のあたりまであり、顔つきは平凡より若干美人寄りで、なんとなく病弱で幸の薄そうな感じを受けるという評価を受ける私を写し出す。
服装は飾り気のないシャツにズボンで、どちらも麻布らしくゴワゴワしている。
「次はNTですね。枠は十個あります。全て埋めるもよし。全く選ばないのもよし。その人の自由となっています。こちらの一覧から、選んでください」
ルルさんが胸の前で組んだ腕を外側へ広げると、空中に半透明のウインドウが現れて一覧が表示される。
「……数が多い」
目の前に浮いているウインドウには、数百ともいわれるNTが並べられている。はっきり言って目が疲れる。
「絞り込み機能もございますよ」
「それなら、魔法系で絞り込み」
声に反応して表示内容が変更される。それでも、結構な量が表示されている。
「魔法使いになるのですか?」
「どうでしょうか。未定です」
一緒に覗き込んでいたルルさんが文字を見ながら聞いてくるので、曖昧に返しながら指を動かしていく。
なんとなく惹かれた、属性魔法の各才能(火、水、風、土、雷、木、光、闇)を取得。これだけで八枠。
「魔法の次は生産系かな」
生産系で絞り込むと、それほど数は多くない。といっても、探すのに手間取るのは変わらない。
一通り見た後、なんとなく惹かれた魔具作成を選択。
「これで九枠。後はその他かな」
その他は実用的な物もあるけど、趣味と読み替えてもいい分類のようだ。舞踊とか釣りという一般的な物があれば、ギャンブラー魂なんて訳の分からないものもあり、非常に面白い。
「何かあるかな……。ん? 玉手箱?」
何のことかよく分からないけど、気になったからこれにしましょう。
これで良いと伝えると、ルルさんは納得して最初の位置に戻る。
「じゃあ、次は開始地点ですね。どこがいいですか?」
選べる街は草原の中にある商業都市セバン、森の中にある城塞都市ポレコ、海の玄関口となる海洋都市ツェンナ、素朴な村フェナン、世界のどこか、の五か所。
「フェナンにします」
「……本当にそこで良いの? 何もないですよ」
ルルさんが一瞬硬直してから、恐る恐ると言った感じで聞き返してくるので、目を見て頷く。
「分かりました。あっ、そうだ」
何処からともなく取りだした鞄を探り始めたと思ったら、緑色の綺麗な玉を取り出して抱える。かなり重そうだ。
「差し上げます」
少しふらついていたので慌てて緑色の玉を受け取ると、ルルさんは額の汗を拭う仕草をする。
「これは?」
「秘密です。でも、すぐに分かりますよ」
少し顔を傾けて花の咲くような笑みを浮かべる。一部の人達なら絶叫するかもしれない。
「ありがとうございます。大切にしますね」
「はい。それでは、行ってらっしゃい!」
ルルさんが手を振って送り出してくれると、視界が白一色に包まれる。
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