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腹減り雀

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本編

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 頭を上げてお茶に手を伸ばすと、目の前に鋭い爪を持つ毛深い手に載せられた球体が差し出されました。

「ラウルさん、これは?」
「迷宮にいるゴーレムの核だ」

 球体を掌に受け取って繁々と観察します。確かに、先程見たゴーレムの核と似ています。

「ん?」 

 のそりといった感じで、球体から土の精霊が顔を出しました。不貞腐れているというか、やさぐれているというか。かなり苛々しているようです。
 ただ、おかげで分かったことがあります。

「魔石と精霊が一体化した状態というのは同じようですね。ただ、精霊がかなり不機嫌です」
「一体化している精霊の様子が違う?」

 ラウルさんの唸り声が低くなっています。エレノアさんは何故か笑顔で申請用紙を用意しています。

「桜華さん。ゴーレムの考察ということで、申請お願いします」

 言われるままに申請書の記入。エレノアさん達との話し合いで、精霊と魔石が一体化した状態の物を精霊石と呼ぶことになりました。

「書けたか。じゃ、これをやる」

 ラウルさんからポンとゴーレムの核を手渡されました。

「高いものでは?」
「俺が持っていても見るしかできないが、お前なら有効活用できるだろ。やってみろ」
「はぁ。やってみます」

 ギルドを出て、人の少ない建築予定地へ。
 野次馬の皆さんに離れてもらうと、核の精霊と改めて向かい合います。

 とりあえず話しかけてみますが、まったく聞いてくれている感じがしません。次の手段として、地表にいた土の精霊を掬い上げて核の精霊の前に置いて説得してもらいます。

 すると、鼻をくっつけては離すを繰り返し始めました。会話でしょうか。精霊同士の交流は不思議なことばかりです。
 暫くすると、二人の精霊がこちらに鼻を向けると、鼻を石に着けてから互いにくっつけて離し、こちらに向けて上下に振る。これを繰り返します。

 思わず小首を傾げながら考えると、土の精霊達も揃って首を傾げます。

 分からないことだらけですが、順番に考えていきましょう。

 まずは鼻を石にくっつける。……石。あ、もしかして魔石?

 鞄から土の魔晶石を取り出して精霊の前に持っていくと、掬い上げた方の精霊が飛びついて中に入ります。少しすると光を放って精霊石へと変化。精霊が首だけ出すと核の方へ鼻を向ける。

 えっと、ここで互いにくっつけるで、良いのかな。

 魔晶石と核をくっつけてみると、光を発して二つが一つになり、先程よりも光の明滅が強く、精霊の力を強く感じます。

 あ。これ、他のもくっつけたらどうなるのでしょうか。

 大樹のお陰か様々な精霊が集まってきているので、そっちの問題もありません。

 鞄から火、水、風、雷、植、光、闇の魔晶石を取り出し、それぞれへ精霊に入ってもらい精霊石に変化させて核と合わせてみます。

 すると、先程より強い光が発せられ、掌で包めるほどから拳大の球形へと変化。淡い虹色の光が核の周囲を漂い、核そのものは暖かい光が力強く明滅しています。

 集まってきた精霊達に見守られながら、他のゴーレム達と同じ魔方陣を生成して核へと張り付けると、魔法陣が球の中へ閉じ込められ見た事のない形へと変異。一際強く明滅を始めたので、そっと地面へと下します。

 次の瞬間、核を中心として魔方陣が大きく広がり、魔方陣の下になった地面が唸り蠢く。土が核を覆うように盛り上がっていき、五メートル程の巨人が立ち上がりました。

 ゴーレムのデフォルトなのかのっぺりとしていたので、手を触れて造形を開始。球体関節は当然として、折角なので凝った意匠に挑戦しましょう。

 思い描くのは、少し細めの全身鎧。ついでに、左腰に幅が広めの剣と、左腕に背丈半分ほどの大きさとなる細長い盾。

 暫くするとゴーレムの体に皹が入り始めたので急いで離れます。皹が全身に行き渡ると、一気に割れて中から生まれ変わった姿が現れました。

 想像した通りの姿ですが、鎧の縁に蔦の装飾が追加されています。それに、想像できなかった細かい処も作り込まれています。補填してくれたのでしょうか。武具を装備していないのは残念です。

 しょうがないので、複合型精霊石を再生成して、剣と盾も作り出します。本当は魔法陣も貼り付けたかったのですが、魔力切れで断念。

 地面に置かれた剣と盾の状態を見ていると、ゴーレムが唐突に眼の前で膝を折って頭を垂れました。

『主上。名を』

 頭の中に直接響いてくる言葉は、ピンと張りつめた弦が鳴る様な高く澄んだ声で紡がれました。慌てて周囲を見ると、不機嫌そうなラウルさんと素晴らしい笑顔のエレノアさん。距離を取っている野次馬の皆さんにディンさんと、誰も彼もそれなりに距離があります。

『主上?』

 とこか戸惑ったような声。目の前にいるゴーレムからと見て間違いないようです。

「ごめんなさい。名前ですね。えっと、名前は……クストース。とある国で守護を意味する言葉です」
『クストース。私の、名前』

 声と体がが若干震えています。何か失敗したのでしょうか。

『賜りし守護を意味する名、クストース。この名に恥じぬよう、主上を守る盾となり、道を切り開く剣となりましょう』
「よろしくお願いします。クストース」

 屈んでくれている状態とはいえ、私より大きくて頭には手が届きそうもありません。なので、腕に触れるだけにします。

 それにしても、剣と盾は喋る様子がないですね。これは嬉しいです。さすがに剣と盾も喋り出すとどうしたら良いのか分からなかったので。

 クストースに立ってもらい、とりあえず建築予定地の隅で待機をお願いします。

「ちょっと行かないといけない場所があるので、ここで待っていてくれますか?」
『分かりました。どうぞ、ごゆっくり』
「ありがとう」

 さてと。まずはディンさんの処へ向かいます。私が近づくと、青い顔をしながらエレノアさん達の方へと視線をちらちらと送っています。

「ディンさん、何が言いたいのか分かりますけど、そこまで必死にならなくても」
「なりますよ。まだ死にたくありません」
「ついてきてほしかったのですが、無理そうですね。代わりに、少しの間クストースに剣を教えてあげてほしいのですが、お願いできますか?」
「喜んで」

 実に良い笑顔で承諾してくれました。そんなに嫌ですか。

「お願いします。では、逝ってきます」
「ご武運を」

 ディンさんのビシッと決まった敬礼に見送られ、エレノアさんの下へ。ラウルさんに肩を抱かれながら、ギルドという戦場に向かいます。
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